もし革命軍にMAがいたら(仮題) 作:偽ハシュマル
時間を書けた分の文章のクォリティ?そんなものありませんよ(土下座)
月にあるとある研究室の一室でサカタ博士と呼ばれる40代後半くらいの男は頭を抱えていた。
「はぁ…全くここまで多いとは。いやはやさすがに予想外だね。」
そうぶつくさ呟く彼の前にある数多の履歴はすべてこの機関が作ろうとしている部隊への希望書であった。
要するに悪魔との契約書にサインした酔狂な精神のもち主たちである。
ちなみに応募内容は簡潔に纏めるならば以下のとおりである。
・この部隊はボードウィン公及び上層部の大半には内密に作る部隊のため部隊の戦果は基本公にはならないと心得よ。
・阿頼耶識手術の失敗における死亡または身体への影響については一切責任を問うことは許可しない。
・この部隊の参加による賞与を始めとした待遇の向上は基本的にないものとする。
・この部隊の実情が外部に漏洩することを防ぐために参加者諸君の人間関係に制限がかかる可能性があるがそれらについても我慢すること。
ぶっちゃけブラックもいいところである。給与こそそれまでのギャラルホルンの階級どおりのものではあるが、それ以外の部分はヒューマンデブリを少しましにした程度である。なのにこの応募人数である。
「うちの兵士死にたがりが多すぎだろ…」
地位も名誉も金もいらない。欲しいのはあの世のエリオン公とクジャン公に手向ける花と土産話だけ。そんな連中がこのアリアンロッドには多過ぎた。この事実は改めてサカタ博士にエリオン公とクジャン公の人望と影響力の高さをしらしめた。
「どうしようか…これは簡単に裁量できる量ではないぞ。そもそも適性検査だけでもどれくらいかかるか。」
ここにある応募人数全員の阿頼耶識に対する適正を検査しようと思えばそこそこ大掛かりなものになる。となると必然的にボードウィン公親子の目に留まる確立も高くなる。そうなったらどういう事態になるか、少なくともいいことはないだろう。全く持って頭が痛くなりそうだった。
「全くあのお坊ちゃんももう少し融通を利かしてくれたらいいのに…阿頼耶識施術者に対する差別意識がないことは好ましいがそれならばほかの者だって認めてやればいいじゃないか。」
口でここにはいない者に面と向かって言ったら危険な言葉を呟く。とはいえサカタ博士自体はガエリオに対してはそこまで悪い印象を持っていない寧ろいいといえなくもない。何しろ自分が開発した擬似阿頼耶識システムはギャラルホルンだと外法もいいところなのにそれを使ってくれている上に、その地位も今はセブンスターズの後取りなのでシステム搭載のキマリス・ヴィダールは大手を振ってエースを勤められる。それにこのシステムの元となったアイン・ダルトンという兵士もまた良い。彼はガエリオ・ボードウィンに個人的な恩義から忠誠を誓っており自分が戦闘マシーンに改造されても悲観するどころかむしろ喜ぶという実にサカタ博士好みの性格だ。きっと彼は擬似阿頼耶識システムに組み込まれた今も自分の境遇を嘆かずその力をガエリオ・ボードウィンに存分に使って欲しいと思っていることだろう。そしてガエリオもそんなアインを大切に思ってか
キマリス・ヴィダールに対して愛着を持っているらしい。しかしこれが一つの問題を生む。
「あれ以上のものを作るとなると相当難しいぞ。」
彼が陥っている問題それはスランプだった。そもそもアイン・ダルトン自体がパイロットとしての適正と阿頼耶識の適正両方を持っている人材だった上にそれを扱うガエリオもまた素の実力でもエースを張れる人材だったのだ。おまけに両者の信頼関係は互いに抜群ときた。根性論や精神論を振りかざすわけではないが人間の脳を扱うというシステムの関係上相性というものはどうしても重要になってくる。そういった意味ではあの二人は実にすばらしい。だからこそのスランプだ。
「あーあまり考えていても仕方はないか…いけるかわからないがとりあえずは実践あるのみだ。」
応募人数が多かろうがスランプに陥ろうがいいアイディアが浮かばなかろうがこの計画を立ち上げた以上は責任は伴う。サカタ博士は一服していた電子タバコを吸い終えると一つの資料に目をやる。そこに載っていたのはギャラルホルン兵の履歴とはまた別のものだった。
「さてそろそろ時間か。とりあえず目の前の問題から片付けるか。」
ちょうどいいタイミングで部屋がノックされる。今日はパイロット候補を決める重要な面接だ。入ってきたのは資料に載っていたのと同じ風貌の少年だった。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
ハレドと呼ばれる少年兵。彼はこの世界では吐いて捨てるほどいるヒューマンデブリの一人だ。ボードウィン親子の計らいで海賊退治などで運よく生き残ったデブリを回収して保護しているが彼もその一人だ。
「わざわざ来てくれてご苦労だったな。食事はまだかね?用意したものが無駄にならなければいいが?」
「…これ食べていいの?」
「もちろんそのために用意したのだから。」
「じゃ、じゃあいただきます。」
用意された食事を見てハレドは驚く。内容までは詳しくは分からないが自分たちヒューマンデブリがよく食べていたしょぼい栄養バーとはまるで違う色鮮やかでいいにおいのする食事、量も十分だ。食事がまだだったハレドはたまらず食べ始める。そしてしばらくしてサカタ博士が少年に質問をしだした。
「食べながらでかまわないが君は資料によるとお友達がいるとなっているが、彼等に裕福とはいかなくても人並みの生活をさせてやりたいかね?」
彼の交友関係は資料によると仲間内では年中者で特に年齢が下のものから慕われていたらしい。さて彼はこの問いに対してどう答えるか?
「そりゃあいつらにいい生活がさせてやれれば嬉しいけどそんなのは無理だよ。」
「無理?何故かね?」
「だって俺ヒューマンデブリだし、あいつらだって…」
「それは元だね。今は違う君たちは保護された身だ、だから自由にしていい。」
「保護とか自由とか言われても…ここだと俺らのこといやな目で見るやつばっかだったし…あ、でもけんこうしんだん?だっけか、それをやった奴はそうじゃなかったか。まどっちにしても俺たちがまともに稼ぐなんて無理だよ。」
サカタ博士はその答えになるほどと頷く。今だ差別意識が強いギャラルホルンの一般的価値観を持ったものではなく健康診断を行った我々は阿頼耶識だの元ヒューマンデブリだのそんなものにこだわることはない。というか寧ろそっちのほうが都合がいい。
「そのようなことはない。ここでの仕事は確かに君たちは限定されることは否めないがそれでもお友達の食事と住むところを十分に保障してやれるだけの仕事を私は用意できる。」
「嘘だろそんなの?まぁどっちでもいいけど少なくとも前に俺たちを買った奴よりはマシそうだから。」
「嘘じゃない君にはそれだけの価値がある。そもそも今日の面談はそのためだ。」
そう嘘ではない。彼にはそれだけの素質がある。先に彼が言っていた健康診断これもそのための布石だ。あの健康診断は表向きは保護した子供たちの健康状態を調べるというものであったが肝心なところは違う。あれは阿頼耶識の状態と適正を見るためのものだ。もちろんそんなこと馬鹿正直に上に報告するつもりはない。表向きは子供たちに施された阿頼耶識がどれくらい人体に悪影響が出ているかを知りそれを支えるためとしている。人の良いボードウィン親子はそのことを話したら簡単に許可をくれた。
「報酬についてだが、君が今食べているものとほぼ同じレベルのものを君たちのお友達にも毎日三食提供しよう。それと君に用意した服と同レベルのもの、勉学のための費用住む所はこんなところでいいかな?」
「何これ…」
想像以上に驚いてくれた。それも無理はないか彼が食べている食事は地球の一般所得者が食べているものと同レベルのものだがそれでも彼らヒューマンデブリからすれば手を出すことはありえないレベルだ。もちろん服や住む場所、勉学についても同様だ。
「もっとも勉学については急には難しいがね。個人の知識量との兼ね合いもあるのでそこは追々だ。」
ハレドはこの条件に少しだけ迷うがどの道自分たちではまともな職にありつくことなどで気やしないことを思い出しこの話を受けることにした。
「…わかったその話引き受けるよ、ほかに行くとこないし。」
「それはありがたい。では早速一つ聞いておきたいのだが君はテイワズ、革命軍、鉄華団、モビルアーマーということばに聞き覚えがあるかね。」
「テイワズと鉄華団は前の買い取り手が時々ぼやいてたけど革命軍はよくわからないや。最後のもびるあーまーだっけ何それ?MSの親戚か何かなの?」
「なるほど詳しくはどれも知らないわけか。」
「もしかして知ってないとまずかったりする?俺頭良くないし情報にも疎いし…」
「いやいやとんでもない、それどころかこっちが求めていた答えだよ。」
「?変なの…まいいやそれで俺は何をすればいいの?」
「君の仕事はこれまでとは大きくは変わらない、MSに乗って敵を倒す。それだけだ。」
「今までの仕事と変わらないんだね。」
「その通り。そこで早速だがこれを見て欲しい君が乗る機体だ。」
サカタ博士は少年にあるMSのデータを見せる。そのデータは見る人が見ればどのような存在かすぐにわかるがあいにくハレドにはさっぱりだった。
「見たことない機体だけどこれが俺が乗る機体?もしかして今の最新型はこんな感じ?」
「その逆だ。これはとある筋から入手したガンダムフレームと呼ばれる伝説のMSを利用した機体だ。特徴としてはそうだな…ものすごくパワーが高くて阿頼耶識との相性が抜群な機体といえばいいか。」
「阿頼耶識と…阿頼耶識って機体によって相性があるんだ。」
「正確にはフレームによってだがな。もっともこいつは昔の姿そのままではなく現代の技術で改装を施しているためその意味では最新型とも言える。言っておくがこの機体は君がかつて乗っていたオンボロMSとはまるで違う。」
「ふーんそんなMSが必要ってことはもしかして敵ってかなり強い?」
「強い!メインの仮想敵は我々の所持している最強のMSとパイロットが揃ってようやく互角にやり合えるほどだ。」
「そんな敵じゃ俺なんかが乗っても無理じゃないか?俺の命はまぁ替えがあるにしてもそのMSは貴重みたいだし正規のパイロットの方がいいだろ。」
「そうはいかない…そうはいかないんだ!あの化け物を倒すには並の考え方じゃいかん!」
サカタ博士は力強く答える。実際ある理由からこの機体にギャラルホルンの正規のパイロットを使うわけにはいかなかった。しかしそれを知らないハレドは博士の剣幕におののく。
「だ、だけどやっぱ俺じゃきついって。いまさらびびるわけじゃないけど何か策があるの?」
「心配するなこの機体にはとある隠しだまが用意されている。先も言ったこの化け物とまともにやり合える機体とパイロット、彼らもこの機体と同じシステムを搭載している。だから同じシステムを持つこの機体と相性が良い君じゃなきゃいかん。」
「そのシステムって阿頼耶識のこと?」
ハレドはシステムと聞いて阿頼耶識を思い浮かべる。このシステムは自分たちや前の買主である海賊をたおしたギャラルホルンにおいてはいい目で見られていないのは実を持って知っているのでこの答えにいたったが、博士が答えたのはそれとは違うものだった。
「半分正解だ。正確に言うならばこの機体に搭載されているシステムは擬似阿頼耶識と呼ばれるものだ。」
「擬似阿頼耶識?」
「詳しいことは機体が組みあがったら説明しよう。ただ安心してくれこのシステムは普通の阿頼耶識よりも安全性という面では優れている。特にガンダムフレームのようなじゃじゃ馬にとってはな…」
サカタ博士は最後に含みのある言い方をする。一方のハレドはここまでくれば後は向こうにすべてゆだねるしかないため、特に気にする様子はなかった。
「安全ってことは悪くはないってことか。それで俺はいつ戦えばいいんだ?」
「機体が完成してからだな。後は並行してして君の阿頼耶識に少し手を加えその後簡単な実践テストを行う。たぶんもうすぐアーヴラウとSAUとの間で小競り合いが起きるからそこで動作テストを行う。惜しむべくはあんな素人に毛が生えた程度の連中では碌なテストになるか怪しいが最初はそんなもんでいいだろう。」
「分かったよ博士。今後ともよろしくお願いします…でいいんだっけ?」
「ああこちらこそぜひよろしく頼む。」
そういってサカタ博士は手を出す。少し戸惑いながらもハレドもそれに応じる。こうして現代の阿頼耶識権威と元ヒューマンデブリのあまり例を見ないであろう交渉は終わった。
「所長よろしかったので?」
「君は反対かね?あの少年に任せるのは。」
「ええそりゃまぁ…」
「誤解のないようにいっておくが、私だって可能ならばこの役割は仇討ちを望む者に任せたいとは思っている。だが無理なのだ。」
「…」
「そう無理なのだよ。ギャラルホルンの兵士ではな…」
彼らは腕も悪くはないし、やる気は言わずもがなだ。だがそれでも無理なものは無理である理由があった。特殊な溶液に漬け込み今も活動を休眠状態にしている〔ソレ〕を眺めながらサカタは呟く。
「脳科学が未だ脳のすべてを解き明かしたわけではない以上相性が悪い人間同士をシステムに使うと何が起こるかわからない。最悪戦闘中に機能停止なんてしようものなら目も当てられん。」
「それは…そうですが。」
「そうそのための生体パーツだよ。あのシステムと相性が一番良いパイロットが調達できない以上自我がなるべく薄く、それでいて使命感はある程度あるパーツが必要だった。幸いにしてそれはいくらでも手に入る。」
ヒューマンデブリなど今後もいくらでも手に入れる機会がある。もしあの少年が駄目になるならば他を当たるまでだ。
「それと彼への報酬だがそこはきちんとしておけよ。私は生体パーツのコストをケチるようなことは許さん。何が綻びになるか分からない以上な。」
あの少年に言った言葉はちゃんと守るつもりだった。はっきりいってしまえばヒューマンデブリとの約束など反故にしてもばれないようにする事はいくらでもできる。だがサカタは必要なパーツには金を惜しまない主義であった。
(まぁ綻びといえばこの機体は最初から特大の爆弾を抱えているのだがな…だからこそ鉄華団やテイワズに敵意を持っていないか聞いたのだ。)
特別な敵意を持たず、ただただ任務を淡々とこなす存在。それこそがこの機体を使うパイロットに求められるものだった。
「これは能力こそ私が見てきた中でも飛びぬけて高いが、実際に使うとなると相当なじゃじゃ馬になるはずだ。くれぐれも注意しなくては…」
「存じております所長。」
できることならば擬似阿頼耶識の中核にはギャラルホルンの兵士を使いたかったがあのグザファンと呼ばれるMAははっきりいって異常すぎる。人と協力することもそうだが、何より厄介なのはその判断力だ。情報部が語った内容によると最初からあのMAはラスタル・エリオンがダインスレイヴを使うことを見越して行動しその隙を突くことと鉄華団の突破力を利用することで討ち取る計画を立てていたらしい。そんなものはもはや人の手には余る存在だ。
(あの化け物を倒すには並の力では駄目だ。あれを倒すには最低でも…)
幸いあの化け物もギャラルホルン最強のMSキマリス・ヴィダールとの戦いで負傷したことから不死身の存在でないことは分かったが、おそらく奴はその傷をもう癒しているだろう。そして次の戦いがあるとしたら奴はもっとうまく立ち回るに違いない、もしくは何らかの自己進化を果たして強くなっているかもしれない。しかもキマリス・ヴィダールも後どれくらい戦えるか定かではない、そんなときだったサカタ博士は見つけたのだ過去の戦闘記録から。
最初にそれを見たときは大層驚愕した。そのMSは強かった、機体がではないパイロットがだ。最初は高性能の阿頼耶識を積んでいるのかと思った。だが回収したMSにはそんなものはなかった。…いったいどれだけの経験を積めばその領域に至れるのか?いったいどれだけの修羅場を潜れば阿頼耶識無しでここまでMSを自分の手足のように使えるのか。現場で働く人間ではない自分では想像もつかない。そしてその力を欲した、これと私の技術が合わさったとき一体どこまで強くなるのか?心が躍るのが抑えられなかった。
多少リスクが高かろうがそんなものはどうだっていい。
「さてとまずはキマリス・ヴィダールを超えうるシステムを作るとしますか…ガンダムフレームと最強の頭脳この組み合わせこそ天使を狩るにはふさわしい。」
サカタ博士は容器を眺めながら呟く。〔SAULE〕と書かれている容器。そこには人間の頭脳が入っていた。
サカタ博士という名前はマッドな博士のいい名前が思いつかないためこうなりました。分かる人は分かると思います。
ちなみに彼が率いている機関はギャラルホルン内の阿頼耶識研究機関出身でラスタル側についた者たち(本編で擬似阿頼耶識を作った者たち)が前身となりそこにラスタルという枷が無くなったところにラスタルやイオクを慕う兵士や貴族が集まり一気に膨れ上がったものと考えています。
はっきりいえばラスタルという枷を取っ払った主人公による副産物です。(風が吹けば桶屋が儲かる方式)
まぁぶっちゃけオリジナルかつ妄想の粋を出ない人ですが、本編中であんなカレンデバイスめいたものを作る連中が元になっているだけあって『倫理観何それ?』な博士です(書いた私も大概ですが)