明るい未来をつかめ!   作:初霧零音Mk-Ⅱ

2 / 2
すいません、長らくお待たせしました。
初霧零音Mk-Ⅱです!
やっと1話が投稿できる、時間かかり過ぎじゃねーか!
自分でも、そうツッコミたいくらいのノロマペースです………
さて、オリ主と穂乃果達との物語が、本格的にスタートです。


第1話 新年度の悲報

 

 

「はぁ…穂乃果のやつ、何してるんだ…………」

「カノン、仕方ありませんよ。穂乃果のことですから。」

「あはは…そうだよね、新年度早々に、ってところがね……」

 ボクと海未とことりは「穂むら」の前にいた。

 理由は至極簡単、穂乃果が寝坊したのだ。

 ………緊張というものが全くありもしないなぁ、穂乃果は。

 ことりはなだめに入っているが、特にイライラしている海未には効果が薄い。

 

 

 そうして、主にボクと海未だけがグチを零し合うこと数分。

 …ようやく高坂家のお転婆長女が外に出てきた。

 そして、開口一番、

「ごめん、3人とも! 寝坊しちゃった!」

 そんな彼女の言葉に、海未が早速説教モードに入った。

「しちゃった、ではありませんよ穂乃果! 大体あなたは……」

 ………あ、このパターン、長くなるの確定だな………?

 そうなると、この中で一番不機嫌な海未には悪いが、一旦説教をやめてもらおう。

「…説教する前にさ、遅刻しちゃマズいから、早く学校に行こう?」

 ボクがそう言うと、海未はこちらに顔を向け、口を開きかけたところで、

「ことりはカノンちゃんにさんせ~♪」

 ことりがナイスアシストを出す。

 ボクの正論と、ことりの包み込むようなアシストに、海未はぐうの音も出せないらしく、

「…………わかりました。」

と、しぶしぶ承知するけれど、穂乃果をジトッとした目でにらみ、

「……穂乃果、覚悟をしておいてくださいね?」

と言い残し、先にスタスタと歩いていってしまった。

 この世の終わりか、と言いたげに顔を引きつらせる穂乃果が面白いが、ここはスルー。

 海未に数秒遅れてボクも学校に向かって出発した。

「ほら、穂乃果ちゃん、早く行こう?」

 ことりの声掛けでやっと我に返った穂乃果は、少し離れたボクや海未に「待って」と言って軽くダッシュしてきた。

 そのまま並ぶのか思いきや……抜き去っていき……

「学校まで競争だよっ!」

 悪戯っぽく笑みを浮かべて、走っていく。…………反省してないだろ、君。

 ………ランニングとかしてないのに、あんなペースで走ってばてないのかな、穂乃果は。

 

 

 案の定、数分で走るペースは落ちて、穂乃果は後ろを歩いていたボクたちに追いつかれ、海未からの説教を歩きながら受ける羽目になった。

 そして、海未の説教が一段落ついたところで学校に到着したボクらは、掲示板前に人だかりが出来ているのを見つけた。

 そのついでに、ボクはもう1人の幼馴染で1つ上、そしてこの音ノ木坂の生徒会長の姿も確認した。

 彼女――――絢瀬絵里は、遠目でもわかるくらいに考えることを放棄したかのようにうつむき、校舎内に去っていく。

 その理由を確かめるべく、ボクは穂乃果たちと一緒に掲示板に近づき、そこに張られていた校内新聞を読んでみた。

 

 ……そこには「音ノ木坂、廃校決定か?」の見出しが。

 ボクの頭の中が真っ白になりかけたところで、後ろで誰かが倒れる音がして正気に戻る。

「穂乃果!?」

「穂乃果ちゃん!?」

「は………いこ……う……こ………こが…………」

 後ろを振り返ると、廃校のニュースがかなりショッキングで気を失った穂乃果を慌てて海未とことりが介抱し、保健室に運んで行こうとするところだった。

 ……なんせ穂乃果の家はおばあさんの代からこの古き良き音ノ木坂に通う純粋な音ノ木人だ。ここがなくなってしまう報せはそれだけで穂乃果が大打撃を受けるに値するに決まっている。

 でも、この話は昨年度からちらついてはいた話だったし、アキバのUTX学園のA-RISEの人気のせいで人がそっちに流れているのはもうこの学校の生徒の大多数が把握している。

 そんなことが頭の中で巡っているボクに海未が一言、

「カノン、穂乃果は私とことりに任せて、早く生徒会に行ってください。」

と言い、ボクが首を縦に振るのを見ると、ことりと気絶したままの穂乃果と一緒に校舎の中に消えた。

 なぜボクが生徒会に向かわなくてはいけないのか。

 それは去年、音ノ木坂を再び花咲かせようと考えて書記に立候補し、選ばれたからだ。

 しかし、廃校をどうしたら止められるかわからないし、かと言ってそのまま指をくわえて廃校になるのを見ているわけにもいかない。

 ところがどっこい、どう現実的に考えても廃校を食い止める手段が浮かばず、そのまま今日、新年度が始まってしまったのだ。

「はぁ……」

 生徒会室前まで来てから小さなため息を1つ吐き、深呼吸する。

 そうして頭の中を落ち着かせてから扉をノックし、開ける。

「あら、おはよう、カノン。」

「おはようさん、カノンちゃん。」

 そこには既に書類の応対をしていた、先程思考放棄していた感じである幼馴染とアキバ生まれのアキバ育ちなのに、微妙な関西弁を身に着けている希さん(・・・)がいた。

「おはようございます、会長、副会長。」

 事務的な挨拶を返し、ボクは所定の場所に座って書類に意識を集中させる。

 

 8分ほどで担当分の3分の1を終わらせたところで、エリー(絢瀬絵里)から視線を感じ、一度ペンを動かす手を止めて彼女の顔を見る。

「……何か?」

「……カノン、あなたって最初っからその髪の色(・・・・・)だったかしら?」

「またそれですか。……無理に思い出すことでもないでしょ、覚えてないなら………はぁ。」

 ………ボクが生徒会に入ってから、彼女とこのやり取りをするのは一体何回目だろう。

 ………意外と飽きないよね、エリーってば。

 ……まあ、長期間の記憶の間隙を突いた、母さんと絢瀬の伯母さんにさせられたイタズラの約束のせいで、エリーと亜里沙への秘密にせざるを得ないから仕方ないことなんだけど……実を言うと、もうネタばらししたくて仕方ない。

 だって、罪悪感感じるんだよねぇ………今は髪を亜麻色(優しい茶色って感じ)にしてるけど、元は天然の金髪なんだもん。

 約束を律儀に守ってしまうのが裏目に出て、めんどくさい繰り返しが現在進行形で発生してるし……………

 …しかし、それよりも怖いのは座っている位置がボクの真正面である希さんだ。

 彼女の占いの当たる確率はすごく高い上に洞察力も人並みじゃあない。

 

ある日の生徒会の後、エリー本人がいないところに呼び出されたかと思うと、お願いもしてないのに勝手に占いだして……同い年で文武両道な海未ですら記憶が曖昧だった、地毛の色をズバリ言い当てられた苦い思い出があり、さらにはエリーとボクが従姉妹の関係にあることまでもばれてしまったのだ。

 ……以後、希さんには頭が上がらないボクである。

 ………本人は今、このじれったい状態をすごく楽しんでいるみたいだが。

 

 

 エリーからのしつこい質問を躱しきった後、朝のホームルーム10分前となるまで書類の応対を続けたところで一度解散となった。

教室に行くと、復活していた穂乃果と、しばらく様子見をしていた海未とことりが楽しく談笑していた。

 足音でボクに気付いた3人はこちらを見ると手を振ってきたから、ボクも笑顔で振り返す。

 自分の席にカバンを置き、そのまま1時間目の準備を机の上に、それ以外の教材を机の中に片付けて軽く一息。

 席の位置は、ボクの1つ左斜め後ろに穂乃果、その右に、つまりボクの後ろにことり、そしてボクの2つ右が海未だ。

 

 散々寝たはずだろうに、話し相手の幼馴染たちが席に戻るや否や、大あくびをする穂乃果。

 新年度の始業式からそんなに日がそんなに経っていないのに、やはり緊張感のかけらが1つもない。

 テスト前になって海未やことり、そしてボクに泣きついて教えを乞うパターンだ。

 ………1年の時にそうやって赤点前後を何度も行き来していたというのに。

 海未はそんな穂乃果を呆れた目で見つつ、軽く予習しているし、ことりは苦笑いを浮かべている。

 

 

 結局穂乃果は午前中の授業ずっと寝っぱなしで、昼食の時を迎えた。

 ボクもエリーや希さんに生徒会の件で呼ばれなかったから、海未やことりと共に…穂乃果との昼食に付き合うことにした。

「いやぁ、今日もパンがうまいっ!」

「またそれですか……………」

 実家の和菓子に飽きた、という穂乃果は嬉しそうに購買で買ったパンにかぶりついている。

 それに対して冷静にツッコミを入れる海未と2人をほほえましく見つめることり。

 至っていつも通りの風景にボクもほっこりしてしまう。

 

 

 しかし、そんなほのぼのとした空気は、(ボク以外接点が皆無である)生徒会長と副会長の登場で一気に緊張へと変わる。

 エリーはこの音ノ木坂の理事長を務める母を持つことりに視線を定めると、

「南さん、理事長………あなたのお母さんから何か話を聞いてないかしら?」

と、今朝から少し漂わせていた、1人で背負い込もうとする感じのある口調で質問した。

 しかし、残念ながらことりの回答は……

「いえ、何も………わざわざ私をここに入学させたくらいだし、こんなに早く廃校が決まりそうになるなんて思ってなかったのかも……」

 エリーの期待に沿えないものだった。

 それにはさすがのエリーも落ち込み、

「そ、そう………」

とだけ言って、校舎の中に消え、

「4人とも堪忍なぁー?」

 希さんはその尻拭いをしてからエリーに続いた。

 重い空気がボクら全員にのしかかってくる。

 廃校………それは音ノ木にとっては避けられないことなのだろうか………と思ったその時。

 

 

「………絶対に廃校を止める方法はあるはずだよ。………ここのいいところを知ってもらえれば、きっと来るよ! だって穂乃果はこの学校が大好きだもん!」

 

 

 穂乃果の音ノ木に対する愛情が、彼女を廃校阻止へと駆り立てたことによりボクら3人をマイナス思考から引っ張り上げた。

「………穂乃果はこうなると誰が何と言おうと絶対に食い下がりませんからね。早速今日の放課後にでも調べてみましょうか?」

「う、海未ちゃん…………!」

 穂乃果が目を潤ませる。

 いつも彼女に厳しい海未でも、こういう時になると結構甘くなるというか、優しくなるというか…………

 ま、その分頼りがいがあるわけだが。

「私も手伝うよ、穂乃果ちゃん!」

「ことりちゃん! ありがとっ!!」

 ことりの賛同に喜んだ穂乃果は、彼女に思いっきり抱きつく。

 それを若干羨ましそうに見る海未の態度が滑稽だ。

 ………3人が所信表明したところで、ボクも腹を括ろう。

 …もう答えは、しっかり出ているしな。

「生徒会と重なることが多くて、余り3人を手伝えないかもしれないけど………全力で協力するよ。」

「カノンちゃんも!? ありがとう、穂乃果すごく嬉しい!!」

 ことりの時と同様に、勢いよくボクに抱きつく穂乃果。海未の羨望の視線が今度はボクに刺さってくるが、気にしない。

 

 

 その後は楽しい時間になったことは勘違いではないだろう。

 それに午前中に寝ていた分、穂乃果は午後の授業はフル稼働できっちり受けていた。

 そして、あっという間に下校前のホームルームも終わった。

 ボクたち4人は昼休みに話した通り、3人は図書室で音ノ木の過去の戦績を調べ、ボクの方は生徒会の仕事を果たした後可能であれば穂乃果たちと合流することに決まり、

「……じゃあ、ボクは会長と副会長とかに迷惑かけられないから、そろそろ行くよ。」

「なるべく早く終わらせて、穂乃果たちを手伝ってよ?」

「わかってるってば。」

 ボクは幼馴染3人と一度別れ、生徒会室に向かった。

 

 

 扉を開けて生徒会室に入ると、希さんが書類と格闘していたのに対して、エリーは浮かない表情で窓枠に手を突き、ボ――ッと外を眺めていた。

 ……自分のやっていることは本当に正しいのか、いう感じの路頭に迷っている状態の顔だ。

 彼女をそっとしておいてあげようと思って、希さんと静かにアイコンタクトで挨拶してから持ち場につき、朝の続きから再開した。

 

 

 ものの15分もかからずに担当分を終わらせたボクが一息ついた時には、希さんもあと30分以内に終わらせられそうな量にまで減っていたが、ようやく自席についたエリーは当然、朝とほとんど変わらない量の書類を残していた。

 さっき外を眺めていたのも、音ノ木廃校が大きく関わっているんだろう。

 やけに寡黙なエリーを気遣って、希さんも話しかけづらそうにしている。

 エリーの分のうち、今日中に処理すべきものをボクが手伝ってあらかた済ませた時、希さんが自身の担当分を終わらせ、休憩がてらボクを屋上に呼び出した。

 

「昼間はゴメンな、楽しくお昼ご飯食べとったのに。」

「いえいえ、そんなことは…………」

「んもう、ウチにエリちとの血縁関係まで当てられたん引きずり過ぎや。そんなにかしこまらんくてもええんよ?」

「はぁ………」

 …ったく、全然掴み所がわかんない人だな、希さんは。

……バイトで神田明神の巫女してるらしいから、知らず知らずのうちにこの人にお世話になってるわけなんだけど……。

「それに、クラスメイト………穂乃果ちゃんたちと約束してるんちゃうん?」

「………だから何も言ってないのにわかってるから、こうかしこまってるんでしょうが………」

………ったく、こうなりゃヤケだ。

思いきって打ち明けよう。

「実は彼女たちとも幼馴染なわけで、廃校を阻止しようと今3人は図書室辺りに………」

「いいところが見つかればええんやけどね。」

「……………()、キミはボクの中で尊敬を通り越したよ、今ので(・・・)かなり。」

とっくに(・・・・)、やろ。それと、やっと呼び捨てにしてくれたんやね。」 

 …………ぐぬぬぬぬ、頼りがいはあるけど、何なんだこのイミワカンナイスピリチュアルな先輩は。

おっとっと、それよりも言うべきことがあるな。

「そんなことより、単刀直入に言わせてもらうけど………これからエリーと対立することになるかもしれないけれども、ボクたち4人のやることを陰から支えてほしい。」

「………カノンちゃんのことやから、そう来ると思っとったよ。エリち、なんか考える前に諦めとるような節があるし。………この学校好きなはずやのになぁ。」

 先読みされていたのは、さすが希だ、と無理やり納得して続ける。

「やっぱり、エリーは考えて行動を起こす前に、無理に自分を折ってたんだね…………」

「カノンちゃんも気付いとったんやね。遠目から見ただけやのに。」

「こっちは母さんとエリーのお母さんのドッキリに強制参加させられてるの、知ってるよね?」

「あぁ、せやったな、カノンちゃんとエリちは………。それにカノンちゃん、観察眼ええし。」

「キミも他人(ヒト)のこと言えないくらい良いだろ…………」

「てへぺろっ!」

 ………ま、まあ、協力者を確保したことでお互いに了承し合い、希と共に生徒会室に戻ろうとしたしたその時だった。

 ……ボクの胸の辺りへと伸びてくる怪しい手の気配。それに気づいた時にはもう遅かった。

 希の伝家の宝刀(自称)・わしわしをくらったのだ。

「………ひゃう」

「……バランスえぇ体しとるねぇ、2年生で166㎝とか…しかもかわいい声で『ひゃう』って………」

「…………おい、希」

 ボクは彼女の右腕を両手で抱え込み、背負い投げを試みる。

 しかし、何もこけるようなものは存在しなかったのに、バランスを崩して互いにもつれ合った。

 

 

「「あ。」」

 

 

 足元の近くには、学院内の自販機で買ったジュースの缶があり、それを盛大に巻き込んでしまう。

「………意外にもカノンちゃんってドジッ娘さんやってんな…………」

「たまにしかならないから考えないようにしてたのに…………」

「ウチに見られたんが運の尽きやな。」

「うわあ最悪………」

 ごくたまに、ボクはドジだとしか言えないようなことをしでかすことがある。

 大抵は家の中だが、今回に限ってなんでなんだよぉ……………

 すっっっごく泣きたい……………!

「……秘密にしといたるから、泣かんといて?」

「泣いてない!」

 涙目になったボクは、髪と制服についたジュースをある程度処理して、希に励まされつつ生徒会室に戻った。

 

 ………しかし。

「…………あれ?」

「………こりゃあかん、またボ――ッと外見とるやん。」

 エリーが再び物思いにふけっていたために、希の権限で穂乃果たちの手伝いに行くことを許してもらい、ボクは生徒会室から図書室へ急いだ。

 

 

 ………結局、ボクが一緒になって探したところで大した功績は見当たらず、特に穂乃果が落ち込んだ状態で帰ることになった。

 幼馴染たちと別れた後、ボクは1人アキバのゲームセンターへ向かっていた。

 …中学2年の時に、某動画サイトにアップされていた2次元の奇跡の歌姫・「初音ミク」を用いた素晴らしい楽曲に感動して以来、着々とボカロオタクになっていっているボクは、そのボーカロイド曲のみを収録した音楽ゲームで遊びたい気分だったのだ。

 そんな逸る気持ちを抑えながら歩いていた途中で、ある建物の前で立ち止まってそれに見入っている、音ノ木の生徒2人を見かけた。

 見ていたのは………もうプロと言っても過言ではないスクールアイドルユニット・A-RISEで、この周辺に住む女の子たちのほとんどを骨抜きにしているUTX学園だ。

 その2人のうち、風邪でもないのにグラサンとマスクをしている黒髪ツインテールの先輩(リボンの色で3年だと分かった)で、もう1人は父さんの会社と比較的大きな契約を結んだ西木野総合病院の院長の一人娘で、一度中学の時に形式的に副社長として出会った、天才的な頭脳の持ち主のお嬢様だ。

 今年音ノ木坂に入学したらしいね。

「あれ、カノンちゃん?」

 ふと後ろから、穂乃果の声が聞こえたもんだから振り返ってみると、クレープを片手にこちらに歩いてくる彼女の姿があった。

 その声で他者の存在に気付いた黒髪ツインテールは走っていってしまうが、生粋エリートのお嬢様は全くの無反応。

 確か真姫という名前の、自分の赤毛を指でクルクルいじっている少女に、アイコンタクトを取り合ったボクと穂乃果は近づき、

「何見てるの?」

「ヴェェェッ!?」

 穂乃果が聞いてみると、やはり急に話しかけられたことと、かつ見覚えがあるのだろう、ボクの姿を見てさらに動揺してはいたが、少し落ち着きを取り戻すと真姫嬢は、

「見たまんまよ、UTXを見てただけだから。」

とだけ言って去ってしまった。

 ふと人の声がした気がして右を見てみると、UTXからそう離れてない場所に行列が見えた。

 そのことに穂乃果も気付いて興味津々らしく、

「カノンちゃん、行ってみようよー」

と誘ってきた。

 もちろんボクにも断る理由がないから、

「わかった。」

と返した。

 

 

 歩くこと数分、行列の先頭の先にある建物の入り口に掲げられていたものは…………!

 

「「A-RISE………ウィークデイライブ………!?」」

 

 ここ最近人気がうなぎ上りのUTXの原動力、A-RISE専用会場でのライブだった……!!

 だが当然、音ノ木一筋な穂乃果はこういった類の話には疎いらしくかなり疑問符を浮かべている。

 かくいうボクも実物はまだ拝見したことがなく、今の穂乃果と似た状態だ。………ここまですごいなんて…………!

 ものの見事にそれぞれ放心していた穂乃果とボクだったが、聞き覚えのある声に現実へと引き戻される。

 

「あ、穂乃果お姉ちゃんにカノンお姉ちゃん!」

 

 その行列に並んでいた小学3年生くらいの女の子がボクたちを見つけ、手を振っている。

 その子の名前は桃花ちゃん、親が穂乃果の実家の和菓子屋「穂むら」の常連さんなのだ。

 他の並んでいる人たちに一言「ごめんなさい」と謝って、桃花ちゃんに近づくボクと穂乃果。

「どうしたの? こんなところで何してるの? これUTXと関係あるの?」

と、いきなり矢継ぎ早に質問する穂乃果に対して、もうA-RISEファンであろう桃花ちゃんは「えー!」と穂乃果の疎さに驚きつつ、

「穂乃果お姉ちゃん知らないの!? UTX学園の校内アイドル『A-RISE』のウィークデイライブがあるんだよ!?」

 熱く語る桃花ちゃんの説明に、再び大量の「?」マークを頭に浮かべる穂乃果。

 ボクはまだこれくらいならわかるから大丈夫だ。

 そう高を括っているボクと、もう既にちんぷんかんぷんな穂乃果に桃花ちゃんから更なる追撃が。

 

「校内アイドルって言ってもね、メジャーデビューが目前なんだって! それでUTXにはファンの人の入学希望者とアイドル志望の人がたくさん増えてるんだって! だからね、私も高校はUTXに入りたいんだー!」

 

 ……………ダメだ、話の規模が違い過ぎて眩暈がする……………

 穂乃果に至っては幽体離脱寸前だし………

 そこで桃花ちゃんは何か思い出したのか、「あっ、そうだ!」と呟いてチケットをカバンから取り出し、うるんだ目でボクらを見上げてきた。

「…………あのね、一緒に来るはずだった子が風邪で休んじゃってね………このチケット穂乃果お姉ちゃんたちに買ってほしいの。ダメかなぁ…………?」

 その桃花ちゃんの言葉を断るわけにはいかず、ボクたちは一緒に並ぶことにした。

 

 

 20分ほど待ってから会場に入ったボクと穂乃果は、もう既に熱気渦巻くファンたちと綺麗なステージに圧倒されていた。

 その状態をキープしたまま、ライブが始まった。

 

A-RISEの綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木あんじゅの3人が生み出すステージの凄まじさと、ファンたちの熱狂が途轍もなくシンクロしている。…………単純にすごいとしか言えない。

…………そしてその時、ボクはピンと来た。……今の音ノ木坂に必要なものが!

「「これだ……!」」

 隣にいた穂乃果もボクと同じ考えに至ったようで、その嬉しさに2人でハイタッチした。

 

 

 わずか1時間ほどのライブだったが、強烈なインパクトをボクと穂乃果の心に刻み付けた、プロ顔負けのスクールアイドル、A-RISE。

 桃花ちゃんと別れた後、穂乃果はA-RISEのDVDを購入し、興奮冷めやらぬままボクと一緒に帰路についた。

 「穂むら」への道すがら、穂乃果は完璧にふやけた表情になっていた。

「はにゃぁー…………穂乃果あんなすごいの知らなかったよぉ…………」

「……確かにすごかった………けど、その状態を引きずって家の人とか海未を怒らせちゃ意味ないよ?」

「………ぶぅ。カノンちゃんも同じくせにぃ………そういうとこ海未ちゃんと一緒なんだから…………」

「ぐっ…………それはそうだけどね……………………スクールアイドル、音ノ木救うためにやるんだろう?」

「……うん……………穂乃果、やるよ。スクールアイドル。」

 あのA-RISEのライブを見て、ボクと穂乃果が導き出した答え。

 それは愛しの音ノ木坂でスクールアイドルグループを立ち上げ、音ノ木を全国的に知ってもらうことだ。

 あのライブの直後、穂乃果がボクにそう宣言したのだ。

 

 スクールアイドル活動やその他もろもろの話をしていると、

「ね、カノンちゃんはどうするの?」

 唐突に穂乃果が意図のつかめない質問してきた。

「どうするって?」

 聞き返してみると、穂乃果はすぐに、

「穂乃果たちと一緒にスクールアイドルやってくれるのかなーって思ったから………………」

と理由を述べてくれたため、ボクはやっと理解した。

「ボクの特性的には、メンバーというよりは………マネージャーかもね…………」

 そう言うと、急に穂乃果は笑顔になり、

「じゃあ、メンバー兼マネージャーってことで!」

 理論をすっ飛ばした、いつもの飛躍した言葉が飛び出た。

 さすがにビックリしたボクは食いついてしまい、

「なんでそうなるの!?」

と聞いた。

 すると、

「だってカノンちゃん身長高いし、スタイルいいもん。」

と返してきた。

 穂乃果らしい着眼点ではあるが、それでもボクは驚きを隠せない。

「そこなの!?」

「うん、そこだよ?」

 その穂乃果の相槌に、ボクがわざと「ガ―――ンッ」というBGMが流れそうなリアクションを取ると、彼女は大笑いした。

 ………確かに、ボクの自慢にしかならない体型ではアイドルに向いてそうだが、やるわけにはいかない。

 ……ボクがスクールアイドルとして前に立つなんて、穂乃果たちのためになんかなるはずないじゃないか………………

 …………逆に………………穂乃果たちを………

 

 

††

 

 そうこうしているうちに「穂むら」に到着した。

 ボクの家はここからさらに少し進んだところにあるため、穂乃果とはここで別れることになる。

「明日、スクールアイドルのことを海未とことりにも伝えるのを忘れないでよ、穂乃果。」

 一応念を押しておくと、すぐに穂乃果から返答が来る。

「言われなくてもわかってるよー! じゃあね、カノンちゃん、また明日!」

「うん、また明日。」

 穂乃果が店の中に消えていくのを確認してから、ボクはブレザーのポケットからスマホを取り出し、ある人に電話をかける。

『あれ、珍しいなぁ? カノンちゃんの方から電話してくるなんて。』

「……そんなことより、ボクたち2年生組が無謀に近いことを明日から始めるかもしれない。」

『意外と早かったんやね。ウチに手伝えることなら何でも応援するで?』

「ほんのついさっき、穂乃果と一緒にUTXのA-RISEのライブをたまたま見ることになって、ヒントを手に入れたんだ。」

『へえ、A-RISEに刺激されたっちゅうことは、この学校(音ノ木坂)でスクールアイドルやるつもりなんやね。』

「さすが希だ。……で本題に入るけど、穂乃果たちが作るスクールアイドルのグループ名を考えるのと同時に、そのグループが今後どうなっていくべきか、希の腕を見込んで占ってほしいんだ。」

『よし来た、任しとき。……でもカノンちゃん? あんたはどうするん?』

「………当分はマネージャーという名のサポーターにでも徹するつもりだよ。」

『そっか………んじゃあ、それ前提で占うてみるわ。相談してくれてありがとな!』

「普段から生徒会絡みでお世話になっているお礼だよ。それじゃまた明日、生徒会で。」

『うん、ほなね。』

 電話を切り、ふぅ…、と一息つく。

 これでまず、スクールアイドル活動の下準備をやっていける。

 

 明日から、メンバーにふさわしい人材を探すのに忙しくなりそうだな…………でも、やるからには手を抜くわけにはいかないけどね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと1話を投稿して、思ったこと。
もっと早く更新できるように努力します!
内容的にはアニメの1期1話をベースにしてますが、多少のオリジナル展開をご了承ください。
カノンちゃんが原作に対してどう動いていくのか、楽しみにしててください。
かなりのローペースな更新ですが、もしよかったら次も待っててください!

プロフィール
主人公・雪峰カノン
 ………身長:166㎝/体重:44㎏/B型/誕生日:12月24日
   年齢:16歳/B:87 W:58 H:84/一人称・「ボク」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。