個性以前に個性的な奴等ばかりなんですけど   作:ゴランド

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 最近、常に小説のクオリティを高くしなければ批判の声が上がって叩かれるとビクビクしてしまい投稿スピードが重加速現象並になっております。
と言うわけで久しぶりの投稿になります。



52話 補習と七夕祭とロリコン

 男子更衣室にて。雄英生達はヒーローコスチュームから制服に着替えていた。

 

 

「久々の訓練、汗かいちゃった☆」

 

「俺、機動力課題だわ」

「情報収集で補うしかないな」

 

「それだと後手に回んだよな。常闇とか瀬呂が羨ましいぜ」

 

「まー、でも。最終的に鍛えれば何とか……」

 

「にしても……」

 

 

 数人の視線が天倉の首から下に注がれる。コスチュームから解放されし肉体は自然界いや、世紀末を生き延びたとも過言では無いだろう。

言うなれば、その男は筋肉(マッスル)だった。

 

 

「お前、首から下がヤバイな。1人だけ魁!◯塾とか北◯の拳みてーになってるぞ」

 

「カタギの鍛え方じゃねぇよ」

 

「多分、俺の"個性"が傷付いた箇所はより強くする為に働いたとか?」

 

「な、成る程…!天倉君の"個性"による回復は細胞の増殖だけじゃなく、強固なプロテクトを行う為に無意識に働く。それならコスチュームで爪や牙を武器に見立てて形成する事も可能かもしr「うっせぇ!黙って着替えろや!」

 

 

いつも通りだな……あれ?いつも通りってなんだっけ?と思いながら制服を羽織る天倉。

そんな彼に隣で着替えていた筈の峰田が呼びかけて来る。

 

 

「オイオイオイ!天倉!オイ!天倉!ちょっとこっち来いや!」

 

「どしたのさ峰田君」

 

「見ろよこの穴!恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう!隣は?そうさ!分かるだろう?」

「?」

 

 

 天倉は理解してないだろうが、この隣には女子更衣室が存在する。

つまりは壁に空いたであろう穴は峰田と同じ変態紳士なのだろう。

そんな彼の言葉に反応したのか飯田がすかさず注意しに寄って来た。

 

 

「やめたまえ!ノゾキは立派なハンザイ行為だ!」

 

「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ‼︎」

 

 

そう言うと峰田はビリィッ!と穴を隠してあった張り紙を剥がし穴に片目を添える。

 

 

「八百万のヤオヨロッパイ‼︎芦戸の腰つき‼︎葉隠の浮かぶ下着‼︎麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱァアアアアッ───あああああ!!!!!!!!!」

 

 

しかし、峰田は片目を抑えその場で蹲る結果となった。そんな最低な行為をしていた事を知らず彼の元に天倉が駆け寄る。

 

 

「峰田君ッ!?まさか新手のヴィランによる攻撃かッ!?」

 

「いや違うと思うぞ」

 

(……天倉君…あまり気にしてないみたいだけど)

 

 

 目の前の光景にクスリと笑いを漏らしながら緑谷は昨日の出来事に浸かっていた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

事はつい先日。

応接室。そこには緑谷と本来の姿に戻ったオールマイトが席に座っていた。

 

 

「それは本当かい?」

 

「はい……僕自身、天倉君を絶対に逃がさない。捕まえるって事だけを考えたら、いつの間にか……」

 

「フム……」

 

 

 事の始まりは勇学園との合同訓練で緑谷と天倉が戦った時である。

訓練中、緑谷の腕から()()()()が飛び出して来たと天倉は証言しており終わった後、心配されたが『言われて困るなら秘密にしておこうか?』と有難い提案を持ち出してくれた為、事なきを得た。

 

そして現在、自身に起こった出来事について何か知っているのではないかとオールマイトに尋ねる事となったのだ。

 

 

「すまない、緑谷少年。こればかりは私にもサッパリだ」

 

「オールマイトにも?」

 

「いや、だが、もしかしたら…オール・フォー・ワン。彼と関係しているやもしれん」

 

「……先日、オールマイトから聞いた巨悪」

 

「うん。それに……天倉少年は彼と少なからず関わってしまった」

 

 

痩せ細った手に力が入るのが見て分かる。

それは巨悪に向けたものでは無く、不甲斐ない自分自身への怒りによるものだった。

 

 

「風都。ステイン事件のように隠蔽はされたが、裏では奴が繋がっているに違いない」

 

「それって……!」

 

「幸い、天倉少年には気にするなと言っておいたが……、考えたくもないが彼は巨悪の事を知る可能性がある。……それだけじゃない、私と緑谷少年の秘密も知られてしまうかもしれないんだ」

 

 

オールマイトの眼光が一層強くなる。

 

 

「天倉少年は体育祭での轟少年みたく、悪い意味での執着心を持っているワケでは無いが───充分、注意して欲しい。これは君の友人を守る為でもあるからな」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

(天倉君に知られないように注意しなきゃ……)

 

 

オールマイトに注意するよう施された緑谷は次の授業に向けて気を引き締める。

 

 

「この穴に何が……アッーーーー!?イッタイメガァァァアアアアアアッ!!」

 

「………」

 

 

……一瞬、天倉君なら知られないんじゃないかなと思う緑谷だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後のホームルーム。

担任である相澤先生がいつものように生徒達に真っ直ぐ帰るように施した後、「それと…」と呟く。

 

 

 

「えー、そろそろ夏休みが近いが…もちろん君らが30日間一ヶ月休める道理はない」

 

「まさか……ッ!」

 

「夏休み林間合宿やるぞ」

 

「知ってたよーーーー!やったーーーーー!」

 

 

 先程までシンと静まっていたクラスが一気に騒がしくなる。林間合宿、それはクラスの皆とコミュニケーションを取ることが可能なレクリエーションでもあり皆が楽しみにしている学校行事の内の1つである。

 

 

「肝試そーーー!」

 

「風呂!」

 

「花火」

 

「風呂!!」

 

「カレーだな……!」

 

「行水!」

 

「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」

 

「いかなる環境でも正しい選択を……か面白い」

 

「湯呑み!」

 

「寝食皆と!ワクワクしてきたァ!」

 

(皆、スッゴイハイテンションだなぁ。…峰田君の謎の風呂推しは一体……)

 

 

 冷めた感じにクラスの皆を見る天倉だが、実は本人が1番ワクワクしており、机の下に隠れた足はソワソワと動いている。

 

 

「…と、その前に。雄英は七夕祭りを行う事になっている。クラス毎に出店をやるので考えておくように」

 

「「「「いきなりのサプライズ来たァァーーーーーーーーッッ!!!?」」」」

 

 

 なんと、隙を生じぬ二段構え。クラスのテンションは更にヒートアップしMAX大興奮な状態となる。

 

 

「ちなみにセンセー。それっていつやるんですか」

 

「明後日だ」

 

「「「「「そう言うとこだぞ先生ェ!!」」」」」

 

「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は……学校で補習地獄だ」

 

「皆頑張ろーぜッッ!!!」

 

 

 悲しいかな。楽しんでいる矢先、先生は羽目を外し過ぎないよう釘を刺して来る。生徒だけでなく、先生もまたこのクラスに適応して来たのだろう。皆の扱いが上手くなっているのが分かる。

ふと、何かを思い出したように相澤先生は口を開く。

 

 

「そう、それと。緑谷、爆豪、天倉。3人は放課後職員室に来るように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、補習⁉︎」

 

「あぁ、実は職場体験の単位が足りてない」

 

「ハァッ!?」

 

「えぇっ!?」

 

「マジで!?(1人じゃなくて良かったッッ!)」

 

 

職員室。そこに問題児3人組が単位が足りていないと言う事実を告げられる。

 

 

「コイツらはともかくなんで俺が‼︎」

 

「えっ」

 

「いや、爆豪は普通に赤点。先方から追加研修の要請が来てる。緑谷の方は書類の不備だが先方と連絡がつかなくてな。このままでは単位が受理されず留年してしまう」

 

「そんなッ!?」

 

「マジですか…緑谷君、ドンマイ(やったー!仲間外れじゃなくて良かったーーー!)」

 

 

この(天倉)、内心は人の不幸を物凄く嬉しがると言う何クソ野郎であろうか。そんな内心クソ野郎は「あ」と思い出したように声を漏らす。

 

 

「すると、俺達は七夕祭りに出れないと言う事ですか?」

 

「いや、七夕祭りなら午後から参加出来るから安心しておけ。……補修する奴がそう出れると思うな」

 

「あぁ、いやそうじゃ無くて………招待するのは別に構わないんですよね?」

 

「?…まぁ、良い。校長の計らいで緑谷と天倉も参加出来るようになったので3人で行って来るように。以上だ」

 

「分かりました、ありがとうございます!」

 

「「………」」

 

 

元気良く挨拶と感謝を忘れない天倉とショックに打ち拉がれる2人は追加研修を受ける為、とあるヒーローの元へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

「改めて自己紹介させてもらう。コレから君達の補修を担当するベストジーニストだ。……正直二人増えるとウンザリしていた。私は身嗜みに注意を払わぬ人間が嫌いだ」

 

 

スッとベストジーニストは3人を見渡し、1人に視線が止まる。

 

 

「だが、緑谷出久。心を入れ替えたようだな」

 

「はい!!」

 

 

 No.4ヒーローに見てもらえるのでハイテンションな緑谷出久はコスチュームではなく正装で身を包み髪型は七三分けと、どう見ても狙っているようにしか見えない。

 

 

(緑谷君…露骨すぎる……)

 

「ああ!テメェ!媚びてんじゃねぇぞ!」

 

「うわちっ!?」

 

「いや爆豪君!ヒーローの前だから!」

 

「その通り、組織に迎合するのなら"個性社会"においてとても重要な事だ」

 

 

 刹那、爆豪は椅子に縛られいつの間にかベストジーニストによって髪をセットされていた。

 

 

「お前は歩調を合わせる事を学べ。『協力』それが今回、爆豪に課す課題だ」

 

(え……?いつの間に……!?)

 

「続いて、天倉孫治郎。私は君を最も嫌っている」

 

「ゴブッ────控え目に言って死にt「そう、それだ。君は場をすぐに乱す」え?」

 

「体育祭の活躍はなんだ?ロクに"個性"をコントロール出来ず、見せたのは粗末な勝ち方。そんなのでは指名数も指で数えられる…いやゼロだったのではないか?」

 

 

ズタボロに言われる天倉。そのままガクリと膝から崩れ落ち、どんよりとしたオーラを放ちつつその場で項垂れる。

 

 

「ごおぉぉぉ……ッッ……コロシテ……今すぐコロシテ……」

 

「…質問しよう。君が学ぶべき事は何だと思う?」

 

「……えっ、そんな事言われ───!?(か、下半身がギュゥっと締められてる⁉︎なんか……気持ち悪いッ!)」

 

 

 ベストジーニストの"個性"によりスボンがパッツンパッツンになり、変な感覚に襲われる天倉。

繊維を自由自在に操る事の出来るヒーローだからこその実力なのだろう。拘束と同時に相手に不快感を与える方法も知っていると言う訳だろう。

 

 

「狼狽えるな。そしてへこたれるな。君か学ぶべき事は崩れぬ『鋼の精神』」

 

「鋼の精神?」

 

「簡単に言えば心の問題だ。プロは信念の元に軸が真っ直ぐ立っている。……が、お前の軸は直線ではない。私の指導を受け、自分の意思を貫く事。どんな逆境にも自身の決めた通りの理想を押し通す事。お前にはそれが足りてない」

 

「な、成る程。参考になります」

 

「分かったのなら、私は(爆豪)の髪を直す。その間にお前は自分に出来る事をして貰おう」

 

「俺に…ですか?」

 

「勿論、自分で考えろ」

 

 

 そう言うとクシ、ドライヤー、ワックス等を取り出し爆豪の頭に集中し始める。それに対して天倉は困惑していた。

 

 

「じ、自分に出来る事と言っても……!」

 

「天倉君!ここは僕に任せて!」

 

「え?そ、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 

 緑谷の助け舟に乗る天倉。

しばらくして、爆豪の髪型は七三分けへ変化しベストジーニストはやや満足そうな足取りでやって来る。

 

 

「さて、天倉孫治郎。衣服、髪型の乱れとは心の乱れだ。規律が崩れればそこから敵発生へ繋がる」

 

「はい」

 

 

 何と言う事でしょう。髪型や服装に無頓着だった天倉孫治郎の髪は七三分けへ変化し黒のサングラス、黒のスーツ、黒い靴、黒のネクタイとまるでカ◯ジに出てくる帝愛の黒服の容姿へ変わっていた。

 

 

「……天倉孫治郎。君を認めたワケでは無いが……身嗜みをしっかりさせたのは良しとしよう。君はどうやら心を入れ替えたようだ」

 

「はい、あり難き幸せ(ええーーーッ!?服装を変えただけでこんなに態度違うのって色んな意味でチョロいぞベストジーニスト!)」

 

「天倉テメェ!猫被ってんじゃ───キャッ!」

 

(キャッ⁉︎今、爆豪君、キャッて言ったのか⁉︎)

 

「さて……私の研修について来れるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、A組はと言うと…。

3人の不在により悲しみに包まれて───

 

 

「おもち屋さん!」

「腕相撲屋!」

「「メイドカフェ‼︎」」

「おっばけやーしき!」

 

 

 いる訳なかった。クラスメイトの不在以上に七夕祭りへの楽しみが優っていた為、あまり気にしていなかった。

 

 

「ここは奇をてらわず、下半期の抱負を短冊に書き寄付を募る店はどうだろう!」

 

「「「絶対ダメ‼︎」」」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 一方、場は戻り老犬の散歩、ベビーシッター、二人羽織と謎の訓練を終えた3人だが爆豪は凄まじい結果を残す事となった。

 

 

「さて、訓練した結果…だいぶエゴを抑えられるようになったようだな」

 

 

(°◡°)

 ↑

※爆豪

 

 

「…誰!?」

 

「そ、そうか……!かっちゃんの心はほとんどエゴでできてるからエゴを取ったら何も残らなくなっちゃったんだ!」

 

「どう言うこと!?」

 

 

 七三分けで純粋な瞳ともはや別キャラと化した爆豪。エゴの塊である彼はベストジーニストの訓練により考えるのをやめたどころか放棄した状態となったのだ。

 

 

「さて、エゴも抑えられたところで模擬の救出訓練を行おう」

 

「よし、やろう天倉君!かっちゃん!」

 

「了解!……あれ?爆豪君……?」

 

 

 しかし爆豪はマネキン人形の如く。緑谷や天倉の呼び掛けに応えず、ただその場でジッと留まるだけだった。

 

 

「だ、駄目だ……人助けの気力すらも無くして……」

 

((エゴで人助けしてたのか……!?))

 

 

果たしてどうなる職場体験のTHE・補習!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、A組の様子はと言うと……。

 

 

 

「いやいや……そこは肝試しだろ……!」

 

「カフェを譲れよな……」

 

「なんか変じゃね?」

 

「あぁ、全然まとまらねぇ」

 

「確かに……いつもはこんなギスギスしてないのに」

 

 

 

ギスギスしていた……ッ!

主要人物達が居ないA組はすっごいイライラしていた!

理由としては最終的に纏める役である緑谷達が居ない為、全員はスランプに陥っていたのだった。

 

果たしてこんな事で七夕祭りを成功させる事が出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 

 

雄英七夕祭当日。

その日は多くの外来客で賑わっていた。

 

あちこちにある笹には短冊が飾られており、どれもヒーローになると言う生徒達の抱負が書かれている。

 

 

「……(人がこんなに……風都と比べて密集率が段違い)」

 

 

 そんな雄英高校にとある来客が足を踏み入れていた。見た所、娘と母親と言った親子の客に見えるが、彼女達は血の繋がっていない同士の知り合いである。

 

 

「あの、見値子さん。ホントに大丈夫ですか?」

 

「いいのいいの。さとりちゃんだってこういうお祭りってあんまり行かないでしょ?…それに、密集地帯に慣れておくのも良い訓練になるって言ってたじゃない?」

 

「……それなら良いんですけど……」

 

「さて、それじゃあグルっと回ってみましょう。…いやぁ、天倉君も粋な計らいをしてくれるとはね……」

 

 

 彼女達は古明地さとり、見値子。天倉孫治郎と関わりのある人物だ。風都に住む彼女達だが、つい先日七夕祭へ来ないかと天倉に誘われた為、この雄英高校にやって来たのである。

 

 

「エリちゃあぁぁぁんんんんんんッッ!!!」

 

「「「エーリちゃーーーーーんッッ!!!」」」

 

 

 そして、そのすぐ近くで叫んでいるのは霊烏路(ドルオタ状態)と取り巻きの三羽烏である。この4人もまた、天倉の職場体験先であった風都にて出会った人達である。

 

 

あの子(お空)があれ以上に暴走しないよう見張っておいてください」

 

「あー、お空ちゃんって真性のドルオタなんだっけ……」

 

 

……何やら一名、全くキャラを保っていない者がいるがあまり気にしないようにして欲しい。この七夕祭にはサプライズゲストとして、有名なアイドル『エリザベート』がやって来るのだ。ドルオタである彼女が天倉の誘いに食い付かないわけもなく、先程からこのような状態になっているのである。

 

 

「そう言えば、お燐ちゃんは?」

 

「あー、その。猫の本能なのか、此処に来る途中で"ネズミっぽい生き物"を真っしぐらに追い掛けていって……多分、回っている途中に会えると思いますが……」

 

(……一番、良識のある子だったのに……)

 

 

 追い掛けられる羽目となった謎のネズミっぽい生き物を哀れに思っていると「いたいた…」と背後から声が聞こえて来る。

 

 

「すみませーん……少々取材のお時間をとらせてもよろしいでしょうか?ヒーローネーム『マキ』さん?」

 

「あなたは?」

 

「いえ、しがない記者の卵ですよ。私の趣味と思ってください」

 

 

 黒い翼をはためかせた彼女がそう言うと何処から出したのかメモ用紙とペンを手にグイッと近く。

困った人に会ってしまったと見値子が思っていると、側にいた古明地がボソリと呟く。

 

 

「……天倉さんが狙いですか?」

 

「ッ!?……ほう、それは"個性"ですか?」

 

 

一瞬、驚愕の意を見せるがすぐに平静を装い標的を変えた。

 

 

「……射命丸文、16歳。此処から数kmにある森諏訪谷高校、2年生」

 

「…ほう、よくご存知で……」

 

「天倉さんとは入学して数週間に接触。その後、体育祭にて様々な方法を使用し、彼の活躍を記録に収める事に成功」

 

「成る程。あなたの個性なかなか馬鹿に出来ないようd「あぁ、そんな事は良いんですよ。どうでも良いんですよ。私が聞きたいのは天倉さんをどう思っているのかなんですよ」

 

「えっ」

 

 

「ほら、言ってください。ええ、私は何を言っても構いませんよ?……ただ、あの"素敵な人"を狙っているとするなら……わたし、正気を保てなくなって………あぁ、何でもありません。さぁ早く聞かせてください、さぁ!さぁ!早く!あなたは彼を好か嫌か!さぁ!!」

 

 

 何故だろう、彼女の背後に『嘘つきは燃やせ』『邪魔者は排除しろ』などの声が聴こえてくる。そんな彼女の迫力に押されたのか、射命丸はブワリと大量の冷や汗を流す。

 

 

「(ヤ、ヤンデレだとォォォォォオオオッッ!空想上の生物であると言われるヤンデレが私の前に!?アレって漫画やアニメの住人じゃなかったんですか!?と言うか天倉さんものすっっっごく厄を引き寄せてませんか!?スクールデイズendは洒落になりませんよ!?)いっ!いえいえいえいえいえッ!私は天倉さんの事を性的に見てるつもりはありません!ただ私は彼の事をネタが自然と集まって来るだけの餌場としか見ていません!だから安心してください!私はそう言うつもりで天倉さんと接触を図るつもりじゃありませんから!」

 

 

 

 

 

「成る程言いたいことは分かりました」

 

「あ、はい。ようやく分かって───

 

「アナタが人を人として見ていないと言う事が分カリマシタ……!悪イ虫ドコロノ話デハ無イヨウデスネ……!!」

 

 

射命丸、油に火を注ぐ。

 

 

「八方塞がりーーーーッ!?(やべぇ!逆に悪く言い過ぎましたか!?)」

 

「あ、あなた!とにかく今は逃げて!落ち着いて古明地ちゃん!それは考えすぎだから!」

 

「見値子さんどいて、その女殺せない!」

 

「すみません!死にたくないのでお言葉に甘えてさせてもらいます!」

 

 

 すると脱兎の如く彼女は猛スピードでその場から逃げ出す。そんな彼女を見送った見値子は「ハァ」と一息つく。

 

 

(さとりちゃんが治る気配は未だに無し……か)

 

 

簡潔に言おう、古明地さとりは精神疾患者である。

風都の事件以来、ショックにより彼女は天倉孫治郎に依存し暴走を起こしてしまうようになったのだ。

現在、休止中ではあるがヒーローである見値子はそんな彼女のメンタルケアとして天倉と会う手法を取ったのである。

 

 

「逃げましたか……まぁ、いいです。そんな事よりも、早く行きましょうか」

 

「……そう、ね」

 

 

 一抹の不安を拭いきれない彼女は、今は少しでも改善できるように願うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 彼女達が歩く事数分、ドルオタとその取り巻きはアイドルがいるであろうステージへ真っ直ぐ行ってしまった為、現在は古明地と見値子2人で行動している。

そんな彼女達の視界にふと、クレープを売っている出店が入った。

 

 

「あの、すみません。A組の出し物が何処にあるか知りませんか?」

 

「ん?A組ならそこにあるけど……(うーん、やっぱり注目度は依然としてA組が上か……やっぱ悔しいな)」

 

「……その前にこちらにも寄りましょう。良いですよね根寝さん」

 

「いいよー」

 

 

 B組の出店の前に居た彼女、拳藤の心を読み取った古明地は少し罪悪感を覚えたのか、クレープを買う事になった。

 

 

「へぇ!天倉のトコでお世話んなったのか!」

 

「はい。そうなんですよ(……ふむ、好感度としてはまだ友人レベルか……警戒するのに越した事は無いみたいですね)」

 

「いやー、是非彼をサイドキックにしたい所ですよ(あーこりゃ、さとりちゃん警戒してるなぁ。と言うか半分の目的が釘を刺しておく事だからなぁ)」

 

 

 しばらくして、クレープを食べ終わり拳藤は売り上げの嫌味を言いに行こうとしていた物間を手刀でねじ伏せ古明地達をA組の出店て案内する事になる……が、到着した3人はその出店の外観に唖然する。

 

 

「えっと、此処みたい……?」

 

((え……此処?))

 

 

 目の前にあったのは餅、お化け、金魚掬い、腕相撲、etc、etc…挙げ句の果てには『もう何でもやります』と書いてあった謎の店だった。そんな店の前で死んだ目をした麗日が、古明地達の存在に気付く。

 

 

「あの……もしかしてお客さん?」

 

「そ、そーですよー?えっと、此処はA組の出店でいいんですよね?」

 

「どうしたの?何かテンションダダ下がりしてるけど」

 

「実はお店が大滑りしててさ。今、皆かなり弱ってるから冷やかすのはちょっと……」

 

「成る程。そんな事より天倉さんって居ますか?」

 

「あ、ごめんなさい。天倉君なら今日は居なくて」

 

「それなら此処には用は無いです。ありがとうごz「あー!あー!あー!でもー!此処で待って居れば彼も来るかもですしー!待ちがてら入りましょうか!」…確かにそうですね」

 

(この子…冷やかしNGと言った途端に早速冷やかした……⁉︎)

 

 

 店の中はお化け屋敷をモチーフにした喫茶店らしく、周囲にはお化けの被り物、すこし暗めの照明、餅と書かれた張り紙に、もうしませんと言う看板を首からかけた謎の小さいサイズの生徒が磔にされたモノと不思議なオブジェが並んである。

 

 

「3名様入りまーす」

 

(結構凝ってんじゃん……何が失敗したんだろ)

 

 

 そう思ったのも束の間、テーブルに置いてあるメニュー表を広げた3人は呆気に取られ、失敗した原因を知る事になる。

 

メニュー表記がもうヤバイのだ。全てが厨二チックなノムリッシュ的なアレなのだ。困惑しながらも拳藤は飲み物であろうメニューを口に出す。

 

「じゃあ、この……えー、『汗まみれのジレンマが織りなす冥界からの涙』」

 

「はい!それですね」

 

 

 店の奥から赤髪がトレードマークの切島が巨大な桶を運び、彼女の目の前に立つ。

 

 

「注文ありがとな!でも女だからって容赦しねェぜ!?」

 

(くぅ〜〜腕相撲だったかぁ〜〜…)

 

 

 拳藤が失敗したと悟っていると見値子も同じように別のメニューを恥ずかしならが口に出す。

 

 

「そ、それじゃあ私は…こ、この『水槽に浮かぶ小さき者達の戯れ』を」

 

「水槽のやつでーす!」

 

(復唱ォ…)

 

 

 麗日の適当な復唱に内心ツッコミを入れていると、水いっぱいの桶を持った蛙吹が現れる。

 

 

「3回までチャレンジできるわ」

 

「……金魚すくいで来ましたか〜〜……」

 

「あの、すみません。3人分の飲み物を頼みたいんですが……」

 

「分かりました!グイッといくやつ頼みます!」

 

 

 さすがに不憫に思ったのか、古明地が助け舟を出した。しばらくして目の前に出されたのはアツアツの餡子に餅が浮かぶ料理だった。

 

 

「え…お、お汁粉……?」

 

「す、すみません。アイスティーとかコーヒーとかって……」

 

「いえ!当店ではお餅一本で勝負してます!」

 

(勇気ありすぎでしょ‼︎)

 

 

 勇気と無謀を履き違えた酷さに古明地は麗日に聞こえないよう拳藤に疑問を投げかけた。

 

 

「す、すみません…あの、天倉さんのクラスっていつもこうなのですか?正直言って嘘と言って欲しいんですが……」

 

「あ、いや…いつもはこうじゃないんだ。でも、今日は妙な一体感と惹きつける何かが無い気がするんだ。こう、いつもと何かが……ッ!」

 

 

瞬間、カチリとピースが揃う感覚が拳藤の頭の中に響いた。

 

 

「そう言えば、爆豪と緑谷は?」

 

「え?ああ。補習があっていないけど……」

 

「(そ、それだッッ‼︎)ちょっと、2人のモノマネとか見たいなー……なんて」

 

「へ、なんで?」

 

「は、払うからさ!」

 

「あ、それなら。少々お待ちくださーい」

 

 

すると、髪の毛をボサボサにした麗日が憤怒の表情を露わにする。

 

 

「デクァ!俺の前に立つなつってんだろ!……ごっ、ごめんかっちゃん!」

 

(あ、麗日がやってくれるんだ)

 

「つか、何なんだよこのメニュー!全然意味分かんねんだよ!……って!確かにッッ!!」

 

 

 そんな彼女のシャウトにA組の生徒達がゾロゾロと現れる。驚愕と希望に満ちた顔をした彼等の視線は自然と麗日に集まる。

 

 

「お、おい…今なんか…なんでだろ?」

 

「あぁ!今何かに気付きかけた気がしたぜ!」

 

「麗日続けろ!」

 

「お、おう…せっかく皆で考えたんだし生かす方法があるよ。横に絵とか解説を載せるとかすれば」

 

「「「そっ、それだッ‼︎」」」

 

「せめて茶くらい用意しろや!窒息させる気か‼︎」

 

「夏だし轟君、かき氷作れたりしないかな」

 

「すげぇ!違和感が次々と解決していくぜ!」

 

「そっか、昨日今日とあいつら居なかったもんな」

 

(えぇ…あの2人重要すぎでしょ)

 

 

 麗日のモノマネによって活力を取り戻していく光景に拳藤は思わず唖然してしまう。

着々と緑谷(のモノマネをした麗日)と爆豪(のモノマネをした麗日)が案を出しクラスは活気のあるいつも通りのA組へ戻っていく……が、それも長くは持たなかった。

 

突如として麗日はその場で膝をつき、気怠そうな様子を見せる。

 

 

「くっ、……ごめんもうMP(気力)が……」

 

「くう!あと少しなのに!」

 

 

 限界を迎えた麗日。もはやこれまでかと思ったクラスに聴き覚えのある声が響いて来た。

 

 

「わぁ〜〜凄い!七夕祭りだ!僕も最初から出たかったなぁ……A組はお化けカフェにしたんだね」

 

「本物だ!本物が帰って来たぞ!」

 

「うぉぉぉおおお!俺達の欠けたピースが戻って来たぞ!」

 

(……え?何、あの人。心の内が読めない……と言うか考えを放棄してる⁉︎)

 

 

 なんと、ここに来て緑谷達が合流したのである。……若干一名(爆豪)、様子がおかしいのが居るがこれも売り上げの為。あえて触れる者は特に居なかった。

しばらくして客足は増え、1年の中でトップクラスの売り上げにまで伸びていた。

 

 

「いやぁ、一気に抜かれちゃったね。コレだから華のある奴らがいる組は……」

 

「華なんていずれ枯れる運命だよ」

 ↑

冷やかしに来た物間。

 

「そこの追い上げ…確かに見るべきモノがありますが。拳藤さんのおかげじゃないですか」

 

「別にいいんだよ。正直ちょっと悔しいけどライバルがパッとしないとさ。こっちもやる気が出ないんだよ」

 

 

 

「俺達A組は絶好調!」

 

「私達なら売り上げ1位で間違い無しだね!」

 

「今の俺達こそ真のA組!誰も欠けてないからこその実力だーーー!」

 

「やっぱり誰も欠けてないA組はいいもんだなぁ」

 

 

 

 

「あ!いたいた!さとり様ー」

 

「あら、お空。アイドルステージは終わったの?」

 

「ううん、これから第2ステージが始まるとこだよ。それに限定グッズもコンプリート!……あ、でね?さっきからそこで覗いている人がいるんだけど」

 

「あらそう?入り難い人でも居るのかしr……」

 

 

 

 

 

|/|-|\

| 0M0 )

|⊂ /

|  /

 

※天倉

 

 

 

「え?」

 

「「「「「「「………あ」」」」」」」

 

 

そこでA組は気付く。

 

 

『今の俺達こそ真のA組!誰も欠けてないからこその実力だーーー!』

 

『やっぱり誰も欠けてないA組はいいもんだなぁ』

 

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

「……ナゼ、ミテルンデス」

 

 

欠けていたッッ!もう1つのピースの存在ッッ!!

 

 

「えっ、…あ、いや。違うんだよ?決して天倉君の事を忘れてたワケじゃないからね!?」

 

「そ、そうだよ!だから…さ?機嫌を直してくれないかなーって」

 

「ハハハハハ!?あれあれあれーーー?A組って誰も欠けてないから真の実力を出せる筈なのに1人忘れてるよー?あるぇー?おっかしぃな?あr──「ふん」───かひゅ」

 

 

刹那、天倉は物間の背後に回ったと思うと、一瞬のうちに彼の首に手刀を当てていた。

 

 

「……オンドゥルルラギッタンデスカァァァァアアアアッッ!!」

 

「天倉ーーーッ!?」

 

 

A組の 天倉は にげだした!

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「ありがとーッ!ステージの豚共ーーーー!アンコールに応えてもう1曲行くわ!」

 

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ」」」」」」

 

 

 ステージを飲み込むは爆音、騒音、悲鳴、とてもアイドルが発してはいけない声量が彼女の喉奥から出される。

舞台の上ではピンクを基調とした派手な衣装で身に纏ったアイドルらしき人物が立っている。

 

 

「オイオイオイ、死ぬわアイツ等。なんで人気なんだ?あのアイドルは」

 

「ご存知、無いのですか⁉︎彼女こそ、バラエティや代役などからチャンスを掴み、アイドルの座を駆け上がっている貴族令嬢色物シンデレラ。エリザベートちゃんです!」

 

「なんでもいいけどよォ、良くまぁ暴徒が出ないよなぁ」

 

「それについては、パトロール兼ボディガードのヒーローがついてるからだよ。ほら、あそこに番犬がいる」

 

 

 指をさした方向には雄英にて生活指導担当するヒーロー【ハウンドドック】が警備を務めていた。

 

 

「バウッ!バウバウバゥッ!」

 

「アマッ!アマアマアママッ!」

 

 

「なんか変な奴が居───いや!増えてる!?」

 

 

 面食らったのも無理はない。先程まで居なかった筈であるハウンドドックの隣に赤目の緑色の何かが同じように警備を務めていたのだ。

 

 

「……良いのか、一生に一度の思い出だぞ」

 

「…すみません。変な事喚きながら飛び出してしまったんで戻り辛いんです」

 

「確かに戻り辛いのは分かる。……が、そんなつまらないプライドよりも素直に謝った方がグルルルッ!!」

 

「確かにそうかもしれませア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!」

 

 

 隙を見て舞台に乗り込もうとする悪質なファンを威嚇しつつもハウンドドックは教師として天倉の相談に乗っていた。

 

 

「君の事は良く知っている。……環境の違いというヤツ…なんだろうな」

 

「違いですか……」

 

「君、A組の空気は慣れてない……と、言うよりかは苦手なんだろう?」

 

「………」

 

「図星…か。確かベストジーニストの所で補習を受けて来たそうじゃないか。そこで何か掴めたのか?」

 

「…ジーニストが言うには、俺は心の問題と言ってました。理想を押し通す……我が足りてないんだと思います」

 

 

 

「皆は我が強くて…自分に自信を持っている人がほとんどで……皆、高みにいる存在に見えて……俺、やっぱり怖いんです。皆は俺の事を失望、軽蔑してるかもしれない、そう頭の中に思い浮かんで来て……心の底から信じるって言うのが出来ないんです」

 

「……グルルル……ッ!」

 

「あ、いや。職場体験で皆の事をもっと信じようって思ってますよ!ただ、頭で分かっていても……」

 

「それは傲慢だ。寧ろ、何故自分が特別だと思っている?君のような生徒はゴロゴロと居る。今もなお、精神的にツライと言う三年生も存在する。逆にプロにだってそう言う人物が居るのも珍しくない」

 

 

ハウンドドッグの指先が天倉の胸元にトンと置かれる。

 

 

「認識を変えろ。君は異常でも何でもないんだとな」

 

「ハウンドドッグ………」

 

 

 いつからだったのだろうか?自分が皆と違うと思ってしまったのは。自分が強いから?自分の姿が人を大きく離れているから?

 

違う、最初からだ。

自分が周りと違うと認識していれば"嫌われても仕方ない"と思えるからだ。

 

 

(自分は異常じゃない……か)

 

 

 簡単そうだが一筋縄では行かなそうだ。周りと馴染むには自分から変わるのが大事だと言うのは分かる。

……しかし、本当にやれるのだろうかと言う不安が彼の中で渦巻く。

 

 

(……いいや、やるんだ)

 

 

 不安を押し退け彼は決意する。簡単じゃないか、周りと自分は同じだと思い込むなら逆立ちしながら飯を食べる事よりも容易い事だと自分に言い聞かせる。

 

 

「ハウンドドッグ、ありがとうござ────」

 

 

 感謝の言葉を言いかけた所で、天倉の口は途中で止まる事となった。

 

 

「? どうした」

 

「?」

 

「……あ、いや」

 

 

 一瞬、ハウンドドッグの頭の上に何か居たような気がしたが気の所為と思った天倉は目を擦り、もう一度彼の頭上に視線を向け───

 

 

ヘ○ヘ

  |∧    

 /

 

 

「なんか居る!?」

 

 

 ハウンドドッグの頭上にグ◯コめいた荒ぶる鷹のポーズを決める女の子が立っていた。

 

 

「え?は、ハウンドドッグ?」

 

「…未だに心配する気持ちは膨れ上がるか……」

 

 

ハウンドは天倉の肩に大きく毛深い手をポンと置く。

 

 

「周りと違う事を恐れるな。お前はこれから特別を目指せ。例えお前が異常と思い込んでも、俺はお前を拒む事は無い」

 

「ハウンドドッグ!(やばい、話が頭の中に入ってこない!?)」

 

 

 何なのだコレは、一体どうすれば良いのだ。ツッコミ待ちなのだろうか?と天倉の頭の中がグルグルと困惑の意で満ちる。

 

 

「あの、…その頭の上に居る緑髪の女の子は…娘さんでしょうか?」

 

「……何を言っている?」

 

「いや、そのままの意味なんですが……お、おーい、君?そんな所にいちゃ危ないから降りなさーい?」

 

「……そうか、お前、そこまで疲労して……いや、イレイザーヘッドから聴いていたが、幻覚が視える程にまで……」

 

 

 俯きながら額を抑えるハウンドドッグ。目の前の生徒に君は異常じゃないと施していたら、本当に異常だった自体に困惑しているのだろうか。グルルと喉を鳴らし天倉を不憫に思う。

 

 

(……あれ、どう言う事?本当に見えていないのか?……いや、そもそも()()()()()()()()()?)

 

 

 頭の上に乗っている女の子にジッと視線を送る天倉。ウンウンと唸っているハウンドドッグを尻目にそっと指を近づける。20cm、10cmと次第に距離は縮まっていき、天倉の指はツンと女の子の頰に吸い込まれるように触れた。

 

 

「ッ!?」

 

(やっぱり、幽霊とか、幻覚とかじゃない!本当に居る!)

 

 

 驚愕する女の子と天倉。しばらくして、ポツリと緑色の髪をした女の子は呟く。

 

 

「…視えて…いるの?」

 

「はい?」

 

「視えているのかと聞いているッッ!」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハウンドドッグ…俺、疲れてるみたいです……ちょっと、休んできます」

 

「……そうか」

 

 

 しばらくして天倉は今年で何度目か覚えていないであろう思考停止(考えるのをやめた)を行うのだった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「どうですか!そこの黒い翼を持ったお方!私渾身ベイビーの『マキシマムマイティver.0』!!最大級のパワフルボディでダリラガン!ダゴズバンとパワーアップできますよ!」

 

「ほほう!コレは凄いですね!記念に一枚!」

 

 

 相変わらず雄英高校は面白いと思う。良くも悪くもキャラが濃い人達ばかりだ。目の前にいるサポート科の人なんて、自分の発明を売り出す為に実験台にしようとしたり、私のような記者らしき人達に向け露骨にアピールしようとする魂胆が見え見えである。

 

 

「所で……この人が何処にいるか知りませんか?」

 

 

 そんな私がここに来た主な目的である人物の写真を目の前の人物に見せる。すると、目の前の…発目と言うヤバい人は「ああ!」と頷く。

 

 

「早速、彼に私のベイビーをアピールしてもらう為に実験台になって貰わなくては!」

 

「堂々と言いますか!?」

 

 

 この人、予想していた以上にヤバかった。将来、とんでもない発明を残しそうな気がしてならない私は自身の『絶対にインタビューリスト』に名前を残す。ちなみに堂々たる一位は目的の天倉孫治郎だ。

 

……ん、待てよ?今、早速と言いませんでしたか?

 

 

「もしかして……来てるんですか?今、此処に?」

 

「?居ますよ」

 

「居るんですか!」

 

 

 来た!メイン目的来た!これで勝つる!やはり、今の私はついている!なんか校門前でヤバい人に会ったが、そんな不幸も吹き飛ぶ出来事が私を待ち受けていたのね!

 

そう思いながら数々の発明品の陰から現れ─────

 

 

「………」

 

「………」

 

「それでは、天倉さん!私のベイビーに搭乗をお願いします!」

 

 

 なんか、ものすごくやさぐれた上に死んだ目をした天倉孫治郎だったのです。

 

 

「……あ、ああ!天倉さん奇遇ですね!お久しぶりです!」

 

「……あ、確か…射命丸さんですよね……どうも」

 

 

 テンション低ッッ!?いや、元々テンションの高い人物じゃない事は知ってたけど、そこまでテンションの低い人物でもないでしょアナタ!

 

 

「そ、それじゃあ再会の記念に一枚!」

 

「あ、すいません…そう言うのやめてもらえます?」

 

「え、あ、はい……」

 

 

……やりにくッッ!?

私の営業スマイルもペースも乱されるし、何この全てに絶望した感じの人は!?いや、確かに体育祭でもこんな感じの場面あったけど!

 

 

「それでは!マキシマムパワーエエェェッックスッ!!!でお願いします!」

 

「はい、分かりました」

 

 

 うわ……それに加えて発目さんブレやしねぇ。天倉の方も断れば良いのに……いや、根が優しく、押しに物凄く弱い所を付け込もうとしている私が言える立場じゃないのは分かっているけど…。

 

そんな事を考えている間、天倉は巨大なパワードスーツを身に纏う。

確かに、凄まじい威圧感を与えると言うか……うん、ハッキリ言って発目と言う人物が制作する発明品は凄い。

 

 

「……あー、凄いですね……あ、君。頭の上乗ったら危ないから」

 

 

 時折、天倉が何も無い筈の空間に話し掛けているのが気掛かりだ。

これが、雄英高校の実態だとすると面白そうな記事を書けそうな気がする……と思ったが、ピンク髪の女の子が凄い形相でこちらを睨んで来る未来が容易に想像出来た為、断念する事にした。

 

 

「いやぁ、ありがとうございました!」

 

 

 と、いつの間にか実験は終わっていたらしい。見るのを忘れていたのが若干悔しい気もするが、こちらとしては本命の相手に取材する事を優先する事にする為、仕事モードに切り替える。

 

 

「いやぁ!天倉さん実に素晴らしい実験でしたね!私見ていてワクワクしてしまいましたよ!」

 

「あ、そうですか?」

 

「それにしてもどうしたんですか?どうやら疲れているみたいですが……?疲れているなら…、私みたいなお姉さんと一緒にデーt「あーーーー、いや、違います」

 

 

 何が違うのだろうか?と言うか、私の色仕掛けに全く意を示さないのは女として結構ショックを受ける。すると、彼は死んだ目をしたまま口を開く。

 

 

「なんか俺、疲れてるんじゃなくて、"憑かれてる"みたいで。……さっきから緑色の髪をした女の子が『私、古明地こいし!』『お兄ちゃんってすっごーい!』とか耳元で囁いて来るんです……ヤバくないですか?」

 

 

ハッキリ言おう。ヤバいわソレ。

え、何?少しはネタとして成長したかと思ったらなんで思い切りオカルト系に走ってんのコイツ!?

 

 

「あ、ダメだから。その人のカメラ触っちゃダメだから。……え?無意識だから許せる?何言ってんの?」

 

 

 アンタが1番、何言ってんの!?ヤベェ……予想以上にヤバいわねコレ。こんなのじゃ有意義な取材になりそうにないし、さっさと撤退させてもらおうかしら?

そう思い、側に置いておいたカメラを手に取ろうとしたが気付く。

 

"目の前で私のカメラが宙に浮いていた事に"

 

 

「!?」

 

「ほら、サッサと返して───あ」

 

 

瞬間、浮いていたカメラは重力に沿って落下しコンクリートの床へと叩き付けられガシャンと言う音と共に粉砕したのだ。

 

……あ

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?私のカメラがァァァァァァアアああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」

 

「あーーー!?すみません!すみません!?ちょっと、君、何やって……って!逃げるなァ!!!」

 

 

 そう叫びながら彼は人混みの中を掻き分け姿を消してしまった。こんなの…残酷過ぎる……ッ!私の血と汗と涙の結晶とも言っていいカメラが……ッッ!

 

 

「いやぁ、見事に粉砕されていますね……、そんなアナタにオススメの発明品がこちら!」

 

「いや、こんな時に売り込もうとするなし」

 

 

うううううう、最悪……、変な女の子には絡まれるし、天倉はテンション低いし、カメラは壊れるし……て言うか、何が憑かれてるよ!古明地こいしとか無意識とか意味分からないっての!

 

 

……ん?……無意識?

 

 

頭の中で何かが引っかかる。

何かそんな事をニュースとか、新聞とかで見た気がする……。

 

 

「んっ、んんんんんんんんんんんんん?いつ?何処で?んんんんんんんんんん?」

 

「……私の妹について何か?」

 

「妹ですか?あー、確か姉妹とか聴いたような……ん?」

 

 

振り返ると、そこには校門前で会ったピンク髪をした女の子が……。

 

 

「あやややややややややややややややややッッ!?妖怪ヤンデレ天倉置いてけェ!?」

 

「なんですかその名前は!?……後半は悪い気がしないけど」

 

 

 げぇっ、私の見立てでは心を読む事が出来る"個性"を持っているに違いない。

……って、こんな事考えても全部見抜かれている…か。

 

 

「正解です。……で、私の妹の名前を何故アナタが?」

 

「そんなの……アナタの"個性"で見れば早いでしょう?」

 

「………! 天倉さんが?」

 

「そ。どうしたの?と言うかアナタの妹が関与してるなら、サッサとなんとかしてくれない?今の彼じゃ取材しようにも全く良い記事が書けないから」

 

「……失礼します!」

 

 

そう言うと彼女は駆け出して行ってしまった。

……姉妹に無意識か……、まぁ、今の私には関係ありませんし放っておきましょうかね。

 

 

 

……無意識、姉妹…事件…あれ?なんかどんどん思い出して来たような……!?え?このタイミングで!?ちょっと、私はあくまで記者であって巻き込まれて危機に瀕するのだけは、

……あ、ああーーーーーー!!!完璧に"思い出してしまった"!?

 

 

 

「そうよ……!ちょっと、コレ不味くない!?」

 

 

数年前、事件が起こった。

とある姉妹の両親についてだ。その両親はどうやら姉妹に対して虐待を行なっていたらしく、特に姉に対して酷く当たっていたらしい。

ある日、その両親は突如として互いを殺し合うように死亡したと言う不可解な事件だったのだ。

 

しかもその日の翌日、無個性だった筈の少女は"個性"を発現させたらしい。しかも例を見ない"個性"だった為、馬鹿な誰かが面白半分にSNSに投稿していたのを覚えている。

 

確か、"個性"は【無意識】。

 

そうだった、思い出した。彼女が姉、そして古明地こいし=妹、と推測するなら、古明地こいしと言う人物は

 

 

その事件で亡くなった両親を殺害してしまった"容疑者として有力視されていた者"だ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「あーあ、捕まっちゃった」

 

 

 この子は一体何なのだろうか。バナナ師匠とか、変な類の輩だと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

 

「お兄ちゃんとの鬼ごっこは楽しかったけどもう、終わりかぁ」

 

「お兄ちゃんって……俺?」

 

「そうだよ〜。酷いなぁ、"唯一無二の血の繋がった妹の事忘れるなんて"!」

 

「……あー!そう言えば居たな!ごめんごめん!それじゃあ出店を見て回ろうか!」

 

「わーい!ありがとうお兄ちゃん!」

 

「そうか、それは良かっ────ッ!?」

 

 

……え?待て、え?なんで、俺、この子を自分の妹だって、認識していたんだ!?

 

 

「……あーあ、もう切れちゃったの?お兄ちゃん、少しは空気読んでよね〜」

 

 

 俺は一歩、その場から後退する。……おかしい。おかしいぞコレ。

なんで、この娘からは何も感じない?

この子からは悪意とか善意とかそう言うヤツが全く感じ取れないッ!?

 

 

「……あー、大丈夫だよ。ただ"無意識にそう思い込ませた"だけだよ」

 

「君は……⁉︎」

 

「はじめまして、私は古明地こいし。改めて助けてくれてありがとねお兄ちゃん」

 

 

古明地こいし、自分の妄想とかそう言うのでは無く、彼女はやはり……【古明地さとり】さんの妹…!

 

 

「……さとりさんは…一緒じゃ無いの?」

 

「ううん、お姉ちゃんったら私を置いて行くんだから酷いよねー。まぁ、仕方ないのかもしれないけど」

 

「……君は、何がしたいんだ?」

 

「別にー?私はただお兄ちゃんと一緒に回りたいだけだよ……あ!そうそう!後ね!」

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんを私の家族にする為!」

 

「……家族に?」

 

 

 どう言う事だってばよ……、いや、全く意味が分からんぞ!意味不明!そんな事を思っている俺を気に留めず彼女は口を開く。

 

 

「私の父さんと母さんはねー。どうしようもない人達だったんだよ?お姉ちゃんや私の事を毎日虐めてさ?もう嫌になっちゃうの」

 

「どいつもこいつも、お姉ちゃんの事をよく思わない人達ばかり。要らないんだよね、お姉ちゃんの事を好きにならない人は……」

 

「だけどね!お兄ちゃんは違うの!お姉ちゃんはお兄ちゃんの事好きだし!私はアナタと同じだし!」

 

 

……何を言っているんだこの子は……?かなり重い事を言ってるのは分かるけど……つまり、何をしたいんだ?

と言うか、同じってどう言う……。

 

 

 

「……分からない?……うーんとね、私はお兄ちゃんの中のお兄ちゃんに惹かれてたんだよ」

 

「俺の中の……俺?」

 

「そう!私、知ってるよ。たいいくさい…だっけ?アレで見たの!本当のお兄ちゃんの姿!圧倒的で、素敵なお兄ちゃんの姿!」

 

 

ニコリと彼女は不気味な笑みを見せる。

 

 

「す、素敵って……いや、アレは「アレがお兄ちゃんの本来の姿なんだよ?」……え?」

 

「深層心理とか防衛反応とか、意識で簡単には変えられない部分。それが無意識。あの時のアナタは無意識が浮き出た本当の姿」

 

 

 

 

 

「何者も傷つけて、全部壊して壊しても満足する事の無い絶対的な暴力の塊。ソレが兄ちゃんの本当の姿なんだよ〜」

 

「そんな訳……「違うと言い切れる?」ッ!」

 

 

目の前にいた少女はいつの間にか距離を縮めていた。

すると、彼女の瞳が鏡のように俺の中の俺を映し出していた。

 

 

自覚してよね、アナタの中のアナタはドロドロしたものでいーっぱいなんだもん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意識外の存在《もう1人の自分》に嘘はつけない。お兄ちゃん自身が自分を抑える必要は無いの。わざわざ知らない他人の為にヒーローを演じる事をしなくていいんだよ」

 

「でも、私はお兄ちゃんの事を軽蔑なんてしないよ?お兄ちゃんは私と同じ同類(異常)なんだから嬉しいの!」

 

「だからね……私達はアナタを歓迎するよ」

 

 

意識が堕ちる。

 

総てが呑み込まれるように

 

全てが消え去るように

 

委ねたい、自分の居場所が欲しい

 

彼女は……俺の味方だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『鋼の意思』

 

『自分の意思を貫く事』

 

『どんな逆境にも自身の決めた通りの理想を押し通す事』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

俺は、彼女を抱きしめていた。

困惑している彼女に俺はポツリと呟いた。

 

 

「ありがとう」

 

 

そう一言言うと、俺は彼女と向き合う。

 

 

「どんなに苦しくたって、どんなに苦難が待ち受けても、それは皆だって同じなんだ」

 

「それでも、俺はヒーローだから。俺は全部に向き合うよ。敵にも、俺自身(俺の中の俺)にも」

 

「皆が心の底から笑えるように、俺は皆の笑顔を守れる希望の支え(ヒーロー)になる」

 

 

俺は指を使い彼女の頰を無理矢理、押し上げた。

 

 

「むぐっ」

 

「俺が最後の希望だ」

 

 

 

 

 

 

 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

 

 

 

 

 

 

 

(お姉ちゃんの気持ち、分かったかも。この人って、底抜けの馬鹿なんだ)

 

(無理だよ?この世界はそんな綺麗事で通れるような所じゃないって私は知っている)

 

 

 彼は自分と同じだと思っていた。全てを悟り、救われるのを諦めた側なのだと、感じていた。自分の姉の為に総てを諦めた彼女は困惑の意を示す。

 

 

(だから、全部無意識で行動すれば痛くも何ともない。それなのに、わざわざ叶いっこない夢を叶えようとするの?)

 

 

 訳が分からない。彼は何の為に自分に笑って欲しいのか、希望だとほざくのか。

……だからなのだろうか。

訳も分からないから?それとも自分自身が壊れているから?

 

いや違う。彼が馬鹿なのだ。

 

 

(馬鹿だから、そんな事を言えるんだ。……そんな馬鹿な事を正直に言われちゃうと、私、私────)

 

 

 

 

 

「ぷっ、……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!?馬鹿なのお兄ちゃん!ブフッ!そんなの今時の子供だって言わないよ!アハハハハハハハハハあー、お腹痛い!」

 

 

───心の底から笑っちゃうよ!

 

 

「笑われた!?」

 

 

 

 いつ以来だろうか?心の奥底から笑ったのは。常に姉の為に行動して来た自分自身にも訳が分からない込み上げる笑いの感情。

 

怖い。

 

怖い筈なのに……不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステージの豚共ーーーー!ラストスパート行くわよッ!」

 

「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」」」」」」」」」

 

「お兄ちゃん!ホラ!見て!エリちゃんV(ファイブ)だよ!」

 

「あれ?なんかロボットが混ざってない?なんで?」

 

 

熱狂する観客席に混ざる1人の男子生徒と女子。

……そんな彼等を見守る二つの視線が遠くに在った。

 

 

「………」

 

「どうやら、心配して損みたいでしたね。あーあ、もっと面白いネタとしての映えを期待していたんですがねぇ」

 

 

 アイドルの声量がギリギリ届くか、届かないかの距離を置いた古明地さとりと射命丸の2人。全く返答が来ない彼女のリアクションがつまらないと感じたのか、煽るように語りかける。

 

 

「……いいんですか?会いに行かなくて?愛しの英雄(ヒーロー)様ですよ?」

 

「………私はあの事件からこいしにどう接すれば分からなかった。……天倉さんなら何とかしてくれると逃げていた。水晶のような輝きは心の底から笑わせてくれる。天倉さんは……私の憧れでした」

 

「おやぁ?アナタの大好きな人が妹さんに取られてますよ?姉妹との愛憎劇…うん!良いですねェ!」

 

「……ハァ、そう言うのじゃ無いですよ…。あとしばらく色恋沙汰には手を引く事にします」

 

「……おや、いいんですか?恋との出会いは一期一会。ここで逃したら後から後悔するんじゃ?」

 

「……その前に、やる事があります」

 

 

笑みを浮かべ、彼女は呟く。

 

 

「一度、こいしと……しっかり向き合ってみようと思います。恋は後からにしますよ」

 

「………」

 

「……ありがとう私のヒーロー。アナタは妹を救ってくれた」

 

「……あーあ、メディアはそう言うの求めてないってのに」

 

 

不貞腐れた記者はパシャリとカメラのレンズをコンサート会場の一部を捉える。

 

 

「ヒーロー…ね。まぁ、私は記事にするぐらいしかやらない訳だけど……期待してるから精々頑張ってよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっさ!?声でっかいし、なんか掠れてる所あるし!……でも、なんか楽しい気がする!」

 

「凄いよお兄ちゃん!こんなに楽しいなんて知らなかった!」

 

 

 

カメラのレンズに映る少女の顔。

そこには満面の笑みで溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しかった?皆」

 

「はーい!」

 

「ハァ…ハァ…、あ、あれ?私、何やってたんだっけ?…何故かネズミを追いかけていたような……」

 

「カシラァ!何処にいるんですかカシラァ!」

 

「あー、結局カシラとは会えなかったなぁ……まっ、来年に会えるだろうから良いか!」

 

「そうだな、よっしゃあ!風都三羽烏!目標は雄英高校ヒーロー科合格だ!」

 

「「「オオォッ!」」」

 

「そう言えばさ、こいしちゃんっていつの間に居たの?お家で留守番してたんじゃ?」

 

「何言ってるの?"私も一緒に来ていたよ"」

 

「うん……?そう、それなら仕方がないか……」

 

 

 "個性"を使った事に気付いたさとりはジッとこいしに視線を向ける。すると、苦虫を噛み潰したような表情をしながら"個性"を解除する。

 

 

「…ごめんなさい。本当は黙って付いて来ました……」

 

「……うん、謝れたね。偉い偉い」

 

「あっ……うん」

 

 

 照れ隠しなのか、帽子を深く被りバツが悪そうに俯いてしまう。その様子をさとりは嬉しそうに眺める。

すると、こいしは「あ」と何かを思い出したように呟く。

 

 

「私、お姉ちゃんの好きな人をNTRしたよー」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

無意識だから仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。Aクラスの全員は天倉の元に詰め寄っていた。

 

 

「天倉君。僕達が悪かったよ……」

 

「本当にごめんッッ!」

 

「俺達は…共に切磋琢磨し合う仲間だと言うのに……ッ!すまん!」

 

「……いや、良いんだよ皆」

 

「だからさ……お願いだからロリコンに目覚めたって言うのは嘘って言ってくれよぉぉおおおおおお!」

 

「嘘だよな!第二の峰田なんかにならないよな!」

 

「俺達、信じているぜ」

 

「でも、何人かが緑髪の女の子を連れ回していたって言う証言が……」

 

なんでさ!!!

 

 

 

 いつの間にかロリコンとして噂が広まっていた事実に天倉はただその場で叫ぶ事しか出来なかった。

 

 

 

 

「ピュウ!」

 

「………」

 

 

後日、峰田から同類を見るような視線と仕草をされた天倉は大変不服だったと言う。

 






【古明地さとり】

 負けヒロイン→ヤンデレ系ヒロイン→妹と向き合う系ヒロインと強化されていったヒロイン。今回、天倉の事は一旦諦めると言ったが、妹としっかり仲良くなった後はどうするのだろうか?


【古明地こいし】

上記の妹。
ヤンデレ化とか風都での事件は全部、古明地こいしって奴の仕業なんだ!なんだって!それは本当かい?と言うのは冗談。天倉に精神的な揺さぶりを掛け、家族の一員と化すように唆した。

しかし天倉の攻守交替によりコロッと堕ちた。
意外とチョロい。


【エリザベート】

令嬢色物系シンデレラ。バラエティと代役などから勝ち取ったスターの座で瞬く間で人気に。よくパンチラするのはご愛嬌。
ハロウィンエリザ、ブレイブエリザ、メカエリチャン、メカエリチャン2号機と言うように原因不明の増殖を果たしているが本人は気にしてない模様。

色物系って良いよね……!

原作『Fateシリーズ』より


【射命丸文】

情報収集担当。
ヒーロー漫画でありがちな情報屋ポジションのマスコミ自称記者。
天倉=ネタの宝庫として認識しているが強ち間違ってない。

表面上、人とは敬語を使い丁寧に接しているが本来はドライな性格であり自身に危険が及ぶ場合は素直に引く。天倉に喝を入れた事もあるが、あくまでネタとして潰れないようする為である。

実は同級生ではなく天倉達よりも年上の17歳(高校2年生)。







【悲報】古明地さとりヒロイン枠から外れる。

……と、言う冗談はさておき今回、古明地さとりは天倉君と同じ境遇だった人物として描写させてもらいました。
天倉君と同じ立場であり、彼に助けて貰った。

彼だけは私に味方してくれる本当の理解者!
好き!抱いて!そして一生私だけを見て!私の事を見捨てないで!
他はどうでも良いの!
と言う感じに作者としてはヒロインでは無く、天倉に依存してしまった悲しき人として表現しました。


その妹である古明地こいしの場合、お姉ちゃんの為ならなんでもやる。え?自分が不幸になる?それがどうかしました?姉の為なら自分は死んでも良いの!私はどうなっても姉の為に何でも行動する!そう!何でも!

ん?今、何でもって言った?


と言う感じに姉妹揃って精神的にヤバイ事になっているキャラに変貌を遂げています。虐待や"個性"により肉親の命を奪ってしまうと言うように作者的にヒロアカの世界は

『誰でもヒーローになれるのなら、誰でも敵になれる可能性が大いにあり得る』

と言った感じになっております。
そんな姉妹ですが姉の方は吹っ切れ、妹と向き合うように。妹は本当の意味での"楽しむ"事を知りました。


この姉妹の人生に祝福があらん事を。



ちなみにこいしから天倉への感情は同族又はお兄ちゃん的な感情なので恋愛はありません。

姉妹丼(古明地Wヒロイン)を期待したアナタ。悔しいでしょうねぇ…!
フッハハハハハハハh(無言の腹パン




ビデオパスで仮面ライダー龍騎を見てきました。
ネタバレは控えますが最後まで龍騎らしいストーリーでした。


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