〜〜前回の天倉君の体内〜〜
ゾンビウイルス「ぐへへ、この身体を乗っ取ってやるぅ!」
天倉細胞A「抗原発見!死ねぇ雑菌がァ!!」
天倉細胞B〜Z『死ねぇ!雑菌共ォ!』
ゾンビウイルス×全員「ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
天倉細胞C「この死骸どうするよ」
天倉細胞F「食ってみるか」
天倉細胞M「あ、以外とうめぇ」
〜〜数分後〜〜
『バイオハザード状態!』
((((;゚Д゚)))))))
↑
通りすがりの赤血球
ゾンビウイルスには勝てなかったよ……
突如として変貌を遂げた天倉孫治郎は自らを『シン・天倉孫治郎』と名乗り、その場の全員に向け謎のポーズを見せる。
「し、『新』天倉孫治郎?」
「シン・天倉孫治郎だァ!」
「『真』天倉孫治郎?」
「シン・天倉孫治郎だ!二度と間違えるなクソがァ!!」
苛立ちを見せた天倉は足元で地に伏した轟を蹴りつけ、緑谷達の方向へ吹き飛ばす。
「がぁっ!?」
「うわぁっ!轟君!」
「……もしかして!ゾンビウイルスの所為⁉︎」
「フゥン!ゾンビウイルスなどぉ!所詮私の栄養素に過ぎない……ゾンビウイルスは寧ろ、私が取り込んでやったのさァ!」
麗日は先程から様子のおかしい天倉がウイルスによるものだと推測する。いや、推測と言うよりは心当たりがソレしか無い方が正確だ。
いつもどおり、不思議なことが起こった案件なのだろう。
いつもと違う様子の天倉はそれについて丁寧に説明し始める。
「ヴェーハハハハハハハハハッ!!もはや今の私は天倉孫治郎ではなァい!高濃度のゾンビウイルスによって脳が活性化し、人格が変貌した真なる天倉孫治郎なのだからなァ!!」
「いや、それ脳までウイルスで犯されてんじゃん!?」
「どう見てもヤバいじゃんかやだー!」
「感謝するぞ耳郎響香ァ……!」
「……えっ、私?」
突如として話を振られた耳郎は困惑の意を見せる。
「貴様に対する怒りによって、今まで抑えられていた
「自分で傲慢って言う⁉︎」
「神である私は傲慢するだけの価値があると言う事だァ…!」
ヤバい。何がヤバいかと言うと天倉がである。今までまともだった筈の彼が明確に敵意を示し、支離滅裂な発言を行う。
「君達は最高のモルモットだァ! 君達の人生はすべて、私の、この手の上でっ…転がされているんだよォ! だぁ―――ははははははっはーはははは! 」
ただ分かるのは───こちらを
「ブゥン!!」
いつの間にか手に納めていた
「変ェン身ィィィン……!」
『evol─u──━━si、Σ』
一瞬ノイズがかかったと思うと、聞き慣れない音声と共に紫の炎がブワリと身体を覆った。あまりの熱量にその場の全員は思わず腕を前にする。
……そして、熱波が収まった頃には天倉の姿は入学した頃の姿を鈍い銀色で塗りつぶしたような異形の怪物へと変貌を遂げていたのだ。
「ヴァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッーーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
両腕を広げながら一歩ずつ向かって来る天倉。それに対しほぼ全員が戦闘体勢を取る中、1人が駆け出し巨大な拳を振り抜いた。
大砲が撃ち込まれたような音を響かせながら拳藤の個性によって巨大化した拳が天倉を洞窟の外へ大きく吹き飛ばした。
「───ハァ……ッ!面白い女だァ…臆せず神である私に手を出すかァ……」
「お前、ホントに天倉か?て言うか結構本気で殴っけど……無傷かよ」
「フン!年増女ごときのパンチに私がやられるかと思ったk───
瞬間、再び拳藤の巨拳が天倉を襲う。
「拳藤さん……って、アレ?天倉君は?」
「ぶっ飛ばした」
「吹っ飛ば……え⁉︎」
笑顔のまま青筋を立てる拳藤に緑谷は少し恐怖を覚える。その場にいなかった緑谷は天倉が何を言ったか少し気になって仕方ない気持ちになる。
そこに轟が声を掛けてくる。
「……いや、まだみてぇだ」
「───言った筈だァ…!年増女ごときのパンチに私がやられるかと思うなァ!!!」
「絶許」
「拳藤さん落ち着いて!」
「どいて麗日!アイツ殴れない!」
「て言うか女子にそんな事言うなんて最低ー!」
「そーだ!そーだ!この女の敵!腐った死体!人で無し!」
「アァン?聞こえんなァ………!ハエ共の羽音が聞こえるぞ?」
女性陣の罵倒に天倉は煽るように応える。
「なぁ、緑谷って言ったよな。お前に聞きたい事がある」
「えっ、あっ、ハイ!?て、天龍…さん」
「天倉ってよ、高校入ってから……性格ってどんな感じだったか分かるか?」
「それって……」
天倉の性格の変化は異常だ。今まで体育祭やUSJで暴走する形で様子が変化した事は多々あったが、今回はそれ以上だ。
現在の彼はまるで別の人間が中に入っているような感じだ。
「俺ん時が小学生の頃な、アイツはメンタルは弱えー方だった。信じらんねー程に傲慢さとか、そういうもんは見当たんなかった。中学ん時がどうなってたか分かんないないけどな」
「成る程、分からん」
「少し黙ってろブドウ頭。俺の推測だけどな、ウイルスで脳の一部がやられちまった所為で今まで抑えてきたもんが人格を成して今、現れたんじゃねーかと俺は思うんだ」
「多重人格……!」
小さい頃イジメに遭ってたと言う天倉だが恐らく、それによって人格が分裂してしまったのだろう。専門的な事は分からないが脳の一部は感情の抑制を司るモノが存在し、ウイルスによって機能しなくなってしまったのではないかと考える。
「取り敢えず、凍っておけ!」
「そんな氷で私を止められると思うかァ!!」
少なくとも緑谷に分かるのは今の彼は危険だと言う事だ。
妖しく不気味に輝く青紫と赤紫の瞳をギラつかせ氷に覆われた天倉は氷壁をバキバキと破壊しながら進む。
「やっぱりウイルスでパワーアップしてるんだ!」
「チッ……なら、炎を───!?」
「おい轟どうした!?」
炎を使おうとした轟はその場で膝をつく。そんな様子のおかしい彼の元に上鳴が駆けつける。
「クソ、なんだ……?目眩が……!」
「何を言って───う?」
「な……んだ?コレ……ッ」
「頭クラクラする……」
「おい!何言って────」
すると轟だけでなく、何人かが急に体調不良を訴え始めたのだ。どう見ても様子がおかしい。 少なくとも自然的なモノでは無く、人為的に引き起こされたモノだと見て分かる。
「あ……やばい。これ、本格的にヤバい」
「耐えて麗日!?」
「ここで出しちゃったらヒロインとして駄目だよ!」
「良い眺めだなァ……?」
「クソッ、コレは……幻覚作用か!」
妖しく光る瞳を見ていると自然と頭が回らなくなり、視界がぼやける。身をもってソレを知った轟は相手の眼を見る事もままならない事に内心で舌打ちをする。
……が直後、轟は目を見開く。
いつの間にか天倉の背後に緑谷が拳を振りかぶり迫っていたのだ。
「緑谷いつの間に!?」
「(10%……いや!20%!レンジで卵が爆発しないよう───!)SMASH!」
「ぐ─────!?」
緑谷の奇襲は見事、成功を収めた。振り抜いた拳は顔面を捉え殴られた本人も苦痛の声を上げた。緑谷自身、腕への負荷と痛みに苦痛の表情を見せるがグッと堪える。
「やっ──『ボギン!!』……た?」
確かに緑谷の放った拳は確かに天倉の顔面を捉えた。
だが、その直後の事だ。天倉の首があらぬ方向へと折れ曲ったのだ。
そのまま後方へ転がり、止まった頃には首がブランと垂れ下がっていた。
「あ、あ、あああ!天倉ァ!?」
「緑谷!おま!お、おまお前ェ!?」
「い!いやいやいや僕だって!あぁなるとは思わなかったよ!?て言うか!早く!早くリカバリーガールに診てもらわないと!?」
混乱に陥るクラスメイト達。クソを下水で煮込んだ性格の爆豪ならまだしも良識溢れる緑谷が大惨事を引き起こす事態はその場の全員にショックを与えるのに十分すぎる事だった。
……が、忘れてはならない。天倉は例え燃やされ、腹部に風穴が開こうとも余裕で復活するギャグ補正入ってんじゃないのかコイツ。と言われても仕方ないと思えるほどの不死身性を持ち、ゾンビとしての特性をも兼ね備えたシン・天倉孫治郎だと言う事を。
「その必要は無ァ……い……」
その一言と共に、首があらぬ方向へ曲がった天倉はその場から起き上がる。そのまま自分の首を抑え『ボギン』と耳を押さえたくなるような不快な音を響かせながら天倉は首を元の位置に戻した。
「ふぅん、今の私は……不滅だぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああッッ!!!」
触手を緑谷に向けて伸ばす。その場から離脱しようと試みるが脚を掴まれ引き寄せられてしまう。そこへ天倉の背後に麗日が駆けて来る。緑谷を助けようと手を伸ばすがそれに気付かない天倉では無かった。
「馬鹿が!背後から来るなど予想できるわ!」
「知ってるよ!」
裏拳を放つが、麗日はそれに対し脚を軸に回転するように拳をいなし背後へ回るとそのまま腕を掴む。
(
麗日は腕を押さえたまま地面へ叩きつけ、天倉を地に伏せ抑える事に成功する。
「───ッ!神である私の顔に……泥をつけるとはァァァァァアアアアア!「無駄だよ!」ッ!?」
「この技は教えてもらった中で拘束する力が強い奴!下手に動くと折れるよ!」
そう言うと麗日は一段と腕に力を込め、警告の意を示す。例え相手がゾンビだろうとも人は関節の可動域が存在し、痛みを知る者ならば可動域以上に動かす事は不可能となっている。
「……折れてどうなる?」
「折れてって!そりゃ──『グギリ』───ッ!!」
手から伝わる肉が潰れると同時に堅いものがへし折れる音。その様子に麗日は一瞬
「折れるとどうなると聴いたのだァ…私はァ……!」
ギラリと妖しく光る赤・青紫の眼に麗日は吐気を覚え、思わずブチまけそうになる。
(痛覚が───無いん!?)
「まずはお前からだァァァァアアアアアアアアッ!!!」
無理矢理身体を動かす天倉のパワーに麗日は対応しきれずマウントを取られてしまう。そのまま天倉の鋸の如く並ぶ鋭い歯を麗日に突き立てようと顎を大きく開ける。
「やめやがれッ!!!」
「天龍さッ!?」
そこに天龍が割って入り刀で口元を抑えつつ、麗日に逃げるよう伝える。しかし天倉の顎の力は予想以上のものだったのか徐々に天龍は押されていき、地面に押し倒される形となる。
「……ッ!そんなに腹減ってんなら!コレでも食ってやがれ!!」
天龍は背中のバックパックから細長い形状の物体を無理矢理、天倉の口の中にソレ押し込み『つっかえ棒』の要領で顎が閉じなくなる。
「全員!離れとけぇ!!!」
砲台の照準を天倉の顔面に合わせた瞬間、何をするか察知したのか近くにいた者達は天龍の言う通りに従い、その場から急いで離れる。
「爆ぜやがれ!!!」
ズドンと言う音と共に天倉の首から上が爆発した。焦げ付く匂いと共に顔面のありとあらゆる穴から黒煙を撒き散らす。
しかし焼けた皮膚は瞬く間に治癒し始め、元の鈍い銀の体色となる。
「はぁ……、無駄だと言うのがまだ分からないかァ?」
「コイツ……!」
「配下共ォ!奴等を捕らえろ!!!!!!
驚異の治癒能力に冷汗を流していると、彼の呼び掛けに応えるようにゾンビ達がワラワラと群がって来る。
「皆⁉︎どうして天倉君の言う事を!」
「あ〜〜〜〜〜〜」
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「……………」
ゾンビとなった見覚えのあるクラスメイト達が蒼白な面をこちらに向け囲み始める。
「は、葉隠?本当に感染してるのかな?実は感染したフリをしてるワケじゃないよね!」
「口田君……!ゾンビになっても無口だ!」
「うわっ!?ヤオモモの身体中から大量のマトリョーシカが!?」
彼等の変貌ぶりに戸惑いが生じ、混乱が巻き起こる。その中で上鳴が突如として喉を抑えながらその場に蹲る。
「……っ⁉︎ごほッ!うぐぇ⁉︎喉に何か入っ──ゴボッ!やばっ!息が────」
「うっ!これって───!?(小森の"個性"か!肺の中に胞子が……ッ!)」
拳藤を始め、次々と体調の不良を訴え始める者が続出。ゾンビであるクラスメイト達の"個性"の影響なのだろう。すると天龍がボソリと呟く。
「………アイツ、どうやってゾンビ達を操ってるか分かるか?」
「……え?」
「静かに。……アイツは額の角から俺のレーダーみたいに電波が飛んでる」
口元に指を立てながら小声で話し始める。天倉の掛け声と共にゾンビ達が群がる様子から、彼がゾンビを統率していると考えられる。
「つまり?」
「角を斬り落とせば、ひとまずゾンビ達が襲って来る事は無いだろうな」
「でも、どうやってやるん?」
麗日の言葉に天龍はしばらく考え込む素ぶりを見せる。
「……誰かがアイツの気を逸らすんだ。その間に俺の刀で角をぶった斬る」
「隙を作るって事?でも誰がそんな事を……」
相手はゾンビウイルスをキメた頭がイッてる状態の天倉だ。そんな彼にどうコミュニケーションを取れば良いのだろうか?そんな疑問に頭を悩ませていると、彼が立ち上がった。
「み、峰田君…⁉︎」
なんと、あの峰田実が隙を作る役割に志願したのだ。あの、思考の8割が煩悩で出来ていると言っても過言ではない峰田がだ。
「まぁ、見ときな……」
「峰田君…(大丈夫かなぁ?)」
「峰田……(アイツ失敗しそう)」
「峰田……(さて、アイツが失敗した時に作戦立てておかなきゃな……)」
格好付ける峰田だが、過半数以上の者が失敗するんだろうなぁと予想しており期待はほぼ皆無となっている為、格好付けている彼の姿はゾンビ映画の序盤で調子に乗っている
「おい!天倉!」
「シン・天倉孫治郎だァ!!!」
「し、シン・天倉孫治郎様ァ!どうか我々に神である貴方の慈悲を与えてはくれないでしょうか!」
「……ほう、慈悲とな?」
「は、はい!もう俺達では神である貴方に太刀打ちできません!なのでこれ以上争う事は無いと思います!」
「ふむ、確かに言われてみればそうだろうな……」
「はい!(ククク、馬鹿め天倉。お前が隙を見せた瞬間、木の棒の先にオイラのモギモギをくっつけた峰田実専用の必殺武器をお前の顔面に喰らわせてやる……!)」
峰田の考えとしてはとにかく褒めて褒めまくって煽てる事により隙を見せた瞬間、顔面にモギモギをぶつけると言う作戦である。ハッキリ言ってこの作戦、天倉に対して有効だ。
モギモギを顔面にぶつけると言うのは相手を窒息させる事になる。不死身の再生能力を持つ天倉に対し物理的な攻撃はほぼ無意味と成すが呼吸機能を停止させる峰田の考えは素晴らしいものと言えるだろう。
「成る程な……良いだろう、神である私は許してやろうではないか「隙ありッ!窒息して死ねぇ!」
峰田専用必殺武器(自称)を天倉の顔面に目掛けて突き出す……が、寸前の所でソレは受け止められてしまう。
……彼の敗因。それは、隙があるのにわざわざ『隙ありッ!』と叫ぶ事にあった。
なんでわざわざ隙がある事を伝えてしまうのか……コレガワカラナイ。
「ただし、このゾンビ達は許すかな?」
その一言にチラリと天倉の背後にいる無数のゾンビ達に視線を移す。この後、自分がどうなるのかはすぐに予想がついた。
……せめて自分に出来る事と言えば、ゾンビ化した後でも女の胸に飛び込む事ぐらいだ。そう考える峰田だったが、天倉からとある提案を持ち掛けられる。
「さて……峰田実。お前はどうする?神である私に忠誠を誓うか?それともこの場でゾンビの仲間入りを果たすか?ちなみにィ……今ならゾンビ共の
刹那、峰田の脳内に電流が走る───ッ!!
「……いや、ちょっと?峰田君⁉︎」
「嘘だよな!オイ!嘘だよな!」
「いくらなんでもお前はゾンビに対して劣情を抱かないよな⁉︎」
皆の声に対し峰田は俯いたままだ。だが、それも無意味な事だ。変態の先進国である日本の人々の性癖はもはや人外の向こう側へ行っている。
ましてや2018年秋においてゾンビを主題としたアイドルのアニメなんかも放送されてしまう始末。怖いわー、日本人怖いわー。
「……ハッハッハッ!!ならば 答えは1つ!」
モギモギ付き木の棒をへし折り、峰田は狂ったように笑う。
「あなたにィ……忠誠を誓おうぅぅぅううう!!」
「フッハッハッハッハァ!!今日から貴様の名前はポチだァ……!」
「裏切ったなァ峰田!」
「最低ーーー!!!」
「うるせーーーー!俺はまだゾンビになりたくないんだよォォ!!!」
(切実だ!?)
峰田の悲痛なシャウトに驚いていると、そのまま全員はゾンビ達に組み付かれ拘束されてしまう。噛み付き仲間を増やす事を優先する筈のゾンビ達がこんな事をすると言う事は、天龍の言う通り天倉が操っているのは本当らしい。
「さて……膝まづいて命ごいをしろォ……!女ァ、今なら私のモノにしてやってもいいぞ?」
すると、天倉は拳藤の目の前に立ち見下ろしながら上記の発言をする。どうやら最初に攻撃をした彼女の度胸を気に入ったのか、小馬鹿にしたような態度を見せる。
「──ッ誰がアンタ何かの女になってやるもんか!一生御免だよ!」
「そうか……ならばゾンビの一員になるがいィ!!!」
そう言うと指先に力を込め始める。恐らく爪にウイルスを溜め込んでいるのだろう。確実にゾンビ化させるように徹底している事が分かる。
ウイルスを溜め終わったのか、そのまま腕を振りかぶる天倉であったが………。
「……天倉様!」
「シン・天倉孫治r「今だ!!!」
瞬間、天倉の顔面に紫色の球体がへばり付いた。峰田の声に反応し振り向いた際にタイミング良く峰田が自身のモギモギを顔面に投げつけたのだ。
「峰田…お前……!?」
「俺さ……やっぱり触るんなら血色の良い奴が良いッッ!!」
「峰田ァ!やっぱりお前は峰田だなコンチクショウ!」
それは嬉しいのか嬉しくないのかよく分からないが、そのまま上鳴と峰田は謎のサムズアップを行う。
直後、天龍は力の緩んだゾンビ達の拘束から抜け出し刀を抜く。
「ナイスだ!ブドウ頭!」
「ぐぅ!神の眼前を遮るとはァ!」
「往生しろやァ!!!」
触手を前方でクロスさせ防御の体勢に入る。
が、一閃。天龍の持つ刀は触手ごと彼の額にある角を斬り落とした。
すると、ゾンビ達の動きに統制が無くなりそれぞれバラバラに動き、中には明後日の方向へ足を進めるゾンビも居た。
「やった!ゾンビ達が!」
「……のれ」
「おおおおおおおおおおおおのおおおおおおおおおおれえええええええええええええええええええッッッ!!!」
ブチブチと峰田の個性である球体を顔面の皮ごと剝ぐ天倉。血飛沫が舞う。顔面を手で押さえるが指の間から大量の血がボタボタと流れていく。
「ひぇぇぇええええええええ!!!スプラッタァァァァァア!!!」
「ハァァァァァ……ッ!お前達ィ!もうこれ以上お遊びはお終いだァ!!!」
顔を元の状態へ再生させると、声色から分かるように憤怒の状態である天倉は両手を広げる。
「我が細胞よォ!!!自らの体積を増やし!身体を成すのだァ!!!」
そう叫ぶと先程斬られた触手がグツグツと沸騰するかのように水泡を作る。
「ゾンビにはァ……増殖が付き物だろう?」
そう呟くと斬り落とされた触手は形を成し、見覚えのある姿へと変貌を遂げる。
「いや……⁉︎、これ、増殖じゃなくて……!」
「実体のある分身っ……!」
彼等の目の前には触手から姿を変えた天倉が5体。文字通り彼は増殖をしたのだ。
「私のスペックには及ばないが……!それなりの戦力にはなるだろう……!」
「ッ!炎で……!」
何かされる前にこちらから仕掛けようと左手を前に構える轟。
だが、自身の足が誰かに掴まれた感触を覚える。嫌な予感を感じた彼は視線を足元に移すと1体の天倉が自身の足を掴んでいたのだ。
「ア、ァァアァアアア………」
「なっ!離せ……!」
それに連なり、他の増殖した天倉達が轟の周りを囲むと一斉に彼を拘束し始めたのだ。
「轟君!?」
「そのまま爆ぜろ」
本体である天倉の呟きと共に増殖した天倉達はブクブクと身体が膨張し始める。直後、パンパンに膨れ上がった風船が割られるかの如く増殖した天倉達が文字通り一斉に爆ぜた。
……しかし紫色の体液をぶち撒け破裂した彼等の中心に居た轟は不思議な程に無傷だった。
「オイ轟!無事か⁉︎」
「あ、あぁ……。俺の周りを凍らせて壁代わりにしてな……爆破だけは防いだ」
組み付かれた天倉達を凍らせる事により簡易的な障壁を作る事に成功した轟。彼の無事を安堵するが、様子の異変に気付き始める。
「なぁ、轟?どうしたんだお前」
「悪ィ……やられた」
目元を抑える轟。更に首元を掻き始めその場で膝から崩れ落ちる。
「くそっ!目が……!身体中も痒い。それに……地面が揺れて……!」
「ウイルス……いや!毒ガスを……ばら撒いた⁉︎」
増殖した彼等は文字通り爆弾の役割だった。爆破によるダメージでは無く、爆破により生じる毒の影響で状態異常に陥らせるのが天倉の目的だと言う事に気付く。
「それだけでは無ァい……貴様らには更なる絶望を味わってもらおうかぁ……!」
更に分身を増殖し、彼等の前に計4体の天倉が生まれた。
すると本体である天倉が分身達に近づくと彼等の身体に指を深々と突き刺した。
「ウイルスの除去は……これで良いだろう」
残りの3体にも同じような事を行った直後、彼は叫ぶ。
「さぁ……!
「ァ、アア……、…アアアアアアアアッッ!!」
「ウェイ!ヘシン!」
「……オ、ァ……チョウ、……へ……ンシン」
「ア、……ま、…ぞん……!」
それぞれの分身達から聴き覚えのある声がしたかと思うと4体の身体から熱波が発せられた。
「ぜ、全
峰田の叫びと共に目の前には
「ッ!」
ほぼ全員は戦闘体勢に移る。目の前には1人でも厄介だと言うのに4体にも増えた天倉がいるのだ。合計5体の天倉に対して自分達は果たしてどこまで通用するか……。そんな疑惑を胸に彼等は構える。
「行けぇ!下僕共ォ!奴等をゾンビにしてしまェェ!」
「は?やだよ」
その声に辺りの雰囲気が寒くなった気がした。すると、その声に続いて他の声も響く。
「何言ってんだあのオリジナル。馬鹿か?」
「流石にあの態度は無いわー……」
「神になったつもりかよ。あーヤダヤダ」
「オレ、アイツ、キライ」
「「「「「「!?」」」」」」
一気に不満をぶち撒ける分身達。そんな彼等に麗日は思い切って声を掛ける事にした。
「えっと……天倉君?」
「「「「何?/ドウシタ?」」」」
受け応えはハッキリしている。『シン・天倉孫治郎だァ!』と言わない辺りいつも通りの天倉だと言うのが分かる。
「正気に戻ってる!?」
「馬鹿なァ!私の支配下から逃れるなどとォォ……どうやった!レプリカ共ォォ!」
「え?何言ってんのアイツ。自分でウイルスを除去しやがった癖に」
「あれは駄目だな。頭がイッちゃってる」
「オレ、アイツ、キライ」
「コレってまさか……!悪の怪人が正義の心に目覚めるって言う!特撮の感動回必須の定番のアレ!?」
緑谷が熱く解説するように叫んでいると、分身達は本体である天倉に向き直る。
「んじゃ、やるか」
「あー、なんで自分で自分を殴らなきゃ駄目なのかなぁ」
「えっと、天倉君は良いの?自分の本体だよ?」
「「「「だから?/アイツキライ」」」」
「ええっ⁉︎」
天倉の返答である本体に対する躊躇の無さに緑谷は驚愕の声を漏らす。
「だってさ、自分の癖して皆を襲ってるんでしょ?はい、ギルティ」
「こんな迷惑かけてさ……もう死ぬしかないよね」
「よっしゃ、アイツ殺すべ」
「オレ、アイツ、キライ」
「自分に厳しすぎる……ッ」
自分に厳しいと言う意味が色々と違う気がするが、分身達がブツブツと文句を言っている中、本体である天倉が苛立ちを見せる。
「使えないレプリカ共がァ……!」
「その偽物を作ったのはお前だ」
エクシード形態である天倉とΣ形態の天倉がぶつかり合う。互いの腕に生える刃で鍔迫り合いの要領で力と力が拮抗する。
「ハッ!いつもの力が出ていないぞこのクズゥ!」
「お前がその程度の力しか出ないように作ったんだろ!手抜きゾンビが!」
「ゴフォッ(吐血────やめろ!それは俺に効く!」
分身の内1体(オメガ形態)が血反吐を吐き出すのを境に戦いが本格的に変わる。刃と刃がぶつかり合い火花を散らし、互いに殴打する音が響く。
「轟、タテル?」
「あぁ、何とか……あと何で片言……」
「俺タチノ、タタカイ、マワリ、ヒガイ、出ル。ハナレタホウガ、アンゼン」
そう言いながら分身の1体(Ω素体)が周りに避難するよう呼びかける。そこに分身が耳郎に視線へ向け話しかける。
「耳郎、オレ、トモダチ?」
「えっ?う、うん。多分友達」
「ナラ、オレ、友達ノ耳郎、マモル。耳郎ノ友達モ、マモル」
「あっ、ありがとう……(終わったら、本当に謝っておこう)」
天倉(分身)の心遣いに良心の呵責に苛まれる耳郎は心の中で謝ろうと考える。そんな彼女の背後から炎を纏った分身の1体が戦っている2体に飛びかかる。
「おるァッ!」
「次は無駄に暑苦しいゴリラか!」
「ああっ!?誰が無駄に暑苦しいだ!」
「貴様の事だ脳筋の馬鹿め!」
「誰が馬鹿だ!せめて筋肉を付けろよ!この馬鹿!」
「あ、ちょっと!邪魔すんなよ!俺が戦ってる所でしょーが!」
「……なぁ、天倉」
「言わないで!俺が集まるとあんな事になるとは思わなかったんだよ!」
複数の天倉が集まり、戦いの場まさにカオスな空間と化している。
まさか客観的に自分を見るとは思わなんだろう。分身である彼は少なからずショックを受けているようだ。
「とにかく、さっさと片付けておかないと……拳藤さんはもしもの時の為に先生を呼んで来て」
「ちょっと待てよ、片付けるって…不死身のアイツをどうやって倒す気だよ」
拳藤の疑問は当然である。骨折や爆破の怪我を十数秒の内に再生させるに加え、痛覚が無い本体をどうやって倒すのか?
「いや、
「……!エネルギー切れを狙うって事か⁉︎」
「そう言う事。つまり、倒せるまで殴り続ければ良いだけだよ」
「成る程、そうか……」
天倉の不死身性のトリックを解く事は出来た。……が、拳藤は心の中で納得できていない所があった。
「ぐっ───!?」
「ほーう、腹を貫かれてもまだ原型を留めるか……!」
「抑えてろッ!」
エクシード形態の腹部を貫く本体の天倉。しかし、腹部を突き刺した腕を分身が掴んでいる所に極熱筋肉形態の分身が本体に攻撃を仕掛ける。
「俺の必殺技……!」
「ぐっ──!分身如きがッ!」
「ライダーチョップッ!」
「ぐぉぉぉぉおおおおおおッッ!!」
炎を纏った手刀が本体の肩から腹部にかけての肉を抉る。直後、貫いた手に力を込め、炎を纏った分身目掛けてもう片方の分身を投げつける。
そんな光景に対し拳藤は戦闘に参加しようとする目の前の分身の肩を掴む。
「おい、待てよ天倉」
「? どうしたの拳藤さん」
「お前が本体じゃない事は分かってる。これから言う事が
天倉の両肩を掴み、身体を引き寄せ彼女は叫ぶ。
「自己犠牲もいい加減にしとけよお前!」
「ッ!?」
「お前な!自分が犠牲になりゃ、何でも解決できると思うなよ!」
拳藤が納得出来てなかった所はここだ。彼は自分の事を考えていない。彼は自己犠牲のヒーローとしての姿として存在している。
……が、彼女は納得しない。
「聞けよ天倉!お前は自分がどうなっても良いと思ってるけどな!少なくとも!私はそうは思わない!」
「なっ、何を言って───!」
「私達はな!そんな事求めてないんだよ!」
「ッ⁉︎」
「自己犠牲なら何でも良いのか?良い訳無いだろ!」
彼女の叫びが彼に突き刺さる。すると、彼女の拳がトン……と胸に突きつけられた。
「敵を倒して、救けて、ちゃんと戻る。それがヒーロー……だろ?」
「……拳藤さん……」
「私はお前が傷ついて欲しくないと思ってるんだ。勿論、
彼女の言葉に分身である彼の目元から水滴が流れた──気がした。彼は分身である前に、天倉としての記憶、感情、魂が宿っている。
彼女に何とか、この思いを伝えたい。そう考えながら必死に喉の奥から声を絞り出そうとする。
「………好き‼︎(本心)」
「ん?」
「ん゛ん゛ッ!寿司!寿司食いねぇ!終わったら奢ってあげるから寿司食いねぇ!」
と、彼は誤魔化すと振り向き歩を進める。その言葉は果たして、言い間違いか、それとも心の底からの言葉なのか。
「とにかく!先生呼んで来て!それじゃ!」
「お、おい!」
彼は彼女の言葉に何か思ったのか思考する。しばらくして、意を決したように近くにいた緑谷に話しかける。
「……よし!緑谷君、ちょっと良い?」
「えっ、どうしたの?」
「ごめん!話は途中で伝えるから手伝って!」
「───あ、うん!分かった!」
緑谷は少し遅れながら返事を行う。
……初めてかもしれない、彼が友人に手伝って欲しいと頼むのは。
戸惑いつつも緑谷は天倉と並走しながらその話を耳にする。
「───って、訳だからお願いね!」
「分かった!やってみる!」
「ハァ……ッ!次は2体の緑か!」
気怠るさを見せる声色の本体に対し、天倉は緑谷の前を走り直列の状態になる。
「小細工をした所でェ!」
腕を振りかぶる本体だが緑谷は跳躍を、分身体の天倉はスライディングの要領で回避を行う。
その際に天倉は本体の両足を引っ掛け、転ばす事に成功する。
「しゃっ!」
「この──「SMASH!」──ぐッ!」
転ばせた本体の顔を蹴り上げる緑谷。そこに天倉の分身は本体に逆さ羽交い締めを行う。更に回転を加え、徐々にスピードが増していく。
「スピンダブルアームソルトだッ!」
そのまま遠心力に乗った状態で本体を地面に叩きつける。
「ッ!この程度の技d「まだだッ!」
そこへ本体の身体を持ち上げると、膝を折り畳むように掴み思い切り自身の膝に目掛けて振り下ろす。
「ダブルニークラッシャーッ!!」
「ッ!忘れたか!私に痛みなど無いと!」
その言葉の直後、分身の天倉は技を解きバックステップで距離を取る。
「フン、無駄だと言うのが分からんか?」
「良いや!無駄かどうかは今から分かるね!」
その言葉と共に走り出し、それに応じるように本体も戦闘体勢を取ろうとする。
………が、彼の身体が動く事は無かった。
「ッ!?動かんだとッ!」
「これで決まりだ!」
相手の首の後ろに左足を引っ掛けて、持ち上げた相手の右腕を左脇に抱え込み、全体重をかけ始める。
「
「ッ!?何故だ!何故、腕と脚が……!」
「今の俺は知らないだろうが!痛みは体が脳に伝える緊急信号だ!その信号が途絶えた俺は今、身体がどうなってるのか気付いて居ないんだよ!」
「……ッ!あの2つの技か!」
思い出したように本体は声を漏らす。『スピンダブルアームソルト』と『ダブルニークラッシャー』。この2つの技は父親から教わった技の中で特殊な部類に入る。
この技は肉体にダメージを与えるのでは無く、神経自体にダメージを与えるのだ。それにより部位毎に感覚は無くなり、まともに動かす事が出来なくなるのだ。
「緑谷君!今だ!」
「よし……!」
天倉の呼び声に応じるように緑谷は脚を振りかぶる。狙いは、本体の腕だ。
「(5%フルカウル…!)SMASHッ!」
脚が鞭のようにしなり、バシンと言う音と共に
「まさか!それを狙ってたのか⁉︎」
「あぁ!ご存知、"レジスター"だ!」
カランと蹴飛ばされたレジスターは地に転がる。内側に取り付けられた無数の血濡れの針がしっかりと固定されていたのを物語っている。
「最初は首から下が無くなっても殺す勢いで止めようと思ったけどさ……俺を大切に思ってくれてる人が居るからさ。自己犠牲は程々にしておこうと思ってさ……」
「天倉君……」
「……何を言って…!」
「さて!ここまでだ。レジスターが無くなった今!お前は再生に使うエネルギーを供給する事が出来ない。先生が来るまで卍固めのまま拘束させて貰う!」
それ以上の答えは言わないように彼は一段と力を込め、逃がさないようにする。さらに神経にダメージを与え、再生されたとしてもガッチリと固められているので本体が抜け出す事はないだろう。
「……ククッ、馬鹿め。私はお前だと言う事を忘れているのか?」
「何?緑谷君!警戒して!コイツまだ何か企んd「違うなァ!もはや私に出来る事は何も無い」
分身の言葉を被せるように叫ぶ本体はニヤリと口端を吊り上げ呟く。その際、怪しく思ったのか緑谷は分身体の天倉に注意を呼びかける。
「……が、偽物である貴様にささやかな抵抗をしてやろう」
「天倉君!」
「大丈夫。……何かあるなら聞いておこうじゃないか」
「ククク……、良い覚悟だ……!」
分身体の天倉は本体である自分自身への拘速を解き『ささやかな抵抗』を受け入れる。
「天倉孫治郎ォ!!何故君が自己犠牲の選択を取らなかったのか、何故緑谷と協力したのか、何故変身後に頭が痛むのかァ! 」
「………(いや、別に変身後は頭痛まないけど…)」
内心でツッコミを入れるが、口に出さないようにグッと堪える。わざわざ空気を読まない発言をする程、愚かでは無いと言う事だ。
「その答えはただ一つ……ハァ…天倉孫治郎ォ!君が、あの女に初めて!!」
「………!??!!?」
その言葉にブワリと大量の冷汗が溢れ出る。
何だ、この嫌な予感は……?彼の第六感が『それ以上言うなぁ!』と告げている。
「心の底からァ……惚r────
瞬間、バキィ!!と言う音を響かせながらオメガ形態の拳は本体の顔面を捉え振り抜かれた。
恐ろしく速い拳、オールマイトでも見逃しちゃうね。
「………え?……えええええええええええ天倉君!?」
「おおおおおおおおおおおおおおっ!!アンタって奴はぁぁぁぁぁぁああああ!!」
「フ、フゥーハハハハハッ!!どうしたァ?図星を突かれた上にあまりの恥ずかしさに手が出てしまったか?ヴェーハハハハハハハハッ!!」
直後、分身の天く……最早分身や本体などどうでも良いだろう。オメガ形態の彼は両腕を前に構えると上半身を8の字の軌道で振り始める。
アメリカのボクサーであるジャック・デンプシーが開発した『デンプシー・ロール』の構えだ。
「君がッ!泣くまでッ!殴るのをッ!やめないッ!」
「ゔぇはがぶっ⁉︎…はは、図星を突かれただけでぶごォっ!…ここまで怒りを露わにするとゔぁっ⁉︎…想定外の爆発力だわばっ!…おい!人が話してる最中だやめごぼっ!…いや、待て、それ以上はいけなたばっ!」
「君がッ!倒れるまでッ!殴るのをッ!やめないッ!」
「それ以上駄目だよ天倉君!?」
8の字を描く軌道の反動を利用して左右から重い連打が本体のΣ形態に襲い掛かるッ!そんな一方的な暴力を味わう本体の側には他の形態よ姿をした分身達が。
「おーおー、面白くなってきたなぁ」
「マックノウチ!マックノウチ!マックノウチ!マックノウチ!マックノウチ!マックノウチ!」
「いや……何で、俺は放っておかれてんの?腹に風穴が開いてんのに、何で……?」
「本体が一方的にやられてるのにアッチは何で楽しそうなの⁉︎」
異様な光景に思わず叫ぶ緑谷。背後ではオメガ形態が繰り出すデンプシーロールの重みと速さが増していき、それに合わせて響いて来る音が『バギィ!』から『ゴチャア!』へと人体から鳴ってはいけない音へと変わっていく。
更に!事態は思わぬ方向へ進んで行く!
「おいデクゥ!見つけたぞコラァ!」
「!?かか、かっちゃん!?元に戻ったの!?」
「何訳わかんねぇ事言ってんだボケ!殺すぞ!」
そこに顔面がボコボコにされて状態の藤見を引きずりながら爆豪が登場する。緑谷は辺りを見渡すと今までゾンビ化して来た者達が元の血色の良い肌の状態に戻っている事に気付いた。
どうやらゾンビウイルスは時間制限があり、自然と元の状態に戻るものらしい。
ひとまず皆が元に戻った事実に安堵する緑谷だったが、同時にとある事に気付く。
──あれ?それじゃあ天倉君はどうなったんだ?
そんな事を思いながら一方的な暴力が繰り広げられているであろう場面に再び視線を戻す。
「君が!死ぬまで!殴るのを!やめない!」
「もうやめて!オリジナルのライフはもうゼロよ!」
「これが人間のやる事かよォ!」
「ヤメタゲテヨォ!」
緑谷の視界に元の人間状態に戻った天倉(オリジナル)が今も尚、分身に殴られ続けらる光景が飛び込んで来たのだ。
…オリジナルの天倉は気がつくと殴られていた。自分が覚えているのはゾンビ達に襲われる直前までの事であり、目が醒めると自分が自分自身に殴られると言う謎のシチュエーションを味わっていた。
そして天倉は動きたくても
──そのうち、天倉(オリジナル)は考えるのをやめた。
意識がブラックアウトする直前、彼の耳に入って来たのは『拳藤さんに寿司奢れ』と言う言葉だった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
俺が相澤先生から聞いた話では『ゾンビ化して皆に襲い掛かった』と言う事らしい。先生本人も詳しくは知らないようだが、流石に今回は除籍処分されるんじゃないのかとビクビクしていたが
「お前、疲れているのか?今度、雄英にカウンセラーが導入されるから、真っ先に受けて来い」
と、逆に憐れみの目を向けられた。
何で?いつもの合理的な先生はどこ言ったんですか?俺って普通の部類(自称)に入りますよ?と言ったら、『二重人格で不死身で文字通り増殖する奴が普通か?』と返された。
……あるぇー?もしかして俺、認識してなかっただけで、実は
そんな俺だが現在、雄英の校門にて勇学園の生徒達を見送る事になっている。本当は保健室で安静にした方が良いのだろうが今回は俺の所為で皆に迷惑を掛けたので、その謝罪も兼ねて彼等の前に居る。
「と、言うわけで……申し訳ありませんでしたッ!」
「うん、いや……別に良いんだけどさ……?これって何?」
「俺のベルトから作ったナイフです。貴女の指示であれば今この場で切腹を……」
「ええい!やめないか天倉君!彼等に一生の傷を負わせるつもりかッ!」
「そうですわ。私達は何も出来ませんでしたが、天倉さんの"個性"のお陰で解決できました。……そう、私は何も出来ず……」
何で俺を元気付けようとした八百万さんが逆に暗くなってるんだろうか。そんな俺達に勇学園の赤外さんがイヤイヤと手を振りながら話し掛けてくる。
「そもそもの原因はコッチにありますから……ほら!謝って藤見」
「……ケッ」
「あ゛ぁ゛?」
藤見君と爆豪君は互いにメンチを切り、頑固として謝る気はゼロだった。
……まぁこの2人は謝らないだろうと分かっていたけど。
「羽生子ちゃん。今日は会えて嬉しかったわ」
「私もよ梅雨ちゃん」
「ゾンビになったり、痛かったりしたけど……」
「うん、楽しかったわ!」
「一緒に居られて楽しかったわ!」
それに対して蛙吹さんと、万偶数さんは互いに抱き締め合う。
……あぁ、なんかね。もう、これが【尊さ】って奴なんだね。心が浄化される感じがする。
コレを見ると、俺もこんな友人が欲しいなって……おっと、心は硝子だぞ?そんな事を考えていると突如として首に腕を回される。
「シケた顔したんじゃねぇよ。俺だってお前の口ん中に魚雷をぶち込んだから、お相子って奴だ」
「そ、そうかな……ちょっと待って、今何と?」
俺の口の中に何だって?天龍さんはそんな危険物を俺に食わせたのか⁉︎よく無事だったな、俺!!
「……ところで、お前さ……」
「え?何、どうしたの?」
「いい女作りやがって!このこの〜っ!」
「は?妄想も程々にしておきなよ?」
※分身体の天倉が拳藤に呟いた言葉をオリジナルは覚えていない。
「!?」
天龍さん、嫌味かそれはッ!!童貞の俺に彼女を作る事なんて出来るワケ無いだろ!すると、天龍さんは『あぁ、そういや分身の方だったな』と頭を掻きながら何やら呟いている。
しばらくして溜息をついたかと思うと彼女は俺に向かって口を開く。
「まどろっこしい事はヤメにするか…、今回は一悶着あったけどな。次会ったら、お前よりも凄げぇヒーローになってやるよ」
「……、うん。楽しみだ!」
「ハッ、当たり前だろ?なんせ俺は『世界水準超え』だからな」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………」
「いやぁ!A組の金で食べる寿司は格別だねハハハハハ!」
「美味え!マグロ美味え!」
「………」
「ゴメンな、天倉。皆が寿司食べたいって言うからさ」
俺の目の前にあった寿司が凄まじいスピードで減っていく…。それも仕方ない事だろう。なんせ俺が寿司を奢っているのは拳藤さんだけでなく、B組の生徒全員に奢る羽目になったのだから。
……嗚呼、寿司が減ると共に財布も軽くなっていく……。
「……なぁ、天倉。何で無理してでも寿司を奢ろうとしたんだ?」
「え?」
「だって、さっきも言ったろ?約束したのはあくまで分身体でお前自身と約束したワケじゃないって。それなのに何で全員にまで?」
「何故って……それは」
勿論、訓練で迷惑を掛けたB組へのお詫びでもある。そもそもゾンビ化された俺の落ち度で皆を危険な目に遭わせたんだ、お詫びをするのは当たり前の事だろう。
それに……。
「分身と言っても俺自身なんだ。まぁ、分かるのは
「………」
すると、拳藤さんは豆鉄砲を食らったような顔をしながらこちらを覗き込む。
……え、何?俺なんか変な事言った?
「あ、いや……天倉ってさ。一見すると頭脳派みたいだけどさ。根は鉄哲みたいな一直線のタイプなんだな」
「うん、どう言う事ソレ?」
俺の言葉に「うーん」と拳藤さんが唸る。しばらくして、彼女は笑みを浮かべながら口を開く。
「まっ、お前は良い奴って事だよ」
「…………」
……今なら言える、あの言葉が。彼女にどうしても伝えたかった心の奥底からの本音が……。
俺は息を整え、彼女の姿をシッカリと視界に捉える。
「拳藤さん」
「ん、どうした?」
自分の心臓の音が大きく聴こえる。B組の人達の騒がしい声が響き、自然と耳に入って来る。
……が、不思議と
「俺と────────
─────友達になって下さい」
「は、何言ってんだ?」
「」
「もう友達だろ?」
「───!」
その後、俺の頭の中は混濁してよく覚えてない…が、鮮明に記憶に残っているのは友達になれた感動と財布が軽い事実だった。
俺はバイト募集の張り紙を手にして、上機嫌で帰路に着くのだった。
友達が増えるよ!やったね天倉君!
【アマゾンΣ形態】
シン・天倉孫治郎だ。
にどどまちがえるなくそが。
デンジャラスゾンビな自称"神"の元社長的な性格。
分身のデンプシーロールで最後を迎えた。果たして再登場するのだろうか……。
驚異の再生能力に加え、平衡感覚を狂わせる複眼。パワー、瞬発力、その為諸々が強化された形態。その分エネルギーの消費が激しい為、レジスターの供給が無ければマトモに機能しない。
しかしその再生能力は例え骨折、裂傷、切断などの重傷でさえも某ナメック星人の如く回復する。
コレを応用する事により、自分の細胞片から分身体を作り出せる事が出来、彼等の体内のガスを膨張、破裂させる事によって文字通り毒の爆弾として扱う事ができる。
更に、分身体のウイルスを除去する事によって
ちなみに分身達は本人が元の状態に戻っても、しばらくそのままの状態を保つ事が可能。
ハッキリ言って全形態の中で、現最強となっている。
………が、この形態には欠点が多く存在する。
1.エネルギー効率の悪さ。
とにかく、レジスターを着用している事が前提。
2.人望の少なさ。
周囲の人間は愚か、分身達までも彼の命令に従いたくない。
3.そもそも天倉本人が変身したがらない。
誰が好きで自分を神だと思い込んでいる精神異常者になりたがるのだろうか?
ちなみにこの形態になる度、天倉君の体内では白血球さんや赤血球がバイオハザードに巻き込まれてます。
多分、血小板ちゃんはシェリーポジション。
………うん?天倉君は拳藤さんの事をどう思ってるだって?
陰キャの申し子である彼にとって女子のお友達を作る事自体が、装備無しで歴戦王に挑むくらい困難な事なのです。
だけど天倉君は自分の事を大切に思ってくれる人に惚れやすいタイプです。要するにチョロインですね分かります。
【てんりゅー(天龍)】
フフ怖の人。
彼女はヒロインじゃありません、天倉の友達です。
おっぱいのついたイケメン。
ホントはメチャクチャ好きなキャラ。
こう……彼女が泣き顔を見せるまでの過程として、メンタルをボロボロにして自信満々な彼女の表面を崩すわけですよ…、そこに頭を撫でる、抱きしめるとか…慰める事によって素直な彼女の顔もみたい訳なんですよね……。更には乙女らしい赤面とかも見たら……あぁ、尊い。
ヒロインにしたいけどこの物語は彼女はヒーロー志望者であり主人公のライバルの1人として徹してもらう事にしています。
……何?ハーレムだと……?
そんなの天倉君のメンタルが耐えられるワケないだろ!いい加減にしろ!
再登場するかは前向きに検討中。
今回、勇学園のキャラ達の影が薄かったのは私の責任だ。
だが私は謝らn(無言の腹パン