個性以前に個性的な奴等ばかりなんですけど   作:ゴランド

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 明日を創ってくれたビルドに感謝を。そして新たな時代が始まる。次代の王の誕生に祝福を。


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☆第46話 これでE/血潮が迸る

「ねぇ、フィリップくん。さっきからずっと何を調べているの?」

 

 亜樹子は無言でキーボードを叩くフィリップに尋ねる。天倉と別れてからフィリップはずっとパソコンの画面と向き合ってばかりだ。

 そんな彼は亜樹子の質問に答えず、いや正確には質問そのものが耳に入っておらず、先程からパソコンの操作に集中してばかり。

 

 

「……やっぱり、天倉くんの事に自分に非があるって思ってるんでしょ?」

 

 

 すると、ピクリと一瞬だがフィリップの動きが止まった。それを見た亜樹子は意地悪そうな表情になる。

 

 

「やっぱりねぇ〜〜。フィリップくんって、天倉くんと自分を重ねているんでしょ?」

 

「……まぁ、それは否定しないよ」

 

 

 ぶっきらぼうにフィリップは答える。

 

 

「でもおかしな話だよねー、フィリップくんと天倉くんって全く似てないんだもん」

 

「ハッキリ言うと、昔の僕に。他人を信用できていない部分にソックリなのさ」

 

「へぇー、そうなんだ……」

 

 

 亜樹子の質問が終わると今度はフィリップがお返しと言わんばかりに質問を投げかける。

 

 

「天倉くんと口論していたけど、そう言うアキちゃんはどうなんだい?」

 

「私は……天倉くんの事が納得できない」

 

 

 口を尖らせながら彼女は答える。

 

 

「私達は同じ探偵なのに……天倉くんはどうして自分だけで抱え込んじゃうんだろ」

 

 

 天倉孫治郎の事を亜樹子は理解しているつもりでいた。だがらこそ彼と張り合ってしまった。亜樹子自身、自分に非が無いとは思っていない。

 だが自分のプライドが許さないのだ。鳴海探偵社の所長として彼が自分達に頼ってくれない事にガツンと言わなければならない。

そして、この事件が解決したら天倉に盛大なお祝いをして仲直りをしよう。

 そう考えながら天倉の事を心配する亜樹子にフィリップはフッと笑う。

 

 

「アキちゃん……やっぱり君は……」

 

 

 その次を言おうとした瞬間、作業の手が止まった。フィリップは身を乗り出すような体勢でパソコンの画面、とある一点を凝視する。

 

 

「これは……!」

 

「どうしたのフィリップくん?」

 

 

 急に様子が変わったフィリップに亜樹子は疑問を投げかけるが、それを尻目にフィリップの作業の手が先程とは比べ物にならない程のスピードとなる。

 

 

「そう言う事か……!」

 

 

 カタンとキーボードを叩いた後、フィリップは黒の二つ折り式の携帯電話を取り出し、連絡を入れようと操作を始める。しばらくプルルルル…という呼出音が鳴り続く。

 

 

「……! 翔太郎っ!犯人が分かった!」

 

『フィリップか…!こっちも照井と協力してやっと突き止めた所だ』

 

「犯人は必ず古明地さとり、霊烏路空と関係する人物だという事なのは分かっていた」

 

『そうだな、検索にはヒットしなかったのか?』

 

「あぁ、本棚にその人物の名前は出てこなかった……いや、恐らく高度な技術で情報を書き換えられていたんだ!」

 

『フィリップの本棚の情報を上書きすんのかよ……ソイツのバックにとんでもねぇバケモンが潜んでいるな……!』

 

「それはとてもゾクゾクする……いや、そんな事を言っている場合じゃないね」

 

 

 携帯電話を耳に当てながらフィリップは亜樹子とともに外に停めてあるバイクに跨り、後ろに乗るよう亜樹子に手招きする。

 

 

「あとは犯人の居場所だが……!」

 

 

 タイミング良く、フィリップと亜樹子の周りに蛙、蜘蛛といった動物を模したガジェットが集まる。その中で蝙蝠を模したガジェットがフィリップの手に収まる。

 

 

「コレは………翔太郎。大変な事になった」

 

 

 蝙蝠の目に写っていたモノにフィリップは一瞬驚愕するが、すぐに冷静になると電話の向こうにいる相棒へソレを伝える。

 

 

「数分前に天倉くんが犯人と接触した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は……優しかった。

 

少年はとても臆病だった。

 

少年は見放されるのが怖かった。

 

 

少年は昔からその"個性"故にイジメられていた。

見た目だけならば異形の容姿を持つ者が周りにごまんといる。

 

少年が持つ力。

 

少年のその(個性)は人を殺すモノでも人を死なせるモノでもない。ただ、相手を傷付ける単純な力だった。

 

相手を殺さず死なさず、ただ傷付けるのに特化した力に少年は葛藤していたのだ。

 

 

 そんなだったが彼は人を助ける時、顔を()()()()。誰かを助けた時、顔をくしゃっとさせてしまうのだ。

少年は人を助ける事に対して生きる実感を、自分の価値を見出していた。

 

 

 そんなある日。少年以外のクラスメイトがイジメられている所を見てしまった。イジメられているのは少年のイジメに加担せずに傍観し周りと共に笑うようなタイプの子だ。

 

 少年は真っ先に喧嘩を止めるべくイジメっ子達に立ち向かった。理由なんて無い。ただ、その子が助けを求める顔をしていたから。それだけの為に少年はその子を守ったのだ。

 

 

結果的に少年はイジメっ子達に勝った。

 

 

少年は大丈夫?とその子に声を掛ける。

 

 

 

 

「来ないでよ!この化け物!!」

 

 

────え?

 

 

少年の手は血に染まっていた。

 

少年はイジメっ子達に勝ったが、イジメっ子達の顔面は腫れ血が滲み出ており、過剰なまでの暴力を少年は振るったのだ。

 

そこに運悪く先生が来てしまった。

少年は悪くない。だが、目の前の光景はその真実を捻じ曲げてしまうのには容易い事だった。

 

 

『やっぱりそうだ。コイツが全部悪いんだ』

 

──違う。自分の所為じゃない。

 

『全部ヤツの所為だ』

 

──でも、俺は助けただけで……!

 

『近づくな襲われるぞ!』

 

──待ってよ皆……俺は……!

 

 

 

『近付かないでよ!この化け物!!』

 

 

 

───俺は……何なんだ?

 

 

 

それ以来、少年は心の底から他人を信じられなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う………あ………?」

 

 

懐かしいモノを見た気がする。

いつから眠ってしまったのだろうか?意識が朦朧とする中、身体を動かそうとする。

 

 

(………?アレ、身体が動かない)

 

 

 まるで金縛りにあったかのように身体の自由が利かない。先程まで何があったが記憶が曖昧だ。目をキョロキョロと動かし周りに何があるかを確認する。

 

 

「………!」

 

 

 彼の視線の先には視線の先に壁に寄りかかった状態で眠っている古明地さとりが居たのだ。そして、天倉は先程まで何が起こっていたのかを思い出す。

 

 

「こ…め…じぃ…さっ……⁉︎」

 

 

 舌が上手く回らない。両腕両脚に全く力が入らない。おかしい。おかしすぎる。

意識はしっかりしているし、目もさっぱりしている。それなのに力が入らないのはどう考えても不自然だ。

 

 

「ほう、目が醒めるのが早いじゃないか」

 

「あ……あ…た……わ……(貴方は……⁉︎)」

 

 

 古明地さとりの隣に茂加味快青が現れる。何故こんなところにいるのか?避難さた筈なのに何故、此処に居るのだろうか?そう考えていると心の中を見通すようにコチラの疑問に答える。

 

 

「それなら予想はつくだろう?動けない君に、失踪した筈の古明地さとり君、そしてその場にいる私……こんな在り来たりな状況、既に答えは出ている筈だろう?」

 

「ま……さか……(まさか…貴方が……!)」

 

「私が全ての元凶……と言う事だよ」

 

 

 茂加味快青(黒幕)は悪びれた様子も取らずに淡々と答える。

 

 

「どう……して…こんな事を……!」

 

「こんな事?それはどういう意味かな?」

 

 

 目の前の男は天倉の言葉の意味が分からない様子だった。力が入らない身体を無理矢理動かそうとするがバタリと天倉は地に伏せてしまう。

 

 

「なんの……なんの為に……古明地さんを巻き込んだ……!」

 

「ほう、驚いた。飲み物に強力な神経毒を混ぜておいたが……こうも喋れるとは……!」

 

「答えて…ください……!どうして……!」

 

 

 ギリリと歯を食いしばりながら天倉は叫ぶ。動く事はない身体を何度も動けと自身に言い聞かせるが全く意味が無い。そんな彼を見て茂加味はむぅ…と呟く。

 

 

「そうは言われてもな……仕方無い事だからね」

 

「仕方無い……?」

 

「君は……科学が発達するのに大切な事は分かるかな?前に進むには実験が必要なんだよ」

 

 

 その場に転がっている椅子を茂加味は立ち上げ、座り、話を続ける。

 

 

「どんな実験にも土台……代償が必要だ。彼女はその(生贄)になって貰ったに過ぎない」

 

「何を……言ってるん…ですか……⁉︎」

 

「む、分からないのか?」

 

「あな…たは……子供を……人体実験の材料に……したんだぞ……!なんとも……思わないのか……⁉︎」

 

 

 天倉の問いに対してしばらく考える素ぶりを見せる茂加味。しかし、そこから天倉の求める答えが来る事はなかった。

 

 

「いや……特に何も思わないな」

 

「………ッ!!」

 

 

 天倉は唖然した。この男は何故、そんな考えが出来るんだ?理解出来なかった。否、理解出来る筈が無い。

 

 

「さとり君は素晴らしいデータを出してくれたよ。それについては感謝しているつもりだ。私は科学者として彼女に最大の敬意をはr「どうでも…良いんだよ……」うん?」

 

 

「そんな事……俺にはどうでも良い……!あんたは……空さんを…娘もその下らない実験に巻き込んでも……悪びれないつもりなのか……ッ!!」

 

「悪びれない………?すまない。私では君の言っている事が理解できないみたいだ」

 

 

───狂ってる。

 

 そう天倉は確信してしまった。この人は自分の"個性"についてアドバイスして貰った恩がある。

だが、この茂加味快青という男の本性はおぞましいものだった。

 

 敵連合のような自他ともに認める悪意ではなく、この人物は己が悪意を悪意として認識、認めてすらないのだ。

 

 

「それにしても空も中々良いデータを出してくれたのは確かだ。しかし実に惜しかった。相性が良過ぎたのか過剰に適合して身体が追いつかなかった。これで『ハイドープ』に覚醒したのはさとり君1人だけとなる……」

 

「ぐ……っ!」

 

 

 また性懲りも無く……!自分の前で自慢気に話す茂加味に悔しさを覚えながら天倉は歯を噛み締める。

 

 

「だが、そこに君が来てくれたんだよ!!」

 

「⁉︎」

 

 

 急にテンションが変わった茂加味に驚き、天倉は一瞬だけ頭の中が真っ白になってしまう。

そして天倉の両肩を掴み興奮したように喋り始める。

 

 

「君のその個性()は素晴らしい!使用者の感情でダイナマイトが爆発するかの如く、"個性"に影響が現れ姿形までも変えると来た!さらに風都に居る短期間で君は凄まじい成長を遂げ、あれ程の重症もすぐに治している!君のような素晴らしい人間(データ)はこれ以上いないと私は確信している!!」

 

「ッ⁉︎(この人は……人を実験のデータとしか見ていないのか…?)」

 

「君は最高の人材(モルモット)だ!あぁ、もう我慢できない。早く君の力を見せてくれ!この状況だって君の力ならば打開出来る筈だ!」

 

「あなた…は……一体何を言って……?」

 

 

 まさか茂加味はわざわざ"個性"を使ってくれと言っているのだろうか?仮にここで自分が"個性"を使えるならば真っ先に自分が狙われる可能性を危惧しないのか?

 まさかソレを含めて、この男は実験していると言うのだろうか?

 

 

「ふざ……ける……な……!」

 

 

 翔太郎、フィリップ、亜樹子、照井、見値子、霊烏路、そして古明地。皆と解決しようとしていた事件は全て、茂加味快青が行なっていた実験と言う事に天倉は怒りを覚え始める。

 

 

「いいぞ……!君には充分なストレスを与えた!早く君の新たな超越形態(フォーム)を見せてくれ!」

 

「う…あ、あ…あ…あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

 

 

 力を振り絞りながら立ち上がり、己が怒りを更なる力に変え目の前いる外道を倒すべく天倉は一歩を踏み出す─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───事はなかった。

 

 

 フッと力が抜け、壊れた人形のようにその場で再びバタリと天倉は倒れる。倒れた本人でさえ何が起こったのか理解出来ていない様子だった。

 

 

「───⁉︎(な、なんで……⁉︎なんで急に……⁉︎)」

 

 

 するとジワリと腹部が生温かく、ヌチャリと湿ったような感覚か彼を襲う。視線をそこに移すと服の一部が赤く染まっていた事にやっと気付いた。

 

 

━━ポタ……ポタ……

 

 

「………ゴブッ」

 

 

 呼吸ができない。いや、肺と共に胃から赤黒い液体が逆流し始め、空気が体外へ排出されたのだ。そしてバシャリと血反吐が床にぶちまけられた。

 

 

「───ッ!ハァ……ハァ……う゛ッゔぉぇぇえぇ……!あ゛っがぁ……ッ……!」

 

 

 ガクガクと身体が痙攣し、目の前が霞み始め、身体中から脂汗が大量に噴き出し、血反吐と共に天倉を中心に小さな赤い水溜りを作り出す。

 

 無理も無い。彼は怪我は治ったと医者に言われたが、今までのダメージ、疲労が蓄積され限界を迎えてしまった。先日の腹部の傷が開いた挙句、神経毒が身体を蝕んでいる。

 

 

「何をしているんだ?たかが血を吐いただけだ。たかが身体が痺れて動けないだけだ。その程度の症状で君が止まる筈が無い。さぁ早く!君の力を見せてくれ!」

 

「ぐっ……ぅぅうッ、……ッ!ハァ…!ハァ…!うっ……お゛ぇぇ゛ぇ……、ハァ……へん……っ、がっっあ……ぁ」

 

 

 変身と口を動かし、ルーティンを行おうとするが天倉の身体は言う事を聞かない。いや正確には聞くはずもないだろう。

 

 苦しい。ダメだ早く戦わないと。もう駄目だ。うるさいまだ戦える。逃げないと。死ぬ気でやればイケる。こんな事をしている意味なんて無い。

 

こんな事をする意味なんて───

 

 

………な…い

 

「ッ!」

 

 

 毒の所為か、思考が纏まらない天倉だが息をなんとか整えつつ、とある一点を見つめる。

 

 

「ん、さとり君を未だに心配しているのか?」

 

「──ぐぅッ!」

 

 

 口内が鉄の味で広がり、鈍痛が身体中をジワジワと浸食するように襲って来る。体の芯が灼けるように熱い。それでも手を伸ばし少女の手を取ろうとする。

 

──何をしているんだ?

──もういいだろう?

──やめておけ諦めろ。

──どうせまた裏切られるに決まってる。

──見捨てて早く逃げよう。

 

 

「おぉ!その状態で動けるか!」

 

 

 頭の中に自分の声が聞こえるがズルズルともう動かない筈の身体を前へ前へと進ませる。

 

 

(俺の───原点(オリジン)を────)

 

 

俺がヒーローに憧れたのは、初めてこんな"個性"でも誰かを笑顔にする事が出来るって知ったからなんだよな。

 

こんな俺でも誰かの笑顔を守りたいって思ったんだよな。

 

 

(俺の原点を思い出せ──天倉孫治郎ッ!)

 

 

 例え裏切られたとしても、例えその身がボロボロになろうとも、目の前に助けを求めていたのなら……ヒーローとして当然の事だ。

 

それも目の前で女の子が泣いているなら尚更だ。

 

 

(手を──手を伸ばせ……!)

 

 

 あと少し、あと少しで手と手が触れる距離まで体を動かし、手を伸ばす。

 

──なんで手を伸ばそうとするんだ?

──あの娘だって最終的には裏切るに決まっている。

──やめとけ!やめとけ!

──なんでだ天倉孫治郎。何故そこまで助けようとする?

 

 

そんなの簡単だ。

手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ。

 

 

「更に──向こうへ……!(Plus Ultra(プルス ウルトラ)!)

 

 

 そして辿り着いた彼はやっと少女の手を掴む。

 

 

「確かに……聴こえた……!『ごめんなさい』って。古明地さん、聴こえてるかどうか分からないけど俺、古明地さんの事を疑っていた。だから……今度こそは……絶対に信じるから……!」

 

「ほーぅ……立ち上がるか……!つくづく君は私に素晴らしい力を見せてくれるよ!」

 

 

 おぼつかない脚で立ち上がり、古明地さとりを守るように茂加味と対峙する。

 

 

「……クク、やはり君は私と一緒に来てもらう事にしよう。そうした方が私的にも都合が良い」

 

 

 すると茂加味はポケットからメモリを取り出すとソレを天倉に見せつけ、余裕があると言わんばかりにペラペラと説明し始める。

 

 

コレ(ガイアメモリ)はね本物じゃあないんだよ。私が本物を模して作った"トリガー"に似たような物……いや違うな。誰でも本物の力を手に入れる事が出来るツールさ。

素晴らしいだろう?最近になってやっと他人の"個性"を自分でも使えるように調整出来たんだ。まぁ他人の血や細胞を自身に取り込むなんて簡単に出来るわけ無いからね」

 

「……まさか……ソレは……!」

 

 

 Rのメモリから漂う微かな血の匂いが天倉の鼻を刺激する。

 

 

「そう、『リモートコントロール』のメモリ。私風に古明地こいし君の力を調節させて貰ったよ」

 

「お前……ッ!」

 

 

 天倉は激怒した。この男は古明地さとりのみならず娘までにてをかけ、事もあろうか古明地さとりの妹の身体を削り、実験の成果と称して目の前に見せびらかされているのだ。

 

 

「そしてこのメモリの力の真髄は、私が制作したメモリを所持する者を無意識化させ支配下に置く事にある」

 

「……つまりソレは……」

 

「そうだね、さとり君も空も君を襲ったメモリ使用者も全て私がやった事になるな」

 

「─────ハハ」

 

 

 乾いた笑いが部屋に広がる。天倉の口から発せられたものだ。狂ったように笑い始める天倉を茂加味は疑問を浮かべる。

 

 

「どうした急に笑い始めて……私の研究に心を打たれて一緒に来てくれる決心がついたのかな?」

 

「───あぁ、いや違いますよ……ただ」

 

 

 そう言うと、天倉はスッと今度はお返しと言わんばかりに手元に収められた"Bのメモリ"を見せつける。

 

 

「ただ、あんたを心置きなく殴れる理由が出来て安心しただけですよ」

 

「……! それは」

 

「確か……なんだったけな、クラスメイトの言葉を借りるなら………」

 

 

 

━━パキパキ……バキンッ!!

 

 

「テメェのクソな研究成果なんざぶっ壊してやるよ……死ね!カスッ!!

 

 

 クソを下水で煮込んだような声を発した後、バタンと後ろへ倒れる。そして遅れるように古明地さとりの目に光が戻る。

 

 

「───!天倉さッ」

 

「……あ、良かった。メモリ壊したら正気に戻るんだね」

 

 

 正気を取り戻した事に対してホッとしたような顔をしながら天倉は安堵するが古明地は天倉の胸ぐら掴むと今にも泣きそうな口を開く。

 

 

「なんで私を助けたんですか!!私は……私はあなたを襲ったんですよ!敵同然の私をなんでッ!!」

 

 

 目から大粒の涙を溢れさせながら彼女は

 

 

「私なんて……どうでも……どうでも良いじゃないですかッ!!」

 

「この馬鹿!!!」

 

「あいた⁉︎」

 

 

 脳天にチョップを受ける。だが比較的優しかったのか(?)古明地さとりは脳が軽く揺らされただけで済む。

 

 

「どうでも良いなんて言うな!俺は古明地さんを助けたかったから助けた!異論は認めない!ハイ、QED!」

 

「えぇ⁉︎」

 

 

 無理やり議論を終了させる天倉に古明地は驚愕を露わにする。そんな中、天倉はとある事を考えていた。

 

 

──さっきから聞いていれば!何なのよ!どうでもいいって?どうでもいいワケないに決まってるでしょ!!

 

 

(あー………そうか……やっとフィリップさんと亜樹子さんの気持ちが良く分かった……)

 

 

 今になって、理解できた。亜樹子さん達もまたヒーローだったのだ。きっと誰もが誰かのヒーローなのだ。

 

 

(なんか……本当に心配されていたんだな……ハハ、俺って馬鹿だなぁ。そんな事に今頃気がつくなんて)

 

「さて……茶番劇は終わったかい?私はあまりそう言うのは好まないからね」

 

(ヤバいなぁ……ぶっ壊すって意気込んだものの、全く身体が動かない)

 

 

 カツンカツンとコチラに歩み寄ってくる茂加味。古明地さとりは必死に自分よりも身体が大きい天倉の腕を自分の肩に回し担ぐ。

 

 

「ぐ……ごめん古明地さん」

 

「無理はやめてください。今は逃げましょう、あの人の思考はあなたを実験動物にする事しか考えてません」

 

「それはさっきまで散々思い知らされたよ」

 

「良く分かってるじゃないか……それじゃあ君達に良いものを見せてあげよう」

 

 

 そう言うと茂加味は懐からGが描かれた黒のメモリを取り出す。更にスーツの前裾を捲るとそこには鈍い銀色で輝くベルトが巻かれていた。

 

 

「コレが私の成果の1つだ」

 

GEAR(ギア)

 

 

 メモリをベルトの中心に挿すと茂加味の姿はみるみる内に変貌を遂げていく。

そ黒光りした外皮に鋼のように鈍く輝く胴体。そしてコチラを睨みつける紅の双眸を

 

 

「ハハ───ギア・ドーパントといった所か」

 

 

 乾いた笑いが響く。

 

 

「なに、大人しくしていれば痛い目に合わずに済む……と言って従う君達じゃないのは分かり切ってる事だ。だから─────」

 

 

紫色を基準に金の装飾を施された銃を取り出すと銃口を二人へ向ける。

 

 

「───天倉くんだけは死なないように加減はしておく」

 

 

 

 そう言うと躊躇いも無く引金を引き、弾丸を撃ち出した。

 

 

 

 

 

 

━━カンッ!!

 

 

「む」

 

 

 刹那、謎の影が放たれた銃弾を防いだのだ

甲高い音が響く中、天倉の元に黒のクワガタを模した機械が寄って来る。

 

 

「コレって………!」

 

「ったく……あれ程、俺達を頼ってくれって言ったのによ、そんなに信用無いか?」

 

 

 そこには帽子を片手に携えた男が居た。無個性で力を持たない男が居た。風が吹く街を愛するヒーローがそこに居た。

 

 

「さて……随分と姿が変わったな茂加味 快青」

 

「左翔太郎……いや、仮面ライダーか」

 

 

 ヒーローは黒幕と対峙する。

 

 

「色々と調べさせてもらったぜ茂加味快青、いや裏での名前は『最上魁星』だったか?」

 

「あぁ、その名前でも構わないよ。だが何が何でも彼は連れて行かせてもらう」

 

「悪いが天倉はウチの一員だ。お前なんかに渡さねぇよ」

 

 

 「下がってろ」と2人に言い聞かせると翔太郎は黒のメモリを懐から取り出しながら帽子を深く被り直す。

 

 

「後は俺達の仕事だ。さとり!お前は天倉を病院に連れてけ!」

 

「翔太郎さんは……!」

 

「言っただろ?後は()()の仕事だってな」

 

 

Joker(ジョーカー)

 

「変身」

 

Cyclone Joker(サイクロン ジョーカー)

 

 

 腰に巻かれたベルトに黒と緑のメモリが挿入され、翔太郎の姿も風が吹き荒れると同時に変化し、緑と黒の戦士へと変身を遂げると怪物(最上魁星)に指を向け決め台詞を述べる。

 

 

『「さぁ、お前の罪を数えろ」』

 

「フ、罪を数えるような事をした覚えは無い」

 

 

 そう言うとギア・ドーパントは紫色の銃に、赤のバルブが取り付けられたナイフを手に持ち仮面ライダーを迎え撃つ。

 ドーパントは銃で牽制しながらナイフを振るい、仮面ライダーは銃弾を軽い身のこなしで躱しながら徒手空拳で応戦する。

 

 

「おら、場所変えるぞ!」

 

Metal(メタル)

 

Cyclone Metal(サイクロン メタル)

 

 

 仮面ライダーがギア・ドーパントの腹部に『メタルシャフト』を突き立てると、先端から放たれる凄まじい風圧がガシャン!と家具を撒き散らしながらドーパントを外へ吹き飛ばす。

 

 

『翔太郎、天倉くんは古明地さとりに任せて僕達は』

 

「あぁ、アイツをブッ飛ばす!」

 

 

 仮面ライダーも『メタルシャフト』を片手に外へ飛び出すとドーパントは再び銃弾を放つがそれを己の得物で器用に弾いていく。

ガガガンッ!と甲高い音が響き、ナイフと鉄棍がぶつかり合いお互いに一歩も譲らない戦いが拮抗する。

 

 

「さて、フィリップの検索を欺く程の情報操作。アンタ……バックに誰が居る?」

 

「フフ、教える訳にはいかない。……と、言いたいところだが君達には実験に協力してくれた恩があるからなぁ。とりあえず【万人は1人の為に】……とでも言っておこう」

 

「はぁ?お前、何言ってんだ?」

 

『……! 馬鹿な。あり得ない!それは都市伝説の、架空の存在だ!』

 

「クク、都市伝説の代名詞とも言える『仮面ライダー』が存在するんだ。居てもおかしくあるまい」

 

 

 戸惑った様子のフィリップに翔太郎が困惑するが、得物であるメタルシャフトを巧みに操り攻撃を加えた後、数歩ドーパントから距離を取る。それに対してドーパントは紫色の銃を仮面ライダーに向け引金を引こうとする。

 

 

「最上魁星!そこまでにしてもらおうか!!」

 

 

 が、突如として響いて来た声にドーパントの動きが止まる。視線の先にはヒーローを筆頭に武装した警察官達がコチラに向けて銃を構えていた。

 

 そして武装警官達の前にヒーロー【マキ】が出ると銃口を己が義父、否、ギア・ドーパントに向ける。

 

 

「最上魁星!貴方には略取・誘拐の容疑に加え、その他の容疑がかかっている!今すぐ武装を解除し投降しなければ(ヴィラン)と認定し身柄を拘束させてもらう!!」

 

「………」

 

 

 その言葉に対して最上はゆっくりと両手を上げる。

 

 

「……最上魁星、あんたは何故─────」

 

 

──パァンッ!

 

 

 こんな事を?と翔太郎が口にしようとした瞬間、鮮血が舞った。

最上が放った銃弾が見値子の肩を撃ち抜いたのだ。

 

 

「あ……ぐ……ッ」

 

「ッ!テメッ!何してやが────」

 

Zebra(ゼブラ)

 

 

 新たなガイアメモリを紫色の銃に挿し込むと銃口を1人の警官に向け躊躇いも無く引金を引く。

 

 

「あっ……あ、あ゛あ゛ぁぁぁあああ!!」

 

「なっ……⁉︎」

 

 

 弾丸を撃ち込まれた警官の姿はみるみる内に白と黒のシマ模様をした異形の怪物へ変貌を遂げていく。

 

 

Octopus(オクトパス)』『Hawk(ホーク)』『Hedgehog(ヘッジホッグ)

 

 

 新たなメモリを銃に挿し込んでは警官達に躊躇せずに撃ち込む。そしてあっという間に異形の怪物であるドーパントへと変貌を遂げていってしまう。ドーパントに姿が変わってしまった警察官達は周りにいる同胞に襲いかかっていく。

 

 

 

「なっ⁉︎」

 

『馬鹿な!人を強制的にドーパントに変える装置なんて!』

 

「フフ、驚いたかい?」

 

 

 ギア・ドーパントである最上は不敵に笑いながら自慢気に紫色の銃を見せつける。

 

 

「コレの名称は【駆鱗煙銃】。私が製作したものでね、私が作ったメモリをスロットに挿し込む事でその力を弾丸として撃ち込む事が可能となる。まぁ簡単な話、相手をドーパントにする装置……という訳だ」

 

『そんな装置を作るなんて貴方は………』

 

「おい、そんな事はどうでもいいんだよ!あんた何やったか分かってんのか!」

 

 

 フィリップの言葉を遮るように、荒々しい口調で翔太郎は最上に向かって叫ぶ。仮面で表情を読み取る事は出来ないが声の力強さから激怒している事が分かる。

 

 

「アンタは娘に手を掛けたんだぞ!ソレを分かってんのか!!」

 

「ん……あぁ、ソレについては申し訳無いと思っている」

 

 

 そう言うと最上はナイフを上下に割ると、ソレ等を銃の前後側に取り付ける。

 

 

「まぁ、過ぎた話だ。水に流してくれ」

 

「ッ!!お前!!」

 

『落ち着くんだ翔太郎!』

 

 

 娘の事すら実験材料の一つとして見ていない男に翔太郎はメタルシャフトを振るう。しかしその単調な攻撃は見事に躱され、横腹に合体した小銃を突きつけられる。

 

 

「ッ!」

 

「さ、終わらせようじゃないか」

 

 

 そう言うとドーパントである最上は引金に指をかけ、銃口から弾丸が放たれた。

 

 

「らあッ!!」

 

──ガァンッ!!

 

 

 だが回転させるようにメタルシャフトで小銃の銃口を上方へ向けるように抑え、メモリをメタルシャフトに挿し込む。

 

 

Metal MAXIMUM DRIVE(メタル マキシマムドライブ)‼︎』

 

『「メタルツイスター!!」』

 

 

 ガラ空きになった腹部に向け、風を纏わせた鉄棍を叩き込む。ギア・ドーパントは凄まじい風圧に後方へ吹き飛ばされる。

 

 

「ハッ、一丁上が───うおっ!」

 

 

 瞬間、仮面ライダーの背後から警察官が変貌したドーパントが襲いかかる。必殺技を放った後、油断してしまったのか反応に遅れるが何とか攻撃を回避する事は出来た。

 

 

「あぁー、くそっ!面倒臭せぇ!」

 

『翔太郎、ここは早期決着でエクストリームをつか───』

 

 

 

 

 

「あぁ、先程のは中々効いたよ」

 

「なっ⁉︎」

 

 

 そこにはマキシマムドライブで倒した筈のドーパントである最上が平然と立ち上がっている光景が2人の視界に映っていた。

 

 

『馬鹿な、マキシマムドライブが効いていないのか?』

 

「そんな事を考えていて随分と余裕だね」

 

「っとォ!!クソッ、こんな数のドーパント用意しやがって!」

 

 

 メタルシャフトを巧みに操りながら同時に複数のドーパントを相手にするが、ギア・ドーパントは再びコチラに小銃を向けると

 

 

──ドォン!!!

 

 

「がっ⁉︎」

 

 

 無防備な仮面ライダーの背に銃弾が放たれる。不意による攻撃により隙が生まれ、他のドーパントの攻撃を何度も受けてしまう。

 

 攻撃を避けようとしても、ギア・ドーパントの援護射撃により隙が生まれてしまう。逆にギア・ドーパントの攻撃を避けようとすると他のドーパントの攻撃を受けてしまう。

 

 

「あっ……くそっ、メモリチェンジすらやらせねぇのかよ」

 

『流石に数が多いか……』

 

 

 舌打ちしながら鉄棍を杖代わりにして立ち上がる。するとギア・ドーパントである最上は小銃の銃口を明後日の方向へ向ける。

 

 

「赤の仮面ライダーはどうしたんだい?」

 

「あぁ?」

 

「私としては彼も呼んでくれると嬉しいのだがね」

 

『どうやらアクセルもお望みみたいだね』

 

「クソッ、余裕見せやがって」

 

 

 攻撃をわざと受けてやろうと言わんばかりに両手を広げる最上に翔太郎が苛立ってしまう。メモリチェンジを行おうとドライバーに手を掛けようとする

 

 

 

「───おい」

 

「ん?」

 

 

 が、突如として響いて来た声の方向へ最上が視線を向けると、緑色の閃光が頬を掠める。シュゥゥと掠めると言うよりは焼くの方が正しいだろうか?

 

ギア・ドーパントである最上は自身の頬を撫でた後、視線の先にいた者達へ再び視線を向ける。

 

 

「そう言えば君達も居たね。すっかり忘れていた」

 

 

 視線の先には赤と黒の重厚な城塞、青を基調とした流線的なラインをしたクワガタ、ずんぐりとした黄の梟。それらを模したドーパントがそこに立っていた。

 

 

「アイツら⁉︎」

 

『まさか、本当にガイアメモリ無しでドーパントに?』

 

「ハハ、素晴らしいだろう?私の研究成果は」

 

「あ、どう言う意味だ?」

 

 

 笑う最上に翔太郎は疑問を抱く。

 

 

「私の作成したメモリはね、人体に無害なモノだ。しかし、それだけでは無い。メモリ内の細胞、血液に存在する微量な個性因子が使用者の体に残留し、馴染む事によってメモリの力を己が"個性"として発現させる事が可能となる!」

 

「は、はぁ?どう言う意味だそりゃ?」

 

『マズイぞ翔太郎!最上魁星は予想以上の発明をしてしまった!そんなモノ……!世に放てば混乱どころの騒ぎじゃ収まらない。それが量産されれば"個性"を持った兵隊を造る事も可能だ!』

 

「フィリップ君、それは仕方がないと言うモノだよ。いつの時代も科学の発展には犠牲が出てしまうが結果的に私は素晴らしい成果を残した!コレこそ、私の求めたモノの一つに────」

 

 

「うるせぇよ」

 

 

 その言葉と共に、赤と黒の重厚な装甲を持つハードキャッスル・ドーパントは最上に殴りかかるが、それを難なく受け止められる。

 

 

「……何のつもりかな?」

 

「それはコッチの台詞だテメェ!カシラを利用しやがって……!」

 

 

 キャッスルドーパントである赤城がそう言うと、後方で待機していたスタッグ・ドーパント、オウル・ドーパントもギア・ドーパントである最上に襲い掛かる。

 

 

「……どうなってんだアリャ」

 

 

「さてな、俺も聞きたいところだ」

 

 

 翔太郎の呟きに答える者が居た。振り返るとそこには赤い服で身を包んだ照井竜がこちらに歩んで来ていた。

 

 

「照井か。お前今まで何していたんだ?」

 

「お前が変身した際にな、所長に『フィリップ君が倒れたからバイクの運転が出来ない』と言われてな……」

 

「そぉぉゆぅぅうう事よッ!!」

 

 

───パァン!!

 

 

「っだぁ!!?」

 

 

 すると背後からスリッパで仮面ライダーの頭を引っ叩く者が現れる。まぁそんな事をする者は1人しかいない為、翔太郎はすぐに誰の仕業か理解できた。

 

 

「亜樹子てめぇ……」

 

『やぁ、アキちゃん。怪我は無いみたいだね』

 

「フィリップくん!バイクを運転している時に変身はやめてよね!あの時、本当に焦ったんだから!おかげで私はフィリップくんの体のお守りで置いてけぼり……ま、竜くんに来て貰ったから良かったけど!」

 

「と、言う事だ。左、俺の力が必要みたいだな」

 

「あぁ、そうだな。おい、亜樹子。アソコの家にさとりとその妹、そしてまた怪我を負ってる天倉がいる。様子を見に行ってくれねぇか?」

 

「え、私が行くの⁉︎と言うかまた怪我したの⁉︎」

 

 

「あぁ、俺達はアッチの相手をしないといけないからな」

 

 

 亜樹子の問いに対して翔太郎が指を指しながら答える。指した方向には複数のドーパントがコチラに歩み寄って来る光景が映っていた。

 

 

「と、言うわけだ。所長、下がっていてくれ」

 

Accel(アクセル)

 

「変……身ッ!」

 

 

 バイクのハンドルを模したベルトに赤のメモリを挿し込み、凄まじい熱が発せられると共に姿が赤の戦士へと変わっていく。

 

 

「さぁ、振り切るぜ!」

 

「んじゃ、俺達も行くか!」

 

 

 赤の仮面ライダーは大剣を、銀と緑の仮面ライダーは鉄棍を手にドーパント達へ立ち向かう。

 

 

『彼等が最上魁星の相手をしてくれるのは予想外だったが、コチラとしては有り難い!今の内に』

 

「あぁ、コイツらを倒してさっさと、最上の相手をするぞ!」

 

Heat Metal(ヒート メタル)

 

 

 仮面ライダーWは赤と銀の姿へ変わると、炎を纏った鉄棍を振るいドーパント達を薙ぎ払うかのように先程とは比べ物にならないパワーで圧倒する。

 仮面ライダーアクセルは凄まじい馬力により相手の防御を無視するように切り裂く。

 

 

Electric(エレクトリック)

 

「ハァッ!!」

 

 

 迸る電光がオクトパス・ドーパントを貫くと、動きが止まり照井はドライバーのグリップを捻り出す。

 

 

Accel MAXIMUM DRIVE(アクセル マキシマムドライブ)

 

「ハァァッ!!」

 

 

 膨大な熱エネルギーが脚に集中、アクセルの回し蹴りがオクトパス・ドーパントの首を捉える。そのままエネルギーと共にドーパントは吹き飛ばされて行き爆散する。そして爆散した後には元の警官がその場で倒れていた。

 

 

「どうやら多少荒っぽくしても問題無いみてぇだな」

 

『まとめて行こう翔太郎』

 

 

 ドーパントが元の姿に戻った事を確認するとコチラに飛んで来るクワガタのガジェットをメタルシャフトに装着させる。

 

 

Stag(スタッグ)

 

Metal MAXIMUM DRIVE(メタル マキシマムドライブ)

 

 

 メタルシャフトをヘッジホッグ・ドーパントとホーク・ドーパントの2体に向けると、クワガタのハサミを模した赤いエネルギーが形成され2体のドーパントをギリギリと万力で固定するかの如く挟み込む。

 

 

『「メタルスタッグブレイカー」』

 

 

 その言葉と共にエネルギーの圧に耐えられず、2体のドーパントは爆散。その場には2体のドーパントの代わりに2人の警察官が倒れる事となった。その光景を見てフゥと翔太郎とフィリップは少し安心したような態度を見せる。

 

 

「……っと!そういやあの三馬鹿はどうした?」

 

「三馬鹿……?あぁ、あの3人の事か?」

 

 

 翔太郎の言葉に照井が反応する。三馬鹿=赤羽、青羽、黄羽の3人と認識されている事に誰もツッコミを入れてない事に関しては追求しないでおこう。

 そんな事をしていると後方からズガン!と激しい戦闘の音が聞こえて来る。

 

 そこにはキャッスル・ドーパント達とギア・ドーパントである最上が戦っている光景が映っていた。

 

 

「オラァ!!」

 

「ほーう、中々の攻撃だ。ハイドープ一歩手前と言うところか?」

 

「ごちゃごちゃとウルセェ!」

 

 

 キャッスル・ドーパントの重厚な装甲によりギア・ドーパントの攻撃を受け止めると左右からスタッグ・ドーパントとオウル・ドーパントの2体が同時に攻撃を行う。

 

 

「フン」

 

 

 しかし、2体の攻撃は難なく受け止められてしまう。

 

 

「赤羽!」

 

「赤ちゃん今だよ!」

 

「む」

 

 

 その言葉に最上は2体のドーパントの攻撃は自分に隙を作る為の囮だと言う事に気付くが、キャッスル・ドーパントの額には既に緑色の光がギラリと輝いていた。

 

 

「ゼロ距離だ!!!」

 

──ズギュゥウウンッ!!

 

 

 緑の閃光が最上を呑み込む。レーザーによって吹き飛ばされた最上は肩で息をしながら立ち上がる。

 

 

「ハハ……中々やるじゃないか」

 

 

 最上の言葉に赤城はハッと鼻で笑う。

 

 

「ハンッ!俺達を何だと思ってやがる」

 

「いつまでも舐めてるんじゃねぇぞ」

 

「僕達はアンタの実験動物なんかじゃない!」

 

 

「おぉ、中々やんじゃねぇかアイツら」

 

 

 3人は片膝をついている最上を囲むようにして構える。翔太郎達は敵ながら頼もしいなと思うがフィリップが通る事を思い出す。

 

 

『待つんだ翔太郎、最上魁星の洗脳のトリックだが…』

 

「ん?それはヤツが作ったメモリを持っている奴に効くんだろ?」

 

「あぁ、先日の手口は職員に危険物としてメモリを提出していた。警察署の監視カメラにしっかりと映っていたからな」

 

『……ならば何故、彼等は……?』

 

 

 フィリップの呟きは誰にも届かず、風のように消えて無くなる。三羽烏はそのままトドメを刺そうと各々は技の準備に入る。

 

 

「さぁ……覚悟はいいか?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

 赤城の言葉に最上は答える。

 

 

「君達への()()()()()()

 

 

 そう言うと最上はRのメモリを取り出し、紫色の銃のスロットへ挿し込む。

 

 

「ッ!また誰かをドーパントに変えるつもりか!」

 

「あぁ、いや。コレはそう使うモノでは無い」

 

 

 その言葉と共に最上は()()()()()()()()()()()()()

 

 

「お前、何を───!」

 

「君達に見せよう……『カイザー』の力を」

 

 

 そのまま最上は銃の引き金を引くと、火薬の炸裂する音が空へ響き渡り、ギア・ドーパントの身体に変化が訪れる。

 

 ギア・ドーパントの胴体左側、左腕そして顔面の左側全体に青い歯車を模したパーツが追加されていた。

 

 

Remote Control Gear(リモート コントロール ギア)

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 その頃、少し離れた場所に2つの影があった。古明地さとりと天倉孫治郎の2人だ。

 

毒を受けた天倉を病院へ連れて行く筈の古明地さとりだったが、容態が急変したのだ。簡易だが上着を脱がせ、自分の服の一部を包帯代わりにして傷を塞ぎ顔色を伺う。

 

 

「……ハァ……ハァ……ッ!」

 

「天倉さん、しっかり意識を保って!」

 

「あ、……ッぐ……分かった……ッ」

 

(どうしよう……毒が徐々に強くなってきている)

 

 

 古明地さとりに医療に関する専門的な知識は無い。が、先程までと比べて容態が悪化している事は目に見えて分かる。毒の回りが早くなって来ているのだ。

 

 

「このままじゃ呼吸器官も麻痺、それどころか心臓の麻痺だって……!」

 

 

 病院に連れて行くには時間がかかりすぎる。せめてこの場で毒を何とかする事が出来れば彼を救う事が出来る。

 

 だが、自分にそんな"個性"は無い。今、目の前で苦しんでいる彼の心をの中を覗くしか能が無い自分を恨めしく思う。自分は無力だ。

そう思う彼女だったが必死に彼を助ける手立てを考える。

 

 

どうすればいい?どうすればこの状況を覆す事が出来る?

どうすれば─────

 

 

「方法ならありますよ」

 

「え?」

 

 

 そこには腕に不気味な人形を乗せた謎の男性が居た。その人物はコチラに近づいて来ると手に持っているアタッシュケースを地面に置き、その中からとある物を取り出した。

 

 

「それは?」

 

「彼のスポンサーが用意した物ですよ。やっと完成しましたが、訳あって渡すタイミングが遅れてしまいました」

 

 

 そう言うと重厚な赤の双眸のようなコアが組み込まれた黒いベルトを見せて来る。

 

 

「このベルトはコアから発せられる特殊パルスによって"個性因子"を刺激させ、彼の"個性"を発動、強化をさせる事が出来ます。このベルトを使えば体内にある毒を打ち消す事も可能でしょう」

 

「そ、それを使えば天倉さんは────」

 

「ただし」

 

 

 助けられるんですか?と言おうとした瞬間、男性の言葉によって遮られる。男性は古明地をジッと見つめながらベルトを渡して来る。

 

 

「ただし、あくまで無理矢理、体内にある毒を細胞の活性化で打ち消すだけです。ハッキリ言って身体に掛かる負担は凄まじいものです。最悪、彼はその負担に耐えきれずショック死と言う可能性もあります」

 

「────ッ!」

 

「さて………貴方はどうしますか?」

 

 

 と、男性は人形に向かって語りかける。彼の向いている方向は全く違うが、恐らく天倉に対しての言葉なのだろう。

 その問いに対して横になっている天倉は、何も答えずベルトに手を伸ばす。

 

 

「天倉さん何をッ⁉︎」

 

「あぁ、全く……鴻上さん、こんな物を用意してたなら早めに言って欲しかったな!」

 

 

 そのまま天倉はベルトを腰に巻くとバイクのハンドルのようなグリップを力強く捻る。

 

 

「ぐッ……あっ……がぁああ゛あああ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ッ!!」

 

「ほう……躊躇なく作動させるとは」

 

「何をしているんですか!」

 

 

 天倉の苦痛な絶叫が響き古明地は止めようとベルトに手を伸ばすが、その古明地の手を天倉が掴む。

 

 

「ぐ……が……だ、……だいじょぅ……ぶ…だからッ……!」

 

「でも……!」

 

 

 苦痛によって歪む天倉の表情に涙目となる古明地。だが天倉はそれを無理矢理、笑って心配させまいと親指を立て、サムズアップを見せる。

 

 

「ッ………!俺さ……、くしゃっとするんだよ……!」

 

「………え?」

 

「助けた人の笑顔を見るとき……物凄く嬉しくてさ……顔がくしゃっとなるんだよ」

 

 

 激しい痛みが天倉を襲っている。その筈なのだが、彼はフッと顔をくしゃっとさせる。

 

 

「俺は、誰かの笑顔を見る時、生きている実感を得る事が出来るんだ。俺は皆を笑顔にしたい。俺は皆の笑顔を守りたい。だから………」

 

 

「俺は戦う───ヒーローとして」

 

 

 覚悟を決めた少年の目には静かに燃ゆる炎が確かに揺らめいていた。

その覚悟を見届けず男性は一言だけ添えるとその場から立ち去って行った。

 

 

「貴方に良き終末を……」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「コレが『カイザー』って言う奴の力かよ……」

 

 

 翔太郎の目の前に三羽烏のドーパント達が成す術も無くギア・ドーパント改め、『カイザー』にやられている光景だった。カイザーは目の前で地に伏しているスタッグ・ドーパントに【命令】した。

 

 

「……立て」

 

「ッ⁉︎」

 

 

 地に伏していたスタッグ・ドーパントはその場に立ち上がりカイザーの前に直立不動の姿勢となる。

 

 

「ソイツを抑えろ」

 

「え、お、おい!赤羽、黄羽!何してんだよ!」

 

「わ、分からねぇ!身体が勝手に動くんだ」

 

 

 【命令】されたキャッスル・ドーパントとオウル・ドーパントは仲間であるスタッグ・ドーパントの腕を掴み動かないように固定させる。

 

 

「よし………そのまま動くな」

 

 

 そう言うと駆鱗煙銃の銃口をスタッグ・ドーパントに向け、引き金に指を掛ける。

 

 

「終わりだ」

 

 

 そのまま銃弾が放たれ、スタッグドーパントの頭が撃ち抜かれる───

 

 

──ドォン!!!

 

 

───ことはなかった。

 突如としてカイザーとドーパント達の間に爆発が発生する。爆風によって三羽烏のドーパント達は吹き飛ばされ、カイザーは腕をクロスさせるように咄嗟に防御の体勢を取っていた。

 

 

「……邪魔をしないで欲しいんだが」

 

「悪いな、みすみす放っておく訳にはいかないんだよ」

 

 

 赤と青の戦士と化した仮面ライダーは銃をクルクルと回し銃口をカイザーへ向け、カイザーもまた銃口を仮面ライダーへ向ける。

 

そして、お互いの銃から弾丸が放たれる。

 

 

 一発、一発。互いの弾丸は激しくぶつかり合い相殺され、一歩も譲らぬ銃撃戦。だが、弾丸の威力は仮面ライダーの方に分がある。

 

 しばらくして1、2発の炎の弾丸が相手の弾丸を飲み込み、カイザーに向かって直線上に放たれる。

 

 

「盾」

 

「何っ───がっ⁉︎」

 

 

 だが、キャッスル・ドーパントがカイザーの前に出て仮面ライダーの放った弾丸をその身で防いでしまう。

 

 

「おい、邪魔すんな!」

 

「知らねぇよ!俺だってこんな事したくてやってる訳じゃねぇんだよ」

 

『やはり先程、最上が自身に使用したメモリ……アレが他のドーパントを操る力の源となっているのか』

 

「なんだ、つまりアイツらは都合の良い盾にされてるって訳か」

 

『あぁ、恐らくは僕達との戦闘を視野に入れての事だろう』

 

「じゃ、どうすればヤツの能力を封じる事が出来る?」

 

 

 周囲のドーパントを操る事が可能ならば、決着を付けるのは難しくなってくる。翔太郎は冷静に分析を行うフィリップの知識でカイザーの攻略方法を訪ねる。

 

 

『簡単だ翔太郎。カイザーの力の元は"個性"だ。"個性"には必ず何かしらの発動の仕組みが存在する。操ると言う力も、カイザーの身体の何処かに発生機構が見られる筈だよ』

 

「そうか……おい、照井聞こえたか!」

 

「あぁ、勿論だ」

 

 

 少し離れた所で片膝をついていた照井こと、仮面ライダーアクセルは翔太郎の言葉に頷く。

 

 

『翔太郎、連続でマキシマムドライブを撃ち続けているが身体の負担は大丈夫かい?』

 

「あぁ、問題ねぇよ。フィリップ!気にしねぇでやるぞ」

 

『……分かった』

 

 

 その言葉と共にフィリップは相棒の言葉を信じる事にした。

 

 

「行け」

 

「───!」

 

 

 最上ことカイザーの言葉に3人は戦うべきではない者に牙を剥く。それに対して仮面ライダーWは冷静に『トリガーマグナム』にとあるモノを取り付ける。

 

 

「どうだフィリップ見つけたか?」

 

『いや、もう少しだ……もう少し引きつけてくれ』

 

 

 3体のドーパントがこちらに迫ってくる。その距離およそ7メートル、6、5、4、3、2、1────

 

 

『見つけた……!翔太郎!』

 

「あぁ!」

 

 

 フィリップの言葉を待っていましたと言わんばかりに翔太郎は青のメモリをトリガーマグナムにセット。

 

 

Spider(スパイダー)

 

Trigger MAXIMUM DRIVE(トリガー マキシマムドライブ)

 

 

『「トリガースパイダーブラスト」』

 

 

 銃口から網目状の弾丸が放たれ、3体のドーパントが包み込まれる。

 

 

「うおっ!な、何だコリャ!」

 

「あ、だだだっ⁉︎押すな黄羽!」

 

「だって狭いんだもん!」

 

 

「悪いな、3人共。そこでしばらくジッとしていてくれ……照井!」

 

「ハァァッ!!」

 

 

 翔太郎の言葉と共に照井は叫びながら大型剣エンジンブレードをカイザーに突き立てようとする。

 

 

「単調だな」

 

 

 しかし、カイザーの手にあるナイフによってアクセルの大型剣を受け止める。

 

 

「フン、そんな大声で叫ばれてはな……簡単に防げるものだな」

 

 

 嘲笑うかのようにカイザーは剣戟に持ち込むが、アクセルは仮面の下でフッと笑う。

 

 

「あぁ、そうだな……だが単調なのはお前の方だったようだ」

 

「何─────ッ!」

 

 

 背後から凄まじい熱を感じる。振り向くと、そこにはマキシマムドライブ発動の準備を終えた仮面ライダーWが立っていた。

 

 

「馬鹿な……先程までの銃撃の威力を察するに身体にかかる負担は凄まじい筈────ッ⁉︎」

 

 

 分析している最上の背後からアクセルが羽交い締めで拘束する。

 

 

「何をしている!貴様まで巻き込まれる可能性が───!」

 

「やれ!!左ッ!フィリップ!」

 

 

『既に準備は終えている。翔太郎!」

 

「あぁ、()()()()()

 

 

 仮面ライダーWはコウモリを模したガジェットを取り付けたトリガーマグナムの照準をカイザーの左胸に合わせる。

 

 

『「トリガーバットシューティング」』

 

 

 凄まじい熱量を持つ弾丸が銃口から放たれる。瞬間、アクセルはその場から飛び退き炎の弾丸はカイザーの左胸、歯車を模した装甲に命中し大きく吹き飛ばされる。

 

 

「ぐぅぅうッ─────!」

 

 

 しかし、空中に投げ飛ばされたカイザーは姿勢を直し、ガリガリと地面を削りながら着地を成功させる。

 

 

「お前の能力封じさせて貰ったぜ最上」

 

 

 翔太郎はそう言いながらカイザーの融解しかけた歯車の装甲に指を指す。

 

 

『カイザーの力は中々のものだが……、分は僕達の方が上のようだ』

 

「くっ、今すぐに網から抜け出せ!」

 

 

 その一言でカイザーの歯車の装甲が回転し始めるが、左胸の装甲のみギリギリと言う擦れる音が響き動く事はなかった。

 

 

『やっぱり、歯車の装甲が能力発動のメカニズムになっていたか……』

 

「成る程な……やっとお前は1人になった訳だ」

 

 

「──────いや」

 

 

 ユラリとカイザーである最上は立ち上がる。

 

 

「まだだ────まだ私は───終わる訳にはいかない」

 

「この期に及んでまだ───!」

 

「私はまだ……終わる訳にはいかなのだよ!!!」

 

 

 その一言と共に新たなメモリを取り出し、銃のスロットに挿し込むと再び己に向けて引き金に指を掛ける。

 

 

『ッ!待つんだ最上魁星!それ以上メモリの力を身体に取り込めば────』

 

「あぁ、どうなるか分からないな………が、何度も言った筈だ!私はここで終わる訳にはいかないとなぁ!!!」

 

『Engine《エンジン》』

 

「これが……潤動だ……ッ!」

 

 

───ドォン!!!

 

 

 

最上魁星に向かって銃弾が放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わりよお義父さん」

 

 

 見値子が放った弾丸により駆鱗煙銃が宙を舞う。そして、続け様に弾丸が放たれ、一発、二発と最上に命中すると、撃たれた最上はそのまま膝から崩れるように倒れる。

 

 

「……見値子さんアンタ」

 

「……すみません、皆さん。お義父さんが迷惑をかけてしまって」

 

 

 コスチュームを着た見値子が頭を下げる。目の前にいるこの男は犯罪者なのには変わらないだろう。だが、それと同時に自分の育ての親である。

 

 

この人(お義父さん)の所為でさとりちゃん、天倉くんに被害が及びました。……少なからず私にも責任があります」

 

「……アンタ、どうするつもりだ?」

 

「……この事件が終わったらヒーローを辞職しようと思います」

 

 

 見値子は作り笑いを浮かべる。心の中ではあらゆる感情が渦巻いている筈だ、それなのにこの人は決断したのだ。犯罪者である育ての親を自らの手で捕まえると

 

 

「……それで良いのか?」

 

「良いんです。……天倉くんだって、犯罪者が身内にいるようなヒーローが居たら……失望しちゃいますからね」

 

 

 ハハハと強がりながら彼女は笑う。その様子見て照井は否定する。

 

 

「見値子ソレは違う……彼ならきっと───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Funky Match』

 

 

「「「!」」」

 

 

『Fever!!』

 

 

 謎の音声と共にギャラギャリギャリと機械が作動する音がそこら中に響く。その音の発生源はすぐ近くに有った。

 

 

「待て!まだ最上魁星は終わっていない!!」

 

「何ッ────!」

 

 

 

 カガリガリと言う音を鳴らす。身体中に火花を散らしながらそこには先程とは全く違う青と赤の歯車の装甲を持つ怪人が立っていた。

 

 

『──Perfect』

 

「バイカイザー………ソレがコレの名前だ」

 

 

「メモリ3本分の力を取り込んだのか……!」

 

 

 ガリガリと歯車の噛み合う鳴り響かせ、バイカイザーはグッと手を握り締める。

 

 

「………本調子が出ない内に叩く!」

 

「おい、待て照井!」

 

「ハァァァアアアアッ!!!」

 

 

 叫びながらエンジンブレードを振るうアクセル。バイカイザーはアクセルの振るう剣を受け止めた。

 

 

「何ッ!」

 

「………」

 

 

 それに対してバイカイザーは歯車を回転させながら、アクセルを殴った。

 

 

「グッ────がっ!」

 

 

 エンジンブレードを盾にするがそれでも衝撃は受け止めきれず後方へ大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 

『馬鹿な……カイザーの時とは比べ物にならないパワーだ!』

 

「そうかよ……だったらもう一回、歯車を溶かして大人しくさせてやるよ!」

 

 

 翔太郎はそう言いながら炎の弾丸をバイカイザーに向け、連続で撃ち放つ。が、バイカイザーはソレを直立した姿勢で高速移動で回避し続ける。

 

 

「何だ気持ち悪い動きしやがって!」

 

『おそらく、エンジンの断続的なエネルギーを歯車の伝達力によってあのような動きを生み出しているんだろう』

 

「だからって、あんな動き出来んのかよ───!」

 

 

 気付いた時には既に時遅し、Wの前にバイカイザーが立っており、トリガーマグナム弾くと流さないようにWの首を鷲掴みにした後、何度も何度も力任せに殴りつける。

 

 

「ぐっ、このッ!」

 

Heat Joker(ヒート ジョーカー)

 

 

 肉弾戦に特化した赤と黒の形態に変化し、お返しと言わんばかりに炎を纏った殴りや蹴りを放つ。だがバイカイザーに効いている様子は見受けられない。

 

 

「コイツ……効いてないのか!」

 

『メモリ3本の力とは言え、ここまでの物なのか⁉︎』

 

 

 翔太郎とフィリップが驚愕する中、バイカイザーは不敵に笑う。

 

 

「フ……コレが私の集大成だ。コレがバイカイザーの力だ」

 

 

 その言葉と共に歯車の形をしたエネルギーが形成され、まるでチェーンソーのように回転したエネルギーはWの体に火花を散らしながらダメージを与えていく。

 

 

「ぐ……強ぇ……!」

 

「フフ、仮面ライダーも手も足も出ないか……私の成果はお前達を超えた。私の作った力は"個性"をも遥かに凌駕する!私の力は世界を変える───」

 

 

──ガァン!

 

 

「……折角の良い気分を台無しにするのはやめてくれないか?見値子」

 

「……黙りなさい!貴方の作った力は世界を変える物じゃない!貴方の力は別の人から奪った"個性"で出来ている!力に溺れて過信するのは良くないわね……!」

 

 

 不敵な笑みを浮かべながら銃口をバイカイザーに向ける見値子。

 

 

『見値子!何をやっている!貴女ではバイカイザーに勝てる要素は……!』

 

「その通りだ」

 

 

 バイカイザーは娘である見値子の首を鷲掴みにする。そのまま持ち上げるとギリギリと手の力を強めていく。

 

 

「───ッ!」

 

「どうした?もう終わりか?」

 

『やめろ!その人は貴方の娘だぞ!』

 

「あぁ、そう言えばそうだったな………ところでヒーローにとって名誉ある死と言うのは何だと思う?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、フィリップは激昂する。

 

 

『自分の子に死ねって言うのかッ!!』

 

「あぁ、その通りだ。良かったな見値子、君は敵との戦闘によって殉職してしまうが君の名前は広く伝わる事になるだろう」

 

「ぐッ……やめろ最上……!」

 

 

 バイカイザーは空いている片方の手を握り締め、拳を振るう。

 

 

「さらばだ。我が娘よお前との思い出は──────」

 

 

 

「でぇぁぁああああッ!!!」

 

 

瞬間、バイカイザーの見値子を掴んでいた腕に衝撃が走る。死角からの不意打ちにより体勢を崩してしまう。

 

 

「お前は──────!」

 

 

「……天倉君、何故君がここにいるのかな?」

 

 

 ゼェゼェと肩で息をしながら、バイカイザーの腕に蹴りを入れ見値子を助けた者の正体。それは毒によってもはや動く事すら出来ない筈の天倉孫治郎本人だった。

 

 

「君には強力な毒によって苦しんでいる筈だが……どうやって治した?」

 

「そんな事……俺が知るか」

 

 

 鋭い目付きでコチラを見据える天倉にバイカイザーはクク、と笑みを漏らす。

 

 

「まさか……その状態で私とやり合うつもりかな?」

 

「やめろ天倉!お前が出る幕じゃ───」

 

「今の俺はまだ、戦闘許可が解けていない」

 

 

 そう言うと、天倉は赤い目のような装飾が存在する黒のベルトを腰に回す。

 

 

(あぁ、毒の所為かやっと目が覚めた)

 

 

 そしてベルトに付けられている赤いグリップを握り締める。

 

 

(俺は常に皆の笑顔を守るヒーローで在りたい。昔からそれは変わらない)

 

 

 心の中で鎮められていた炎が再点火する。

 

笑顔が好きだ。誰を助けた時に見せるホッとしたような笑顔が大好きだ。戦う理由はそれだけでいい。

 

 

──俺は何なんだ?

 

 

「(そんなの決まっている………)覚悟しろ茂加味快青……いや最上魁星。アンタの研究成果を、アンタの下らない考えごとぶっ潰す」

 

 

「ほぉ…いい表情(かお)だ……。君の目的とヒーローネームは?」

 

 

「『笑顔』。俺は───」

 

『──Ω──』

 

 

 グリップを力強く捻り、己の名前(ヒーローネーム)を口にする。

 

 

 

「────アマゾン

 

 

 緑の爆炎が周り空気を燃やすかのように広がる。そこにあるのは赤い傷のような模様を持つ緑色の戦士。

 

 

『Evolu・E・Evolution』

 

「心の火……心火(しんか)だ」

 

 

 拳と手の平を打ち合わせた戦士は赤の双眸をギラリと輝かせる。

 

 

 

「心火を燃やして……ぶっ潰す……ッ!」

 

 

 そう言った直後、バイカイザーはアマゾンの眼前に接近すると、拳を顔面に向かって振るう。

 

 

──ガッ!!!

 

 

「ほぅ……」

 

「その程度かテメェ……」

 

 

 そう言うと空いている手を握り締め、バイカイザーの顔面に拳を叩き込む。そこから蹴りを拳を、蹴り、蹴り、拳を何度も何度もバイカイザーに打ち込んでいく。

 

 

「オラァ!!!」

 

「フン」

 

 

 だが、アマゾンの拳を受け止めたバイカイザーは腕の歯車を回転させるとそのままチェーンソーの要領でアマゾンの胸を切り裂く。

 ダラダラと裂けた胸から血を流すアマゾンに勝ち誇ったような笑みを漏らすバイカイザー。

 

 

「フ、どうしたもう終わr「ラァァァアアアッ!!!」──ッ!」

 

 

 しかし、アマゾンの攻撃は再開される。傷が元から無かったかのようにアマゾンはバイカイザーに攻撃を何度も叩き込んでいく。その様子を見た照井は剣を杖の代わりにして立ち上がる。

 

 

「……不味いぞ天倉……」

 

『あぁ、痛覚が完全に麻痺されている』

 

 

 人は闘争、もしくは逃走と言った極限状態に陥るとアドレナリンが分泌される。アドレナリンの分泌によって痛覚を麻痺させ、判断を鈍らせないような仕組みとなっている。

 

 本来、飢餓、生命の危機によって生き物は生き残る為にアドレナリンが分泌されるものだ。

しかし、天倉孫治郎の受けたストレスは尋常じゃない量のものだ。その為、脳内のリミッターが外され、いつも以上に身体の限界以上を負担が天倉にかかっている。

 

 

『このままでは天倉の身体は壊れる』

 

 

 だと言うのに、それを理解している筈の本人は

 

 

「オラァッ!!死ねぇッ!!」

 

「クク、どうした。その程度なのか!」

 

 

 戦っている。

 彼の戦うその姿は正に自分達と同じ仮面ライダーではないか。

 

 

「ドルァッ!!!」

 

「ぐ……いい加減にしてもらおうか!」

 

 

 蹴りがバイカイザーの首を捉える。が、凄まじいパワーで無理矢理、アマゾンの蹴りを弾くと腕の歯車を高速で回転させ、アマゾンに向かって振り下ろす。

 

 

「───ッ!!」

 

 

 高速回転する歯車をアマゾンは受け止めるが、ガリガリ歯車が手の平を削っていき、バイカイザーの歯車に鮮血が付着する。

 

 

「……っ天倉くん……!それ以上は!」

 

 

 見値子が止めるように呼びかける。それ以上受け止めようとすれば手が抉れ、最悪の場合、肘から先が無くなるだろう。

 

 

「────ッウォォォォオオオオオオオオッ!!」

 

「止めようとしているのか?無駄だ!バイカイザーの力は君の"個性"を遥かに上回る!君では私に勝つ事など不可能だ!」

 

 

 歯車の回転スピードを更にあげる。それと同時に手の平の出血量が多くなる。

このままでは、見値子が考える通り天倉の手が使い物にならないものとなってしまうだろう。

 

 

「不可能だと────」

 

 

 だが天倉は、その考えを打ち砕く。

 

 

「不可能だと───誰が決めたァ!!ウォォォアァァアァァァァァアアアアアッッッッ!!!」

 

 

 

 天倉、いやアマゾンは高速回転する歯車を両手で受け止める。声にならない程の叫び。

そして絶叫が止む瞬間、ピタリと回転していた筈の歯車が止まった。

 

 

「な───────」

 

「キツイの行くぞゴルァァァァアアアアアアアアッッ!!」

 

 

 瞬間、アマゾンの拳が爆ぜる。

いや、爆ぜるように炎が噴き出たと言った方が正しいだろうか?血に塗れた拳がバイカイザーの顎を捉え、大きく後方へ殴り飛ばした。

 

 

「ッ───何⁉︎」

 

「まだ終わりじゃねぇぞ………ッ!!」

 

 

 その一言と共に天倉は再びグリップを握り、更なる力を求め叫ぶ。

 

 

「超……変身……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

──その時、不思議な事が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 その場に居た者達は天倉の、その姿に目を疑う。

 

 

 

 ごう、と天倉の身体中から炎が燃え盛る。

 比喩でもイメージによるものでもない。天倉孫治郎の身体から爆炎が溢れ出しているのだ。

 

 

 身体の一部は黒い岩石の如く、皮膚は燃ゆる炎の如く、身体の中に流れる血はマグマの如く。

 極限状態の中、天倉は新たな力を手に入れたのだ。

 

 

「力が溢れる……」

 

 

「魂が燃える……!」

 

 

 

俺の血潮(マグマ)が迸るッ!!

 

 

 

 




 天倉にドルオタと筋肉バカがログインしました。


胸糞展開、鬱展開を好むのは読者の勝手だ。けどそうなった場合、誰が鬱フラグクラッシャーになると思う?

万丈だ(やりたかっただけ)




天倉新フォーム

アマゾン極熱筋肉形態(マグマエクシード)

 多大なストレスに天倉の爆発力がプラスされ不思議な事が起こって誕生した超物理特化型形態。
身体の筋肉が肥大化し、筋力が大きく強化されている。更に、身体から噴き出る炎によって攻撃に応用する事も可能となっており


 だが実際は、血液が極限まで熱され沸騰している為、全身が赤くなり、纏わりついている炎は体外に出た血液、皮膚が発火した物。
皮膚の一部は黒く炭化し、他の皮膚は溶けてしまい熱を帯びた皮下組織が剥き出しになっている。
暑そう(小並感)



 挿絵に関しては、アプリで絵を描けるようなヤツをインストールしたので本格的に色を塗ってみました。

めっさ暑そう(小並感)





今回の黒幕が作成メモリですが、人の体の一部(細胞等)を埋め込む事によって擬似的にその個性に見合った身体へ変化させると言ったものになります。

原作版ヒロアカを見ている人なら分かると思いますが"エリちゃん"の個性破壊弾と同じようなものですね。





the誰得な情報

茂加味(しげかみ) 快青(かいせい)】という名前、これを平仮名に戻してもう一度漢字に直します。

茂→しげ→も→最

加味→かみ→上

快→かい→魁

青→せい→星


これら並べるとあーら不思議。
最上(もがみ) 魁星(かいせい)】になります。皆分かったかな?




 ちなみに今回出したオクトパス・ドーパント、ホーク・ドーパント、ヘッジホッグ・ドーパントは仮面ライダービルドの序盤に出てきたスマッシュをモチーフにしています。

 そう言えば、ミラージュ・スマッシュを覚えている人いますかねぇ。
個人的にあのデザイン好きなんですが……何故に黒くなって出てこなかったのかコレガワカラナイ。





前回の後書きを見ていない人用にここでもお知らせ。

 新しい小説を書くに至って、小説のアイデアが2つあります。そのどちらが良いか活動報告でアンケートを取っています。
選択肢としては『おっぱい』と『中二病』になります。

こ れ は ひ ど い


【注意】
 アンケートを取るのは活動報告欄なので感想欄にアンケートの答えは書かないで下さい。


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