個性以前に個性的な奴等ばかりなんですけど   作:ゴランド

49 / 61
 なんでかずみん死んでまうん?なんで幻さん死んでまうん?なんで万丈逝ってしまうん?

おのれエボルト。と言うかエボルト強過ぎませんか?RX先輩が真っ向勝負で挑んでも『その時不思議な事が起こった』補正すらも効かない気がする……。


と言う訳で久しぶりの投稿になります。

あと、活動報告の方でアンケートを取っているので気軽に参加をして下さい。


第45話 これでE/君も最初から

「─────────」

 

 

 

 気が付いたら俺は医者の目の前に座っていた。いや、気が付くと言うよりは多分記憶がすっ飛んで、覚えていないんだと思う。

 

 

「うーん……いやね?本当ッッッッッに心配なんだけどね?君、信じられないスピードで傷が完治しちゃったのよ。いや、後遺症も全く無い感じだからもう退院OKって事で………聞いてる?」

 

「はい」

 

「うん。なら良いんだけど、はいコレ薬。食後に2錠ずつしっかり飲んでね」

 

 

 医者がコチラをゾンビでも見るような目を向けてくる。どうやら俺は退院できるようだ。何と言うか狭い病室、味の薄い食事、満足に行動できない事から解放され、喜ぶべきなのだろう。

 

………でも、何というかスッキリしない。

 

 

「この驚きの回復力!とても興味深い!」

 

「天倉くん!もう傷は平気なの?」

 

 

 この声は………あぁ、亜樹子さんとフィリップさんか。わざわざ待ってくれたんだ。しっかり挨拶しておかないと。

 

 

「────お気遣いなく、大丈夫です」

 

「……ね、ねぇ。ところで火焔猫ちゃん見たかったんだよね」

 

「そうですね。あとは警察の方々と見値根さんに任せましょう」

 

「………天倉くん?」

 

 

 それにしても疲れた………それにしても翔太郎さん達は何をしてるのだろうか?やっぱり事件解決に集中してるのだろうか?

それならば俺は邪魔にならないようにしないといけないな。

 

 

「ねぇ、酷い顔だよ。大丈夫なの?」

 

 

 亜樹子さんにそう言われポケットの中に入れておいたスマホの画面を鏡の代わりにして自分の顔を覗き込む。目の下には隈が出来ており、心なしか生気が無いようにも見える。

 

 

「────大丈夫ですよ、これくらいヘッチャラっす」

 

 

 とりあえず強がる。迷惑をかけちゃダメだ。少し身体がフラフラするがすぐに治るだろう。

 

 

「嘘………絶対に無理してる」

 

 

……………

 

 

「いやいや、大丈夫ですよこれくらい。大したことは───

 

 

スパァンッ!!!

 

 

「痛ッ」

 

「いい加減にしなさい!」

 

え?殴られた?解せぬ。父に殴られた事もないのに……殴った事はあるけど。

いや、正しくはスリッパで叩かれた。何時もながら亜樹子さんは何処にスリッパを隠し持っているのだろうか?

 

 

「いい加減って……、自分で言うのもなんですが少し疲れてますがもう体はピンピンしてますよ?どこも心配する所なんてないですよ?」

 

「私が言いたいのはそうじゃないの!どうして()()()()()()()()()()()()⁉︎」

 

 

…………そう言われてもなぁ。

 

 

「………天倉くん、君については既に検索済みだ」

 

「……それ、前に聞きましたね」

 

「あぁ、プロフィールも、好きな食べ物も、苦手な事も、過去の事も全部だ」

 

 

「────過去の事ですか?」

 

 

「その通りだ。単刀直入に言おう、君は何故、()()()()()()()()?」

 

 

信用していない?

 

………………ハハ、やだなぁ。

 

 

「そんな事ないですよ。俺はちゃんと亜樹子さんやフィリップさん、翔太郎さん達の事を信用してますよ?」

 

「…………話を進めよう。君は過去に起こった事、それによって人格が歪んでしまった。"行き過ぎた自己犠牲"や"低過ぎる自己評価"、"被害妄想"。ソレらについて聞いておかないといけない」

 

「………なんで今、そんな事を聞くんですか?そんな事、どうでもいいじゃないですか」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「(どうでもいいか……)それはダメだ。これは君の為にもなる」

 

 

 フィリップは彼の事について既に調べ終わっている。しかし実際の天倉孫治郎という少年を前にして、直感した。

 

 

────このままでは壊れてしまう。

 

 

身体的な意味でも精神的な意味でもだ。

彼は近いうちに破滅する。己が身を犠牲にしてヒーローらしく……無残にだ。

フィリップは先の戦いで彼の狂気を垣間見た。いや、アレはもはやヒーローでは無い。

 

 兵器、いや確か別の言葉では鉄砲玉と言うべきだろうか?彼は自身の身を案じていない。いや、理解できていない。彼は昔の自分と似ている─────

 

 

「俺の事なんかどうでも────」

 

 

ここで言っておかなければ彼は止まらない。一刻も早く彼を止めなければいけない。その為にはどう言葉をかければいい?相棒ならどう言葉を掛ける?

フィリップはしばらく考えた後、口を開く。

 

 

「僕は──「ふざけないでよ!!自分の事どうでもいいって一端のヒーローにでもなったつもりなの!?」亜樹子ちゃん⁉︎」

 

「さっきから聞いていれば!何なのよ!どうでもいいって?どうでもいいワケないに決まってるでしょ!!!」

 

 

 フィリップは自分の言葉を遮るように叫ぶ亜樹子に驚きつつも彼女の言葉に耳を傾ける。

彼女なら─────

 

 

「………すみません、ちょっと頭を冷やしてきます」

 

「ちょ、ちょっと!まだ話は終わってな────」

 

 

 

「放っておいてください!俺なんかと話しても時間の無駄になるだけです!役に立たない俺の事なんかよりも事件を優先にしてください!」

 

 

 無理矢理、亜樹子の話を遮るように…いや、避けるかのように天倉は病院の外へ出て行ってしまう。後を追おうとしている彼女をフィリップは止める。

 

 言い過ぎてしまったのだろうか。

 自分自身でも何かを知りたいと言う衝動を抑えられず暴走してしまう。自覚しているつもりだが、またやってしまった。

彼はそう考える。今の彼には時間が必要なのかもしれない。

 

 

 もしも相棒がこの場に居てくれれば自分達よりも適切な言葉を掛けてあげられたのではないか?と思いながら逃げ出すように走っていく天倉の後ろ姿を見る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「………違う、違う違う違う違う違う違う違う違うッ俺はそんな事考えていない」

 

 

 そう呟きながら走る。

否定し続けながら逃げるように走る……それなのに頭の中に言葉が聞こえる。

 

 

『やっぱりそうだ。コイツが全部悪いんだ』

『全部ヤツの所為だ』

『近づくな襲われるぞ!』

 

 

「違う。俺は………俺は………!」

 

 

 

────近付かないでよ、この化け物ッ!!

 

 

 

 

 

………どうして、皆俺を嫌うんだろう?俺は皆を助けようとしてるのに?

 

 少年は現実を知った。否、思い知らされた。世の中はテレビや漫画などの空想のヒーローを求めていない。

 

 

 

 真に求めているのは都合の良いヒーロー(マシーン)だ。何も言わず考えず、感じず、ただ民衆に被害が及ばないような都合の良いヒーローを彼等は求める。初めから分かってた事だ。自分の存在意義とはこの力を使い、誰かを救う事。

 

 

 喝采や讃頌なんて必要無い。ただ自身と引き換えに他人の命を救う事を考えていれば良いのだ。その障害は何であろうとも取り除かなければならない。

 なのに何故だろうか?何かを見失っている気がしてならない。

 

 

……本当にコレで良かったのだろうか?

 

 

「……探さないと」

 

 

だが彼はすぐさまそんな事をよりも彼女を探す事を優先する。

 

 

「早く古明地さんを救わないと……」

 

 

 優先するのは彼女を助ける事だ。そう自分に言い聞かせながら彼は走る。どうすれば良いのかは動いてから考えれば良い。

当てのないまま、彼は走る。

 

早く救わなければ。

 

早く助けなければ。

 

 

「………そういえばあの娘……」

 

 

 天倉は火焔猫燐の事を思い出した。彼女は何かしら事件に関わっていた。もしかしたら彼女ならば何か知っているかもしれない。

 

そう考えた彼は警察署の方へ足を進めようとする。

 

 

「……?」

 

 

 だが、天倉の目の前に一匹の猫が居た。金色の目を輝かせコチラを見つめているように思える。体型は少し太り気味だろうか?この体型から察するに誰かが飼っている猫なのだろう。

天倉はその猫を無視して警察署へ行こうとするが

 

 

「ナァ……」

 

 

 "猫が自分に何かを訴えかけている"。天倉の第六感がそう告げている。しかし、あくまで第六感。あてになると問われれば答えるのは難しいだろう。

だが、この猫はまるで『自分について来い』と言わんばかりにコチラに対して目で訴えかけてると天倉は直感した。

 

 

 こんな事をしている場合では無い。その筈なのだが………。

 

 

「………ナァ!」『オラ、さっさと来いって言ってんだよ』

 

 

「…………」

 

 

 物凄く偉そうな言葉が頭の中に浮かび上がって来た。改めてこんな猫について行くのはどうだろうか?としばらく考えた結果、天倉は自分の第六感と猫の"言葉"を信じる事にした。

 

 

「ナァ!」

 

「はいはい、わかったよ。ついて行きますよ」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 しばらく歩いて十数分は経っただろうか。未だにこの猫の目的は分からないままだ。こんな事をしている場合では無い筈なのに、何故自分はこんな事をしているのだろう?

 

 そう言った疑問が頭の中に浮かび上がってくる中、猫はまだ歩き続ける。

 

 

「あのさぁ、一体いつまで歩き続ければ良いの?」

 

「………」

 

 

 何の反応も見せない猫に対して天倉は額を抑えながら「あぁ、こんなんになるんだったら素直に警察署の方に行っておけばよかった」と心の中で後悔する。

 

 

(いやいや落ち着け、たかが猫じゃないか。こんな事でいちいち怒るな。えーっとこんな時は……なんだっけ?素数を数えればいいんだっけ?)

 

 

 そんな事をしばらく考え、ふと意識を猫の方に戻すと……そこには何も居なかった。

 

 

「─────え」

 

 

 まるで最初から何も無かったかのように目の前で歩いていた猫は姿を消し、その場には影も形も無かった。まるで狐につつまれたかのように天倉はその場で呆然と立ち尽くし頭の中が真っ白になる。

 

 

「………あの猫ォ……」

 

 

 イライラするんだよォと言わんばかりに青筋を立てる天倉だが、時間を無駄に使ってしまった事に対し、すぐにガックリと項垂れてしまう。

 

 

「あぁ、クソ。こんな事をしてる暇無いのに……」

 

 

 焦りと後悔が同時に襲って来るが本来の目的を果たすために、どうすればいいかを思考する。

まずは古明地さとりの知人から当たってみるか?と考えていると

 

 

「おや……?天倉くんじゃないか」

 

 

 道の角から見覚えのある人物。『茂加味 快青』と鉢合わせた。

この人は"個性"について研究をしている科学者にして古明地さとりとも関係性のある人物だ。

 

グッドタイミングと言わんばかりに天倉は茂加味に声を掛ける。

 

 

「茂加味さん!」

 

「やはり天倉くんか。丁度良かった、私も君に話があったんだ」

 

「話……ですか?」

 

「まぁ、立ち話もなんだ。私の家に上がりなさい」

 

 

 そう言われて天倉は気がつく。天倉は茂加味の自宅前の道に佇んでいたのだ。どうやら知らない内に此処へ来てしまっていたらしい。

 

 

(………もしかして、あの猫は……)

 

 

此処に連れて来たかったのか?と一瞬考えたが、流石にそんな事あるわけないだろうとその考えを一蹴する。

 

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて………?」

 

「…ん、どうかしたかね」

 

「あ、いえ。別になんでも」

 

 

天倉は何もなかったかのように再び歩みを進める。だが何故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()考えてしまったのだろうか?

 

………やめておこう。

こんな事を考えるなんて失礼じゃないか。と自分に言い聞かせながら天倉は歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

………目が醒める。何だろう、頭が少しクラクラする。

何処だろう此処は?

私は確か………?軽く見渡すと全身を赤いコーデに身を包んだ男性が腕を組んでコチラを見ていた。

 

………私自身、赤の色は好きだが全身を赤で身を包むのは如何だろうか?そう思っているとその人はコチラに近づいて来る。

 

 

「気が付いたか?」

 

「……えっと、誰?」

 

「照井竜。ただの警察だ」

 

「へぇー、けいさつ………警察ゥ⁉︎」

 

 

ななななな、何で!!?何で警察が私の目の前にいるの⁉︎ナンデ!?

パニックになる私だが、逆に目の前の男性は冷静だ。

 

 

「質問を続けよう。自分の名前は言えるか?」

 

「えっ、名前?」

 

名前?私の名前は…………。

 

火焔猫 燐(かえんびょう りん)。そうだ、コレが私の名前だ。と言うか自分の名前を忘れるなんて記憶喪失じゃあるまいし、この人、照井さんは一体私に何を聞きたいのだろうか?

 

一応、照井さんに私の名前を伝える。

 

 

「どうやら意識はハッキリしているようだな。それでは本題に入ろう、古明地さとりについて知ってるか?」

 

 

え?古明地さとりって………。さとり様の事かな?どうしてさとり様の名前がここで出て来るんだろう?

 

 

「えっと、さとり様がどうかしたんですか?」

 

「(様付け………?)あぁ、君は彼女に何かを渡した筈なんだが……覚えているか?」

 

「渡した……?」

 

 

うーん?なんだろう。さとり様に……何か渡したっけ?全く覚えてないと言うか、全く記憶に無いんだけどなぁ?

 

 

「そうか……、それじゃあコレに見覚えは?」

 

 

すると照井さんは私の前に長方形の……USBメモリ?を見せてくる。

 

 

「………?えっと、何ですかコレ」

 

「知らないのか?」

 

「知らないと言うか、こんなモノ見た事も無いですよ?」

 

 

すると照井さんはしばらく何かを考えるような動作を見せる。

……だけどなぁ、このメモリ……見た事無い筈なのに何か記憶に引っかかるんだよねぇ。

 

 

「……本当に知らないのか?」

 

「えぇっと、……分からないです。でも……」

 

 

うーん?何だろう。まるでフタをされたような感覚で物凄く引っかかるんだよね。

 

何だったっけ?えーと確か私、誰かと約束していた筈なんだけどなぁ……。

 

 

「えっとさ、照井さん。さっきまで私って誰かと話していなかった?」

 

「誰かと?天倉孫治郎の事か」

 

「あま……くら?」

 

 

違う。私が約束していた人はそんな名前じゃ無かった。

その人の名前は………あれ?忘れちゃいけない大切な……大切な誰かだった筈なのに。

 

何でその人の名前が思い出せないの?

 

 

「えっ?どうして?……どうして⁉︎何で思い出せないの⁉︎」

 

「落ち着け!一体どうしたんだ?」

 

「分からない。大切な……そう、友達。友達の名前が分からない。何で?何で思い出せないの⁉︎どうして⁉︎」

 

 

どうして⁉︎何で思い出せないの⁉︎何で大切な友達の名前が出てこないの?

 

 

うにゅ?どうしたのお燐。何で悲しそうな顔をしてるの?

ねぇねぇ、コレさお義父さんが作ったモノなんだけどさ!使ってみてよ!

 

お空……⁉︎どうして、知っているのに……名前が出ないの?

 

 

「うっ……くぅ………」

 

「どうした⁉︎しっかりしろ!」

 

「あ……()()()を……!早く止めないと……!」

 

 

思い出した。いや、思い出してしまった……ごめんなさい……照井さん、さとり様。私、取り返しのつかない事をしちゃった……。

 

 

「あの人……?誰なんだソイツは!」

 

「照井さん!」

 

「見値子さんか、どうしたんだ。そんなに慌てて」

 

「実は警察病院から───────

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

 

「さとり君にはね、一つ下の妹。古明地こいしが居るんだよ」

 

「こいし……?古明地さんの妹の?」

 

 

 天倉は茂加味に出された飲み物を口に含みながら話に耳を傾ける。古明地さとりが居そうな場所を特定するにはまず、彼女について知らなければならない。

こう言った情報はフィリップから話を聞けば良いのだろうが、

 

──君はヒーローじゃない。

 

そう言われるのがオチだろうと考え自分の目と耳で確かめる事にしたのだ。

 

 

「彼女は何というか天真爛漫でね、空と同じくらい元気な子なんだよ」

 

「へぇー、そんな子がいるんですね」

 

「あぁ、色々あって今は隣の部屋で寝ているがね」

 

 

 隣の部屋にいるのか……と少し驚きつつ、出された飲み物をグッと飲み干す。すると、天倉は古明地さとりと茂加味が妹について会話していた事を思いだしながら会話の続きを聞く。

 

 

「彼女はね、"個性"が異常なまでに強力なんだよ」

 

「強力?」

 

「あぁ、と言ってもオールマイトや君のような身体を強化するものではなく、精神的に大きく作用するものなんだ」

 

 

 精神的に作用するものと聞き、普通科の心操の"個性"【洗脳】を連想させる。古明地さとりの"個性"【読心】も一応、それに分類されるのだろうかと考える。

 

 

「"無意識"と言うのは知ってるかね?」

 

「無意識って言うと……意識が無い状態の事ですよね?」

 

「そうだね、無意識は「意識がない状態」と「心のなかの意識でない或る領域」の二つの意味があるが君が言ったのは前者の方だ」

 

「意識でない或る領域?」

 

「難しい話になるが…人は一生の内に経験した膨大な量の記憶を脳に刻み込む。そんな膨大な量の一部の記憶をフッと思い出す事を想起と言うが……そんな中で思い出せない記憶も存在する」

 

 

 物凄く難しそうな話に天倉の表情は強張る。こんな話ならばフィリップや八百万辺りならば喜んで聞きそうだがまだ高校1年の生徒には理解出来そうにない内容だ。

 

 

「では、生涯において二度と思い出せない記憶は何処にあるのか?そこで先程の「心のなかの意識でない或る領域」だ。インターネットと同じく、あくまで私達が意識しているのは記憶の表層部分に過ぎない。意識外の領域、インターネットで言う深層ウェブ。無意識にこそ人の本質、"個性"についても関わって来るんだと私は思うのだ!そうなって来ると───」

 

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ、もう大丈夫です!分かりました!分かりましたから、迫りながら言うのはやめて下さい!」

 

「……と、済まなかったね。それでさっきの続きだが」

 

 

 まだ話すのか……と天倉は頭を抱える。自分はあくまで古明地こいしではなく、古明地さとりの話を聞きに来たのだが何故こうなってしまったのだろうか?

 

 

「まだ続きますか?俺はあくまで古明地さとりさんの話を「もしも、古明地こいし君が"無意識"を操れたら?」……え?」

 

「無意識を操ると言うのは、恐ろしいと思わないかね?」

 

 

 一瞬、何を言ってるか天倉は理解出来なかったが、不思議と心では何処か分かりきったような感覚を覚えた。

 

 

「古明地こいし君の"個性"はね【無意識】なんだよ。自分を意識の対象から外し相手から無意識の存在として気付かれる事なく動き回る事ができ、相手の意識を無意識に変える事も可能なんだ」

 

「それって……⁉︎」

 

「あぁ、洗脳よりも凄まじいものだよ。無意識で行動した者はあくまで意識して動いたわけじゃ無いんだ。無意識で動いた本人は自分が何をしているか覚えている事も無く、理解すら出来ない」

 

 

 本来の使い方とは違うが天倉は敢えてこの言葉を選んだ。

何なんだそのチートじみた"個性"は……⁉︎

 

そんな"個性"があれば容易に人を操る事も可能であり、ヒーローとしても敵としてもとてつもない力を発揮するだろう。もしも、そんな"個性"がテロなどに使われたらと考えてしまうがその考えを遮るように茂加味は再び口を開く。

 

 

「しかも、その"個性"の対象は相手だけに留まらず自分にまで影響を与えてしまってるんだ」

 

「……! まさか"個性"の暴走⁉︎」

 

「そうだ。さとり君に相談された時は驚愕したものだよ……。なんせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね。"個性"の影響で記憶が全て「意識外の領域」に落ちてしまったんだろう。両親どころか実姉の事すら覚えていないのだから───

 

 

 

━━━ゴッ!!

 

 

 天倉は自分の顔を殴った。

 

 

「くそっ……なんだよ全く古明地さんの事を知らないんだよ俺は……!」

 

 

口の中を切った所為か、タラリと口端から血が流れる。

彼はただ悔しかった。

ヒーローを目指すものとして知らない事が多過ぎた。

ヒーローとして行動するには若かった。

 

1人の人間として、あんな女の子の事を理解できていなかった。

 

どうして、自分はその娘を守り抜く事が出来なかったのだろう。

 

 

「………安心してくれ天倉くん。さとり君の居場所なら見当がつく」

 

「……!本当ですかッ!」

 

「正確にはさとり君が必ず来るであろう所だ」

 

「ありがとうございます!それで、その────

 

 

 

 場所は?と問おうとした瞬間、天倉のポケットからヴヴヴと言う振動を感じた。おそらく誰かからの連絡だろう。茂加味の断りを入れた後、天倉は古明地の元に急ぐ為に手早く済ませようと電話に出る。

 

 

『天倉くん!聴こえる?』

 

「あれ、見値子さん。どうしたんですか?そんなに慌てて」

 

 

 初めて会った時とはイメージが全く違う事に慣れつつある天倉だったが古明地さとりの居る場所に見当がついた為、ソレを伝えおこうと口を開くが電話越しに、見値子の声が絶えず伝わって来る。

 

 

『落ち着いて聞いて。さっき警察病院から赤城、青鋏、黄梟の3人が脱走したの!』

 

「え?だ、脱走⁉︎」

 

『えぇ、しかも3人はドーパントへ姿を変えたの!』

 

「えっ⁉︎ガイアメモリはどうしたんですか!なんで管理を怠って──」

 

『違うの!あの3人は()()()()()()()()()()()()()のよ!』

 

「─────うん?」

 

 

 天倉は自分の耳を疑った。ガイアメモリ無しで変身した?どう言う事だ?確かその3人は無個性だった筈だ。それなのにどうして?

 

 

『驚くのも無理は無いわ!だけど気を付けて、もしかしたら3人は貴方を狙っている可能性もあるの!気を付け───

 

 

 電話越しにそう聴こえた瞬間、そこから声が途切れた。スマホの充電切れだろうか?それとも故障だろうか?

否、自分の身体が地に伏せていたのだ。それと同時に背中に熱と重さを感じた。後からやって来た鈍い痛みによってようやくその状況を理解できた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 何故こんな所にドーパントが⁉︎そんな事を疑問に思いながら天倉は拘束を抜け出す為に身体を動かす。

 

 

「ッ!!!」

 

 

━━ゴッ!

 

 

 天倉は体を反るように自身の後頭部をドーパントの顔面にぶつけ、拘束から抜け出すと追い討ちをかけるように顔面にハイキックを叩き込む。

 

 

「茂加味さん!警察に連絡して!俺がコイツの気を引いておきます!」

 

 

 茂加味の前に立つように目の前のドーパントと対峙する。

無個性である茂加味を危険に巻き込まないように別の部屋に避難させると天倉はその場で構えを取る。

 

 

「変…sちょッ?」

 

 

 しかし、変身のルーティンを行なっている最中にドーパントさ攻撃を仕掛けて来る。目の前の敵はロボットアニメでよくある合体中に待ってくれるような都合の良い相手では無い。

 

 

「……ッ!あ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」

 

 

 変身する暇が無いと判断した天倉は"個性"そのまま使用する事にした。天倉の姿はみるみる内に緑色の肌、突起、棘のある手脚、赤い双眸の蜥蜴のような生物へ変貌する。

現在の天倉は基本形態を習得する以前に使っていた"オリジン体"へと姿を変えたのだ。

 

 しかし、オリジン体は基本形態と比べて出力は高いが、無駄に消費するカロリー、体力が凄まじいのだ。だからこそ好んでこの形態に変身する事は無いのだが……贅沢を言っていられない状況だ。

 

 

「ウォォォァァアアアアアアアアアッ!!!」

 

「!」

 

 

 ドーパントに体当たりを仕掛け、ガシャンッ!と家具を巻き込みながら廊下に2体は飛び出して行く。その際、天倉は馬乗りの状態で拳を何度も何度もドーパントに叩きつける。

 そして4回目の拳を叩き込もうとした瞬間、天倉はその場から飛び退いた。ドーパントの前身から炎が噴き出したのだ。

 

 

(炎を使う力か……っ!)

 

 

 このまま戦いを長引かせてしまえば、家に着火し全焼。最悪、他の建物にも被害が及んでしまう。さらに外へ移動してしまえば市民も狙われてしまう可能性がある為、短期決戦でこの家の中で決めるしかないと天倉は考える。

 

 

「ハァァッ!!!」

 

 

 その場を跳躍すると左右の家の壁を連続して蹴りつけ、ドーパントの顔面に膝蹴りを打ち込む。そして倒れたドーパントに踵落としを叩き込むがドーパントは腕をクロスさせ、攻撃を防ぐ。

 

 すると、ブワッ!と炎が一段と激しくなりドーパントはこちらに突進を仕掛けてくる。単純な攻撃でこの程度ならば避けるのは容易いだろう。しかし、避けてしまえば家にも被害が出てしまう。

 

 

「……来い!」

 

「────!」

 

 

 両手を広げ受け止める体勢へと構える。瞬間、凄まじい衝撃と熱量を天倉を襲う。

 

 

「ぎ……っ!」

 

 

 何とかその場で踏み止まるが、ジュウゥと肉が焦げる音が響く。鋭い痛みがズキズキと前身を襲う。天倉はパワー任せにドーパントを押し倒すとそのままドーパントの上腕を両脚で挟むように固定させ、手首を掴み自分の体に密着させる。

 

 

(腕挫十字固(うでひしぎじゅうじかため)ッ!応用性が高いから尾白くんに教えて貰った技!)

 

 

 ギリギリとドーパントの肘関節を極める中、天倉はこの敵と戦い感じていた。

 

このドーパントは弱い。

 

 それが彼の感想だった。

 炎を操るならばそのまま攻撃に応用すれば良いし、部屋の中に炎を撒き散らし逃げ場を無くし、自分を酸欠にさせるなどの選択もあった筈だ。それなのに何故、このドーパントはわざわざ接近戦なんて挑んで来たのだろうか?轟焦凍のように能力をフルに使い、単純な威力でゴリ押す戦闘でも良かった筈だ。

 

 何かがおかしい。そう考える中、ドーパントと密着している体の部分かジュッと焼ける感覚が襲って来る。

 

 

「ッ!」

 

 

 すると、再び凄まじい炎を前身から噴き出したドーパントはこちらから距離を取る。やはり、何かがおかしい。コイツの目的は一体……。

 

………いや、そんな事どうでも良い。

 

天倉は頭の中をよぎる疑問を振り払うと、次で最後の一撃すると言わんばかりに腕の刃に力を込め、肥大化させる。

 

 

「トドメだ……!」

 

━━ドンッ!!!

 

 

 脚に力を込め、床を蹴りつける。その際、何かが破裂するような音が天倉が先程まで立っていた場所に響く。狙うは顎と肩の間、首元だ。厳密には人体で言う頸動脈が存在する場所。

 天倉は肥大化した腕の刃で急所を狙い付け、そのまますれ違うように首元を切り裂く───────

 

 

「ッ!!?」

 

 

────事はなかった。

 

 

「どうして……!」

 

 否、する事が出来なかった方が正しいだろうか。

 彼の目の前には自分よりも背が低く、桃色の髪をたなびかせた見覚えのある少女がいたのだから。

 

 

「どうして君が……⁉︎なんで……!」

 

 

 彼女の手の中には『B(ブレイズ)』ガイアメモリが収められ、先程までのドーパントの正体が()()()()()()だと言うことを物語っている。

 

 

「さ、最初から……!最初から………騙していたのか……!」

 

 

 ガクガクと脚が震え、腰を抜かしその場に崩れてしまう。目の前の少女にすがろうとするその姿は醜く、哀しいものだ。

 

 

「信じていたのに……!なんで……!」

 

 

 

 裏切られた。裏切られた。裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた。

 

 

「……も……か……」

 

 

 ショックの所為か、不思議と身体が熱く感じる。身体の自由が利かない。全身の筋肉も何故か痺れるように動かなくなって来た。

ツーッと目から熱い何かが溢れるのを感じると同時に目の前が次第に暗くなって来た。

 

 

()()俺を信じていなかったのか………」

 

 

その一言を呟くと同時に彼の意識は深い闇へと落ちていった。

 

 




アーッハッハッハッハ!!!

苦しめェ!葛藤しろォ!絶望によって打ちひしがれろォ!他人の不幸を見ながら飲む乳酸菌飲料は格別だなァ!!

天倉ァ!お前はオレにとっての新たな光だ!

なんかエボルトが憑依している気がするけど、これからも楽しませてくれェ!!





【勝ちフラグ】<よし、出番か








茶番が終わった所で活動報告の方で新しい小説のアンケートを取っています。
選択肢としては『おっぱい』か『中二病』です。


………こいつぁひでぇや!(選択肢を見ながら)



【注意】
 アンケートは活動報告欄で行なっております。感想欄にアンケートの答えを書くのはやめて下さい。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。