個性以前に個性的な奴等ばかりなんですけど   作:ゴランド

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更新遅れて申し訳ありません!
試験期間に加え、都合が重なってしまい執筆活動がががががが
本当に申し訳ありませんでした!



第28話 笑顔

「・・・・・・・・・」

 

天倉の気分は最低と言っても過言ではなかった。

 

準々決勝での試合の結果は天倉のカウンターの回し蹴りによって1発KOだった。その際、拳藤は頭を少し切ってしまい出血してしまったが、それ以外は特に大事にはならなかった。

 

その後、彼はクラスメイト達に「凄かった」「準決勝も頑張れ」「おめでとう」と言われたが、彼が言ったのは少し1人にしてほしいと言う言葉だけであった。

今の彼には賞賛の声や喝采は何の意味も無かった。

 

「・・・・・・・・」

 

彼はとにかく1人になりたかった。周りに誰もいて欲しくなかった。こんな情けない姿を誰にも見られたくなかった。

 

彼は先程までの会話を再び思い出す。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「どうした?そんな顔をして、不満でもあったか?」

 

天倉が壁に背を預け俯いていると声をかけられる。声の持ち主は自身の担当の先生である相澤だとすぐに分かった。

だが彼は自身の先生をチラリと見ると再び視線を下へと向ける。まるで子供が部屋に閉じこもるかのように黙ったままだ。

 

(想定内・・・いや、それ以上に落ち込んでるなコリャ)

 

相澤はまるでこうなる事が分かっていたかのような反応だ。

天倉は抜けている部分はあるだろうが爆豪や轟に比べれば良識人の部類だ。その天倉が自分の担任に対してシカトを決め込むのは驚くべき事だろう。

しかし相澤にとっては分かっていた事だった。天倉は精神的に限界が近づいており、いつ挫折してもおかしくない状態だった。そこにとあるキッカケによりダムが崩壊するように彼の心は折れてしまった。

 

「・・・・なぁ、お前h「俺って何の為にヒーローになったんでしょうか?」

 

相澤が質問しようとした時その言葉を遮るかのように天倉の口が開く。相澤は彼が何を言っているのかよく分からなかった。いや、彼自身も自分で何を言っているのか分かっていないのだろう。

ヒーローになりたい者は基本的に有名なプロヒーローに憧れてなる者が多いだろう。この場合緑谷出久が良い例だろう

オールマイトに憧れ彼の期待に応える為最高のヒーローとなると言うシンプルさだ。他にも親族のようになる為、収入目的等によってヒーローを目指す者もいる。

 

だが天倉孫治郎は自分自身がヒーローになりたい理由が見当たらなかった。

彼はプロヒーローに憧れた訳でもなければ、何らかの特定の目的の為にヒーローになりたいと思った訳でもないしそもそもヒーローそのものに興味が無いに等しかった。彼は"偶然"ヒーローと関わり、"偶然"ヒーローの道を勧められ雄英高校を受けた。

 

悪く言ってしまえば彼はその場の雰囲気に流されヒーローを目指したと言っても過言ではない。

 

 

「あの時、校長先生に褒めてもらったのが嬉しかった。でも俺は調子に乗っていたんだと思います。調子に乗って、俺なんかの個性が誰かの役に立てると思って、ヒーローを目指して・・・・・」

 

「・・・・そうか」

 

今の所、相澤ができる事は彼の話を聞くことだけだろう。

無理に何か話そうとしてもおそらく火に油を注ぐような行為だろう。今現在の彼の精神状態はそれほど危ういのだ。

 

 

「でも、違った。俺はヒーローなんかじゃ無い。ただの怪物だ。ただ力を闇雲に払うだけの化物だったんだ!そんな俺が!ヒーローになんて!なる資格も無いんだ!」

 

 

彼の口調が徐々に激しくなっていく。

彼の全身がガクガクと震え、お互いの両腕を抑えるようにな体勢になる。するとあまりの力なのか両手の指の爪を立ててしまい血が流れている。

 

今、天倉を支配しているのはたった一つの感情【恐怖】だ。自身が別の何かに変貌してしまうというか恐怖、また誰かを傷つけてしまうのではないか?と言う恐怖。

彼は次第に恐怖と言う黒に塗りつぶされていく。

 

 

 

「そうか、それじゃあお前は自分自身ヒーローとしての見込みがゼロと言いたいんだな」

 

相澤が言った一言が天倉に突き刺さる。ヒーローとしての見込みが無い。

その通りだ、自分はヒーロー相応しくない。当たり前だ。USJでの個性を人助けに活用すると言う事を13号から習った。習ったのに自分は人を傷つけているばかりだ。こんな個性で人を救えることなんてできない。

すると相澤は天倉に追撃するかのように口を開く。

 

 

「そして、何の為にヒーローになったのかも俺が決めるんじゃなくて自分で決める事だ。他人に聞いたとしても意味が無い。それくらい自分で決めるんだな。勿論見込みがゼロかどうかもな」

 

「・・・・・・・」

 

「まぁ、試合も連続して疲れてるんだろ。頭冷やしてこい」

 

相澤がそう言うと天倉はフラリと立ち上がりその場を後にするように歩いていく。その後ろ姿は誰から見ても哀しく見えるだろう。すると相澤は自身の後ろ側、通路の角に声をかける。

 

「盗み聞きとは良い趣味とは言えませんね」

 

相澤はそう言うとため息をつくと、その人物が現れる。

 

「あなたが出てくるとは思いませんでした。ミッドナイトさん」

 

その人物はミッドナイト。審判を担当する筈の彼女は先程まで2人の会話を聞いていた。

実はミッドナイトは負い目を感じていた。元々天倉をヒーローの道へと誘った原因の1人が自分であると分かっており彼をあそこまで追い込んでいる事に責任を感じていた。

 

「そんな事より、あんな事言って良かったの?どう見ても傷口を抉っていたようにしか見えなかったけど」

 

「良いんですよ。要は最後に天倉が決める事です。俺がなんか言っても意味はありません」

 

そんな彼女は相澤に教師としてそれで良いのか?と思ったが相澤と言う男は生徒がヒーローとしての見込みが無い場合容赦無く除籍するような教師だ。恐らく何を言っても無意味なのだろう。ミッドナイトは思わず呆れてしまう。

 

「はぁ、全く・・・・・・」

 

 

「良いですか?夢ってのは呪いと同じなんですよ。呪いを解くには夢を叶えなければ。でも、途中で挫折した人間は、ずっと呪われたままなんですよ。

俺にできるのは夢を見ないうちに諦めさせる事です」

 

ミッドナイトと相澤はポツポツと歩いていく天倉の後ろ姿をただ見守るだけだった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

彼はとある事に気付く。後、十数分で試合が始まる。これから戦うであろう相手は爆豪勝己。色々な意味で戦いたく無い相手だった。

 

何故、自分はヒーローを目指そうとしたのか全く分からない。試合を始める前まで深く考えた事がなかった。

そもそも体育祭にて一番を目指そうとした理由は彼女《拳藤》との約束を守る為だった。それを果たした、それを無駄にしてしまった彼は何を理由に、何を建前にして戦えば良いか分からなかった。

 

沸々と【恐怖】の感情が湧き出てくる。

ヒーローに相応しく無い自分がこれ以上戦えばどうなるか分からない。今の自分が全く別のモノへ変貌してしまう。怖い。

まるで自分は閉鎖された空間、暗闇の中でただ1人だけしかいないような孤独感、じわじわと全身が蝕まれていくような感覚だ。

 

━━━心が息苦しい

 

こんなにも心が無かったらどれほど楽になれるだろうと思った事は初めてだ。

彼はそんな感覚に見舞われながら口を開く。それは誰に対しての言葉なのか分からないが一言、一言だけ振り絞るように声を出す。

 

 

「━━━ごめん━━」

 

 

無意識だろうか手を強く握り血が滲む。恐怖の他に別の感情が芽生えてくる。約束を守れなかった【悔しさ】自分に対する【怒り】

頭の中がぐちゃぐちゃする━━━

 

まともに思考する事ができない。1人で考えるのは難しい。これなら誰かに相談に乗ってもらった方が良かった。・・・・やめておこう。皆に迷惑を掛けられない。

━━いや、既に迷惑を掛けていた

 

「俺は・・・どうすれば良いんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、俺に相談するって言うのはどう?」

 

 

突如として自分の目の前に現れたのは見たことのある人だ。

確か━━ついさっき━━そう、自動販売機を破壊してしまった時に自分を心配してくれた。見ていると不思議と落ち着く青年だ。

 

しかし━━何故自分に構うのだろうか?分からない。自分に構って何か得をするのだろうか?

自分はその人に疑問を投げかける。

 

「そりゃあさ、心配だったからだよ。あんな苦しそうにしていたからさ」

 

 

それだけなのか?それだけの理由で自分を心配してくれたのか?まるでヒーローのようだ。

━━━だけど駄目だ。

 

「やめてください・・・・コレは俺の問題なんです」

 

拒む。他人を巻き込みたくはない。コレは自分で解決すべき問題なのだ。だが、こうやっていても答えなんて簡単に出る筈無いだろう。こうやって意味もない自問自答を何度も繰り返していく。俺はどうすれば良いんだ?

ここで悩んでいれば答えは出るのだろうか・・・・・

 

「えっとさ、お節介になると思うけど・・・・納得いかないときはとことん悩んでいいんだよ」

 

「え?」

 

青年は頭をかきながら自分の側に寄ってくる。

 

「多分、君が悩んでいる事は簡単に答えが出たら悩む事じゃない。みんな悩んで大きくなるんだから」

 

そして、笑顔を見せながら自分に話してくる。

この人の言葉の一つ一つは誰からの口からも言えるようなモノばかりだ。しかし何故だろうか

 

「君の場所はなくならないんだし。君が生きてる限りずっと、そのときいるそこが、君の場所だよ。……その場所でさ、自分が本当に好きだと思える自分を目指せばいいんじゃない」

 

その一つ一つには大切な思いが、それ以上のモノが詰め込まれているような感じだ。

━━━だけど

 

「━━━━そんなの・・・・無理だ。悩んだって答えが出る訳じゃあない。俺はヒーローにもなれない。周りが、自分自身なる事を認めようとしない」

 

分かりきったことだ。今の自分自身にどんな事を言ったとしても無駄だと言う事を、どれだけの言葉を並べたとしても自分の心に届きはしない。

だから

 

「無理なものは無理なんだ。俺がそれをよく知っているんだ!あなたが言っていることは全て綺麗事なんだ!」

 

 

━━━頼むから俺に希望を持たせようとしないでくれ

 

 

 

「━━そうだよ」

 

━━━え?

 

「だからこそ、現実にしたいんじゃない」

 

━━━この人は

 

「本当は綺麗事が一番いいんだもん」

 

━━━本気で自分を

 

 

「・・・・・・・」

 

自分の中にあったモヤモヤしたどす黒い何かが消えていく。心地よい気分だ。まるで激しい雨が止み、綺麗な青空が広がっていくような感覚だった。

 

「・・・・れ・・・・す・・か」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・俺は・・・・ヒーローに・・・・なれますか?」

 

 

 

青年は笑顔を浮かべると右腕を出し親指を立てる。彼はサムズアップをすると口を開く。

 

 

「なれるよ!君がそう思うなら!」

 

 

━━━あぁ、そうか。そう言う事だったんだ。

 

俺は何かに憧れてヒーローになったわけじゃなくて、コレを。

誰かの笑顔を見たかったんだ。

 

俺のような個性を持って悲しんでいる人、不幸な人を、皆を笑顔をにしたくてヒーローに━━━━━

 

不思議と俺の目から熱いモノが溢れ出ていた。なんだよ・・・・目の前がよく見えないじゃあないか。

やっと・・・・やっと、俺の進む道が見えたのに

 

 

「駄目だよ。ヒーローなら、誰かを笑顔をにするなら自分も笑顔をにならないと」

 

青年は自分に笑顔を向けてくる。

 

━━━あぁ、クソ。俺って馬鹿だ。こんな簡単な事に、こんなに近くにあったのにどうして気付かなかったんだ。

どうして・・・・俺は

 

目からボタボタと熱いモノが溢れる。だけど何故だろうか、俺は泣いている筈なのに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「ん・・・・アレ?」

 

1人の少女が、拳藤一佳が目を覚ます。何故自分はベッドの上に居るのか、何故自分は頭に包帯を巻いているのか、思い出せなかった。

覚えているのは自分と彼が対峙し、その後━━━━

 

「そっか・・・・負けたんだった」

 

彼とした約束、彼はその約束通り勝ち抜き自分を負かした。彼女には未練がないと言えば嘘になってしまうだろう。

彼との戦いは一分いや、十数秒も満たないだろう。彼に負けたのは悔しいがこれが彼との力の差なのだと思いしらさせれた。

 

「全く・・・・・完敗だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと━━━━すぐ終わりますから━━━━」

 

「ここで騒ぐんじゃないよ!」

 

と、思っていると雰囲気をぶち壊すかのようにリカバリーガールと先程まで戦っていた筈の彼の声が聞こえてきた。

最初は幻聴か?と思ったが、視線を扉の方へ向けると幻聴ではない事が分かった。と言うより本物がそこにいた。

すると彼はこちらを見ると安心したような表情を見せた後

 

「俺、あの試合は認めませんから!次は必ず正々堂々勝ちます!だから━━━━」

 

彼はサムズアップをし、笑顔を見せる。

 

「見ててください。俺の変身!」

 

「・・・・・・」

 

彼女はあまりの出来事に何を言えば良いのか分からず、ただ唖然するしかなかった。

 

「それじゃ俺、早く試合に行かないと!」

 

「それじゃあさっさと出て行っておくれ!試合に間に合わなくても知らないよ!」

 

彼はそのまま走り出して行った。まるで嵐のように過ぎ去るかのようにだ。

 

「・・・・ハハハッ」

 

不思議だ。思わず笑いが込み上げてくる。彼女は先程まで雰囲気が嘘のように笑っていた。

 

「全く、あんな事いわれちゃ、陰気臭い気持ちが吹っ飛ぶよ・・・・」

 

彼は約束を守る事ができなかった。だが、笑顔を守る事はできた。

 

彼が目指すのはヒーロー。誰かに憧れた訳でも、家族がヒーローだった訳でも、何かが欲しかった訳でもない。

 

皆、誰もができる事。誰でも人を幸せにできる技を彼は知っている。知っているからこそ、"それ"に救われてきたからこそ、"それ"を守る為に彼はヒーローになる。

 

空想のようで綺麗事でコミックのような夢だろう。だからこそ彼は現実にしたかった。

 

彼が求めてきたものそれは━━━

 

 

━━━笑顔

 




綺麗事だからこそ現実にしたいんだ。


笑顔が似合うサムズアップの青年
一体何者なんだ・・・・・・


やっと書きたい場面ができてホッとしました。

アドバイス、感想等がありましたら下さると助かります。
評価の方もよろしくお願いします。

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