個性以前に個性的な奴等ばかりなんですけど   作:ゴランド

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今週のエグゼイドは凄かったですね。
貴利矢さんの裏切り、最強フォーム登場、次回での飛彩さんの決意怒涛の展開でヤバいですよ。
と言うかエグゼイドの最強フォームのスペックがクウガアルティメットフォームを超えたと言うことが物凄くビックリしました。




第22話 不吉な前兆

 

頭がボーッとする意識もハッキリとしない。だが、声だけは聞こえる。

自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。それも1人や2人ではない、ざっと30人程だ。

 

しかしそんな声に混じって一つだけ鮮明に聞こえてくる。

 

 

━━━弱い

 

目の前に一つの影が立っていた。誰かがいる、それは分かるのだが、どんな姿なのか分からない。どんな声なのかも分からない。鮮明に声が聞こえる筈なのに頭の中にノイズがかかったような感覚に陥る。

 

━━━他の力を借りてやっと己を制御するとはな

 

━━━力以上にお前自身が弱すぎる

 

誰だ?俺に呼びかけるのは・・・・一体誰なんだ?

 

分からない、目の前にいる影は徐々に離れていく。何なんだこれは、一体何が起きている?

すると離れていく影はこちらに声をかけてくる。

 

━━━覚えておけ

 

━━━真の強者とは揺るがない信念を持つ者だ

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・えぇーーーー。」

 

 

天倉孫治郎は気付くと保健所のベットに寝ていた。

天倉は何故、自分がベットにいるのか、試合はどうなったのかと言う疑問よりも先程見た夢のようなものについて頭がいっぱいだった。

 

 

「うっわぁ・・・・・・最悪だよ・・・高校生にもなって、あんな厨二展開の夢みたいなもの見るなんて、うっっっわぁぁああ・・・・・・・て言うか、何アレ?強さ〜とか信念〜とかマジで意味がわからないんだけど・・・・・。」

 

頭がいっぱいと言うよりもある意味、後悔の念で頭の中がいっぱいだった。天倉が色々と後悔をしているとリカバリーガールが天倉が起きた事に気付く。

 

「ありゃ、思ったより早く起きたね。はい、ドロップお食べ。」

 

「あ、どうも。頂きます・・・・・ハッカ味・・・・・・・あ!そう言えば何で俺、こんな所に?試合はどうなったんですか?」

 

天倉はリカバリーガールに自分の現状と試合の結果を問いかける。リカバリーガールはやれやれと呆れながら天倉の質問に答える。

 

「覚えてないのかい?あんた試合には勝利したけどその後、過度のストレスとプレッシャーで倒れちまったんだよ。試合じゃあ後半ほぼ一方的になっていたのにね。」

 

「一方的?・・・・・・あ。」

 

天倉はようやく思い出した。一体自分に何があったのか、試合で何が起こったのか。

 

そして後少しで人としての一線を越えようと━━━

 

 

「・・・・・そうか、ギリギリの所で・・・・。」

 

「ビビったよアレは、女子相手に容赦が無かったね。」

 

天倉は口籠る。彼自身何故あんな事をしようとしたのか理解できなかった。

そもそも試合の途中から記憶が曖昧だ。ハッキリと覚えているのは最後に麗日にとどめを刺そうとしていた事だ。

 

「(・・・・・だけど、何だったんだアレは?)」

 

だが、それと同時に天倉は麗日と戦っている途中の事を思い出し、微かに覚えている事を疑問に思ったのだ?

 

「(あの、触手のような物と鎌のような物は一体何だったんだ?)」

 

自身が一番知っている筈の"個性"それに変化が起きた。天倉自身あんな物を持っていることは知らなかった。

今まで存在した事を知らなかったのか、もしくは戦っている途中に生み出したものなのか、天倉は思考を重ねる。

 

しかしそんな天倉をリカバリーガールは注意を施す。

 

「とりあえず、目が覚めたんならさっさと観客席に戻ったらどうだい?あんたがステージを派手にぶっ壊した所為で次の試合の開始時間が先延ばしになっちゃったんだよ。」

 

「あ、そうですね・・・・ありがとうございました。」

 

天倉はリカバリーガールにお礼を言い、保健所を後にする。しかし天倉はまだ本調子ではないのか、少しフラつきながら通路の壁を沿って歩いていく。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「いやぁ〜、流石でしたよ天倉さん。特に後半の巻き返しは凄かったですね!やはり私の目に狂いはありませんでした!いやぁ、わざわざ予約席のチケットを取っておいて良かったですよ。」

 

「あ、いや、別にそこまで言わなくても・・・・・。」

 

天倉は先程までA組の観客席に戻ろうとしていたが、ばったりと射命丸 文と会ってしまい、取材を無理矢理されている。

天倉自身、取材を早く終わらせて欲しかったのだが、そうは問屋が卸さない。

また後日取材をさせてもらう。と言う約束(一方的に)をしていたので断れない状況下に天倉はいた。

 

「イヤイヤそこまで言うほど天倉さんは相当の実力を持っているんですよ。そう謙虚にしなくても大丈夫ですよ。(ククク・・・天倉さんは基本的にはお人好しですからねぇ、一方的に約束でもしていれば好き勝手に取材し放題ですよ。さてと、たっぷりと搾り取らせてもらいますよ。私の新聞の為に・・ね。

おぉ、ゲスいゲスい。)」

 

それに対して射命丸は天倉の事を褒めてはいるが、思考は悪人そのものだ。自己紹介の時の清く正しい〜は何処へ行ったのだろうか

顔も一目見ればムカつくような顔になっている事だろう。

 

「それでは、次の試合も期待してますよ〜。」

 

「あ、はい・・・・・・射命丸さん、ちょっといいですか?」

 

「ハイ!何でしょうか!インタビューですか?それとも取材ですか?取材ですよね?取材なんでしょう?分かりました!取材ですね!!」

 

天倉が何かを思いついたように射命丸に声を掛けると、物凄い勢いでこちらに迫ってくる。

半強制的に取材をしようとしてくるのは新聞記者としての意地汚い執念だろうか、天倉はそんな様子の射命丸に引き気味になる。

 

「い、いやそうじゃなくて・・・・・・・・射命丸さんから見て俺はヒーローに見えますか?」

 

 

「・・・・・ふむ?どう言う意味でしょうか?外見から見ればヒーローでは無いことは確かかも知れませんが。」

 

射命丸は少し間を空けてから天倉の質問の意図を聞き出そうとする。射命丸は腐っても新聞記者だ。

彼女は常に相手の顔色を伺い、上手に出ることもあれば下手に出て相手の靴を舐めることもしばしば。

だからこそ射命丸は天倉が何か思い詰めている顔をしている事に気付く。

彼女はこう言った何かを思い詰めている人の相手をするのは苦手だ取材をする際、相手を同情してしまえば取材どころではないからだ。

 

「確かにそれもそうですけど、俺はヒーローになる為にココ《雄英高校》に来たんです。

だけど、麗日さんとの試合で俺はヒーローに見えましたか?俺はヒーローらしい行動をしましたか?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 

天倉は麗日との試合で罪悪感を感じたのだ。

麗日は懸命に戦った。それにひきかえ自分はどうだ、気が付いたら麗日を圧倒し人としての一線を越えるところだった。

 

「本当は俺じゃなくて麗日さんが勝つべきじゃないのかって思ったんです。観客の言う通り俺はヒーロー志望の筈なのに・・・・俺にヒーローになる資格なんて・・・・・・。」

 

 

 

 

 

「それ以上、やめなさい。」

 

 

射命丸の口から一言。

今まで敬語を使って来た射命丸からは考えられないような台詞が出てきた。

その言葉に天倉は呆気に取られる。射命丸はそんな天倉の様子を無視するかのように話を続ける。

 

「えぇ、確かにあなたにはヒーローになる資格なんて無いかも知れない。

だけど、それは私や観客達が決める事じゃ無い。あなたがヒーローに相応しいのかどうか自信を持って決める事なの。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

天倉はまるで別人のような射命丸に驚きつつも射命丸の言葉に核心を突かれる。

そして、自分が保健所で見た変な夢

 

━━━真の強者とは揺るがない信念を持つ者だ

 

正に自分とは正反対だ。自分は真の強者でも無いし揺るがない信念も持っていない。

ヒーローになりたいと言う気持ちはあるが、それは本当なのか自身でも疑問に思ってしまう時もある。

 

「私だって自信を持って新聞記者をやっている。例え記者としての才能が無くても私は新聞記者をやり続ける。少なくとも私はそう思っているわ。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

「・・・・・・なーーんて、私らしく無いですね。

大丈夫ですよ、少なくとも私は天倉さんはヒーローに相応しいと思います。それじゃ、私はこの辺で失礼しますよ。次の試合も期待しています!」

 

すると射命丸は一変し、先程の真面目《シリアス》な雰囲気が嘘のように元の調子に戻る。そして嵐のように天倉の前を過ぎ去って行く。

天倉は先程までの射命丸が本来の性格なのでは?と思う。

 

「・・・・凄いな、射命丸さんは・・・・俺とは違ってあんな立派な信念を持っているんだな・・・・・。それにひきかえ俺は・・・・。」

 

普段は社交的だがいつもと違う彼女の姿を、彼女の信念を知り自分との格の違いを見せられ自己嫌悪に陥る。

 

天倉には彼女の激励は届かなかった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・あ、ここって控え室・・。」

 

天倉は観客席に戻る為に通路を歩いている途中、【選手控え室2】の前を通り過ぎる。

しかし天倉は何を思ったのか控え室の方向へと戻り、扉正面に立つ。

 

「・・・・・麗日さんは・・・・居るのかな?」

 

と天倉がドアに耳をつけ、部屋の様子を探る。次にそっとドアノブを回し、中の様子をじっくりと眺める。すると天倉は懐から何かを取り出す。

 

「麗日さん・・・やっぱり居ないのかな?・・・・一応、たこ焼き持ってきたけど・・・・・。」

 

片手にたこ焼きを持って、控え室の様子をじっくりと探っている天倉はどう見ても不審者にしか見えないのは気のせいでは無いだろう。

 

「・・・・・やっぱり居n「おい、何やっt」ギャァアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!??」

 

突如背後から声を掛けられ、天倉は驚き飛び退く。声を掛けた人物も天倉の声量にビクッとなる。

それもその筈、声を掛けてきた人物は全身を包帯でグルグル巻きにされていたからだ。ミイラが急に背後から現れたら普通に驚くだろう。

そして、声を掛けた人物は天倉に再度声を掛ける。

 

「うるせぇぞ、こんなとこ《控え室前》で何やってんだ。」

 

「え⁉︎え⁉︎あ、相澤先生⁉︎びっくりしたーーーーっ!急に声を掛けるのやめてくれませんか!」

 

天倉に声を掛けてきた人物の正体は担任の相澤だった。知り合いだと分かり、しばらくして落ち着くと天倉は相澤にとある疑問を投げかけた。

 

「あれ?相澤先生、実況はどうしたんですか?プレゼントマイク先生だけ実況だと滑りそうだからちょっと心配なんですけど。」

 

「お前がステージを派手にぶっ壊したからな、次の試合が始まるまで時間もあるからトイレに行ってきた。お前こそ何で片手にたこ焼きを持ちながら控え室を覗いてんだよ。」

 

教師である相澤は天倉の不審者同様の行動に呆れると同時に注意をする。

そもそもこんな怪しい行動している人物がいれば普通だろう。

 

「で、どうだ?」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「いや、だからどうなんだ?」

 

「・・・・・・何がです?」

 

急に話を変えてきた相澤に天倉は頭の整理が追いつかない。

いきなり相手から「どうなんだ?」と聞かれてもどう答えれば良いか分からないだろう。

すると相澤は業を煮やしたのか別の事を質問してきた。

 

「・・・・気分は悪く無いか?体に異変は無いか?」

 

「」

 

天倉は絶句した。何故なら相澤が天倉を気遣っているからだ。

第三者から見れば何がおかしいのか分からないだろう。しかし相澤と言う人間は相手を気遣うと言う行動を滅多に起こさないからだ。

それは教師としてどうなのだろうか、しばらくしてから天倉は我に返る。

 

「・・・・・・・とりあえず相澤先生に異常がある以外は特に問題は無いと思いますけど・・・・・。」

 

「そうか・・・・って、そりゃどう言う事だ。」

 

天倉は今の所、相澤に心配されるような異変は無い。

もしかすると相澤は麗日との試合の際、天倉が暴走してしまった時の事を心配しているのだろうか?それとも単純に天倉個人を心配しているのだろうか。

 

「あ、いや・・・・それじゃあ先生俺、観客席に戻ります。試合の時はありがとうございました。」

 

天倉は相澤に礼を告げ、観客席に戻っていく。しかし何故だろうか相澤には天倉がここから逃げ出す様にも見えた。

 

「(今の所は問題無し・・・・・・いや、問題が起きるのはこれからか?)」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

一体、相澤先生はどうしたんだろうか?

いつもの相澤先生なら「そうか、次の試合はちゃんと戦え。」とか注意を施してくると思ったけど、なんか気持ち悪かったな。

 

「まぁ、いいや。次の試合って確か・・・・緑谷くんと轟くんか・・・・・。」

 

何かなー、さっきからバッタリと色々な人に会っているから轟くんにも遭遇しそうな気がするなぁ。

・・・・・なんてコミックやアニメじゃあるまいし。そう何度も誰かとバッタリ会うなんてある訳ないか。

 

と俺がそう思っていると曲がり角から丁度白と赤の髪の毛が目立つクラスメイトである轟くんが出てきた。

 

「え?」

 

「ん?」

 

・・・・・・・・・え、まじで?さっきのでフラグ立ったの?

本当に轟くんと遭遇しちゃったよ。

轟くんは俺に気付くと声を掛けてきた。

 

「天倉・・・・倒れた筈だが、もう大丈夫なのか?」

 

「ん、大丈夫。流石にあの試合は負けるかと思ったよ。」

 

轟くんは心配してくれるんだな・・・・・。

でもやっぱり麗日さんには悪かったな。俺なんかが勝ち上がって本当に良かったのかな・・・。

・・・・謝りに行こう。今すぐにでも、それに轟くんの邪魔しちゃ悪いしね。

 

「そう言えば轟くんはこれから試合なんだよね。緑谷くんは強敵だから頑張ってね。それじゃ。」

 

「・・・・・・・天倉、ちょっといいか?」

 

どうしたのだろうか?轟くんが何やらモヤモヤした様な表情で俺を呼び止めた。

 

「俺は雄英体育祭では左《親父の力》は使わないと決めている。だけどなお前の試合を見て思った。はっきり言って左の力無しだとお前に勝てる気がしない。 」

 

・・・・・えっと?何を言っているかさっぱりなのですが・・・。それに左は使わないって言っているけど?どう言う意味かよく分からないし。

 

「俺はこの大会で右《お母さんの力》だけで勝利するつもりだ。だが天倉。お前はどう思う?俺はお前の実力を知って初めて勝てない相手だと思った。」

 

「・・・・・・・。」

 

勝てない相手・・・・・・

やめてくれ轟くん。俺はそんな人間じゃない。俺は臆病だし、何かを建前にすぐにでも逃げ出そうとする弱虫だ。

 

「もし、お前と当たるなら決勝だろうな。お前と戦えば負けるかもしれない。それでも俺は右の力だけでもお前を越える。」

 

・・・・・・・・右の力だけで俺を。

 

「最初の方で言っておきたかったが、お前にも、緑谷にも負けない・・・・それだけだ。」

 

轟はそう言った後、そのまま歩き始める。

 

轟くんは言った。右の力だけで俺を越えると

つまり実力の半分で俺を倒すと言いたいのだろう。今、轟くんから嫌な気配が感じる。まるで何かを恨んでいる様な憎しみだ。そんなものが轟くんから出ている。

 

「轟くん、これはただのお節介かもしれないけどさ。俺は轟くんの様に半分の力で相手に勝つ事は出来ない。

だけど相手は常に全力で、100%の力で戦っているんだ。それを半分の力で挑むのって俺だったら後悔する。」

 

「・・・・・・・。」

 

「轟くんが今、何を思っているのか分からない。だけど常に何かをするとき全力でやらないときっと後悔する!だから・・・・なんて言えばいいんだろ、その・・・・・頑張って。」

 

「・・・・・そうか。」

 

俺は轟くんに言いたい事を言い観客席に戻る。

 

俺は麗日さんとの試合で後悔した。だから轟くんには後悔しない様な試合をして欲しい。

俺みたいなヤツより轟くんの様な人が勝ち上がった方が良いのだ。勿論緑谷くんの様なヒーローに相応しい人も勝ち上がって欲しい。

 

・・・・本当に勝って良かったのかな。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

天倉が観客席に戻ると一番に声を掛けてきた人物がいた。それはクラスの中でも比較的常識人の切島であった。

 

「おっ、天倉!倒れたって聞いてビックリしたぞ。」

 

切島が声をかけると他のクラスメイトも天倉に気付き声をかけてくる。

天倉はそんな様子に少々戸惑い気味だ。

 

「いやぁ、凄かったな!天倉あんな隠し玉持っていたのかよ!」

 

「凄かったけど、ちょっとは優しくしてあげてよね。」

 

「あ、いや、その、ごめん。」

 

「気にすんなって。あの瓦礫の量でよく生きていたなー!」

 

「天倉!俺になんかエロい技を教えてk〈グシャッ!!!

 

「峰田ちゃん、ダメよ。凄かったわね。天倉ちゃん。」

 

天倉は褒められ慣れていないのか、それともどうしたら良いのか分からないのだろうか?

先程から戸惑ってばかりだ。

 

すると天倉の方に先程までの試合で戦った麗日がこちらにやってくる。

天倉は麗日に気付くと、複雑な気分になる。それもそのはず彼は麗日を徹底的に痛めつけてしまった。それは意志の有無関係無しにだ。

天倉はどんな事を言われるのだろうか怯えながら麗日の言葉を待つ。

 

「天倉くん・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・いやぁ、凄かったねぇ〜〜〜〜。」

 

麗日の口から発せられたのは天倉が思っていたものと違った。

思っていた以上に麗らかな言葉だった。

天倉がそんな麗日の様子に戸惑ってしまう。

 

「えっ?思っていたのとなんか違う・・・・てっきり罵声を浴びせられるかと思ったけど・・・・大丈夫?頭打っていない?」

 

「ははは、大丈夫だよ。・・・・・あれ?なんか別の意味で心配されている様な・・・・。」

 

天倉はいつもの調子の麗日だと分かり安堵する。試合での怪我は全てリカバリーガールの治癒によって回復しているらしい。

どうやら俺がした事はあまり気にしていないようだ。

 

「あー良かった。てっきり『嘘だッ!!!』って言いながら鉈を振り回してきたり、背後に不動明王を出現させて襲い掛かってくるのを覚悟していたけど・・・本当に安心したよ。」

 

「うん。・・・・・・うん?いや⁉︎流石にそれは無いと思うけど⁉︎って言うか鉈⁉︎不動明王⁉︎」

 

天倉と麗日はいつもの調子に戻り、まるで試合自体が無かったかのように会話している。

会話の内容は色々とおかしい箇所があるが気にしない。

 

「いやいや、結構ありそうだけどなぁ。麗日さんって意外とアグレッシブな所もあr・・・・・・・・・・・。」

 

 

「・・・・・・?天倉くんどうしたの?」

 

 

会話が途切れる。天倉が急に口を閉じ麗日のとある場所を注目する。

麗日の目元、正確には目の周り。うっすらとだが涙痕が残っていた。

 

天倉は歯をギリッと噛み締め顔を下に向ける。すると無意識にだが拳に力が入る。

 

「(・・・くそっ・・何が安心しただ。麗日さんの優しさに甘えて・・・麗日さんに気遣ってもらって・・・・ッ!)」

 

 

天倉の心の奥底から再び様々な感情が渦巻いていく。

罪悪感、哀しみ、苦しみ まるで蛇のように天倉は巻き付き締め上げられていくような感覚に見舞われる。

まるで周りが自分を嘲笑っているかのような、世界が自分を拒んでいるような感覚だ。

 

 

「(やっぱり、俺なんかが勝たなかった方が良かったんだ・・・・。

どうして俺はこんな所にいるんだ・・・。やっぱり俺がヒーローになる資格なんて・・・・・・・・ッ⁉︎)」

 

 

すると天倉の頭の中で何かが響く。まるで何かを削るような、鉄と鉄が擦れ合うような鈍い音が長く続く。

徐々に鳴り止んでいくと思うと次に激しい頭痛が襲い掛かってきた。まるで脳そのものをシェイクされるような、掻き乱されるような痛みに見舞われる。

 

「(がっ・・・・⁉︎ぐっ・・・・⁉︎なん・・・だ・・・コレ・・・・!頭がっ・・・・!うぐっ・・がぁっ・・・・!)」

 

「むっ⁉︎天倉くんどうした⁉︎ひどい汗だ!頭が痛いのかい?」

 

頭痛に見舞われた天倉をすぐ近くにいた飯田が心配する。学級委員長としての責任だろうか、こういったトラブルを冷静に対処しようとしている。

 

「あ・・・いや・・・・大丈夫・・・・。」

 

天倉は飯田や他の皆に心配をかけまいと大丈夫と言いながら額の汗をタオルで拭き取る。

とにかくまずは落ち着いてクールダウンしようと精神統一の要領で目を閉じ、深呼吸をし始める。

 

すると麗日も心配しているのだろうか天倉に声をかける。

 

「ねぇ、天倉くん。大丈夫?やっぱり保《どうして殺したの?》いんじゃないの?」

 

「・・・・・・え?」

 

天倉が目を開けるとそこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗日の首がバックリと引き裂かれ、血が多量に噴き出ている光景だった。

 

噴き出ている血によって麗日の首から下は、赤黒く染まっており、天倉はそんな様子の見て何も考えられなかった。いや、何を考えれば良いか分からなかった。

 

しかし、麗日はそんな様子を気にも留めない。いや、そもそも自分に何が起こっているのか気付いていないのだろうか。天倉の様子を不思議そうにして見ている。

 

そして、麗日の口が微かに動き始める。

 

 

「どうしたの?」

 

「・・・・・・え?」

 

気が付くとそこは先程まで違った、いや、いつも通りの光景だった。麗日の首も何事もなかったかのように怪我も無かった。

 

天倉が先程見たものは一体なんだったんだろうか、そして先程聞いた声はなんだったんだろう。

おそらく天倉自身はきっと疲れているのだろうと思った。

いや、思おうとしたのだ。

 

先程の光景は思い出したくない。あんな光景はきっと夢だ幻だそうに違いない。

 

 

天倉はそんな思いを無理矢理押さえつけ次の試合を見守る。

 

もうさっきのことは二度と起きないだろうと叶わぬ希望を胸に秘める。

 

 

 

不吉な前兆

 





ホラー要素注意(今更)


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