「まずはこのフレイム中等学園に入学おめでとう。諸君の入学を心より歓迎する」
王都アポロの中心から南側に離れたフレイム中等部の入学式が行われていた。
アポロ王国の庇護下にある町や村から魔法使いの才能を見出だされた少年少女達を迎え入れるのは学園長並びに教師と一部の貴族や豪商達といった有力者達。彼等から認められれば将来は約束されたに近い存在になれること知っているのは彼らの子供とそれに近しい者達だけである。
「この学園は立派な魔法使いの育成に力を注いでいるが、それだけではなく人と人との繋がりも大事にしている。諸君らは明日から振り分けられたクラスで学んでいくがあまり仲違いの無いようにするように。あいつは別のクラスだからとか、別の系統の魔法使いだからとそんなつまらないことで喧嘩などはしないようにしてもらいたい」
学園長がこのような事を言うのには、過去にそのような差別をしたせいで傷害事件に発達したケースがあったからだ。そのせいで優秀な魔法使いの芽を潰すのはあまりにもったいないからだ。そしてこれは欠伸を堪えているアルフに向けた言葉でもある。害獣や下級モンスターを殴殺出来る彼が暴れたらとんでもないことになるだろう。
アルフが振り分けられたクラスは無属性の魔法使いの集まりで、コレットが振り分けられたクラスは水属性の集まりという振り分け。
各属性にクラス分けされているが、火属性が主流のアポロ王国ではその風土のせいか、火属性の仮契約をした子供が多い。そしてフレイム中等部の名に相応しく火属性は生徒の数が多く2クラスあるが精霊と契約する機会に恵まれなかった子どもが多いので3クラス。
土、水、風が一つずつに、火が2クラス。無が3クラスの計8クラス。1クラスに付き約20名の計163人の子供達が今をもって正式にフレイム中等部に入学する。
「それでは諸君の進む道に栄光があることを祈っている。改めて言おう。入学おめでとう」
こうしてつつがなくアルフ達は入学を終えた。
「明日から学園生活だね。あ~、何か緊張するなー。アルフはどう思う?」
入学式が終わり、配られた時間割り表をアルフとお互いに見せあいながらコレットは学園から少し離れた喫茶店でジュースを飲みながら明日からの学園生活に想いを馳せる。
アルマーニの村長の娘とはいえ、所詮田舎村の娘でしかない彼女にとってこの喫茶店のジュースも本来なら物怖じする値段だったが、そこはアルフと共に害獣や下級モンスター討伐で稼いだお金がある。入学祝いというつもりで頼んだジュースは納得のいく味だった。
「俺は無属性の強化術とモンスター講座が楽しみ」
そう言いながらコレットよりも少し安いジュースを啜るアルフはこれからの学園生活を楽しみにしていた。
無属性魔法は魔力が扱える人間なら誰でも出来るため応用性が高い。が、精霊と仮契約している魔法使いの魔法に比べ格段に威力が劣る。そのため無属性の魔法使いは脳筋とも荷物係とも揶揄される。だがアルフの場合それを補う、いや、身体能力と強化魔法だけで仮契約。下手すれば本契約した魔法使いをも凌駕するかもしれない。
「これ以上鍛えたら筋肉馬鹿になっちゃうよ?」
「これでも足りないと思うんだけどな」
一体彼は何を目指しているのか。と問えば世界最強の英雄と答えられた。それはこの国の英雄アポロかそれとも他国の英雄ヘクレスなのか?その実、世界最強どころか宇宙最強の英雄だと知ればコレットは何を思うだろうか?
そんな英雄を目指しているアルフだが最近伸び悩みを感じていた。
大英雄に近づこうとするほど遠ざかる。英雄の足下どころか影すら拝めない。年齢を重ねれば重ねるほど倍々に距離が離される。そこでふと思い出した大英雄の技の一つ。
それは強化魔法を覚えて暫く経った時の事。調子に乗っていた自分は英雄のある技を真似ようとして、森の中で試した結果、足をくじいて転がっていき、岩に頭を強打、血塗れで帰宅、コレット及び村人の悲鳴を上げる、アルフはそれから訓練する時は周囲の確認をしてから訓練に入る、少しだけ大人しくもとい自重するようになる。
強化魔法はあくまでも強化であり自身すらも傷つける力は発揮しない。だが、かの大英雄はそんなリスクすら背負っても戦う。その姿は正に男の中の男。自分の中にある前世の中で自分の事すら忘れたのにこびりついたその存在を忘れはしない。
だが、あの頃よりも体も鍛えたし、不本意ながらかめはめ波(回復)を習得したしたと言うアルフは訓練に付き合って欲しいと言い出す。この調子だと例え止めても一人で試してしまうだろう。
「もうっ、言っても聞かないんでしょ、いーよ、手伝ってあげる」
「はは、ごめんな」
この幼馴染は言い出したら聞かない。初めて猪を素手で仕留めた時もそうだったのだ。まさかわずか9歳が大の大人でも苦戦する猪を仕留めるとは思わなかったがその時も大怪我をしてプチヒールをかけてもらった。
せっかくのジュースもこれでは堪能出来なくなったコレットは、次来た時にはアルフが全額持ちでここのジュースを奢るようにと約束させて、ジュースの代金を払い、店をあとにする。アルフもそれに続いて勘定を済ませてコレットについていく。
そんな二人が行き着いた場所は女子寮の中庭。ここなら万に一があっても寮の医務官がすぐに手当てしてくれる。またアルフが血塗れになっても対処出来るだろう。
女子寮の前まで来た二人は女子寮の中庭を貸してもらう事にした。
女子寮の生徒たちは入学式のあったその日にやって来た男に戸惑いを隠せない。そんな視線に気づいていないのか鈍いのか気が付かない。なぜならアルフの英雄に近付くために無茶をする。先程の頭に岩。だけでなく、村の周りを泥まみれなのにスキップしながら周回、ハチの巣をつついて体中を腫れあがらせ、畑を素手で開墾している間に肥溜めに落ちる。等という奇怪な行動をして住んでいた村人からそんな目線で見られていた事がある為にそんな視線になれたのだろう。
「よしっ、じゃあやるかっ。ぜああああああああああっ!」
コレットから十メートルほど離れた所に立ったアルフは魔力を全開にして身体能力を出来るだけ上げる。そしてその場で反復横飛びを行う。反復だけでなく前後にも素早く動く。
動く。駆ける様に早く、風のように速く、風よりも速く。
その動きによってアルフの周りには風が巻き起こる。まるで手を素早く動かしたようにその姿がぶれる。そう、これこそが。この技こそが。
「俺はっ、俺のっ、背中をっ、見るっ!これがっ、残っ、像っ、k『ブチィッ』はぁああああああんんんっ?!」
肉離れという。
ストレッチもロクに行わず急に激しい動きをすることにより起こる肉体損傷的現象である。ストレッチをしていたのなら素早い動きによって生まれた自分の残像を見ることが出来ただろうに。
こうしてまたしてもその場でのたうちまわるアルフの珍行動の目撃者と出来事が増えることになったのだ。
何事も前準備は必要だと思うんだ