新 三好春信は勇者である   作:mototwo

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1話でも書きましたが、この外伝 女の子が全然出ません


第2話

<祠前>

後日、初めての過去へのジャンプ実験。

春信は飛鳥と共に大赦内の祠へとやって来ていた。

 

(いよいよ西暦の時代へジャンプか。。。流石に緊張するな。。。)

 

「じゃあ、いくぞ、春信」

 

(あ、なんかもよおして来たかも。。。)

「ちょっとタンマ、トイレへ。。。」

 

「バカっ!今動くんじゃないっ!!」

 

「へ?」

 

「春信っっっっっっっっっっ!!!」

 

「あ~~~~~~れ~~~~~~~~えっ」

「ここは。。。?」

 

気がつくと、そこは海岸だった。僕は砂浜に倒れていたようだ。

潮の香り、周りには海以外なにも。。。

 

「こちらO島南海岸、生存者1名を発見、直ちに保護に入る」ザッ

 

後ろで響く声に振り向くと

 

「軍人。。。さん?」

 

濃緑色の軍服とヘルメットに身を包んだ男性がそこで通信器に話しかけていた。

 

「我々自衛隊は軍隊ではありませんから、軍人と呼ぶのはやめていただきたい」

 

少し困ったように微笑む男性の顔は武骨ながらも温和な印象があった。

 

「じ。。。えいたい。。。?」

 

「自分は中尾一曹。失礼ですが、貴方のお名前は?他に無事な方はいるんですか?」

 

「他に。。。?僕の。。。なまえ。。。?あれ?名前が。。。わからない。。。?」

 

考えると頭が痛くなり、意識がもうろうとしてくる。

 

「どうしたんですか?!君!大丈夫か!きみ…」

 

遠のく意識の中で男性の声がからっぼの頭に酷く響いていた。。。

次に目を覚ました時、僕の周りには中尾と名乗った男性以外にも

同じように軍服を身にまとった4人の男性がいた。

 

「あ、班長!目を覚ましましたよ!」

 

「大丈夫だったかい、坊や」

 

「坊やって…彼、成人男性でしょ、どう見ても」

 

「そうなのか?今の若い奴はみんな童顔だから歳がわかりにくいな」

 

「みんな、少しは静かにしろ、彼が怯えているだろう」

 

周りを見渡すと岩肌に包まれた洞窟のような場所らしい。

 

「ここは?貴方たちは軍人さんなんですか。。。?」

 

僕の言葉に顔を見合わせると、途端に笑い出した。

 

「あーっひゃっひゃっひゃ!」

 

「ぐ、軍人さんなんですかときたよ!」

 

「くくく…た、確かに軍服にしか見えないな、自分らの制服…」

 

「み、みなさん、笑いすぎですよ、民間の方にむかって!」

 

「伊達も笑ってるじゃねーか!しっかしこの状況でギャグが言えるなんて大したタマだ!」

 

「????」

 

「静粛!!!」

 

訳がわからずオロオロする僕を見て中尾さんが叫んだ。

その声に4人はピタリと話を()め、直立不動の姿勢をとる。

 

「失礼したな、彼らには君が倒れる前の状況をまだ話していないんだ」

 

その言葉にひときわ大柄な軍人さんが片手を挙げ、声を上げた。

 

「よろしいでしょうか!班長!」

 

「柿崎士長、発言を許可する」

 

柿崎と呼ばれたその男性は姿勢を崩さず話す。

 

「彼が倒れた時の状況の説明を願います!」

 

「うむ、よかろう、だがその前に…」

 

中尾さんは僕に向かって優しく問いかけてきた。

 

「君は今の状況がわかるかな?」

 

僕は正直に首を横に振る。

 

「自衛隊を知っている?」

 

僕は首を横に振る。

 

「「「「?!」」」」

 

その様子に4人の軍人さんは姿勢はそのままに、視線と表情が変化する。何か驚いているようだ。

 

「自分の名前を覚えていますか?」

 

「それは。。。」

 

自分の名前くらい、と思って口を開くが、次の言葉が出ない。

 

「あれ?僕は。。。」

 

その様子を見て中尾さんが優しく僕に語りかけ、柿崎さんに語る。

 

「ありがとう、もういいんだ。

…という訳だ、一時的なものとは思うが『記憶喪失』ってやつだな」

 

なるほど、という顔で納得した様子の4人に座るよう指示すると中尾さんは説明を始めた。

 

「心配しなくてもいい、というのも無理な相談だろうが

ひとまずは落ち着いて今後の事を考えよう」

 

「は、はい。。。」

 

「まずは我々の事を話しておこう。我々は自衛隊の隊員、自衛官だ。

自衛隊とは日本の自衛権を行使し、専守防衛を…」

 

「???」

 

「班長、流石にその説明は…」

 

「む、これではいかんか?」

 

「彼は記憶喪失なんですから、子供にも分かるくらいの説明でなきゃダメですよ!」

 

「す、すみません。。。」

 

「いいっていいって!要は俺たちゃ日本の軍隊みたいなもんさ。

日本は戦争しないって言ってるから名前も違うし、災害救助とかの方が大きな仕事だ」

 

「な、なるほど。。。」

 

「そんで君を連れてきたこの人が中尾1曹。俺たちの部隊の班長だ」

 

「よろしく」

 

初めの印象通り、武骨で真面目だが優しげな雰囲気の人だ

 

「で、階級順に行くと、こちらのデッカイ人が柿崎士長。最年長で頼りになるオヤッサンだ」

 

「オヤッサンはよせ、まだまだ自分は若い」

 

紹介通りの大柄な体に温厚そうな顔の柿崎さんが紹介してくれている人を窘めるように言う。

 

「んで俺は小野沢1士。熱血タイプのナイスガイだ!」

 

背丈は僕と同じくらいだろうか、袖から見える腕が鍛えられた肉体を思わせる元気な人だ。

 

「小野沢さん、何のアピールですか、それは…」

 

まだ紹介されていない小柄な人が小野沢さんにツッコミを入れる。

 

「それからこっちの細目が浜本1士。俺と階級は一緒だが、ちょっとだけ後輩だ」

 

「よろしくな」

 

長身で細身の体に切れ長の目が特徴的な人、浜本さんが言葉少なに片手で会釈した。

 

「最後が伊達2士。見ての通りのひよっこだ」

 

「あー!ひどいですよ小野沢さん、僕だけ!」

 

「さっき、いらんツッコミ入れたお返しだ」

 

先程、小野沢さんに突っ込んでた小柄な人。。。

なるほど、一番若くて階級が下だから、からかいやすいのか、皆も笑っている。

 

「み、皆さん、よろしくお願いします。自分の名前もわかりませんが。。。」

 

「うむ、それで何か身分を証明できそうな物は持っていないかな?」

 

「あ、そうか!ええと。。。」

 

中尾さんに言われ、上着やズボンのポケットを探るが、出てきたのは携帯端末が一つだけ

 

「使えるかな?」

 

「ロックが。。。暗証番号が思い出せません。。。」

 

「ふむ、体が自然と動くかと思ったが、流石にそう上手くはいかないか」

 

「すみません。。。」

 

「君が悪いわけじゃない、気にする必要はないよ」

 

中尾さんは落ち着いた様子で優しくなだめてくれた。

 

「しかし班長、今後の事ってどうするおつもりですか?」

 

「そうですよ、今の状況ではジリ貧なのは分かりますが…」

 

「正直、穴蔵で隠れっぱなしというのは性に合わん」

 

「それじゃ!」

 

「だが、出て行ったところで我々の武器が通用しないのは明らかだ」

 

「それじゃぁ…」

 

「なにせ、相手はファランクスですら効いていたのか分からん化け物だ」

 

「ファランクス?」

 

「ああ、対空機銃って言ったらわかるかな?ミサイルも落せる連射砲なんだが…」

 

「なるほど、何となく分かります。でもそれが効かない化け物って?」

 

「な~んか、口だけの白くてでっかい奴が空から降って来てな」

 

(口だけの白くてでかい。。。)

 

「他の(ふね)も人間もそのでかい口で食いまくってた…」

 

「機銃が当たっても、怯みもせずに突っ込んできましたもんねぇ…」

 

「あれでは近くにいた奴らはどうしようもない」

 

「海の上じゃ、船から下りても逃げ場はないしな…」

 

「我々は(おか)にいたから、とりあえず逃げる事はできたんだが」

 

「それでも散り散りに逃げたからな、俺たち以外がどうなったのか…」

 

「そう。。。なんですね。。。」

 

「そういう訳だから、よほどの事がない限り、外へは出ないようにしてくれるかな」

 

「は、はいっ」

 

「まあ、とりあえずは寝る事だ。

われわれが交代で見張りをするから、ひとまずは安心して眠るといい」

 

「はい。。。あ、ありがとうございます」

 

「っても、毛布もないんだけどな!」

 

「すまないな、我々も最低限の装備しか持ち出せないまま、ほうほうの(てい)で逃げてきたんだ」

 

「い、いえ!気にしないで下さい」

 

中尾さんたちが見張りの相談をしているのを見守りながら、眠れそうな地べたを探す。

相談が終わってどうやら中尾さんと伊達さんが最初の見張りらしく

他の3人も僕の近くで眠る準備を始めた。

 

(とにかく、寝よう、今日は疲れた。。。)

 

上着を布団代わりにかけて眠る。

 

コツン

 

何かが腰に。。。?

ジャケットの内脇に。。。隠しポケット?

ナイフがある!両脇で2本?!

 

(ナニコレ?怖い!なんでこんなの隠し持ってるの?僕?)

 

「どうした?眠れないのか?」

 

眠ろうとしている時にゴソゴソと動き出した僕に柿崎さんが声をかける。

 

「不安になってもここじゃママの子守唄は用意出来ないぜぇ」

 

「なんで浜本さんはそういう言い方しか出来ないんですか…」

 

「察してやれ伊達!浜本はこういうのがカッコいいと思う年頃なんだ!」

 

「ちょっ、俺のこと中二みたいに言うのやめてくださいよ!」

 

「騒いでないでさっさと寝ろ、寝不足でも見張りの交代はまけてやらんぞ」

 

「す、すみません、僕がおとなしく寝てなかったから!」

 

「気にすんな、俺らはいつもこんなんだ」

 

にこやかに小野沢さんが話しかけてくる。

訳がわからなくて怖いけど。。。

この人達のこの空気を壊すのは嫌な気がする。。。

このナイフの事はしばらく黙っていよう。。。

 

僕はジャケットのナイフが地面で音を立てない様、そっと抱え込んで目を閉じ眠りについた。

「…」

 

何かの物音に眠りが浅く。。。

誰かの話し声が。。。

伊達さんと浜本さん。。。?

 

「僕は…災害で人命救助が出来ると思って自衛隊員になったんです

こんな時代だ、いくら世界の情勢が傾いても日本が戦争をするなんてないだろうって…」

 

「そうか、そいつはツイてたな」

 

「え?」

 

「人間同士の戦争になる前に化け物退治で人命救助ができる時代が来た」

 

「冗談じゃないですよ!」

 

「しっ…みんなが起きるぞ…」

 

「あ…」

 

「しかし伊達の言うとおりだ。冗談だったらどれだけ救われたか…あのインベーダー共が」

 

「インベーダー?」

 

「ああ、いきなり空から降ってきた異形の化け物、宇宙からのインベーダーだろ、あんなの」

 

「な、なるほど、確かにインベーダー…そうか、インベーダーか…」

 

「ん、どうした?」

 

「いえ、インベーダーって聞いてちょっと昔のこと思い出して」

 

「お、インベーダーゲームか?名古屋撃ちとかレインボーとか」

 

「違いますよ、っていうかいつの話ですか、それ?浜本さん生まれる前なんじゃ…」

 

「そうだっけか?それが分かるお前も結構なもんだと思うがな」

 

化け物、インベーダー。。。例の白い奴。。。

何故だろう?見た事ない筈なのに。。。

特徴を聞いた時からその姿が思い浮かんでる。。。

記憶を失う前にどこかで見た事が。。。?

 

考え事をしていると、柿崎さんが見張りを交代するのか、起きて出口へ向かって動く。

それと入れ違いに伊達さんがこちらに来て眠る準備を始めた。

僕もまた目を閉じるとゆっくりと眠りに(いざな)われた。

カチャ、カチャ

 

また物音に目が覚める。

目を開けると中野さんたちが何かの支度をしていた。

 

「何かあったんですか。。。?」

 

「やあ、おはよう。もう少し寝ていても良かったんだがな」

 

僕の声に中野さんがにこやかに返してくれる。

 

「定例の巡回だ。

と言っても、奴らに見つかったらひとたまりもないから、ただ隠れて様子を伺うだけだが」

 

「伊達は置いてくから、寂しかったらお話してもらいな」

 

「浜本、また中二風になってるぞ、お前」

 

「ええっ!小野沢さん、今のは普通でしょう?」

 

「そうか…今のが浜本の普通なのか…」

 

「柿崎士長まで?!」

 

「ハア…バカやってないでさっさと行くぞ」

 

「「「ハイッ!」」」

 

それまでふざけるように話していた3人が中尾さんの言葉で一糸乱れぬ動きで隊列を組む。

きっとこれがこの隊のいつもの雰囲気なのだろう。

 

「では伊達2士、後を頼むぞ」

 

「はい、皆さんお気をつけて」

 

伊達さん。。。

昨日の紹介の時は小柄な印象だったけど、5人の中ではというだけで

部隊として訓練を積んでいるのだろう、中肉中背の鍛えた身体に幼い顔が

学生のスポーツマンのような見た目だ。

 

「あの。。。伊達さん」

 

「はい?寂しくなりましたか?」

 

「い、いえ。。。」

 

「ふふっ冗談ですよ」

 

冗談めかして言う伊達さんに、僕は思い切って昨日の事を聞いてみる事にした。

 

「そ、その、伊達さんは人命救助の為に自衛隊に入ったって。。。」

 

「えっ?ああ、昨夜の浜本さんとの話、聞かれちゃってましたかぁ」

 

「す、すみません、ちょうど夜中に目が覚めた時に聞こえちゃって。。。」

 

「別に気にしなくていいですよ、聞かれて困る話なんてしてませんし」

 

「は、はあ」

 

「あ、でも」

 

「?」

 

「国民の皆さんを護るはずの自分が戦いたくない、なんてのはいい話でもないですか」

 

「い、いえ、そんな!」

 

「いいんですよ、自分だってこんな銃構えて戦闘なんて向いてないと思ってるんですから」

 

伊達さんは手に持った。。。自動小銃とか言うのだろうか、大きめの銃を見て苦笑いしている。

 

「そう、なんですか?」

 

「自分は災害現場なんかで自衛隊員が人命救助やってるのテレビなんかで見て

ああ、ああいう『大丈夫か、よく頑張ったな』って声かけてるんだろうなって光景、いいなって」

 

「ああ、なんとなくわかります」

 

「はは、そういうのに憧れて訓練も頑張ってきたから、

銃器の扱いが今一つでもそれほど気にしてなかったんです」

 

「。。。」

 

「でも、こんな事態になって…人が大勢死んで…救助どころか、自分の仲間たちすら…」

 

伊達さんは(うつむ)き加減でだんだん声が小さくなってる。。。

 

「でっでも、それって銃が使えたら助けられたってことでもないんですよね?」

 

「え?」

 

「だ、だってその化け物ってすごい砲弾でもほとんど効かないような相手なんですよね?」

 

「ええ、まあ確かに」

 

「じゃあ、ここに生き残ってる誰もが逃げ足が速かったから助かっただけで。。。あれ?

そ、そうじゃなくて、助からなかった人たちが遅かったとかそういうんじゃなくて。。。

運が。。。そう、運がたまたまよかった?いやこれも、なんていうか。。。」

 

「ふふっ」

 

「?」

 

「ああ、すみません、おかしくて笑ったわけでは…

ええ、大丈夫です、慰めてくれているんですよね」

 

「えっ、はぁ、まあ、そう。。。なのかな?」

 

「そうですよ、だから大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫…」

 

「いやそれ絶対大丈夫じゃない奴ですよね?!」

 

「ぷっ」

 

「へ?」

 

「あはははははは」

 

なんか笑ってる。。。

 

「いやあ、いいツッコミしますねえ、ククク…」

 

「???」

 

「すみません、気を使ってもらったのに

僕より若い人と話すのが久しぶりなんで、ちょっと冗談を」

 

「はあ。。。」

 

「笑ったらすっきりしました。

正直まだ怖いし、後悔もあるけど…

はい、前に進めそうです。ありがとうございます」

 

なんだかよくわからないけど。。。

伊達さんが元気になったなら、いいか

 

その後は自衛隊の訓練の事とか聞きながら、皆が帰ってくるのを待った

これから一体どうなるんだろう。。。




また続きます

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