新 三好春信は勇者である   作:mototwo

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このお話にはキャラ崩壊成分や誤解を招く表現があります。ご注意ください。



古波蔵(こはぐら)(なつめ)と大赦の使い

その日、春信はある海岸に訪れていた

 

「ふんっ!」

 

そこはいつも夏凜が鍛錬に使っている砂浜

 

「はっ!」

 

そこへ妹の姿を見る為やってきていたのだが…

 

「こおぉぉぉぉぉぉぉぉ…」

 

凛々しい掛け声と共に鍛錬に励んでいたのは古波蔵棗であった

 

(なんか最近夏凜ちゃんとすれ違ってばっかな気が。。。)

 

「……ん…?」

 

呼吸を整えていた棗が春信に気付いたようで、こちらを見ているが

声を掛けてくるような気配はない

 

春信にとって、棗は雪花と共にほとんど面識のない勇者であった

大赦の使いとしても、仮面の赤い勇者としても幾度か話はしたが

無口な少女という印象で、雪花のように積極的に会話に参加するイメージもない

 

二人きりで会ってしまうとどう話しかけたものか、悩んでしまう

しかし会った以上、大赦の使いとして何も話さずそれではまた、というわけにもいかない

とりあえず砂浜まで歩を進めると何気ない会話から接触を図ることにした

 

「これは古波蔵棗様、今日は浜辺で鍛錬ですか?」

 

「……うん…」

 

「。。。」

 

「…」

 

「いつもは夏凜もここで鍛錬に励んでいるんですが、今日はいないようですね」

 

「……ああ…今日は見ていない…」

 

「。。。」

 

「…」

 

「こ、古波蔵棗様はヌンチャクを使う勇者と聞きましたが、空手もおやりになるんですね」

 

「……そうだな…」

 

「。。。」

 

「…」

 

(か。。。会話が続かないっっっ!)

 

大赦の使いを演じているとはいえ、春信自身はさほどコミュニケーション能力が高い訳ではない

今まではなぜか少女たちが話してくれていたから会話にはなったが、元々無口な棗を相手にして

内心春信はうろたえていた。

 

「……お前は…なぜ正体を隠しているんだ…?」

 

「え。。。?」

 

にこやかな顔のまま、次の言葉を頭の中で探し回っていた春信は、

棗のいきなりの問いかけに、自分が何を問われているのか気付けなかった

そんな春信に更に言葉を重ねる棗

 

「……仮面の赤い勇者…あれはお前だろう…?」

 

「な。。。何を仰っているんですか?」

 

「……何となく気配でわかる…アレは…お前だ…」

 

「。。。」

 

(気配か。。。この子には下手な嘘は通じそうにないな。だが。。。!)

 

「……どうした…?なぜ答えない…」

 

棗の静かな問いかけに意を決したように春信は口を開く

 

「西暦の時代にも『三好春信』という方がいたそうです」

 

「…?」

 

「その方は若葉様たちとお知り合いで」

 

「……いきなりなにを…」

 

「見間違えるほど私と似ていたそうです」

 

「…」

 

「そして若葉様たちから妹が聞いた話では」

 

「……夏凜が…」

 

「その方が仮面の赤い勇者であったのでは、という事です」

 

「……つまり…」

 

「ええ、その『三好春信』さんの気配が私と似ている為、同じように感じられたのでは?」

 

「……なるほど…」

 

「わかっていただけましたか?」

 

「……では…」

 

スッと構えた拳を春信へ向ける棗

 

「え。。。?」

 

「……確かめてみよう…」

 

それは単に構えただけではない、相対した者の出方を見ようという覇気を発していた

 

「。。。っ!」

 

「……やはり…」

 

その覇気に反応するように春信は自然と構えをとっていた

その構えに対し、更に覇気を上乗せする棗

 

「一応お伝えしておきますが、これは単に古波蔵棗様の覇気に気圧(けお)されて構えただけです」

 

「…?」

 

「私も大赦で一通りの武術は習得しましたので、思わず反応したという事。。。」

 

「覇っ!!」

 

「うっ。。。」

 

春信の言葉を遮り、覇気の乗った力ある声を発する棗

 

(余計な言葉など要らないということか。。。)

 

二人の間にピリピリとした空気が漂い、その目は互いを見つめている

いや、凝視しているのではない、相手の動きを寸分も見逃さぬよう、

全身を視野に置き、それでいてどこも見ていないような視線を送っていた

 

構えた当初は下手に動けば自分が仮面の赤い勇者である事を悟られる

そんな事を思案していた春信だが、こうなっては何かを考えている余裕などない

それ程、目の前の少女は自分を打ち倒さんという気を発していた

 

肌を刺すような空気は次第に張り詰めたそれになり、波の音すら気にならなくなる

相手の息遣いのみが感じられる中、二人は構えたまま微動だにしない

その二人の息遣いがいつの間にか重なるように同期し、互いの存在以外何も感じなくなった頃

 

棗の視界の中で春信の両腕が自然に持ち上がる

頭の上でその手を合わせ、そのまま振り下ろしてきた

 

「……っ?!」

 

相対していると言っても、二人の間には数歩の距離がある。それが攻撃であったとしても、

暗器でも仕込んでいない限り、無手の春信のその手が棗に届く筈もない

その無意味とも思える春信の動作があまりにも自然な事に棗は一瞬戸惑い

絶好の攻撃の機会を逃してしまった

 

(……しまった…今のはフェイント…?!)

 

だが、そう思った瞬間、何かが棗の左腕をかすめる様に飛んでいき…

 

バッシャーン!

 

後ろの海で大きなしぶきが上がり、声が聞こえた

 

「ガボガボガボ…ぶっひゃー!なんでだ?!なんでタマの攻撃がわかったんだ!?」

 

「シーサー?!」「土居(どい)球子(たまこ)様?!」

 

海にはたった今、海に飛び込んだような姿の球子が棒切れを持ってバシャバシャと暴れていた

慌てて球子を浜辺へ引き上げにかかる棗と春信

幸い砂浜である為、球子の所まで行っても脚は届き、あっさり引き上げることが出来た

 

「いったい、どうなされたんですか?いきなり服を着たまま海へ飛び込むなんて!」

 

「…シーサー…服を着たときの泳ぎ方は以前教えただろう…なぜまた溺れそうになったんだ?」

 

「はあぁ~~~~?何言ってんだ、二人とも!」

 

心配する二人の顔を見て球子は呆れたように声を上げていた

 

「「え?」」

 

「タマが春信の後ろからこの棒で殴りかかったら、

いきなり白羽取りで受け止めた上に投げ飛ばしたんだろうが!」

 

「……いきなりって…」

 

「今の話だと土居球子様の方がいきなり私に殴りかかった様にしか聞こえませんが。。。」

 

「そうだよ!タマはあんずの愛を勝ち取る為に春信を倒す必要があったのにー!」

 

「……杏の…愛?」

 

「なぜそこで伊予島(いよじま)(あんず)様の名が。。。」

 

球子はもはや半べそで喚くように声を上げていた

 

「だあってー!あんずが春信に恋人がいるか聞いたりしてー!」

 

「「ええっ?!」」

 

「その事で泣きながら走ってたら園子にー!」

 

「園子嬢が?!」

 

「だからタマはー!」

 

「ちょっとお待ちください、土居球子様」

 

「ふぇぇぇー?」

 

「伊予島杏様の件は誤解です。あの方のお心には土居球子様への思いが詰まっていますから」

 

「そっ、そうなのかー?」

 

「……そうだな…。杏の球子への愛情は疑うべくもない…」

 

「はい、そこはご安心ください。ですから。。。」

 

「ふぁ?」

 

「園子嬢から何を言われたか詳しくお教え願えますか?」

 

にこやかな顔で球子に迫る春信。その顔の近さに少々ビビりつつ球子はその記憶を手繰り寄せる

 

「そ、それは…」

 

 

「なるほどなるほど~、あんずんとハルルンがね~」

 

「タマはー、タマはどうすればいいんだー?園子ー!」

 

泣きながら駆け回っていた球子を偶然見かけた園子が引き止めると、

球子は堰を切ったように思いのたけを打ち明けていた。

 

「タマ坊、それはタマ坊の心次第だよ~」

 

「タマの?」

 

「そう!タマ坊がそのまま黙ってあんずんとハルルンの幸せを祈るのか!

それともあんずんの愛を再び得る為に努力するのか!」

 

「タマはー、春信なんかにー!でも…あんずがー!」

 

「ハルルンは女ったらしだよ~、あんずんは騙されてるんじゃないかな~?」

 

「女ったらし?!」

 

「自分で『周りには美人ばかりが集まってくる』なんて言ってたんだよ~」

 

「ほ、本当か?!」

 

「本当さね~!それにね~」

 

「それに、なんだ?」

 

「タマ坊、愛って言うのはね~、戦って勝ち取るものなんだよ~!」

 

「戦って…勝ち取る…」

 

「そう!勝ち取るんだよ~!あんずんもきっとタマ坊のそんな姿に惚れ直すに違いないよ~!」

 

「あんずが…タマに惚れ直す!」

 

「さあ~!タマ坊!このダークネス園子リヴァイバルブレードを手に~!」

 

「って、木刀じゃないか、さすがにそれはマズいだろ…」

 

「大丈夫~!見た目は木刀でもこんなにグニャングニャンだよ~」

 

そう言って園子の手で振り回された木刀はゴムのように曲がっていた

 

「そ、そうか!これなら思いっきり殴っても大丈夫そうだな!」

 

「それにハルルンはああ見えて大赦で鍛錬を積んでるからね~、意外と手強いんだよ~」

 

「そうか、やっぱりこっちの春信も強いんだな!じゃー、遠慮は無しだ!」

 

「頑張ってね~、タマ坊には期待してるよ~」

 

「よっしゃあぁぁぁぁっ!春信ー!どこだあぁぁぁぁっ!」

 

「いってらっしゃ~い」

 

駆け出す球子を見送る園子。

その顔はキラキラと輝かせた目で嬉しそうに球子の背中を見つめていた。

 

 

「…というわけなんだ…」

 

「なるほど、なるほど、やはりそうでしたか。。。」

 

話を聞き終えた春信は更ににこやかな顔で球子から顔を離す

 

「……なぜだ…笑っているのにまるで闘気が立ち込めているようだ…」

 

棗はそのただならぬ雰囲気に先程まで相対していたことも忘れたように立ち尽くしていた

春信はスクッと立ち上がると周りを見渡し

 

「ふむ。。。さすがに気配は消していますか。。。」

 

「「?」」

 

怪訝な顔で見つめる二人に小声で話しかけた

 

「純真な土居球子様をたぶらかした園子嬢におしおきがしたいのですが、

お二人にもご協力願えますか?」

 

「協力?」

 

「……一体なにを…?」

 

「大したことではありません、大きな声を出さないようにしていただければ。。。」

 

「「?」」

 

首を捻る二人を見ると春信はいきなり球子の足元を(すく)い、

 

「うわっ!?」

 

小さな声を上げる球子を素早くお姫様抱っこにして砂浜に寝かせる

 

「古波蔵棗様、土居球子様の顔のどこがシーサーに似ているのですか?」

 

「……いきなりだな…例えばこの(まと)めた髪が耳のように…」

 

そう言って棗は球子の前にしゃがみ込んで球子の髪をなでるように手を伸ばすと

春信はいきなり大きな声を上げた

 

「ああーっ!土居球子様が溺れてしまったあ!

古波蔵棗様、人工呼吸をお願いしますう!」

 

「ふぁっ?!」

 

「……何を言って…」

 

わざとらしく叫ぶ春信の言葉に驚く二人。そこへ…

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

砂煙を上げて近づいて来る影。それは目を輝かせ両手でメモを取りながら砂地をものともせず駆け寄ってくる園子(中)の姿だった。

 

「ハルルン、じゃま~!そこどいて~!!」

 

スルリとかわす春信の横をすり抜けあっけに取られる棗と球子を凝視しつつまくし立てる

 

「水難事故から救う為、互いの唇を寄せ合う二人!

それをきっかけにそれ迄はまるで気にも掛けていなかった相手を意識するようになってしまう!

顔を見るたびにその視線はあの時合わせた唇へ!

赤面しつつもお互いに意識している事を否定しつつ、恋人への後ろめたさを感じる二人!

恋人への愛は薄れてしまったのか?!いいや、そんな筈はない!これは一時の気の迷いだ!

でもこの胸の高まりは何?!あの子の顔を見るとなぜこんなに気持ちが高ぶるの!

そんな思いが頭を巡り!更なる愛の泥沼へ向かう4人の運命は!

ああ~っ!妄想が膨らむよ~!イマジネーションが爆発するよ~!

流石はハルルン!私が見込んだお兄さんだよ~!いくらでも筆が進むよ~!

さすはる!さすはる~!」

 

ガッ

 

後ろで無言で聞いていた春信がにこやかな顔で園子の後頭部を鷲掴みにした。

 

「そ~の~こ~さ~ま~。。。」

 

「うひゃ~!たんまたんま~!なっつん!タマ坊!フォローを~!」

 

「……いや…そう言われても…」

 

「この流れで何をどうフォローしろって言うんだ?」

 

「という訳です。さあ、戻って正座でお説教会にしましょうね。。。」

 

にこやかな顔で鷲づかみのまま、何かを喚いている園子を連れて行く春信

残された球子と棗は

 

「……園子は…いったい何がしたいんだ…?」

 

「タマに聞くな。タマの方が教えて欲しいくらいだ」

 

自分たちが何をしていたのか、何をしに来ていたのかも忘れ、ボンヤリと言葉を漏らすのでした。

 

 




<その後>

「ハルル~ン」

ズルズルズル

「ダメです」

「まだ何も言ってないよ~」

ズルズルズル

「何を言ってもこの右手は頭から離しませんよ、説教部屋までは」

「う…ち、違うよ~そのまま引きずられると足が痛いの~」

喚くのに疲れた園子は無抵抗のまま砂浜から引きずられていた
元々身長差があるため、地面にこすれているのは靴のつま先だけだが
確かに心地よいものではないだろう

「じゃあ、歩いて下さい、自分の足で」

「す、砂地を走ったせいか、まともに歩けそうにないな~、なんて~」

あれだけ元気に砂浜を走り回っておいて良く言えたものだ、と嘆息する春信だが

「そうですか、では持ち上げましょう」

にこやかに園子の頭を持ち上げ、脚を浮かせた

「あひゃ~!そ、そのまま片手で持ち上げると首が~!首がのびる~!」

「おや、お気に召しませんでしたか、園子様?」

「わざとだ~、絶対わざとやってる~!」

笑顔のまま問いかける春信に、半べそで抗議の声を上げる園子

「泣かないで下さい、仕方ないですね。。。」

春信は左腕を園子の膝裏に通し、ひょいと抱え上げる

「おお~、これなら楽チンだよ~!」

「楽をさせる為にやってるわけじゃありませんからね。。。」

ギリギリギリ…

「あがががが…頭に~頭にひびくよ~ハルルン~」

「園子様は大切な乃木家のお嬢様ですから。
間違っても落さないようにシッカリと掴んでおかないと」

「これで目的地に着いたら、更に正座でお説教なんて~!横暴だよ~!」

「横暴じゃありません、今日はちゃんと反省するまでとことんやりますよ」

「ふえぇ~ん、もう勘弁して~」





そんな二人を監視する影が…

夏凜「なにやってんのよ、兄貴と園子は…」

樹「街中で堂々とお姫様抱っこ…」

風「その上、痴話喧嘩をしているようにしか見えないわね…」

東郷「そのっちったら、また何かやらかしたのかしら…」

友奈「二人っていつも楽しそうだね!」

ひなた「でも…園子さん、頭を掴まれている様な…」

若葉「うむ、私もそう見えるな」

杏「タマっち先輩も見かけないし…」

千景「園子さんのことだから、また土居さんを煽ったりしたんでしょう」

友奈(高)「でも結城ちゃんの言うとおり、楽しそうだよね!」

千景「そうね、楽しそうでとてもいいと思うわ」

水都「あっさり手の平返した?!」

歌野「みーちゃん、そこはスルーしてあげるのがラブなのよ!」

水都「ら、ラブって…」

雪花「棗さんもいないし、どぉこ行ったのかにゃあ?」

須美「そうですね…それにしても、お姫様抱っこというのはこうして冷静に見ると気恥ずかしいものですね…」

銀「自分たちがやってるのを鏡で見せられるのもかなり恥ずかしかったけどなぁ」

園子(小)「あれは良いものだったよ~」

須美「そんなので喜ぶのはそのっちくらいなものよ」

雪花「そうだねぇ、って須美ちゃんたちもいたの?!」

須美「皆さんがこんな大人数でコソコソと覗き見していれば気にもなります」

雪花「あー、小学生組、特に園子ちゃんには見せていいのか悩んじゃうとこなんだけどねぇ…」

銀「だ、そうだけど、どうだ?園子」

園子「仲がいいのは良い事だよ~」

須美「あら、意外と冷静ね。そのっち」

銀「で、本当のところは?」

園子「成長した自分が男の人にお姫様抱っこされてるとか、妄想がはかどるよ~!メモメモ~!」

銀「やっぱそうか、園子はブレねぇなぁ…」

こうして、春信と園子(中)を先頭としたおかしな集団が町の人たちから奇異の目で見られる事になっていたのですが…
やはり勇者部の関係者なのであまり騒ぎにもならなかったのでした。

<おしまい>


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