新 三好春信は勇者である   作:mototwo

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これは、けして語られる事のない…
あったかも知れない、小さな小さな物語…


エリンジウム

立てかけられた白無垢を前に向かい合う二人の少女

いや、もはや少女ではない、既に神の力を顕現する適性も失い

何年にもなる立派な女性だ。

 

「ついに明日か…」

 

「早いものですね…」

 

「お前が二人の結婚式を一緒にやると言い出した時は、流石の私も面食らったがな」

 

「でも、あなたもそれに反対はしなかったでしょう?」

 

「お前とはずっと一緒だと誓ったからな」

 

「あら、覚えていて下さったんですね」

 

「ふ…忘れるわけがないだろう。

あれほど泣いたひなたを見たのは、後にも先にもあれっきりだからな」

 

「もう、若葉ちゃんは意地悪ですね、そんな事をわざわざ言うなんて」

 

成人し、美しく成長した乃木(のぎ)若葉(わかば)上里(うえさと)ひなた

二人は明日の結婚式を控え、慌しい中、二人だけの時間を作っていた。

 

「ふふ、その代わり誰にも言わないぞ。墓まで持っていく。私達二人だけの秘密だ」

 

「あらあら、明日やっと結婚だというのに、気の早い話ですね」

 

「結婚、か…」

 

そう言うと若葉は少し俯き加減で、不安げにひなたへ尋ねる。

 

「お前は後悔してはいないか、家と権力を守るためのこの結婚を…」

 

「若葉ちゃん…」

 

「私と違って、お前は器量良しで、家事や人付き合いも…」

 

「若葉ちゃん」

 

「上里の名を残し、権力を高める事に(こだわ)らなければ、もっと良い縁だって…」

 

「若葉ちゃん!」

 

「!」

 

「若葉ちゃんは、後悔しているのですか?今のお相手と結ばれる事に…」

 

「そっ、そんな事はないぞ!」

 

やっと顔を上げ、ひなたに面と向かって思いを告げる。

 

「確かに、乃木の権力と名を残すために彼には乃木家へ婿に来てもらう、それは事実だ。

だが、彼はそれも承知の上で、私という一個の人間を女性として愛してくれている!

私はそんな彼の愛情に応えたい!私自身、彼を愛していると向かい合いたい!だから…」

 

「当然です」

 

「え?」

 

「若葉ちゃんを愛さない男なんていません。その中でも彼はなかなかの逸材です」

 

「へ?」

 

「私がここまで育てた若葉ちゃんを託すのですから、

いいかげんな男をあてがう筈がないでしょう?」

 

「ええぇ~」

 

ひなたの迷いの無い物言いに、若葉は呆れたように声を漏らしていた。

 

「それに私だってそうですよ、彼も私を本当に愛して下さいます。きっと今際(いまわ)(きわ)まで」

 

「それは…巫女としての勘か?」

 

「いいえ、女の勘です」

 

「ぷっ…」

 

「ふふふ」

 

「ははは、やはり、ひなたには適わんな」

 

「私も彼を愛し、子を成しますよ。愛を確かめ、上里の家を残すため」

 

「うむ、私もだ。」

 

全てに納得し、清々しい笑顔で頷く若葉

それを見たひなたが、いきなり大きな声を上げる。

 

「そうです!」

 

「うん?どうした?」

 

「子供ですよ!」

 

「子供が…どうかしたか?」

 

「結婚させましょう!」

 

「はあっ?!」

 

「お互いの子供に男の子と女の子が出来たなら、互いの娘を嫁にやるんです!」

 

「互いのって…」

 

「いい考えです!そうなればその子たちにとって私たちは母と義母!

親戚関係であり、もはや姉妹のような!」

 

「いや…それって意に沿わぬ相手との結婚を子供たちに押し付ける事にはならんか?」

 

「何を言うんです!若葉ちゃんが育てた子と私の育てた子が引き合わない筈がありません!」

 

「そ、そうかな…?」

 

「ええ、子供の頃から私達のように一緒に過ごせば、おのずと惹かれ合うに違いありません!」

 

「ふ…ひなたのそういう無茶なところは、いつまでたっても変わらんな」

 

「もちろんです、私はいつだって若葉ちゃんを一番に愛して…います…から…」

 

胸に手を当て、生き生きと話していたひなただったが

急に言葉を詰まらせ、頬に一筋の涙が伝った。

 

「ど、どうした、ひなた?!」

 

「な、なんでもないんです」

 

「なんでもないことはないだろう!お前が急に泣き出すなんて!」

 

「い、いえ、これは少し昔を思い出して…」

 

「昔を?」

 

「ええ、昔誰かにも今のような話をしたと…」

 

「あの頃の話か…」

 

「わかって…しまいますか…」

 

「当たり前だろう、私たちが最も戦い、祈り、駆け抜けた時代だ。

どんなに苦しい事も、あの頃の事を思えば乗り越えられた」

 

「皆も…生きていれば結婚相手を考えたりしていたんでしょうか…」

 

ひなたの涙を拭う若葉。それと共にひなたは頬を紅潮させ懐かしそうに白無垢を見つめた。

 

「想像もつかんな。あの4人は、お互い同士をとても大切にしていたからな。男性の事など…」

 

「ふふふ、それは私たちも同じでしょう?」

 

「む、それもそうか…しかし、男性か…」

 

「思い出してしまいましたか?彼のことも」

 

「できれば忘れていたかったのだが、皆の事を思い出すとな…」

 

「どうしても彼の顔も思い浮かびますか…」

 

「格好をつけるが、基本は阿呆で」

 

「ロマンチストで、デリカシーがなくて」

 

「達人のようでありながら、どこか脆くて」

 

「いつも笑っているくせに、泣き虫で」

 

「何者だったんだろうなぁ?」

 

「結局、何もわからないまま、姿を消してしまいましたものね」

 

「信じられるか?アレでただ一人の男の勇者だったんだぞ」

 

「知っていますよ、若葉ちゃんには言ってませんでしたが、

私は彼が仮面を外すところを見ましたから」

 

「なにっ?!それは初耳だぞ!」

 

「言えなかったんですよ、色々とあって…」

 

「色々と…?」

 

「別に勘ぐるような事は何もありませんよ、私は彼が大嫌いでしたから」

 

「むう、そうか、そういえばそうだったな」

 

「そのせいで彼には酷い事も言ってしまいました…」

 

「まあ、気にする事もなかろう、奴なら次の日には平気な顔で現れただろうさ」

 

「ええ、確かにそうでしたね」

 

「そういうところは妙にタフな奴だったな」

 

「朴念仁なんですよ。女の子の気持ちなんてまるで分かっていない」

 

「くくく…しかし」

 

「なんですか、おかしな笑い方をして?」

 

「皆の事を思い出していたはずなのに、春信の話ばかりしているな、私たちは」

 

「そうですね…こうやって空気を読まずに顔を出してくるところが春信さんなんでしょうね」

 

「酷い言い草だ」

 

「でも、否定はしないんでしょう?」

 

「まあな、だが…なぜこんなにも彼の事を思い出すのか…」

 

「あら、わかりませんか?」

 

「む、まるでひなたには分かっているようだな?」

 

「ええ、明日は結婚式ですから」

 

「ん?それが何の関係が…」

 

「女の子はそういう人生の大切な区切りで思い出すんですよ、色んな事を」

 

「色んな?」

 

「初恋の相手だったり、昔の恋人だったり」

 

「初恋っ?!恋人ぉっ?!」

 

「若葉ちゃんはそういう人はいなかったでしょうけど」

 

「う、うむ、ずっとひなたと一緒だったせいか、そういう機会もなかったな」

 

「なら、分かるでしょう?思春期に会った若い男性の事…」

 

「あ…そういえば、あの頃に親しく話した若い男性など春信以外いなかったか」

 

「ええ、若葉ちゃんに近づこうとする男の子は全て私がシャットアウトしてましたから!」

 

「おいおい、本当っぽくて怖いぞ…」

 

「ふふふ、はたして冗談なんでしょうかね?」

 

「冗談としてもたちが悪いぞ。大体、本当なら春信だって近づけなかったろう?」

 

「彼は別に良かったんです」

 

「む、なぜだ?」

 

「春信さんの心には既に誰かがいましたから」

 

「そうなのか?!」

 

「あら、ショックですか?」

 

ひなたに聞かれ、思わず頬を染め否定する若葉。

 

「い、いや、そんな事はないが…」

 

「まあ、春信さんもそういう事を話すような人ではなかったですからね」

 

「うむ、そういう意味では意外だ。驚きだ。衝撃的だ」

 

今度は自分を納得させるように何度も頷いている。

 

「だから、杏さんの言っていた、『亡くなった恋人の為に』っていうのも

案外、的外れではなかった気がするんですよ、私は」

 

「それで世界を守る戦いに赴くか、とんでもない浪漫チストだな」

 

「女の子はそういう陰のある男性に惹かれる事も多いですから」

 

「だったら、ますます近づけたくなかろう?」

 

「そうですが…皆がそういう気持ちになればもっと精神も安定するのではと…」

 

「恋愛感情は人間関係を壊すんじゃないか?」

 

「それでも、恋する乙女は強くなるんですよ、精神的に」

 

「そんな思惑でひなたが奴を丸亀城に引き入れていたとは…」

 

「でも、彼の朴念仁っぷりは私の予想をはるかに超えていました…」

 

「誰一人、そんな空気にはならなかったものな」

 

「心に決めた人に一途(いちず)なのか、まるで空気を読めていないのか」

 

「きっと両方だったんだろう」

 

「そうですね、だから私も…」

 

言いかけてひなたは自分の口を指先で押さえる

 

「どうした?」

 

「いえ、ええ、だから私も最後まで彼のことが大嫌いだったんですよ」

 

「はっはっは、面白い奴ではあったがな」

 

「そう…ですね…とても面白い…私たちが初めて接するタイプの…男性でした…」

 

白無垢に目を移し、呟くように言葉をつむぐひなたに

若葉はそっと寄り添い、肩に手を置いて自分たちの花嫁衣裳を見つめていた。

二人の思い出に残る、その人の事は心の奥底にしまって、未来を見つめていこうと…

 

<完>

「ふーん。。。」

 

「どうかな?ハルルン!なかなかの傑作だと思うんだけど!」

 

印刷された原稿を見つめる春信に感想を求める園子

 

「ふーん。。。」

 

「以前、神樹様(こっち)の世界に呼ばれる前に聞いた話から作った小説なんだけど!」

 

「ふーん。。。」

 

「タイトルも『秘めたる愛』を花言葉にもつ花の名前なんだよ~!」

 

「ふーん。。。」

 

だが、春信は気のない返事ばかり返していた。

 

「『ふーん』ばっかりじゃなくって、ちゃんと感想とか意見を言ってよ~!

折角、ネットにあげる前に紙ベースで読んでもらってるのに~」

 

「あ~、園子様?」

 

「いや~、作家先生だからって様付けはよしておくんなよ~」

 

「いや、さっきあの呼び方したから言ってるだけだけど。。。」

 

「あれ~?そうだっけ~?」

 

「無意識に呼ぶようになってるのか。。。まあ、いいけど。。。

それより、なんで登場人物がこうなったんだ?」

 

「こうって~?」

 

「だから!なんで若葉。。。様とひなた様と僕の名前が使われてんの?」

 

「ああ~、あのとき、『乃木』や『上里』みたいにって話だったでしょ~?」

 

「そ、そうだったっけ。。。?」

 

「そうだよ~だからいっそ、わかちゃんとひなタンにしたら感情移入できるかな~って」

 

「だ、だとしても!『春信』ってなんだよ?僕が出てくるのはおかしいでしょ?

しかもコレじゃあ、僕が勇者やってるみたいじゃん!」

 

「ああ~、それはハルルンとは別の春信さんだよ~」

 

「別って。。。」

 

「ハルルンも部室でわかちゃんたちと話してて気付いたでしょ?

あの時代にも『三好春信』って人がいたって~」

 

「そ、それは。。。」

 

「にぼっしーからもその春信さんが例の仮面の赤い勇者っぽいって聞いてたし~」

 

「か、夏凜ちゃんが?!」

 

「だから、その話を盛り込んで、二人が思春期に淡い恋心を抱いてたって設定にしたのさ~」

 

「ぬぐぐぐぐぐ。。。」

 

「それでそれで~どうかな~?感想は?」

 

「ぬう。。。」

 

春信は息を整えると原稿を読む手に力を込め

 

バリッ

 

「ボツだ!」

 

一気に引き裂いた

 

「ああ~!なんてことを~」

 

「僕と同じ名前が使われてるのを誰かが読んだら、『また三好は』って風評が流れる!」

 

「ええ~」

 

「大体、杏様の名前も出てあの流れって、4人の勇者様が亡くなられた事になってるでしょ!」

 

「そうだけど~」

 

「そんな不吉な物語は発禁です!検閲です!ボツです!」

 

「そんな~」

 

「そんなもこんなもありません!

データを消すか、少なくとも名前を変更しないとネットに上げるのも禁止です!」

 

「あう~傑作だと思ったのに~」

 

「傑作じゃありません!」

 

「ハルルンのわからずや~!」

 

「ダメったらダメーーーっ!!」

 

その後も園子と意見をぶつけ合う春信は

 

(淡い恋心とやらはともかく、園子嬢の妄想力は時々凄いレベルで現実とシンクロするからな

今後も要注意だぞ。。。)

 

園子の無意識の能力にまた悩まされそうな予感がするのでした。

 




次回はオマケ
感想に答えるだけでキャラ同士の掛け合いもない
飛ばしても大丈夫な回だよ

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