新 三好春信は勇者である   作:mototwo

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この話はスマホゲーム
『結城友奈は勇者である 花結いのきらめき』花結いの章
の一場面をイメージして読んで欲しいでござる


14話 花結いにきらめけ!

「いえーい!ビクトリー!」

 

ボスバーテックスを倒し、決めポーズをとる勇者たち

その背中に樹海の影から襲いかかろうとする生き残りのバーテックスがいた

獲物を仕留めた後の一瞬の油断、誰もが気を使いながら誰もが取りこぼしてしまう緊張の糸

 

「危ない!歌野ぉっ!!」

 

気付いた若葉が叫ぶが、とても助けられる距離ではない、そこまでバーテックスは迫っていた

 

(ダメだっ!間に合わない!)

 

若葉がそう思ったそのとき

 

いきなりそのバーテックスに突き刺さる数本の刀、それが爆発し、バーテックスは光と散る

何が起きたかわからず戸惑う若葉たちの下へその男は降り立った

 

「お…お前は!」

 

驚きを隠せない勇者たちの前に立ったのは仮面の赤い勇者だった

 

「久しいな、乃木若葉。。。」

 

「お前もこの時代に召喚されていたのか?」

 

「ん。。。ま、まあそんなところでござる」

 

(ござる…?)

 

「若葉ちゃん、この人は?」

 

「ああ、結城さん、この人は…

この…人は…」

 

「この人は?」

 

「あ~…」

 

「ん?」

 

「か…『仮面の赤い勇者』だ!」

 

「そうなんだ、仮面の赤い勇者さん、はじめまして!」

 

「助けてくれてありがとうございます!仮面の赤い勇者のお兄さん!」

 

「うむ、よろしくでござる

勇者同士で助け合うのは当然、気にする必要はないでござるし、敬語も不要でござるよ」

 

(またござるって言った…それも3回も…)

 

「いやいや、待ちなさいよ、友奈、歌野!」

 

「ホワット?」

 

「どうしたんですか?風先輩?」

 

「『仮面の赤い勇者』とか、見たまんまじゃないの!何の紹介にもなってないわよ!」

 

「まったくだわ…、なに普通に受け入れようとしてんのよ、友奈は!」

 

「えー!?夏凜ちゃんまでー?!」

 

「はははっ、二人のツッコミ力はなかなかにエクセレントね!」

 

「そうじゃなくても、私や銀と同じ赤の勇者

しかも男なのよ?!ちょっとは疑問に思いなさいよ!」

 

「どっちかっていうと勇者服はアタシより夏凜さん寄りみたいだけどなー」

 

「後ろ髪のまとめ方はミノさんに似てるよ~」

 

銀と園子が前後から囲んで回りつつ、仮面の赤い勇者を見定めるように眺める

 

「男で私みたいなツインテールだったら皆で笑ってやるわよ!」

 

(夏凜ちゃんとお揃いか、それは考えが及ばなかったな。。。)

 

「でも、仲間が増えるのは頼もしいよー」

 

「ふっ、結城友奈よ、気を使ってくれるのはありがたいが。。。

あまり期待はしないで欲しいでござる」

 

(また言ったぞ?)

 

「拙者は乃木若葉や白鳥歌野と共に戦い、男勇者の力が乙女達に及ばぬことを痛感した。。。

故に今はこの姿なのだ。。。」

 

「うむ、その姿も色々と聞きたかったが…」

 

「おお!さっきからタマも気になってたことがあるぞ!」

 

「どうした?土居球子よ」

 

「お前、なんでござる口調で話してるんだ?一体なにキャラなんだ?それは?」

 

「ふふふ、流石は土居球子、野生の勘で気付いたでござるな。。。」

 

「いやいやいや、春信の事知ってる奴なら誰もが疑問に思うぞ、それは…」

 

球子の口から出た聞き覚えのある響きに反応する夏凜

 

「え…?ハルノ…」

 

「あー!夏凜ちゃん!

僕の名前はただの『仮面の赤い勇者』でいいから!

深く追求しちゃダメだから!」

 

「夏凜ちゃんって…馴れ馴れしいわね、ちゃんと私もフルネームで呼びなさいよ」

 

夏凜と仮面の男が話している間に

球子を後ろから引っ張り、たしなめるように囁く杏

 

「タマっち先輩!ダメじゃないですか!春信さんはバレてないって思ってるんですから!」

 

「お、おお…、そうだったな!謎の仮面の赤い勇者、誰も正体は知らないんだったな!」

 

「?」

 

「と。。。とにかく、拙者は自分の力がお主たちに及ばない事を痛感し

裏方に回ることを決意したんでござる」

 

「ほほう、裏方だと?」

 

「うむ、それ故、仮面に加えこの赤い長マフラーを巻き

忍の者に徹する事を誓ったのでござるよ、ニンニン」

 

「侍かと思ったらハットリく○かよ!」

 

「先程のようにおいしいとこでおいしいとこだけを()(さら)い、いずれは

『汚いな、流石(さすが)忍者、汚い』と言われるようになるでござる」

 

「お前の忍者感はいろいろと間違ってるぞ…」

 

「まあ、今後もピンチの時には助け舟を出すでござるが

あまり戦力としては期待しないで欲しいでござる」

 

「確かに、あなたって戦闘では何の役にも立ってなかったものね…」

 

「郡千景か、相変わらずクールに決め込んでるでござるなぁ。。。」

 

「嫌味を言われたんだから、少しは(こた)えなさいよ、変態」

 

「えっ!?仮面の赤い勇者さんは変態さんなんですか?」

 

「ふふふっ、そんな訳ないでござろう?これはツンキャラ特有の照れ隠しでござるよ!」

 

「めげない男ね、相変わらず…」

 

「なんだか西暦の勇者の皆さんは彼のことを話されている以上にご存知のようですね」

 

「でも、私はこのお兄さんと共闘した記憶が無いんだけどなぁ…?」

 

「白鳥歌野よ、それはきっと拙者と出会う前にこの時代に召喚されたという事でござろう」

 

「なるほど、私たちがひなたと再会したときに時差があったのと逆だな」

 

「もしかしたら時空そのものがずれている可能性もあるでござるが。。。」

 

「む…?なぜそう思うのだ?」

 

「そもそも、神樹様の奇跡は時間だけでなく空間にも及ぶもの

それは樹海化で現実世界を護って下さっている事からも明らかでござる」

 

「うむ、それはそうだな」

 

「それ故、長野、北海道、沖縄といった別の土地からも

お互いの神同士、協力があれば勇者が召喚されているでござる」

 

「仮面の赤い勇者さんは、私や棗さんのことも知ってんだー」

 

「無論でござるよ秋原雪花、そして拙者の知る乃木若葉たちは。。。」

(そうだ、僕と接触した時点で若葉たちは諏訪の崩壊を目にしていた筈。。。

しかしこの若葉たちはあの遠征にすらまだ行っていないようだ。。。

なのに僕の事を知っている。。。)

 

「どうした?」

 

(でも、ここでハッキリさせられるようなことでもない。。。か)

「いや。。。これは今語っても仕方のない、単なる妄想の域を出ない意見でござった」

 

「?」

 

「とにかく、今後もご油断召されぬよう、気を引き締めていくでござるよ!」

 

「うん!まかせておいて!」

 

「流石は高嶋友奈、良い返事だ!それでは皆の者、さらばだ!アデュー!」

 

そう言い残して飛び去る仮面の赤い勇者

皆は、特に西暦の丸亀組はその様子を呆れたように見守っていた

 

「あー、行っちゃったよ」

 

「なんだかスゴイ事になってきたね!男の人の勇者まで合流するなんて!」

 

「そうだね!あのキャラ作りはなんだかわからないけど、面白かったね!」

 

皆が呆れる中、ワクワクが止まらない二人の友奈たち

 

「それはそれとして…」

 

「どうした?球子」

 

「やっぱりココは言っとくべきなんじゃないかな!」

 

「な、何を言うつもりだ…?」

 

わざとらしく苦悶の表情を浮かべ、拳を振るわせる球子

 

「『仮面の赤い勇者』…一体『なに(のぶ)』なんだっ…」

 

「あ…あはは…」

 

そう呟く球子の横で苦笑するしかない杏であった

 

 

 

 

 

<勇者部部室>

 

「へえ~、そんなことがあったんだ~、謎の仮面の男性勇者、ミステリアスだね~」

 

「そうなのよ、でも丸亀組の皆さんは彼のことをいろいろ知ってそうなのよね…」

 

「そうなの~?」

 

「ええ、でもあまり語りたくないのかしら、必要以上に触れないような空気を感じたわ」

 

「ますますミステリアスだね~、私も一度会ってみたいよ~」

 

「ただ…」

 

「ん~?どうしたの~わっしー?」

 

「いいえ、ただの気のせいだとは思うんだけど…」

 

「なになに~?言ってよ~」

 

「私もどこかで彼と会ったような気がしてならないのよ…」

 

「そうなんですか?私はまるで記憶にないですけど…」

 

「それはそうよね、彼は西暦の勇者なんだから、私や須美ちゃんが会っているはずないもの」

 

「ふ~ん」

 

「なに?そのっち、何か思いついたの?」

 

「ん~ん、別に~?そ~だ!園子ちゃんはその人の事どう思った~?」

 

「面白い人だったよ~、私も会った事はないですけど~」

 

「なるほど、なるほど~」

 

「何か気になったようね、そのっち」

 

「ん~、ただの気のせいかもしれないし~」

 

「二人して同じような事言ってますね…」

 

「でも~」

 

「どうしたの?」

 

「その生き残りの敵の攻撃って、その人がいなくても多分精霊が防いでくれてたんだろうね~」

 

「えっ?あ…それもそうか…!」

 

「はははっ、若葉はあわてん坊だな!」

 

「むー…、そうは言うが、我々の戦いでは一瞬の油断が命取りになることが多かったからな」

 

「そうですね、特に若葉ちゃんはあの時(・・・)以来、仲間のピンチには敏感になりましたし」

 

「そ、それを今いうのかっ…」

 

「なになに~?なにがあったの~?ご先祖様~?」

 

「ひ…秘密だっ!」

 

「そうです、これは私と若葉ちゃんだけのひ・み・つです」

 

(まあ、私たちも知ってるんだけど…)

 

(ここは言わないでいてあげるのが)

 

(いき)ってもんなんだろ?任せタマえよ!)

 

(若葉ちゃんは仲間思いだからね!)

 

「丸亀組に…強い…結束力を感じる…」

 

「棗が自分から語るとは珍しいわね…」

 

「仲がいいのは良い事よ!私たちも負けてらんないわよ!夏凜!」

 

「ええ、あのポッと出の男勇者にも銀と私が本家の赤い勇者だって見せ付けてやるわよ!」

 

「そこは勇者部の結束力を見せ付けるところでしょ…」

 

「何を今更、私たちのチームワークは誰にも引けを取らないわよ」

 

「ううっ…あの夏凜が…こんなにも成長して…」

 

「お母さんか!アンタは!」

 

そんなこんなで勇者部部室はいつまでも賑わいに溢れていた

 




<番外編>

樹海での戦闘中、その片隅である男の泣き声が密かに響いていた

「おろ~ん!おろろろろ~ん!」
「あう~ぎ~ん!銀が生きてる~!」
「歌野が~元気に戦ってる~!」
「球子も、杏も喋ってる~!」
「千景も友奈とイチャついてる~!」
「うう~、涙でまともに戦闘に参加できそうにないよ~」

死に別れたはずの皆の活躍に感極まって泣いている春信
彼もまた召喚され、勇者に変身はしたものの、まったく戦闘に参加できていなかった
ひとしきり泣いて落ち着いた頃に思案し始める

「アカン。。。これはアカンやつやでぇ。。。」
「このまま合流してもあの()達のやり取り見てるだけで泣いてしまいそうだ。。。」
「実際、銀が東郷さんの銃の名前聞いたときなんか涙が溢れて動けなかったし。。。」
「ここは以前以上にしっかりと役作りしていかないと、ただの怪しいオッサン扱いに。。。」
「いや、それどころか皆のその後の結末をバラしてしまいかねないぞ。。。」

「それに。。。」

勇者としての力の漲りを感じつつ、自分の手を見つめる春信

「今回は仮面を外してカッコよく夏凜ちゃんの手助けしようと思ってたけど。。。」
「力が戻っても乙女達には適いそうにないし、どうしたものか。。。」
「大体、なんでマフラーがついてるんだ?今回の勇者服は。。。」
「仮面つけて赤い長マフラーとか、アニメの忍者みたいな。。。」

そのとき、春信の頭に古典的な裸電球が灯る

「忍者。。。忍者か、その方向性で行くのはアリかもな。。。」
「風車の○七みたいにピンチに颯爽と登場するだけなら実力に劣る僕でも出来るんじゃ?」
「普段から一緒にいないなら、余計な話を漏らす心配もないし」
「よし!ここは皆のピンチまで身を隠していることにしよう!」

「忍者なら言葉遣いからキャラ作り出来そうだし!」
「いやー、こうなるとこの時代で戦った記憶が皆にない事もプラスに考えられるな!」
「西暦末期でも顔隠してたから、正体はバレてないはずだ!」

「そうと決まれば練習でござる!」
「拙者は『仮面の赤い勇者』、何者でもないでござるよ」
「あえて言うなら『通りすがりの勇者(ヒーロー)』とでも呼んで欲しいでござる」

こうして歌野のピンチに
「烈風手裏剣!」
を繰り出すまでの間
春信の一人芝居が続いていたのであった

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