魔法先生ネギま!-Fate/Crossover servant-   作:魔黒丼

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第6話

  ―時刻は昼を過ぎ、授業を終えた生徒たちは各々の時間を過ごしていた。

 学び舎のすぐ外では部活に勤しむ者や友人同士で談笑したり戯れたりと、眩しいくらいの青春を謳歌する生徒たちの姿があった。

 

 そんな若者たちの姿を近右衛門は学園長室の窓から眺めていた。その顔は穏やかだが、脳裏には昨夜の出来事がずっとチラついていた。

 昨夜の一件、図書館島にて起こったライダーと教師たちの衝突は彼が仲裁に入ることで事なきを得た。

 その後、ライダーを学園長室(この部屋)に招待した近右衛門は、事の成り行きを彼から聞いていたのだった。

 

「ふむ…サーヴァントとマスターのぅ…」

 

 ふと思いだすのはライダーのマスターだと言う夕映の姿。 

 立場上、生徒と直接接する事の少ない近右衛門であったが、孫である近衛木乃香とその周囲を取り巻く友人たちに関してはある程度把握していた。

 特に孫の居るクラス(3-A)は、その担任が子供教師(ネギ)だと言うこともあり、贔屓と言う訳では無いがそれでも他のクラスよりかは目を掛けている節もあった。

 

 そんな近右衛門にとって綾瀬夕映とは、好奇心旺盛な普通の少女だった。

 担任がネギであるが為に、普通の生徒とは違って魔法に直接触れる事もあるかも知れないが、それでも普通の女子生徒の一人に過ぎなかった。

 

 それだけならばまだ良かった。期末テスト直前にあった地底図書室での一件のように、取り巻く環境によっては遅かれ早かれ魔法に触れていたかもしれない。ならばその時、周囲の人間が道を誤らぬよう導いてやれば良いだけなのだから。

 

 しかし、行き着く問題はやはりライダー(あの男)だった。

 一般人に過ぎなかった彼女にサーヴァントと言う存在はあまりにも過剰戦力だった。たった一騎で学園が誇る腕利きの魔法教師たちと一戦交え、あわや圧倒しかけていたその力は未だに底が見えず、それを危惧した魔法教師たちの中には、『彼女(夕映)の身を拘束し、彼の使い魔(ライダー)を封印するべきだ』などと持ち掛けてくる者さえ居る始末だった。

 

 そんな彼らを説得するため近右衛門は朝から奔走し、太陽が真上に昇ったあたりでようやく落ち着いた時だった。

 学園長室に一枚の手紙が届いた。

 

「…些か、タイミングが良すぎるのぅ…」

 

 窓の外から視線を外し、近右衛門は机の上にある手紙に目を向けた。

 封は既に切られ、中身が広げられた一枚の手紙が机の上で一際存在感を放っていた。

 

「やれやれ…どうしたものかのぅ…」

 

 すでに中身を検めていた近右衛門は深々と溜息を吐き、どこか疲れたような表情で椅子に座りこんだ。

 すると不意に、学園長室にノックの音が飛び込んだ。

 

「失礼しますよ」

 

 ノックの後に入って来たのはタカミチだった。

 

「おぉ高畑君、荷物は届けてくれたかの?」

 

「ハイ、まぁ…と言っても途中で会った宮崎クンに代わりにお願いしたんですけどね。彼女ならキチンと届けてくれる筈です。それよりも学園長…」

 

「ム?」

 

 突如神妙な口調で話しを切り替えたタカミチに、近右衛門は眉を上げる。

 

「気になる噂を聞いたんですが…」

 

「フム…『桜通りの吸血鬼』かの?」

 

 先に答えを口にされ、タカミチは虚を衝かれたように目を見開いた。

 

「なんだ…すでにご存じだったとは…」

 

 頭を掻きながらどこか気恥ずかしげに苦笑するタカミチを見て、近右衛門も穏やかな笑みを見せた。

 

「ほっほっほ、たまたま耳に入っての。タイミングからしてそうではないかと思っただけじゃよ」

 

「…まったく、敵わないなぁ」

 

 ばつが悪そうに肩を竦めタカミチは言葉を続けた。

 

「まあ噂の元はわかるとして…どうしましょうか?一応彼女(・ ・)に注意だけはしておきますか?」

 

 そのタカミチの言葉に近右衛門は顎に手をあて、少し考える素振りを見せた後に答えた。

 

「…いや、まだ良いじゃろう。暫く経っても噂が絶えぬようであれば、ワシの方から声を掛けるとするわい」

 

「そうですか…まあ彼女も大人ですから、そこら辺の事は分かっている筈ですし」

 

 それだけ言うとタカミチは小さくため息をつく。一瞬、悪態をつきながら満月の夜を我が物顔で飛び回る金髪の少女が頭を過ったが、いやはや流石にと内心で笑って誤魔化した。 

 

 しかしこの時、何か適当に理由を付けてでも渦中の少女の様子を見に行くべきだったと後で後悔することを、この時の二人にはまだ知る由も無かった。

 

「それじゃあ、自分はこれで…」

 

 用が済んだタカミチは学園長室を後にしようと背を向け、

 

「すまんが高畑君、少し待ってくれんか?」

 

 すぐに引き止められ、タカミチは再び振り向いた。

 

「ハイ?」

 

「…高畑君、すまんがワシの出張に付き合ってくれんかの?」

 

 思わぬ辞令にタカミチは再び目を丸くした。

 

「それは構いませんけど…また急ですね?何かあったんですか?」

 

 そんな当然の問いかけに近右衛門は敢えて口を開かず、代わりに机上に置かれていた手紙を差し出した。

 理由がその手紙にあると察し、タカミチはそれを黙って受け取り、そして差出人の名を見て息を呑んだ。

 

「…ロード…エルメロイⅡ世…!」

 

 その名を呟いた直後、持っていた手紙に刻まれた魔法式が起動する。魔法により映し出される立体映像によって現れたのは一人の長髪の男だった。

 赤いコートの上に黄色い肩帯を垂らし、眉間に刻まれた深い皺は整った顔立ちを不機嫌そうに歪ませていた。

 

『―――私はロード・エルメロイⅡ世、このような形での連絡は無礼だと承知の上だが用件だけを簡潔に述べさせて貰う』

 

 手紙の男はぶっきらぼうにそう告げると一方的に話を続けた。

 

『Mr.コノエモン。さる人物が大至急貴殿に会いたいと言っている。本来であればこちらから出向くのが礼儀だが、その人物は事情により無闇に出歩くことが出来ない。…更に言えば、その人物が誰なのかもこの手紙では言うことが出来ない…こちらの都合ばかりで余りに身勝手なのは重々弁えているつもりだ。だが事は急を要する。急ぎ魔法協会本部まで参上してくれ。なお、付き人は一名まで同行を可とする――――。』

 

 そこまで言って映像は途切れた。するとタカミチは間髪入れずに顔を上げる。

 視線の先に居た近右衛門は真剣な眼差しで彼の目を見据えていた。

 

 一方的な要求ではあるが、その要求を無碍に出来ぬ程手紙の差出人の名は大きかった。

 やがて近右衛門はゆっくりと立ち上がり、手紙を握りしめるタカミチに言った。

 

「早速じゃが今夜にでも発つぞい…やれやれ年寄りには少々きついのぅ」

 

 腰を叩いてややげんなりした様子で呟きながら、近右衛門はタカミチを引き連れて学園長室を後にした。

 後ろに続くタカミチは普段とは違う硬い表情でこれから向かう目的地に思考を巡らせる。

 

 二人がこれから向かうのはロンドン。魔法協会総本部、通称――――『時計塔』である。

 

***

 

 ―同じ頃、桜ヶ丘にあるエヴァの邸宅。

 この家の家主は、昨夜手に入れたばかりの研究材料(・ ・ ・ ・)に夢中だった。

 

 わざわざ仮病を使って学校を休み、昨夜から部屋に籠り、彼女は一睡もせず本に掛けられた呪いの解呪に取り組んでいた。

 掛けられていた呪い事態は一つではなく何十種類にも及んだが、その全てが単純なものだった為に解呪方法はすぐに解明できた。その上、掛けられた呪いの一部は長らく放置されていたせいか綻びが生じていた為、制限(・ ・)された彼女の力でも容易く解くことが出来た。

 

 しかし、解呪できたのはほんの一部に過ぎなかった。

 綻びが生じていないページの呪いに関しては強力過ぎて、制限された彼女の力では解くことが出来なかった。

 

 例えて挙げるならば、ジャムの容器を想像してほしい。

 ジャムの容器はビンと蓋にある螺旋状の山が噛みあい、蓋を回すことで開け閉めする事が出来る。

 その時、緩く蓋を閉めれば開ける際の力もさして必要は無い。しかし、非常に強い力で閉められれば蓋は固く閉ざされて女性や子供の力では容易に開けることが出来なくなり、大の男でさえ蓋を開けるのに苦戦を強いられることもよくある話である。

 

 この場合で言う蓋とは呪いの事であり、ビンとは本である。

 つまり何が言いたいかと言うと、本に掛けられた呪いの魔力は非常に強く、制限されたエヴァの魔力では解呪することは難しかった。

 

「むぅ…忌々しい…」

 

 認識阻害の呪いにより未だ読めぬページの多い本をペラペラと捲りながら、エヴァは不満げに眉を顰めた。

 

 そんな彼女の居る部屋には魔法道具らしきものが幾つも散乱していた。一晩掛けて如何に呪いの解呪を試みたか、その奮闘の痕跡が部屋中に表れていた。

 

 そこまでしても呪いの解呪が出来ぬことに苛立ちを抑えられず、それでも本を眺める彼女の部屋に扉を叩く音が響いた。

 

「マスター、ただいま戻りました」

 

 ノックの後、扉の向こうから聞こえたのは彼女の従者の声だった。

 

「ン…戻ったか茶々丸」

 

「失礼します。マスター、ご要望のモノをハカセから貰ってきました」

 

 そう言って部屋に入った茶々丸は手に持っていた袋をエヴァに渡した。

 受け取ったエヴァは「ご苦労」と簡潔に労うと、彼女に道具が散乱した部屋の掃除を命じ、彼女も言われるままに承諾した。

 

「―――ところでマスター。解呪の方は…」

 

 散乱した魔道具の片付けに取り掛かりながら茶々丸が訊ねると、エヴァは無言で首を横に振った。

 

「お前が朝出てから進展なしだ。忌々しいことに…肝心な部分ほど呪いの力が強くなっている。少なくとも、魔力が封じられた私ではどうにもならん」

 

 よほど悔しいのかエヴァは小さく舌打ちをすると、少しでも気を落ち着かせようと既に冷めたコーヒーを啜って言葉を区切った。

 

 話を聞きながらも淡々と片付けをこなす茶々丸にエヴァは再び口を開いた。

 

「…現時点で解読出来ているのは紹介の方法…そしてサーヴァントとそのクラスに関してのみだ」

 

サーヴァント(従者)のクラス…ですか?」

 

 不意に茶々丸は掃除の手を止め、エヴァの方へ顔を向けた。

 

「あぁ…あの小娘(夕映)のサーヴァントである征服王は自分の事を『ライダー(騎兵)』と言っていただろう?あれは召喚されたサーヴァントの持つ逸話や伝承に応じて与えられる役割(クラス)のようなものらしい…あれの他にも、『セイバー』、『ランサー』『アーチャー』『キャスター』『バーサーカー』『アサシン』の六つのクラスがあるそうだ」

 

「では召喚された英霊は生前の逸話や伝説などによって、それら七つのいずれかのクラスに割り振られる…と言う訳ですか?」

 

「そう言うことだ…フン、まるで出来の悪いゲームのようだな」

 

 悪態をついてエヴァは残ったコーヒーを飲み干し、空になったカップを茶々丸に渡し言葉を続ける。

 

「…問題はだ。なぜ召喚した使い魔をそんなクラスなどと言うものに振り分ける必要があったのか、だ」

 

 僅かに眉間に皺を寄せ、怪訝な表情でエヴァは言った。

 

「…と言いますと?」

 

「フン…考えてみろ茶々丸。過去の英雄、それも英霊に成り果てるまで信仰された存在を召喚し、使い魔に出来るとなればそれは強力なことこの上ないだろうな…だがそれに対してクラスなどと言う役割でわざわざ振り分ける必要があるか?」

 

 その問いかけに対して茶々丸は答えを持ち合わせておらず、変わらぬ表情で口を噤む。

 

「…確かに、生前持っていた逸話の中に弱点を持つ者が召喚されれば正体を隠すための呼び名が必要だっただろうな…だがその為だけにクラスなどと言うものが用意さらる必要があるのか?偽名が必要ならば召喚した後で考えれば良いし、何よりも逸話の中に弱点を持たない英雄を召喚すれば済む話だ…なのに何故…役割など与えられる必要がある…」

 

 エヴァの語るそれは正論だった。召喚と同時に与えられるクラス、それは明らかに余分だった。

 にも関わらずサーヴァント(使い魔)として召喚された上に与えられるクラス(役割)。それはまるで―――

 

「―――その役割でしか動けぬようにする為…でしょうか?」

 

「……ほう?」

 

 茶々丸の発した一言に、エヴァは僅かに口角を上げる。

 

「役割を制限するか…クックックッ、面白い推測だ…茶々丸」

 

「ハイ」

 

「とりあえず私は眠るが…夜になったら起こせ。今夜から再び血を集めるぞ…私の呪いもそうだが…この本に掛けられた呪い、俄然解きたくなってきたぞ…」

 

 くつくつと愉快気に笑いながら、エヴァは本を片手に席を立つ。

 

(クラスなどと言う制約をしてまで英霊をサーヴァントにするこの召喚儀式…そのカラクリ…何としても暴いてやろうじゃないか…)

 

 新たな興味の対象を見つけエヴァは嬉しそうにベッドに横たわる。

 いまだ日は高く昇っているが、じきに訪れる夜を待って、吸血鬼の少女はひとまず微睡みを愉しんだ。

 その手にある本を求めて、今まさに元の持ち主である少女が学園内を奔走しているが、知った所で彼女は気にも留めなかっただろう。

 

 




………
……

…続くってか?




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言葉を綴るのが苦手な私ですが今後とも気長にお付き合い下さい。

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