魔法先生ネギま!-Fate/Crossover servant-   作:魔黒丼

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第5話

 ―ネギと夕映とライダーたちが保健室で一悶着起こしている一方で、場所は変わってここはネギが受け持つクラスでもある3年A組の教室。

 この日は進級して最初の始業式と言うこともあり授業は昼までで打ち切られ、午前中最後のチャイムが鳴ると生徒たちは足早に帰り支度を済ませ部活やバイトに向かったり、友人同士で出かける計画を立てたり、はたまた教室に残ったままクラスメイトと駄弁ったりと自由な時間を好きに漫喫していた。

 

 宮崎のどかも例外では無く、彼女は最近愛読している本を丁寧に鞄に仕舞うとそのまま教室の出入り口へと真っ直ぐ向かった。

 

「ちょっと待って、のどか。夕映の所へ行くんでしょ?私も一緒に行くよ」

 

 教室から一歩出た所で呼び止められたのどかは、そのまま早乙女ハルナと同行して保健室に居るであろう友人の下へ向かった。

 

「いやービックリしたよねー、夕映が倒れてたって聞いた時は」

 

「うん、でも少し疲労が溜まってるだけって先生も言ってたから」

 

 間延びした声で言うハルナと、その言葉に笑顔で答えるのどかの二人の顔には既に心配や不安の色は無かった。

 二人を含め、ネギはクラスメイトたち全員に夕映の欠席の理由を説明していた。

 それは虚々実々を織り交ぜたカバーストーリーではあるが、内容を大まかに言えば図書館島に単身で探検に出かけた夕映はその帰る途中でに蓄積された疲労と空腹によって地下から脱出した所で力尽きて倒れていた所を巡回中のタカミチに発見され保護された、との話だった。

 

「…にしても、帰り際にお腹減って力尽きるとか夕映らしく無いよね」

 

「うん、夕映って夢中になると周りが見えなくなる事もあるけど…いつも冷静だし、この春休みの探検だって凄く綿密に計画を立ててたみたいだったから…」

 

 互いに腑に落ちない点を照らし合わせながら、二人はネギの説明を怪しがっていた。

 基本的に夕映とよく行動を共にする事の多いのどかとハルナは、今回の夕映の図書館島探検に関しても事前に本人から聞かされていた。

 特に同じ寮の部屋で暮らすのどかに関していえば、探検の目的からその計画内容に至るまで本人から詳細な説明まで受けていた。その上で彼女自身から心配要らないと念押しまでされていたのだから、今朝倒れていたと聞かされたときは心底驚いていた。

 

「うーん…これは事件の予感がするわね」

 

 さも面白そうにほのめかすハルナだったが、それはどちらかと言えば彼女の願望であり、その事を友人としての勘で悟っていたのどかは特に驚きもせず、ただ困ったように笑っていた。

 

「もーパルってばまた…」

 

「いやでも、夕映ならあり得ると思うんだけどなー。こないだのネギ先生&バカレンジャーで行った時だってスゴイ大冒険をしたみたいだったし、あり得ると思うんだけどなー」

 

「そ、そうかな?うーん…」

 

 つい先日起きたばかりの前例があってか、ハルナの予感(願望)に妙な現実味を感じたのどかは思わず逡巡した。

 

「まー本人に聞けば分かるし、あれこれ悩んでも仕方ないって」

 

 事件の予感とは何だったのか、能天気に締めくくるハルナにのどかが苦笑していた時だった。

 

「-おや?」

 

「あ!」

 

「高畑先生!」

 

 二人は階段を下りた所でバッタリとタカミチに出くわした。

 

「宮崎くんに早乙女くんか…もしかして綾瀬くんのお見舞いかい?」

 

「は、はい…」

 

「そうかい。ちょうど僕もコレを届ける為に行くところでね」

 

 そう言ってタカミチは持っていたリュックサックを見せる。

 中身は夕映が地下深部で拾い集めてきた戦利品がぎっしりと詰まっていた。

 

「おぉ…これ全部夕映が?」

 

「わぁ…あ、この人の本小さい頃に読んだことある」

 

 感嘆の声を漏らして見せられた中身を物色し始める二人にタカミチは苦笑する。

 

「おいおい、友達とは言え、一応他人(ヒト)のモノなんだから勝手に漁らない方が良いと思うけど?」

 

 優しい口調で窘めると、のどかは恥じらうように手を引っ込め、対するハルナは少し不満げに口を尖らせた。

 

「はわわ!す、すみません!つい…」

 

「えー?怒らないと思うけどなー夕映は」

 

 異なる反応を見せる二人に肩を竦めてリュックの口を閉めると、タカミチは保健室に向かう彼女らと足並みを揃えた。

 道中、何気ない世間話に花を咲かせながらハルナはふと思い出した噂を口にした。

 

「あ、そう言えば高畑先生は知ってる?最近流れてるあのウワサ」

 

「ウワサ?」

 

「ぱ、パル…それってもしかして…」

 

「そう、満月の夜になると現れる…『桜通りの吸血鬼』」

 

 吸血鬼と聞いた瞬間タカミチの表情が一瞬だけ引き攣ったが、のどかもハルナも全く気付かずに話を続ける。

 

「真っ黒なボロ布に包まれた吸血鬼が満月の夜になると桜並木に現れて…そして少女たちを一人、また一人とその牙で餌食にしてゆく…っていうウワサ」

 

「ひっ…」

 

 あからさまに怯えさせるようなおどろおどろしい口調で語るハルナの話にのどかは、彼女の期待通りに震えあがっていた。

 対して傍らで聞いていたタカミチは変わらぬ穏やかな表情で彼女の話を冷静に分析していた。

 

「…うーん、そんな噂は初めて聞いたなぁ。その噂はいつ頃から流れていたんだい?」

 

「えーっと…つい最近だったような…」

 

「ここ1、2ヶ月です…」

 

「……因みに、被害者が出たとかそう言う噂は?」

 

 自身も気付かぬうちに神妙な口調で問い掛けるタカミチだったが、聞かれたハルナは「さー?」とあっけらかんと答え、のどかも首を傾げて不明の意を示していた。

 するとタカミチは空を見上げて思案するような所作を見せると、不意に足を止めた。

 

「…高畑先生?」

 

 不思議に思ったのどかが思わず彼の方へと向き直る。

 

「…あぁ、宮崎くん。すまないんだけど、急用を思いだしてね。悪いんだけど、代わりに綾瀬くんに荷物を渡しておいてくれるかい?」

 

「え?あ…は、はい…」

 

 再び口を開いたかと思うと、一方的にのどかにリュックを押し付けてタカミチは踵を返して来た道を戻って行った。

 取り残された二人は呆気に取られて、ただその背中を見送るしか出来なかった。

 

「…どうしたんだろう高畑先生?」

 

「…さぁ?」

 

 突拍子もなく去って行ったタカミチの様子に尾を引かれつつも、二人は再び夕映の居る保健室に向かって歩き始めた。

 

***

 

「魔法使いとしての修行に…ですか?」

 

 夕映はネギから受けた言葉を反芻した。

 あれから何とか落ち着いたネギは世間に隠れて存在する魔法使いの存在、そして麻帆良学園との関係、そして自身がこの学園に来た理由を彼女に説明していた。

 

「はい、『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になる為に僕は教師として麻帆良学園に来たんです」

 

「……」

 

 全てを聞いた夕映は目を丸くしていた。

 “魔法の本”を目指していた時から薄々は感じ始めていた魔法使いの存在。だがネギから聞いたその全貌は彼女の予想を大きく上回っていた。

 世界中に存在する魔法使いの社会、そして学園に多く存在する魔法教師たちの存在、そこへ新たに飛び込んできたネギ・スプリングフィールドと言う子供先生。まるでどこかのマンガのような話が現実に存在する。

 唖然としていた夕映はベッドに腰かけたまま暫し動こうとしなかった。

 

 そんな彼女の様子を見つめながらライダーは口を閉ざしていた。

 昨夜、近右衛門と共に図書館島を後にしたライダーはこれらの事情を既に聞いていた。

 自身の生きた時代とは違う現代の仕組みを聞き、征服し甲斐があると心を躍らせていた彼だったが、それを聞いたマスターがどのような反応を示すのかが気がかりだった。

 受け入れるのか、もしくは拒絶か。マスターが次に放つであろう言葉をライダーは憮然とした面持ちで待ち構えていた。

 

「…夕映さん」

 

 気遣うような柔らかい口調でネギは語りかけた。

 

「本来であれば…一般人であるあなたが魔法使い(こちら側)の世界に触れる事はありませんでした…ですが、どのような形であれ、あなたはこちら側の世界に触れてしまいました。ですが、今ならまだ間に合います。危険なこちらの世界に完全に浸る前に引きかえ…す…夕映さん?」

 

 優しく真摯に語っていたネギだったが、途中で夕映の異変に気が付いた。

 俯いた表情からは表情が窺えず、しかし何かを堪えるように肩を小さく震わせていた。

 

「……ふふっ…ふふふふふ」

 

 次に聞こえてきたのは不気味な笑い声だった。唖然としていた彼女の急変ぶりにネギは心配することすら忘れそうになって彼女に目を奪われていた。

 

「“魔法の本”を見た時から薄々は感じていましたが…まさか魔法(ファンタジー) の世界がこんなに身近にあったとは…」

 

 確かめるように呟くその言葉は歓喜の表れだった。

 ふつふつと湧き出るように喜びを露わにする夕映に困惑したようにネギが「あのー…夕映さん?」と声を掛けようと手を伸ばす。

 すると夕映はその手をガシッと掴んだ。

 

「ネギ先生!もはや迷いはありません!私も魔法使いになります!」

 

「えぇえーー!?」

 

 高らかな夕映の宣言にネギは本日二度目の絶叫をした。

 危険な世界である魔法使いの世界から遠ざけようと彼女を諭そうとしていた彼だったが、まさか自分から飛び込んで来ようとは思いもよらなかった。

 予想外の事態に狼狽するネギを余所に夕映は興奮気味に話を続けた。

 

「このような話を聞かされてじっとしている訳にはいきません!私の知的好き…ではなくて、私にも先生が『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になれるようお手伝いをさせて下さい!」

 

「いや…ですから…その…」

 

 熱弁する夕映の迫力に圧倒されネギはあわあわとまごついていた。

 すると今度は、

 

「うわっはっはっはっはっは!!」

 

 と今まで黙っていたライダーの大笑が響いた。

 

「未だ見ぬ世界に対して畏怖や恐れでは無く好奇が勝るとは!うむ、それでこそ我がマスター!」

 

 椅子に腰かけ磊落な笑みを浮かべたままライダーは「だが…」と続けた。

 

「それより先は貴様の知らぬ世界。ネギ(その坊主)も言っておったが危険は元より、昨夜のような闘争もこの先待ち受けているやも知れぬ。斯様な世界に足を踏み入れる覚悟が…貴様にあるのか?」

 

 口元には不遜な笑みを浮かべてはいるが、鷹のような双眸はしっかりと夕映を見据えていた。

 その眼差しで沸き立っていた熱が冷めていくのを夕映は感じていた。

 

 覚悟――――青春を謳歌する十四歳の少女(ティーンエージャー)に問い掛けるにはあまりに重いものだった。

 つい先日までただの中学生だった自分が何の因果か常識では測れない世界に足を踏み入れようとしている。そしてその恐怖の一端を昨夜味わっている。

 それを思いだして思わず身震いしそうになるのを夕映はぐっと堪えた。

 意識はせずとも、彼女の中で覚悟は既にできていた。

 

「それでも私は…魔法使いを目指します!」

 

 視線を逸らさず真っ直ぐに見つめて夕映は力強く答えた。揺るごうとしない彼女の瞳こそ決意の固さを表していた。

 それを見たライダーはニンマリと満足げに破顔した。

 

「フフン、ならばこれ以上問うのは無粋と言うものよ…なあ坊主?」

 

「うぅ…」

 

 視線を向けられネギは思わずたじろいでしまう。

 年上とは言え、教え子が危険な世界へ飛び込もうとしているのは止めたかったが、ここまで確固たる決意を見せられてはこれ以上余計な問いを掛ける方が野暮と言うもの。

 何より人生経験においてこの中で誰よりも足りていないネギの中では、これ以上の止める手段と言うものが思いつかなかった。

 

「まあそう悲観するでない。余がサーヴァントでいる限りマスターの身はしっかりと守ってやるわい」

 

 そう言ってライダーはその大きく厳つい手の平で表情が晴れないネギの頭をぐりぐりと撫でまわした。

 まるで父子のような微笑ましい光景だが、撫でられる力が強すぎるのか、頭を掴み撫でられているネギはあわあわと目を回しそうになっていた。

 

 話もようやく落ち着いてひと段落し、場は和やかな雰囲気になっていた。

 

「……ところで先ほどから気になっていたのですが…」

 

「うん?」

 

 弛緩した空気の中、夕映は怪訝な表情でライダーに訊ねた。

 

「その格好はなんですか?」

 

 そう言って目を据わらせる彼女の視線は、ライダーの服装に注がれていた。

 

 現在の彼の服装は昨夜のような古代ヘレニズム文化漂う甲冑姿などでは無く、紺のジーンズにTシャツと現代風の非常にラフな格好で、しかもTシャツの胸の部分には世界地図を(かたど)ったゲームのロゴがプリントされた俗世っぽいものとなっていた。

 

 世間一般から想像される王の装いとはあまりにかけ離れた服装に若干困惑顔の夕映だったが、当のライダー自身はさも嬉しそうに口を開いた。

 

「おお、これか。余の今後の身の振りについて昨夜あの御老と話合ってな。しばらくはこの学園に身を置くことになったのだが、この時代であの戦装束のままでは少々具合が悪いとなってなぁ…代わりの服を幾つか見繕わせたのだが、中でもこの柄が特に気に入ってな!見よ!」

 

 そう言って胸を張ってポーズをとるライダー。すると分厚い胸板の上に描かれたタイトルロゴがはち切れそうなくらい誇張された。

 

「ふははは、どうだ!この胸板に世界の全図を載せるとは、うむ!実に小気味良い!これこそ覇者の装束に相応しいと言うものよ!」

 

 楽しそうにTシャツを披露するライダーだったが、価格約3000円弱のゲームのコラボTシャツで小躍りする程はしゃぐ古の大王の姿にネギと夕映は揃って当惑した表情で見つめるしか出来なかった。

 

 昨夜の威風はどこへやらと、眩暈すら覚える感覚のずれっぷりに夕映は頭を抱えそうになった。

 

「…一先ず服の事は置きましょう…学園に身を置くと言っていましたが、具体的にはどのような形なのですか?」

 

 どうにか話題を切り替えようと夕映が質問を投げかける。

 現代の装いをしっかり堪能したライダーは上機嫌な笑顔で振り返った。

 

「ああ、一先ず余は…ム?その前に夕映、どうやら客のようだぞ」

 

 と言ってライダーが視線を向けるとほぼ同時にノックも無く出入り口の扉がガラッと開いた。

 

「あー夕映起きてるじゃない!」

 

「ぱ、パル。保健室で大きな声は…」

 

 入って来たのは見舞いにやって来たハルナとのどかの二人だった。

 

「のどか…パル…」

 

 予期せぬ親友二人の来訪に驚いた夕映は、呆けたようにぽかんと口を開けて吃驚した。

 

「おぉー思ってたより元気そうね」

 

「大丈夫だった夕映?」

 

心配が杞憂に終わった事に安堵したハルナとのどかは、そのままベッドに座る夕映の下へ駆け寄っていった。

 一方の夕映自身は親友との再会に安心と同時に心配を掛けたことに対する申し訳なさも湧いて、晴れやかな表情とは言えなかった。

 

「申し訳ありません二人とも…心配を掛けてしまいました」

 

「もー水臭いって夕映!無事で帰って来たことが一番のお土産って言うじゃない」

 

 律儀に謝辞を述べながらぺこりと頭を下げようとする夕映を見てハルナは苦笑してその背中を叩いた。

 他人行儀など不要と言わんばかりのこの図々しい態度が今の夕映にはありがたかった。

 

 その光景をどこか懐かしむような眼差しで見ていたライダーは、頬を緩ませながら夕映に語りかけた。

 

「ウム、良き友を持ったな夕映よ。友とは何ものにも勝る永遠の宝だ。無碍にするで無いぞ」

 

 その声でハルナとのどかはようやくライダーの存在に気が付いた。

 

「うわデカ!?誰このオジサン!?」

 

 第一声からいきなり失礼なハルナの一言に普段なら軽く注意している夕映だったが、今回に限ってはそれよりも先にライダーの存在が気がかりになった。

 

 馬鹿正直に過去から来た有名なアレキサンダー大王です、などと言える訳も無く、どう説明したものかと堪らず言葉に詰まった。

 だが夕映が頭を悩ませるよりも先に口を開いたのはまたしてもライダーだった。

 

「―――自分はアレクセイ(・・・・・)と言うものでな、今日からこの学園で用務員兼、馬術部の臨時顧問として働くことになった」

 

 あまりに流暢な対応、そして自分の知らぬ事実を聞いて夕映は目を丸くした。

 

「臨時顧問?」

 

「あーなんでも元々居った馬術部の教師が産休に入ったらしくてな。急遽自分が代役を務める事となった」

 

 首を傾げるハルナに対してまるで本当にそうであるかのようにライダーはさらりと言い放った。

 

「あのー…夕映とはどういう関係なんですか?」

 

 立て続けにのどかが訊ねる。

 

「ああ、夕映とは遠縁の親戚のようなものでな。もともとはこやつに学園を案内してもらう予定だったのだ」

 

 臆面もなくさらさらと言葉を並べるライダーを見て夕映はようやく察した。

 

 ―――そうか、そう言う設定なのか、と。

 ライダーが演じようとしている『アレクセイ』なる人物像を理解しつつ、夕映は表情にこそ出さないが眼前の大男が自分の親友たちに対して妙な事を口走らないか心配そうに見つめながら会話に耳を傾けていた。

 

「へー夕映に外国の親戚が居たんだー。ちなみに出身はどこなんですか?」

 

「うむ、マケドニアだ」

 

「…どこだっけ?」

 

 聞いたは良いが返ってきた答えが分からずハルナは巨漢の隣に立つネギに助け舟を求めた。

 

「そうですね…現マケドニア共和国はギリシャの隣と言えば分かりやすいかと…」

 

「おおギリシャ!ヘラクレスだとかアキレウスだとかの、あのギリシャ!」

 

 知っている国が出た途端なぜかテンションが上がるハルナだったが、彼の英雄の名が挙がった途端この(英霊)も盛り上がった。

 

「おお!娘よ、彼の大英雄を知っておるのか!?」

 

「トーゼン!ゲームや漫画にもよく出てくるくらいの超有名人だし、『ギリシャ神話といえばこの人!』くらいの英雄だから!」

 

「そうか!やはり真の英雄たる者、時を越えて尚その名は色褪せぬと言うことか!」

 

「その感じだとオジサンも好きなの?ギリシャ神話」

 

「無論だ!彼の大英雄について(したた)められた『イリアス』は肌身離さず持ち歩いておるくらいぞ!」

 

「いりあす?」

 

「む?何だ知らぬのか?良かろうならば教えてやろう、イリアスとは…」

 

 若干方向性(ベクトル)は異なるものの、共通した話題で盛り上がるハルナ(女子中学生)ライダー(大王)は周囲を置いてきぼりにして会話に花を咲かせた。

 

 その光景をどんな顔で見れば良いのか、呆れるべきか一先ずは安心すべきか、複雑な表情で夕映は肩を竦めた。

 

「変わった人だね…夕映のおじさん」

 

「ええ、変わったと言うか何と言うか…え?」

 

 のどかに話しかけられふと視線を向けた夕映は、彼女の腕に抱かれた自身のリュックサックに気が付いた。

 

「のどか、そのリュックは…」

 

「え?あ、これね。さっき高畑先生に頼まれて…夕映の荷物なんだよね?」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 思わぬ形で帰って来た荷物に驚きつつも夕映は自身の成果が返ってきたことに心底安堵した。

 すると夕映は、さっそくベッドの上で中身を確認する。

 文豪の原稿、怪しげな石板などなど、一つ一つ丁寧に取り出してベッドの上に広げていくその光景に隣で見ていたのどかや、興味津々で寄って来たネギは「うわぁ」と感嘆の声を出していた。

 

 しかし、夕映は気付いてしまった。

 その中に本命のモノが無い事に(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

「わぁ…凄いね夕映。こんなに沢山―――」

 

「―――せん」

 

「…え?」

 

「魔法の本が…ありません…!」

 

 




………
……

…続いちゃうの?

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