魔法先生ネギま!-Fate/Crossover servant-   作:魔黒丼

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Prologue

 ――魔法。通常の人間ではなしえない神秘的で不思議な事象、現象を引き起こし、行う術。よくメルヘンやおとぎ話などで登場し、超常的であり得ない力を使うときに、度々用いられる摩訶不思議な存在…つまりフィクションでしか存在しないモノ。

 

 そんな魔法に対する認識が彼女の中で今、少しずつだが揺らぎ始めている。

 空想上でしか存在しないと思っていたモノを、現実的に認識し始めているのだ。

 

 事の始まりは春休みが始まる前の期末テスト。さらにその前日にまで遡る。

 彼女たちは期末テストで最下位脱出を目指すため、読むだけで頭が良くなるという『魔法の本』を求めて、図書館島の地下へと赴いた。

 

 結果を言えば、『魔法の本』らしきモノは見つけたものの、手に入れるには至らず、最終的に徹夜でのテスト勉強でなんとか最下位脱出を果たしめでたしめでたし、と言うのがその時の顛末だった。

 

 だがその後、彼女はふと思った。

 

 ―『魔法の本』があったのなら、それに比肩する珍しい書物が他にもあるのではないだろうか?

 

 そう思った後の彼女の行動は早かった。

 終了式の次の日、クラスの皆が春休み突入ではしゃぐ中、彼女の姿はそこには無く、再び図書館島へと赴いていた。

 

 必要な物は全て揃え、貴重な春休みを全て犠牲にする覚悟で彼女は単身、図書館島の地下深部へと足を進めていった。

 …が、しかし、これと言った成果があげられないまま気が付けば春休み最終日になってしまっていた。

 

 それまでの休みを全て費やして見つけたモノと言えば、世界的に有名な文豪が書き上げたおとぎ話の原本や、悲劇を愛した劇作家の原稿だったり、壁画のような文字のような禍々しい模様が彫られた石版などなどと、珍しいが価値があるのか無いのか分からないものばかりで、あの時見つけた『魔法の本』に匹敵するような分かりやすい神秘の書物は発見出来なかった。

 

「戦果としては上々な気もしますが…ウーム…」

 

 発見した品々を眺めながら、納得のいかない彼女は本棚の上で独り言ちる。

 これらを持ち帰って同じ図書館探検部の友人や先輩方に見せればきっと舌を巻くだろう。

 だが彼女としてはいまだ目的を達成できず連休最終日を迎えたこの現状に、焦りを感じずにはいられなかった。

 

 -ここで立ち止まっていても仕方がない、と彼女は再び立ち上がり地下深くへと足を進める

 

 本棚の山を越え、本棚の谷を越え、本棚の崖を降り、本棚から出る罠や障害物を潜り抜け、深く、更に深くへと地下に潜って行く。

 

 …どれだけ深くまで降りたのか分からなくなった頃、彼女はおもむろに携帯を取り出した。

 既に電波が届かなくなって久しく、圏外のマークが点きっぱなしの画面は、17:05と時間を明確に表示していた。

 

(これ以上居ると今日中に帰れませんね…無念ですが…)

 

 -仕方ないと、彼女は地下を目指すことを諦めた。

 成果を挙げられずタイムリミットが来たからには、これ以上留まっている訳にはいかない。

 

 そうしてやりきれない感情を抱いたまま、彼女は上を目指した。

 来た道を忘れるようなヘマはすまい、と彼女は本棚の崖へと手を掛けた。

 

 次の瞬間、“カチリ”と何かが作動したような音がした。

 

 ―しまった。罠か。

 

 そう思った次の瞬間に、彼女の身体は突然現れた回転扉の奥へと吸い込まれていった。

 

………

……

 

 彼女が次に目を覚ましたのは、冷たい石畳の上だった。

 一体どれだけそうしていたのかは分からないが、気が付いた時には真っ暗な空間で彼女は横たわっていた。

 

 すぐさま身を起こし、彼女は真っ先に携帯を確認した。

 相変わらず圏外のままだったが、時間はそれほど経過してはいなかった。

 

 そのことに安堵しつつ、彼女はいつの間にか消えていたヘッドライトの明かりを灯す。

 最初に照らし出されたのは自身の足と灰色の石畳。 

 顔を上げるとそこには床と同じ石で出来た灰色の壁だった。

 

 ―ここは何処なのだろう?落ちたのか、それとも同じ階層か。

 それすらも分からずただ周囲を見渡す。見上げれば、ライトの明かりでさえ照らしきれないほどの深い闇。

 登るには根気が要りそうだなどと思いながら、ふと視線を横に向け、思わず目を見開いた。

 

 そこにあったのは、地面に描かれた怪しげな魔法陣らしき紋様。そして、その奥に鎮座する石台の上に置かれた一冊の古びた本と、朽ちかけた一片の布きれであった。

 

 以前訪れた魔法の本の安置室に比べれば遥かに貧相ではあるが、その空間に漂う不気味さは遥かに上回っていた。

 

「まさかトラップの奥にこんな部屋があったとは…」

 

 予想外の出来事に戸惑いながら、彼女は恐る恐る石台へと歩みを進める。

 一歩、一歩と踏み出す度に緊張感が増した。

 古びた本など図書館島(ここ)では何百冊と見てきた筈なのに、目の前の古書からは今まで感じた事の無かった不可思議な妖しさを感じられた。

 

 そしてようやく石台の傍まで来た彼女は、ゆっくりとその書を手に取る。

 すると、本の隙間から何かがひらりと床に落ちた。

 拾い上げると、それは一枚のメモだった。

 文字はほとんど掠れて読めない程だったが、メモにはこう書き残されていた。

 

 〔A Grail ■■s fin■■■■d melting ■■■eady.

S■■ll ■■ I wi■■ for a servant, ■ call, but ■■■ ■■■■.   

Kischur Zelretch Schweinorg〕

 

(…どちらにしても英語では読めそうもありませんでしたね)

 

 あっさりとメモの解読を諦めて制服のポケットへと入れると、彼女は本命の本を開いた。

 古びた本の最初のページは何が書いてあるか分からず、続けてページをめくった。

 怪しげな絵や紋様、文字が羅列している。

 再びページをめくる。

 そこでようやく読める文字が書かれたページへとたどり着いた。

 ところどころ掠れたり滲んだりしているものの、何とか読める。

 

 彼女は食い入るようにそのページを読み始める。

 

「素に…銀と鉄…」

 

 ―何かの素材だろうか?

 気付かぬうちに声に出して読んでいた。

 

「礎に…石と契約の大公…祖には我が大師…シュバインオーグ…」

 

 -どこかで見た名前だ。

 などと思いつつ、彼女は文字を追っていく。

 

「降り立つ風には壁を… 四方の門は閉じ…王冠より出で、王国に至る三叉路は…循環せよ」

 

 彼女は集中していた。

 そう。周囲の変化に気付かぬほどに、彼女は詠唱(読むの)に没頭していた。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)…繰り返すつどに五度…ただ、満たされる刻を破却する」

 

 風が舞う。沸き立つように彼女の意識(魔力)が高まる。

 その流れに乗るように、大気中の魔素(マナ)が集う。

 集った魔力で魔法陣が輝く。

 

「――――告げる…汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に…聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 そこで彼女はようやく気付いた(理解した)

 これは呪文なのだと。自身の想像も及ばぬ何かを呼ぶ詠唱なのだと。

 

「…誓いを此処に…我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 それでも止まりはしなかった。止められはしなかった。

 無意識の音読(詠唱)は知らぬうちに彼女から選択を奪っていた。

 周囲の変化に気付かぬまま、彼女は最後の一節を唱える。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 そう呪禱の結びをつけた直後、彼女の背後で巻き起こった逆巻く魔力の突風と閃光。

 その鮮烈な輝きで彼女はようやく我に返った。

 

「―――っな!?」

 

 状況が理解できぬまま振り返り、眩い輝きに思わず目を細める。

 

***

 

 同刻、麻帆良学園学園長室。

 

 この日の仕事を終え、最後に一息着こうとお茶を呑もうとしていた近衛近右衛門は、何かを感じたように眉を顰めた。

 尋常では無い勢いの魔力の流れが、学園都市のある場所から感じ取れた。

 

「…やれやれ。明日から新学期じゃと言うのにのう…」

 

 いつもの好々爺たる雰囲気は消え、神妙な顔つきで近右衛門は窓の外にある、夕日に照らされた図書館島を見つめた。

 

***

 

 時を同じくして、麻帆良学園学生寮の一室。

 

「…っ!」

 

 驚いたようにネギ・スプリングフィールドは立ち上がり、咄嗟に杖を掴んだ。

 

「きゃ!ど…どないしたん?ネギくん…」

 

 突然立ち上がったネギに驚いた木乃香の声もまるで聞こえていないかのような様子でネギは遠くを見つめる。

 

「今確かに…巨大な魔力の奔流が…」

 

 気のせいでは無いと確信を抱きながら、ネギの胸には何とも言えぬ焦燥感が渦巻く。

 

「すいません!ちょっと行ってきます!」

 

「あ!ちょっとネギくーん!明日菜もうじき帰って来るえ!」

 

 堪らず部屋を飛び出し、同居人の制止を振り切ってネギは学生寮から飛び立った。

 

***

 

 ここも時を同じくして、学園都市にあるとある邸宅。

 桜ヶ丘にあるこの家の住人も、今起こりつつあるこの異変を察知していた。

 

 扉をノックして、機械仕掛けの一人の少女が、この家の主の部屋に入っていった。

 

「マスター。図書館島の方向に巨大な魔力の反応が…」

 

 機械仕掛け(ロボット)の少女―絡繰茶々丸は自身の主に報告する。

 

「ああ…」

 

 彼女の主であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは既に分かっていたかのように返事を返し、優雅に紅茶を啜った。

 

「…フン、誰かは知らんが…なかなか面白そうな事をしているようだな」

 

 そう漏らす彼女の口元は妖しく歪んでいた。

 

***

 

 思考が、判断が、頭の中の何もかもが追いつかない状態の彼女の前にそれは現れた。

 

 埃で白く煙る魔方陣の真ん中にそれは君臨していた。

 

「―問おう」

 

 いまだ茫然と立ち尽くす彼女の耳に野太い声が響く。

 

 声の主は眼前のそれ。魔方陣の中心で仁王立ちしている筋骨隆々の巨漢からだった。

 赤いマントを翻し、古風な鎧を身に纏い、煌々と輝く双眸で彼女を見下ろすその大男は、最初の問いを投げかけた。

 

「―貴様が、余を招きしマスターか?」

 

 掛けられた問いに、彼女は答えようとはしない。

 否、理解が及ばず答えることが出来なかった。

 

「…ま…マスター?」

 

 問い返すように言葉を反芻する。

 

「うむ。この陣と、詠唱を以って余をこの世に現界させたのは…貴様で相違無いな?」

 

 再び男は問い返す。

 確かに呪文を唱えていたのは彼女だった。しかし無意識の行動だった故に、その質問は彼女をさらに混乱させた。

 

 さまざまな思いが渦巻き、答えることが出来なかった彼女は、再び男に問いを返す。

 

「えと…あ、あなたは…一体?」

 

 何者なのか、と。その問いかけに男は毅然として、それでいて尊大な態度で彼女に応えた。

 

「余は―――征服王イスカンダル。此度はライダーのクラスを以って現界した」

 

 雄大な声が薄暗い地下に響き渡る。

 その時彼女は察した。

 目の前の立ちはだかる巨漢の圧倒的な存在感から、魔法やオカルトを抜きにして彼は本当に大きな男(・・・・)なのだと言うことを認識した。

 

「…して、娘よ」

 

 唖然としていた意識が、その声で呼び戻された。

 

「余も名乗りをあげたのだ。貴様も名乗りを返すのが礼儀ではないか?」

 

 そう言われ彼女は慌てて姿勢を正し、被っていたヘルメットを脱いでその顔を晒した。

 長い探検で埃にまみれた顔を上げ、彼女は見上げる形で彼に答える。

 

「麻帆良学園2年A組4番、図書館探検部所属の…綾瀬夕映です」

 

 図書館島の地下深く。この日、少女…綾瀬夕映は、運命と出会った。

 




………
……

…続く?

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