宿毛泊地の日常   作:謎のks

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 はい、活動報告で予告したとおり宿毛泊地、過去編でございます。他の過去編はやっていくつもりですが不定期という形でお願いします。
 今回は吹雪編ですね? 吹雪…私が宿毛湾泊地サーバーに登録してから初期艦として頑張ってくれました、改二が来るまでそこまで目立った活躍はしてませんでしたが…今回はそんな吹雪ちゃんの気持ちを想像(妄想)して書いてみました。昔の艦娘たちやちょっとした「設定」に踏み込んだ話も…? まぁ、期待しないで見て下されば幸いです(保険)。
 吹雪ちゃんと言えば、最近吹雪ちゃんの中の人と運営さんの仲が良くてホッコリしてる私です。…怪文書回の暴言は本当にすみません、吹雪ちゃんも力強い言葉で「申し訳ありませんでしたっっっ!!!」と言ってました。本当にすみません…でも批判承知でまたああいう「ぶっちゃけ回」もやりたかったり…ダメ? すみません…暫く自重します;

 最後になりましたが、大事な言葉を言わせてください。

 ──艦これ「10周年」おめでとうございます!

 …ちょっと早かったですね? それでは本編、どうぞ。



過去編
【new】宿毛泊地過去話──吹雪編「私の居場所」


 

 

 

 ──これは、私が初めて泊地秘書艦になった時のお話。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──2014年、春。

 

 高知県宿毛市に新設された対深海棲艦防衛拠点、通称「宿毛泊地」。新港のだだ広い敷地内に設営されたそれは、かつての大日本帝国海軍が建てた軍艦の休息所兼航行試験施設「宿毛湾泊地」が名付け元になっていた。旧泊地跡地を造り直すにはあまりにも整備が行き届いて居なかったので、新港の一画の使われなくなった施設を拠点として新たに改装した次第のようだ。

 

 そんな宿毛泊地に今日──私、駆逐艦「吹雪」は着任する。

 

 艦娘として()()()()私は、横須賀鎮守府に併設された「艦娘訓練校」にて艦娘候補生として指導を受けた。人としての常識とか数学や現代社会を、ある一定まで叩き込まれた。そうして意思疎通の叶った「戦力」として認定された艦娘は、各鎮守府や泊地へ転属となる。此処に私が居るのも戦力として認められた証拠である。

 因みに「吹雪」は私だけではない、同じ顔が同じ学び場に並ぶ光景はもう見慣れたものだ。同じ個体が居るのは「データの書き出しが楽だった(?)」とか「兎に角即戦力が欲しかったから」とか、私たちを造った組織──運営鎮守府にも色々あったようだ。深海棲艦という脅威が目先に居るのだから仕方ない事情だろうが。

 とはいえ流石に個体ごとの性格に小さな違いはある、例えば率先して学び場の娘たちを纏めるキビキビした吹雪(わたし)や、身体の周りがなんだかキラキラしてるイケメンな吹雪(わたし)、耳にヘッドフォンに黒パーカーを着こなす不真面目な吹雪(わたし)…いや黒パーカーの彼女は、私たちは指定された制服を着ないといけないはずなのに、普通に規律違反なんですが…本人はいやに堂々としてるというか、まぁ授業態度自体はそこまでではないし、周りも運営のヒトたちも取り立てて注意することも無かったし、大丈夫なのだろう…うん、私は深く考えないようにしよう。

 

 ともあれ私はそんな学び場を無事卒業し、晴れて泊地勤務と相なったわけだが──その間にも色々な出来事があった。

 

 私が来た宿毛泊地は新設されたばかり、艦娘が新しい泊地に着任するということは、新しい提督を支える「秘書艦」にならなければならない。そう…私は秘書艦としてこの泊地にやって来たのだ。

 秘書艦になるには事前に提督と顔合わせし、候補となる複数の艦娘からヒトリを選ばなければならないのだが、その「選別試験」…要は面接の時に出会った彼がとても「曲者」だった。

 

「おぅ! 皆ぁ可愛いコばかりやけんど…一番最初に自己紹介したの、誰やって? …フブキ? 吹雪かぁ! なんやエターナルフォースブリザードち感じやにゃあ? にゃはは! …ん! オレこの娘にするわ、この娘がえい!!」

 

 選別試験の折、私と他の秘書艦候補四ニンがそれぞれ挨拶して、進行役の大淀さんが誰を秘書艦にするか促すと…即決即断で私に決まった…きまって、しまった。

 通常挨拶の段階で秘書艦が決まることはない、能力とか実技等の自己PRを経て最終的に決めるもののはず。少なくとも私はそう教わった…だのにこの人は、私の顔を見るなり即座に私を指名したのだ。

 これが分からなかった、何故私だったのか未だに理解出来なかった。だって──あの場に居た彼女たちの方が秘書艦として魅力的だったろうから。

 

 叢雲ちゃんは私の妹で、当たりはキツいがしっかり者で。

 

 五月雨ちゃんは多少の失敗はするも、それを上回る愛嬌がある。

 

 漣ちゃんは私の知らないこと(※ネットスラング等ネット知識)何でも知ってて、何考えてるか分からないけど頼りになって、何より面白い。

 

 電ちゃんは気弱な面があるけど、誰よりも優しい。意外と甲斐性も有るので秘書艦に一番相応しいのではないか?

 

 その中で言えば私は──ドが付くほどの「真面目」と周りから評され、取り柄がそれだけしか無いので人一倍頑張らないといけない。努力家と言えば聞こえはいいが、結局は自分に自信がないだけなのだ。あの時も秘書艦として恥じないよう演習を繰り返して、顔に生傷作って絆創膏貼っていたのだから、みっともなかったけど他四人のようにゆったりとしていられなかったから。でも提督をサポートするため余裕のある人柄が求められる秘書艦にとって、この違いは致命的だろう。…そう思っていたのに。

 

 そんな何もない私を彼は選んでくれた、その点については──正直身に余る光栄だった。秘書艦として未熟な私を信じて選んでくれたからには、この人を全霊を掛けて支えていこうと、自然と思わせてくれる人だった。

 彼のことに思いを馳せながら、私は出来上がったばかりの宿毛泊地の入り口を潜った。建物内に入り事前に聞いた道順に歩いて行くと──着いた、二階の階段を上がって右に曲がり直ぐ見える部屋。ここが…宿毛泊地提督執務室!

 

「(き、緊張する…でも、第一印象が大事だから挨拶はしっかりしないと!)」

 

 選別試験の時は簡単な自己紹介と今後の日取りを決めただけだったから、まだお互いがどんな人となりかは深くは知らない。だからこそ秘書艦として頼りにされるようしっかりとした態度でいかないと! ちょっと気合い入りすぎかなぁ…ふふっ、でもしょうがないよね♪

 私は緊張に身を固くなる身体の力を抜いてから、目を閉じて一つ深呼吸…息を吐いてから目を見開くと、意を決して執務室のドアノブを回した。

 

 ──ガチャ、ギイィ…。

 

「失礼します! 駆逐艦吹雪着任しましたっ! 秘書艦として精一杯頑張りまs」

 

「あ"あぁーーーっ!? なんで負けるんそこでぇ?!」

 

 …私は執務室のドアを開けて、敬礼しながらビシッと挨拶を決めようと声を張り上げた。だがしかしその第一声は──男の荒げた声音(こわね)に掻き消された。

 どうやら()()()()()()()()()()()ようで、私のお仕えする提督は格闘ゲームで自身が負けたことを悔しがっていた。隣では同じ艦娘の明石さんがドヤ顔でコントローラを持ち上げていた。

 

「どうですか明石の腕前は? 結構馬鹿に出来ないでショ、ひひっ♪」

「こんにゃろ、もう一回や! もういっシェンやろうZE!」

「ふふん、すぐ楽にしてやる…っ!」

「言うたなおんしゃあ、よーっし次はオレお得意キャラのカー○ィで!」

「私はマリ○ですねぇ!」

 

 …いや待て、おかしいでしょう?

 何故カーペットの上で、テレビにゲーム機繋いで、まるで「友だちの家でゲームして遊ぶ」みたいな雰囲気出してんだこの人たち? 普通はさ…二人して整列してさ、私の挨拶聞いてから和かに「これから宜しく!」って握手なり激励なり送るものでは? 私がおかしいの? 西の方ではこれが普通なの?? 呉も佐世保もこんな砕けた感じなの???

 

「・・・あの?」

「…ん? っは! 提督ていとく、吹雪ちゃん来ましたよ! 一回ちゃんとしましょう、ゲームはお終いです!」

「えぇ〜まだえいやんか、吹雪もこっち来て○マブ○やろうや!」

「ダメですって! ほら電源切りますよ、立ってたって!」

 

 漸く私に気づいた明石さんが提督を立たせてくれる、それにしても…立ち姿をじっくり見ると、この提督の制服の着こなしは「だらしない」の一言に尽きる。何でワイシャツのまま? 挨拶なんだから上着を着てよ、しかもシャツインしてるの半分ズボンからはみ出てるし、あとヒゲも剃ってない。何この人ホントに成人? 身体は大人で頭脳は子供とでも言いたいの?! すっごい気になる!!

 

「提督、ほら挨拶ですよ!」

「ぉおー、オレがここのハクチぃ? のテイトクになったモンやけんど、よろしゅうにゃあ〜ぁ」

 

 明石さんが提督に挨拶促したけど…ぁあ〜もうっ、何そのゆったりしすぎな喋り方! もっとハキハキ喋ってよぉ、幾ら何でもだらしなさすぎだって。ここは上官でもビシッと──って、待ってまって。初日に上官に説教とかどうなの? 学び場だと上官の命令には逆らわないようにって言われてるし…こ、ここは我慢だ吹雪、折角秘書艦の大役を任されたんだから、問題にならないようなるだけ穏便に…っ。

 

「・・・よ、宜しくお願いします;」

「おぅ。」

 

 私は握手を求めて手を差し伸べる、提督さんも何だかやる気のない声で返答すると、一応握手に応じてくれた。よしよし…ここからそれとなぁく礼儀を諭していけば良い、第一印象を──

 

 ──ブウゥッ!

 

「(な、何ぃ・・・っ?!)」

 

 ──いや、まさか。そんな筈ない。

 突如執務室に木霊する謎の異音に、私は思わず驚き握手した手を離しては後ずさり、真顔で凍り固まってしまう。この鼻腔に染み渡る刺激臭は・・・?

 

「ぁあすまんにゃあ、()()()()()()()()()。にゃはは!」

 

「…っ!」

 

 そのヒトは朗らかに、悪びれる様子なく「放屁」したと言ってのけた。嘘でしょ・・・こんな時にそんなことする普通?! 失礼だとは思わないのかな・・・? ;

 

「ありゃ〜ダメですよ提督、女の子なんだからもっと気を遣わないと」

「すまんスマン! 臭いやろ〜ゴメンにゃあ? さっき「焼きそばUF○」食ったき、そのせいやろにゃあ〜?」

「あ〜確かに人によってはカップ麺食べた後、なんだかトイレが近くなりますが…というかインスタントばかり食べないでこれからは健康にも気をつけて下さいね? もう貴方だけの身体じゃないんですから!」

「うぃ、気をつけますよって」

 

 明石さんと提督さんとの会話がどんどん遠のいて行く、このヒトは…ホントにすごいヒトだなと呆れた気持ちになり、次第に身体も震え始める──そう、あまりにも()()()()()()()()()のだ。だから・・・。

 

「──・・・っぷ、ふふ、うふふふ・・・あはははは!?」

 

 ──なんだか、可笑しくなっている自分を抑えられず笑いを吹き出してしまった。

 

「っ!? ちょ、吹雪ちゃん大丈夫?」

 

 明石さんが心配そうに尋ねてくる、狂ったように笑う私だが別に怒り心頭ということではない。寧ろあまりにも有り得なさすぎて思わず心の底から笑ってしまった。

 だって・・・コントみたいじゃない? 昔学び場で資料として見せてもらった「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()(○リフ)」お笑い番組を思い出して…こんなヒト、ホントにっ、居るんだって…っふ! ふふふ…っ!?

 

「おぅ! 笑ってくれて嬉しいわぁ、事前に準備した甲斐あったでぇ緊張せんようにってな」

「いや、努力の方向性! っぷふ、ふ、気遣いは嬉しいんですが、普通は身嗜みをきちっとしてですね?」

「お前今までフリーター(ニート)しぃよったオレに何求めよるねん? こっちが「正装」ゆうことでよ!」

「ひ、開き直りやがった、良いわけないでしょ! ふ、ふふふ! お、お、お腹痛いぃ・・・っ!!?」

 

 うん、我ながら笑いのツボが変だとは思う。でも──良い意味で「ガス抜き」になったと思う、彼も彼なりに私をリラックスさせようとしていたみたいだし、何より・・・()()()()()()()()()()()()()()

 

「…良かったぁ、この様子なら仲良くなれそうだね。なんかここの提督って個性強めだからさぁ、秘書艦の娘大丈夫かなって心配だったんだよね?」

「っふふ、ふ・・・んっん"っ! はい、こんなに面白いヒトなら毎日楽しくなりそうですっ!」

「いやぁ、そんな気に入ってくれたん? オレ期待に応えれるか不安やわぁ」

「大丈夫です! 貴方が周りの期待に応えてあげられるよう支えるために私が居るんですから、貴方はそのまま・・・ん〜、と言いたいのですが、もう少ししゃっきりしましょうか?」

「うぃ。」

 

 そんなやり取りの後私は次期宿毛泊地提督──司令官の服装の乱れを、彼と一緒に整えてあげる。

 鎮守府や泊地の代表者は漏れなく「提督」の役職に就くわけだが、艦娘から提督への呼び方は自由にしていいとのこと。なので私は彼を何となあく呼びやすい「司令官」と呼ばせて頂くことにした、服装を整えながらその旨を伝えると司令官も「えいにゃあ〜なんか皆ぁのリーダーっちゅう感じして!」と喜んでくれた。

 服を整え終えて改めて距離を取って司令官を見つめる。…うん、ヒゲが気になるけど後で剃れば良いか。シャツもちゃんとズボン下に入れたし、執務机の上に置いてある上着も着せた。こんな感じで…良いのかな? ん、良しとしよう。

 ──そのままもう一度自己紹介をさせてもらった、挨拶はニンゲン関係の第一歩だからね!

 

「改めて自己紹介させて下さい。私は…駆逐艦「吹雪」です、秘書艦として未熟な私ですが…よろしくお願いします、司令官!」

「おぅ! これからよろしゅうにゃあ吹雪、オレがなんか馬鹿やりよったらケツ叩いてくれてえいきにゃあ?」

「ふふっ、はいっ。全力でお支えしますよ!」

 

 そうして──私は司令官と挨拶を済ませて、頭の中で「これからどうなるのか」の、ほんの少しの不安と大きな期待に想いを馳せたのだった…。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ここから、私の宿毛泊地での生活が始まった。

 

 司令官はいい加減な性格だが、私が気をつけてほしいと言ったことはキチンと守ってくれる。ちょっと「毒」を吐くこともあるし、だらしない面もあるけど…根が真面目な人だと感じた、期待にも出来るだけ応えたいとも…でも、変えられないところは勘弁してくれ? そう私に苦笑いを向けていた。本当に…真っ直ぐで不器用な人だ、こちらも支えがいがある。

 私は司令官のため、司令官は皆のために動き状況を良くしようと行動した。そこから現在まで色々な経験と、体験をして、見聞を深めていった。

 

 ──あれから、本当に色々なことがあった。

 

 建造で新しい艦娘を造り、海域攻略作戦に参加し、イベントにも参加して、たったヒトリの仲間を…"喪って"。それでも前を向いて、その内泊地の仲間の数も規模もどんどん大きくなって、施設も増築して──言い出したら、キリがないや。それでも…全部、辛いこともあったけど良い思い出だ。

 艦娘というのは深海棲艦との戦いに駆り出されるのが常なので、いつシぬか分からない怖さは勿論あるが…宿毛泊地で過ごしているとそんな恐怖をつい忘れてしまう、そんな居心地の良さがあった。温暖な南国の気候と言ってしまえばだが田舎故の人々の温厚さ、何より司令官の人柄が、前世の戦いの記憶やトラウマもある艦娘たちの荒んだココロを癒してくれた。

 そんな宿毛泊地は誰が言ったか「艦娘たちの楽園」と呼ばれ始めていた、或いは「魔境」とも。まぁ個性が強い娘ばかりだから強ち間違いではない。

 こんな時に言っていいか分からないけど、私は宿毛泊地に配属出来て良かった。辛い戦いの続く前線から離れたこの泊地なら、ココロにどんな傷のある艦娘も笑顔になれる、安心出来る。これで世界が平和になれば幸いなのだが、それでも──未だに戦いが終わることは無かった。

 それどころか、敵がどんどん強くなっていくことを肌で感じていた。私は…それが怖かった。こっちも「改二」という新しい改装を用いて強くはなっているけど…敵がこちらの戦力を上回るのは時間の問題ではないか? そう思うと居ても立っても居られなかった。

 

 ──だから、私が泊地で暮らし始めてから半年後。私は不安を司令官に吐露したことがあった。

 

「秘書艦辞めたい? 何でいきなりんなこと言うがよ?」

 

 司令官は心底不思議そうな顔で、私を見つめながら疑問を口にする。

 

「司令官、この泊地にも大分戦力が増えて来ました。本来なら…秘書艦は提督の一存でいつでも、ダレにでも変えることが可能なんです。だから…」

「違うわ、オレが言いたいんは()()()()()()()()()()()()()()()っちゅうことやねん」

「司令官…」

 

 司令官は私を信じて下さったいる、私の働きぶりに「やっぱりお前を選んで良かった」とも言ってくれた。だから…私が急に変えてほしいと言われても納得いかないのだろう、でも…。

 

「…司令官は、改二はご存じですよね?」

「おう、なんや艦娘をパワーアップしてくれよるみたいやにゃあ?」

「はい、改二は史実…私たちの「前世」があの戦いで活躍した軌跡をステータスに反映させる特別な改装です。であれば…これからは主力級艦娘に改二が実装されていくと私は考えます。そして改二艦はそう遠くない内に鎮守府泊地の要となります、だから… 弱い私がいつまでも居たら、他の鎮守府泊地に示しが付きません。私みたいな中途半端に沈んでしまった艦に改二が実装されるとは思えないですし」

「そんなこと言うなや…お前はようやりゆうちオレは分かっちゅうき」

「ありがとうございます。だからこそなんですよ司令官、適材適所というか…私は裏方でも司令官をお支えしたいと思っていますから、私のような実力も戦歴も非力なモノより、改二が実装されるようなヒトたちを秘書艦とした方が私は…それが一番だと思うんです。

 司令官のためにも…この宿毛泊地を代表する艦娘として、改二艦やより武勲に優れた娘を置いておいてほしいんです」

「吹雪…」

「だから…私のことは気にしないで、これからの泊地のことを考えて下さい。お願いします…っ」

 

 私は頭を下げて司令官にお願いする。

 これで良いんだ…皆を率いる司令官をお支えするのは、これからは武功抜群の艦でなければ。私ではこれから来る激戦に耐えられないかもしれない、()()()()()()()()()()()()()、だから──司令官に寂しい想いをさせないためにも、これは必要なことだ、そう自分に言い聞かせる。

 今だからこそ言えることだが…「彼女」が沈んでしまったことが、今まで泊地での暖かさに慣れて緩んでいた私自身の「危機感」を煽っていたのかもしれない。焦ってしまっていた、けれどもこの時はこれが最上の判断だと信じていた。

 

 ──そんな私の意見に待ったをかけたのは、他でもない司令官だった。

 

「──お前の考えはよう分かった、やけんど…まだお前自身分かっとらんことがあるようやにゃあ? 先ずはそれを知ってからどうするか考えようや、結論は一旦保留やにゃあ」

「司令官? 私が分かっていないこと? それは一体…??」

「ん、よっしゃ。じゃあ吹雪、今からココに古参の艦娘を出来る限り集めてくれんかや?」

「え……わ、分かりました」

 

 言われた私は司令官の言うとおり、私以外の泊地設立当初から在籍する艦娘たちに出来るだけ声を掛けて、執務室に集合させた。

 

 皆新人たちの教育に忙しいだろうと思っていたが、私や提督のためならと最古参メンバー(天龍・神通・響・足柄)が、態々時間を割いて来てくれたみたいだ。有難いけど司令官は何故彼女たちを呼んだのか…?

 集結した古参数人に対して、司令官は単刀直入に尋ねた。

 

「皆ぁ集まってくれて、ありがとうにゃあ? 実は…吹雪が秘書艦辞めたい言ゆうがやけんど、皆ぁはどう思う?」

 

 成る程…古参の皆は気心の知れた仲なので、忌憚のない意見を言ってくれると思う。とはいえ皆も私と同じ意見を持っているだろうから、多少の反対意見はあると思うが、司令官も納得出来る答えが出るはずだ。

 

 ──私はそんな期待に似た感情で彼女たちの意見を待った、だが彼女たちから出て来たのは、私の予想外の「答え」だった。

 

「(天龍)あん? そりゃ困るぜ、駆逐のチビたちは俺の言うこと聞きゃしないが、吹雪が言ってくれたら素直になるんだよ。俺は乱暴に怒鳴っちまうけど吹雪は丁寧によぉ、どうして行かなきゃいけないのかみたいな理由を教えるから、有難いんだぜ?」

 

「(神通)あの…私も同、意見です……吹雪ちゃんは私と一緒に、演習に最後まで、付き合って、くれましたから…他のヒトに、寄り添える艦娘が、秘書艦に、なるべきと…存じます」

 

 天龍さんと神通さんが各々の言葉で、私の日頃の行いを指摘する。

 関係ないけど…この頃の神通さんはまだ改二になってないから、ちょっと内気で言葉もたどたどしい感じだった。それでも戦いへのストイックさは変わらないけど…三日続けて朝昼晩演習漬けの時は「鬼か。」と思ったよ正直。

 

「(響)ダー。君は真面目だから誰よりも秘書艦の責務を感じたのだろうが、私は君こそ泊地秘書艦に相応しいと考えている。自信を持つべきだ…各々の信頼に応えるのは、単純に見えるが誰にでも出来ることじゃない」

 

 響(ヴェールヌイ)ちゃんがそう言って私が秘書艦であるべき的確な意見を述べた。

 響ちゃん・・・こんな場面で言うのもアレだけど、普段からロシア単語しか喋らない(「ハラショー」とか「スパスィーバ」とか)から、そんな風に思ってくれてたんだって、感動も一入(ひとしお)だよぉ・・・!

 

「(足柄)私、吹雪ちゃんが直向きに頑張ってるのを見ると、元気になって来るんだ! 私ももっとやってやらないとってその気にさせてくれるってこと、私以外の皆も感じてると思うの。だから…貴女はヒトの見えないところで皆に元気や勇気を与えてくれてるって、知っててほしいな!」

 

 足柄さんがそんな風に、私が皆からどう思われているのかを纏めてくれた。まさか古参の皆全員が私の秘書艦辞退を反対するとは、思っても見なかった。

 皆に元気を…そうだったら嬉しいけど、ちょっと実感湧かないな? でも…嬉しい、皆が私に秘書艦の素質を見てくれていたなら…本当に嬉しいっ。

 

「皆…っ!」

「…と、まぁこういうことや。改二やとか武勲とか関係ないわえや、戦艦が偉いとか空母がエラいとか、武勲あるヤツがスゴイとか、そんなん昔の話やん? 皆ぁは今…艦娘の吹雪を見いよるがやない? オレはそんな吹雪に秘書艦に居ってほしいがよ、ほとんどオレのワガママやけんど…ここをお前の「居場所」ち思いよってほしい」

「司令官…っ!」

 

 司令官は改めて私に秘書艦として、この立場から頑張ってほしいと、私に言ってくれた。

 この人には解っていたんだ…皆が私を認めてくれているって、司令官だけの意見じゃないって。本当に…敵わないな、この人には。

 

「…ふうっ、もう…しょうがないですね! なら私も遠慮しませんよ、これからもビシバシ宿毛泊地を引っ張って行きますからね!」

「おぅ! その意気やぞ吹雪! 改二がナンボのモンやっちゅうねん!!」

「(天龍)そうだそうだ、もっと言ってやれヤレ!」

「(神通)私たちは、わたしたちの道を進むのみ…ですね?」

「(響)ハラショー。」

「(足柄)よぉーっし! 漲って来たわよぉっ!! 宿毛泊地ーっ、ファイトぉーーっ!!」

 

 

 

「(全員)──おーーーぅっ!!」

 

 

 

 …と、あわや秘書艦を辞めることになっていた私だったが、まぁこんな感じでこの場は収まった。なのだが…実は、この話にはまだ続きがある。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──数か月後、2015年一月某日。

 

 年が明けて数日のある日、私は泊地工廠で装備を新調している手前、簡易更衣室で新たな衣装に着替えていた。

 吹雪改までの青色に白いラインの入ったセーラー服が、黒に赤いラインの制服に一新された。装備も史実の私が装備したことが無かった、10cm連装高角砲と94式高射装置、13号電探、三連装酸素魚雷にグレードアップしている。いわゆる「IF改装」…いや、吹雪(わたし)の「改二」であった。

 そんな私の改二改装が完了し、私は真っ先に工廠で待ってくれていた司令官にお披露目していた。しかし──何というか、感激の頂点という気持ちはなく、私も司令官も「呆気」のある表情で互いを見つめあっていた。

 

「・・・成ったにゃあ、改二」

 

「・・・なっちゃいましたねぇ?」

 

 何故あれだけ武勲艦にと一頻り言っていた改二が私に? しかもそんなに間を置かずに? そんな当たり前の解答は──”艦娘周知のため制作した「販促アニメ」の影響”・・・である。

 どうやら知らない間に運営鎮守府によって、私が主役のアニメが製作されていたようだ。何でも初期艦の中で()()()()()()()()()()()()()()()、それを踏まえて一般の方に艦娘を認知してもらうため「アニメ」媒体で私が主役に抜擢され、その影響で私の改二が決まってしまったようだ。

 

 ※吹雪が一番初期艦に選ばれているかは不明ですが、ここではそういう事実があることにします。ご了承下さい。

 

 何というか・・・ぶっちゃけノリが良すぎませんか?! IF改装って何ですか!? 改二って史実要素だけじゃ無かったんですか?!! 誰にも予想出来ませんよこんな展開!!?

 

 ──私は内心そうツッコミを入れるも、何だか…気が抜けてしまって自然と笑みが溢れていた。

 

「・・・あは、あははっ!」

「にゃはははっ! わやしゆうわ、こんなん…笑うしかないわにゃあ?」

「ですね? ふ、ふふっ! …まぁ、そんなところですよね?」

「そんなモンよぉ。…良かったにゃあ吹雪、これからも頑張りよぉ?」

「はいっ、もちろんです…これからもお傍でお支えしますのでよろしくお願いします、司令官っ!」

「おぅ!」

 

 私たちは何だかおかしな笑い声を出し合いながら、これから先も一緒に頑張っていこうと誓い合ったのだ。

 

 それからも私は変わらない、少し自信の無い努力しか取り柄のない艦娘。でも…司令官や仲間の艦娘たちが私を必要としてくれる限り、私も応えていこうと思う。だって──

 

 

 

 ──私が「私」で居られる、此処が私の「居場所」だから…っ!

 

 

 





 〇本当の宿毛泊地ビギニング。

 ※ここからは、作者が現実でどうやって艦これと出会ったのか記載したいと思います。半分「エッセイ」みたいな感じですね? そういうの求めてない人たちはこの辺りでブラウザバックお願いします。

 ・・・作者の黒歴史ですが、それでも見てくれますか?

 ありがとうございます、それでは…少し長いですが、お付き合いください。





・・・・・

 ──自分は「どうしようもない」人間です。

 夢はあるけど、そこまでの過程がキツくて「じゃあいいや。」ってなってる人間です、今もそう思ってます、楽なのが大好きなしょうもないヤツです。
 昔から貧乏で、渋々アルバイトをやる毎日で…どうして自分はこんな底辺彷徨ってるんだって、本気で思ってました。自分が変わることを恐れた結果だというのに、です。
 本当の底辺を体験した人からしたらそこまでではないかもしれませんが、社会を舐め腐ったゴミクズ野郎でした。自分と向き合うことをしなかったクソ野郎です。

 ──そんな折、僕の耳に「新しいソーシャルゲーム」が出来たという情報が入りました。

 どんなものじゃろうか、と調べると…"艦隊これくしょん"という軍艦が美少女擬人化したゲームと聞き、私は「東○みたいなモンか?」と思いました。
 あの頃の東○の勢いは凄かったですからね…東○は僕が苦手な「シューティング」だったので正直やる気はしませんでしたが、艦これは(当時は)簡単なシミュレーションゲームと聞き、やる気が・・・"起きませんでした"。
 興味はありましたが、当方流行りモノに蕁麻疹が出るクズ感性の持ち主で、皆にチヤホヤされてるようなジャンルに手を出したくなかったのです。あんまりですよね? 貴方は正しい、この頃の私をぶん殴って下さい。
 どうせ一過性だろう…そんな風に思いながら過ごしていたある日、ネットを検索(サーフィン)していると、ある画像がヒットしました。

 ──それは、艦これに実装されたばかりの「改二」の艦娘…「時雨改二」の画像でした。

ワイ「・・・可愛い。」

 電気が走ったとか、思わずときめいたとか、そんな単純な感覚でなく…何というか「感動にも似た」ようなぼやけた感覚でした。時雨改二の画像をボーっと見ているぐらいには衝撃的でした。

 それからは展開が早かった、当時ニ○動に投稿されていた「電ちゃんと行く艦これシリーズ」を見て艦これのやり方を勉強し、気持ちが高まったところで、艦これに新しく実装されたサーバー「宿毛湾泊地」にエントリーし登録、晴れて宿毛湾泊地提督となったのです。
 調べてみるとアラびっくり、宿毛湾泊地って今私の居る「高知県」じゃないですかと。でも実際行ってみたんですが・・・市内からだとめっちゃ遠いので(車の高速無しで3時間ぐらい)朝から行くぐらいの気力がないと観光も出来ません。それでもその時はちゃんと宿毛湾新港にも行ってきましたよ?
 話は逸れましたが、それからも特段変わることなく相も変わらず人と社会を逆恨みしながら、艦これをプレイしてました。プレイ動画も視たり二次創作の絵や動画とかも楽しんだり・・・それから色々ありまして、このまま社会にメンチ切ってもなんも出来ないなと、とにかく何かやろうとなって…自分も二次創作に手を出そうと思い至りました。そこで自分の気持ちを形にしてやろうと。
 そして「二次小説」という著作権キャラを取り扱った小説に興味を惹かれ…丁度艦これの二次小説を執筆していた友人に自分のアイデアを聞いてもらいながら、最初はどういう形で出そうかと悩んだ結果、艦これのイベントを小説に落とし込む「プレイ動画風小説」というものをやろうと結論付けて、まぁものは試しという感じで投稿をスタートさせました。
 相談した友人は見てくれると言ってくれましたが、ぶっちゃけ誰も見てくれないだろうと高を括ってました…しかし蓋を開けて見たら予想をちょっと、いや断然上回る形で、結構見てくれてる人たちが居てくれたみたいで。見てくれた皆さま本当にありがとうございます。それからは「よーし頑張っちゃうぞ☆」という気持ちで楽しみながら書いてました。

 ──それからも、本当に色々なことがありました。

 様々なことが変わりましたが、私はまだ艦これをプレイし続けているし、小説も書いております。まさか自分がここまで何かにのめり込めるとは、思ってもみませんでした。(小説を)書いてみたら分かるけど運営さんの「ノリの良さ」も、筆が乗った要因だと思います。本当に…感謝、しています。

 私は艦これから「諦めないこと」「人を信じること」「自分と向き合うことの大切さ」そして…「何事も楽しんだもの勝ち」ということを学ばせて頂きました。

 こんなゴミクズ作者がここまでこれたのも、偏にその「教え」のおかげだと信じております、本当に…ありがとうございます、ちょっとしつこいですかね…;

 これからも毒を吐いていくとは思いますが、どうか「またKSが何か言ってる~」ぐらいに捉えてもらえたら…言い訳がましいですが、受け入れてくれた人たちに何度目か分からない感謝と謝罪を。

 そして…奇しくも二度のアニメの主役に抜擢されたフタリ、私の運命を変えてくれた吹雪ちゃんと時雨ちゃんにも感謝を。ありがとうございます、これからも艦これ並びに運営(C2機関の皆さま)を応援していきたいと思います。今では立派な艦これオタクな私より──

 ──P.S.今年はリアイベ行きたいなぁ~~、でも遠いし休む暇もなぁ~~~!?

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