提督が頑張る理由
3月の、よく晴れたある日、いつものようにオリョクルから帰ってきたイヨちゃんとヒトミちゃんは、ある光景を目にしていました…。
「…あれ? あれ提督じゃない?」
「え? …ああ本当…ん? はっちゃんさんも一緒?」
「あホントだ…どこに行くんだろ?」
提督ははっちゃんこと伊8号を連れて、どこかへ出かけるようです。
その様子から、どこか悲しそぅな表情になっている提督を見て、心配そうに見つめる二人…
「…ぃよーし! 姉貴! こっそりついていっちゃお!」
「だ、ダメだよイヨちゃん! …何か大事な用事みたいだし…?」
「ダイジョブダイジョブ! 見つからないように行けば良いんだから! …んっふふ~ん、隠し事なんて、提督のクセに生意気ィ~」
「あ、イヨちゃん!? お、おいてかないでぇ…!」
二人は提督をこっそり追いかけて、山の方へ向かって行きました。たどり着いた場所は、「大島」という、泊地から離れた小島の山頂でした。
「あ、あった!」
提督とはっちゃんが乗っていた自転車を発見した二人。そのまま奥に向かったであろう提督たちを追いかける…
(…いた!)
四国の海が見渡せる光当たる場所で、二人は何かに向かって手を合わせて拝んでいた。
(アレ何? 姉貴?)
(さあ…あ! 確か今日ってお彼岸…)
(ば、姉貴!? 急に動かないでよ!)
茂みに隠れていた二人は、動いた拍子に草木を揺らしてしまう。
「…誰、ですか?」
「お?」
提督たちに気づかれた二人は、素直に姿を現すことにした。
「…イヨ、ちゃん…?」
「ヒトミもかや? どうしたぁ? 何かあったがかよ?」
「い、いやあ、提督たちがコソコソしてたから、つい…」
「…あの…提督? その後ろにあるのは?」
ヒトミちゃんは、提督の後ろにある土が盛り立てられ、そこに棒が立てられている場所を指し示した。
「まるで…誰かのお墓みたいですけど?」
「…ああ、これかや?」
提督はその土を優しく撫でて見せた。よく見ると線香も焚かれており、ますますそれに見えた。
「あの、このことは内密に…隠すことではないけど、みんな混乱するから」
「どーゆう意味?」
イヨちゃんがそういうと、はっちゃんは静かに事実を語る。
「実は…私は「伊8号」としては2代目なんです」
「え”ぇえ!?」
「やっぱり…」
「はっちゃん、こっからはオレが言うわ」
「提督…」
提督は自身の言葉で、語り始める…自身の後悔の念と共に。
・・・・・
― オレが提督について間ぁもない頃やったと思うけど、オレは艦娘を建造するのに明け暮れよった。
あの頃は、どんな艦娘でも、ウチに来てくれることが嬉しゅうてにゃぁ…「やり過ぎです!」って大淀さんに怒られよったわ。
ほいで、レア艦を建造するのに挑戦しよったときに、はっちゃん…先代の伊8号に出会うたがよ。
『伊8号です!はっちゃん、って呼んでください!』
潜水艦がウチに来たのは、彼女が初めてやったき、オレは、そりゃもう飛び跳ねるほどでにゃぁ…。
『…で、嬉しいのは分かったんですけど、司令官?』
『お?なんにゃ吹雪?』
『今会議中なので、その子を離してください!』
会議の時は、ようオレの膝の上にはっちゃんが座りよって、本を読みよったがよ。
吹雪たちは、そんなオレらぁを「提督がはっちゃんにヘンタイしてる!」っていうがよ…ヒドイ話よにゃぁ?
『当たり前ですよ…はっちゃんも、嫌ならイヤって言っていいんだよ?』
『ううん!提督のココ、あったかくて、いい匂いがするの!』
『はっちゃん…』
『はっちゃんは癒し。はっきりわかんだね?』キリッ
『司令官は自重してください!?』
『全員)ハハハ!!』
はっちゃんは、まっこと皆ぁの太陽やった…。
演習でも、出撃でも、皆ぁの為に動いてくれよってにゃぁ。
この間も、敵さんの攻撃を一手に引き受けてくれてな? はっちゃんがおらんかったらいかん、ちぃ言うぐらいよ。
「…それって、潜水艦の仕様じゃあ…?」
「しーっ!イヨちゃん!!」
まぁそういうなやw…んで真面目な話、オレは焦りよったがよ。
その時はろくったな戦果も挙げれんで、資材の備蓄も底をつき始めてにゃぁ…。
『― あ~っ!』
オレはいつものように、膝の上で本を読みゆうはっちゃんに愚痴をこぼしよったがよ。
『どうしました? 提督?』
『ん? いやぁ、資材が足りんって思うてにゃぁ…』
『資材? どの位足りないの?』
『ん~鋼材が足らんにゃぁ』
『鋼材? あんなにあったのに?』
『あっはぁ、大淀さんに建造するな言われちゅうに、言う事聞かんかったきやろにゃぁ?』
『そうなの? もう、提督ってば』
『すまんすまん! …あぁでも、もうイカンかも知れんにゃぁ』
『…え?』
『このまま行きよったら、資材が底をついて、最悪ココをたたまんとイカンやろにゃぁ?』
『たたむ、って…ココがなくなっちゃうの?』
『まあ大淀さんは心配いらんち言いよったき、大丈夫やろ?』
『そっか…そうなんだ』
『そんな顔せんでえいき!大丈夫ちや』
…オレは、あん時の自分をぶん殴りたいわ…あんな事言うたき…!
・・・・・
「提督…?」
「提督、無理は、しないでください?」
「…ああ、わかっちょるわ」
・・・・・
…ある日、キス島に出撃…いわゆるレベリングっちゅうヤツやけんど、それしよったときに…。
『提督、キス島周辺の周回、10回達成したよ』
『おう時雨、ご苦労さん。…んじゃ適当に切り上げて、帰ってきぃや』
『うん、わかった…皆、行こう?』
『…あれ? 誰か、いない…?』
『え? …まさか!?』
『時雨? どうした!? 何かあったがか!!?』
時雨は応答せぇへんかった。そん時は、余裕がなかったがやき、当たり前やけどにゃ?
『…!』
時雨が見つけたのは、ボロボロになったはっちゃんと…それに止めを刺そうとしよる敵艦隊やった…!
『はっちゃん!! 全員構え! はっちゃんを助けよう!!』
時雨の号令で、皆ぁは敵に向かって攻撃、そのまま追っ払うことに成功した、がやけんど…。
『はっちゃん! しっかり!!』
必死になって呼びかけゆう時雨に、通信しよったオレも”はっちゃんに何かあった”っちゅうことがすぐ分かった。
『!? はっちゃん! どうしたぁ!? はっちゃん!!』
『…ん……提督………?』
『何しゆうがよ!? オマエ自分がどうなったと』
『…時雨……あれ…』
はっちゃんが示した方向には、海に浮かんだドラム缶…中身は鋼材やった。
『はっちゃん、あれ…?』
『えへへ…この辺りは鋼材が取れるって聞いていたから……』
『はっちゃん…』
『すこし少ないかも知れないけど…でも、これで皆お別れしなくていいよね?』
はっちゃんは、オレが適当に言ったことを本気にして、こっそり資材を集めようと…!
『はっちゃん…オレは…』
『提督? …これで…足りるかな? …皆、大丈夫…かな…?』
『…ああ! 十分じゃ!! これで皆ぁ一緒におれる! だから…はっちゃん…』
『そっか…良かったぁ……ねぇ提督?』
『…ッ』
『わたし…提督やみんなに会えて…本当に……よ、かっ、た………』
…はっちゃんは、そのまま、いってしもうた……オレは。
『―はっちゃああああぁぁぁん!!!!!』
自分がとんでもない糞野郎やって、後悔したがよ…っ!!
・・・・・
「…そんなことが」
「ご、ごめん…興味本位で聞くことじゃあ…ないよね?」
「なんちゃあ。オレが話したい思うたきそうしたがよ」
「うん…え、えっと?じゃあ、そのお墓は…?」
「ああ、あいつのじゃあ…ここには埋まってないけんどにゃ」
あの後、艦娘は海にあるべきだろうと、そのまま残してきた様です。…辛い決断だったでしょうが。
「ここには釣りしによう来よるがやけんど、はっちゃんは、こっからの景色は好きでにゃぁ」
「それで、提督の提案で、ここに先代はっちゃんを供養しようと」
「そっか…」
「…あの、提督? 他の娘達は、このことは…?」
「はっちゃんに先代がおる、ゆうのを知っちゅうのは、ここにおる二代目はっちゃんと、ホントに昔からおる奴らだけよ」
「そうですか…じゃあこのことは内密に…ですね?」
「まあ言うたちえいと思うけんど…?」
「ダメですよ? 吹雪さんに言われたでしょう?」
「…そうやったにゃ」
風に吹かれて黄昏る提督を見て、イヨちゃんは、どこか納得した様子だった。
(これが…あの人が頑張る理由か…)
自分の記憶にないことだが、それでも彼は、自分に”大丈夫だ”と笑いかけていた。
頭にこびりついたその映像の意味が、ようやくわかった気がした。
「…んっふふ~♪」
不意に提督の足元に抱きついてきたイヨちゃん。
「…お?」
「提督! これからも”頑張ろう”ね!」
「…(ニッ)おう!!」
―春風がそよぐ中、提督は在りし日の先代はっちゃんとの思い出を思い返していた…。
・・・・・
『わあ、きれいですねえ!』
『そうかよ?オレはいつもの光景やき、そこまでは思わんにゃぁ』
『もう! 提督は「むーど」がないです!』
『ハハハ!すまんにゃぁ』
『…んー?』
『お? どうしたぁ?』
『…提督! かたぐるま!!』
『おぉ!? しょうがないにゃぁ…よっと』
『わあぁ~! たかいたか~い!』
『ハハハ! はっちゃんは甘えん坊さんやにゃぁ!』
『あははは!』
・・・・・
(はっちゃん…ここでよう見ちょってくれ…?)
(オレは、もう二度と…オマエみたいなやつは出さんきにゃ)
心の中でそう呟くと、提督は皆と一緒に泊地へと帰っていきました…。
改めて決意し直したその心は、春の思い出と共に…。
現在春イベ編鋭意制作…というよりやりながら書いている感じ。
投稿はだいぶ先になると思いますが…様々な新キャラが登場予定。
とりあえず待っててね★