ダンジョンに鉄の華を咲かせるのは間違っているだろうか   作:軍勢

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不定期すぎるだろと思いながらも投稿
己の文才の無さが恨めしい…そして年末に向けて時間が削られ悲しい…

亀どころかナメクジのような遅さですみません
そして多分その内ひっそり加筆修正します。


第6輪

「今日で終わりか…まぁ、冒険者頑張れよ!」

 

「お前が居ると仕事が楽だったんだがなぁ」

 

「冒険者やるよりこっちの仕事やってほしい位だ」

 

「嫌になったら戻ってこいよ!こき使ってやるから」

 

労働者仲間が帰り際にオルガに声をかけていく。

今日は期限と定めていた一月の最後の日、つまり労働は本日で終わりとなる。

 

「親方、このひと月世話になりました」

 

「お前はよく働いてくれたからな、おかげでこっちも結構助かった」

 

頭を下げて感謝の言葉をするオルガに親方も助かったと返す。

事実、恩恵を持つオルガがいる事で仕事の効率は上がっていし、他の連中もオルガの働きに触発されたのか前より精力的になっていたのは親方にとって嬉しい出来事だった。

 

だから、これから『冒険者』となるオルガに親方は一つだけ忠告をした。

 

「死ぬなよオルガ、名を上げるのも死んじまったらオシメェだからな」

 

「…ウス、ありがとうございます」

 

その言葉はことのほかオルガに刺さった。

前は名を上げること、成り上がる事に重点を置き過ぎ最短を突き進んだ結果『あの結末』になったのだから。

 

「じゃあなオルガ、偶にでもいいから忙しい時に手伝ってくれると助かるぜ」

 

「給料出してくれるなら考えときます」

 

「ハッ!そんじゃ頼んだぜ」

 

そんなやり取りをして親方は去って行った。

 

 

「死ぬな、死んだら終わり……か、いてぇな」

 

誰もいなくなった仕事場で一言ポツリと言葉が零れた。

 

「今度は間違えねぇ、今度は必ず守っていく……」

 

ギリッと拳を握り締めて再度言葉が紡がれる。

それが決意か、誓いか、願いかは不明だがオルガはソレを改めて胸に刻んだ。

 

こうして、オルガの労働者としての日々は一旦の終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ファミリアの設立とオルガが冒険者となる為の登録を行う日がやってきた。

天気は快晴、雲一つない青空が広がり東の空から登った太陽がオラリオを照らしている。

 

そして早朝にオルガとヘスティアはある建物の前に来ていた。

 

 

 

その場所の名前は――ギルド

 

外見は白い柱で作られた万神殿パンテオン。

ダンジョンの管理機関であり、オラリオの運営を一手に引き受けている。

オラリオの住人として一定の地位と権利を約束する冒険者登録、迷宮から回収される利益を都市に反映させるため、ダンジョンの諸知識・情報を冒険者達に公開、探索のサポート等も行われている場所だ。

公平性を期すためにギルドで働いている者達は神の恩寵は存在していないが、主神としてウラノスがいるので実質ウラノス・ファミリアとも一部では呼ばれている。

 

そこでオルガとヘスティアはファミリアの設立の申請を行った。

 

 

 

 

結論から言えば、特に問題もなく手続きは完了した。

書類と説明、そして様々な注意事項を聞きながら行われたソレは結構な量が存在したものの鉄華団時代の経験があるオルガからすれば特に問題ない量だったためだ。

 

(何処の世界でもこういう事は共通なんだな)

 

というのがオルガの感想だ。嘗て鉄華団を立ち上げた時も色々申請やらサインやらを要求された事を思い出した。

正直あの時のサイン地獄に比べればどうということはないと思える量ではあった…まぁ、鉄華団立ち上げの時のそういった諸々の大半はデクスターとビスケットの尽力があってこそと言える。

 

 

 

「ん~~~!やっと終わったぁ……でもこれでようやくだね」

 

「あぁ、そうだな……此処から始まるんだ」

 

何かが劇的に変化した訳ではない。

アジトは依然として廃墟となった教会の隠し部屋であり、眷属ファミリアもオルガ一人のまま。

 

だが、この日確かに『ヘスティア・ファミリア』は正式に立ち上げられたのだ。

 

 

 

 

「それじゃ次は買い物(デート)だね」

 

「ん?あぁ、そういや装備を買うんだったな」

 

「むぅ…少しは反応してくれてもいいんじゃないかな?」

 

一瞬何の話かと思ったが、オルガは昨日ヘスティアが自分の装備を一緒に買いに行くと言っていた事を思い出した。

その様子に一応美少女ではある自分(ヘスティア)からデートと言われても特に反応のない様子に少し乙女のプライドが傷ついたヘスティアだったが、まぁ仕方ないかと流す。

 

 

「で、何処に行くんだ?」

 

「ふっふっふ、それは……あそこさ!」

 

オルガの疑問に意気揚々とヘスティアが指をさしたのは空高くそびえ立つ塔…『バベル』だった。

 

……………………………………

 

……………………

 

………

 

 

 

 

「へぇ、見かけ通り中も結構デカイんだな」

 

「あれ?オルガ君はバベルの中に入るのは初めてかい?」

 

「あぁ、中に入るのは初めてだな…服やなんかを買う時は街の服屋だったし」

 

「まぁ、バベルで出店出来るって事は一流の証みたいなものだからね」

 

「一流って…おいおい、大丈夫か?」

 

「そんな心配しなくても大丈夫だよ、ここには駆け出し冒険者も買いに来るんだ」

 

バベルに出店しているとは言え全てが高額な品物で揃えられている訳ではない。

上を見ればキリがないが、ちゃんと駆け出しや一般の冒険者にも手が出せる値段のものもキチンと存在している。

それでも一応資金の事を気にしてしまうのは経営者としての経験であろうか。

 

装備に関してはヘスティアの強い推薦からヘファイストス・ファミリアでの購入となった。

鍛冶を生業とするファミリアではトップであるという実績もさる事ながら、一時期世話になっていた事でファミリアの人達の事は信用できると考えたからだ。

 

……まぁ、『神友としてちょっと位おまけしてくれるかも』という打算的思考は全くないとは言わないが。

そんな訳で現在二人はヘファイストス・ファミリアの店に向かいバベルの中を移動していた。

 

早速ダンジョンへと向かっていく冒険者達を尻目にバベル内に設置されているエレベーターに乗り目的地へと向かう。

そしてチンと目的の階層へと着いた事を知らせる音が鳴り、ガラガラと扉が音を立てて開かれた先には

 

「此処が僕の神友が主神をしているヘファイストス・ファミリアの購買所さ!」

 

「あ~……ヘスティアさんよ、言いたかねぇけど……流石にコレは俺達場違いだろ」

 

エレベーターの扉が開いた先にあったのは通路の向こう側にまで広がる店だった。

展示されている武具の数々は素人目でも分かるほどの業物、少なくとも駆け出しですらない自分たちには到底手が出せない代物である事は金額を見なくても分かる。

 

「まぁ、此処は高レベルの鍛冶師が扱うエリアだからね!目的の場所は別のエリアだけど、一流の装備を見ていくのも勉強の内と思って覗いて行こう」

 

「なんかやけにテンション高いな……けど、確かに一通り見て回るのも良いか」

 

トテトテと小走りで先に行くヘスティアを歩きながら追う

そう言えばこうやってゆっくり物を見るのは無かったなと思いながら

 

 

こうして二人は束の間のウィンドウショッピングと洒落込むこととなった。

並べられた品は様々な種類があり、武器だけではなく、防具やアクセサリーも存在していた。

 

「やっぱ色々種類があるんだな……ってこの剣たけぇな!3000万ヴァリスって書いてあるぞ」

 

「3000万ヴァリス…一体じゃが丸君何個買えるんだ」

 

「いや、その例えはどうなんだ?」

 

庶民的と言うか、貧乏性と言うべきかなんとも形容し難い例えにオルガも反応に困る。

そんなやり取りをしていると、カランカラン鈴の音を鳴らしながら横の戸が開いた。

 

「どこかで聞いたことがある声だと思ったら、やっぱりヘスティアじゃない」

 

中から出てきたのは眼帯で片目を覆った赤い髪をした女性。

 

「ん?ヘファイストスじゃないか、君も来てたんだね」

 

「そりゃ此処は私のファミリアが運営してる店だからね…それよりその子が?」

 

「あぁ、紹介するよ!ボクの眷属(ファミリア)オルガ・イツカ君だ。オルガくん、彼女がボクの神友のヘファイストスだよ」

 

そう言ってヘファイストスを紹介するヘスティア。

その言葉に、この店を経営しているヘファイストス・ファミリアの主神である事と現在も世話になっている教本を快く譲ってくれたという相手だと察したオルガ。

 

「ヘスティアの眷属(ファミリア)をやらせてもらってるオルガ・イツカです…あなたに頂いた本には助けられてる、礼を言わせてください」

 

「ふふ、良いのよまだ何冊か在庫があるから…そういえば、ファミリアは立ち上げたの?」

 

「うんついさっきだけどね、今はオルガ君の装備を買っておこうと思って来たんだ」

 

「言っておくけどお金は貸さないわよ?」

 

「失礼だな、ボクがそんな事をするように見えるのかい?」

 

「……………」

 

あっけらかんと言うヘスティアにヘファイトスは無言となった。

 

「……なんか凄く言いたげな表情なんだけど?」

 

「はぁ…折角出来た眷属の前で恥をかかせない様に配慮してあげてるの」

 

察しなさいと若干疲れたように言う。

今迄の自分の行動を言葉にして突きつけたくなるが武士の情けならぬ神の情けとして飲み込んだ。

そして苦笑いを浮かべながらオルガの方に向き直る。

 

「こんな神だけど、見捨てないであげてね」

 

「その心配は無用です。家族を見捨てられる訳ありませんから」

 

「ふふっなら安心して任せるわ…でも、泣かせたら承知しないわよ?」

 

こんなんでも神友だからねと笑って赤髪の女神は踵を返して去っていった。

 

「あれ?もう行っちゃうのかい?」

 

「これでも主神ですから、色々やることがあるのよ」

 

神に嘘は吐けない、オルガの言った言葉にひと欠片の嘘がないことに安心してヘファイトスは去っていった。

 

「なんかいい人…いや、いい神だったな」

 

「ふふっそう言ってくれるとボクも嬉しいよ。それじゃそろそろ目的の場所に行こっか!」

 

 

 

 

ガチャンと扉が開いた先の光景を見たオルガは一言、

 

「…さっきの場所とはまた随分違うな」

 

先ほどの階層では通路であっても天井から証明が照らして明るかったが、こちらは随分と薄暗い。

商品もガラス張り等はされておらず、壁に立てかけてあったり棚に置かれていたりする。

 

「こっちは初級冒険者用だからね、値段もホラ!」

 

ヘスティアが指さした装備の値段を見ると、確かに自分たちでも十分手が出せる値段が記載されていた。

理由を聞いてみれば、この場は新米鍛冶師の作品であり彼らの評価を上げるための修行場所のような所らしい。

 

「成程、安い理由ってのはそういう訳か」

 

「新米とは言っても作るモノは最低でもちゃんと実戦で耐えられるからハズレは無いと考えていいよ?」

 

でなければヘファイトス・ファミリアの看板を掲げている店で商売が出来る筈もない。

生産系ファミリアでは品物への信用が命となる。だからこそこの場にいるのは現場に出しても大丈夫だと判断された実力を持っているのだ。

 

「その辺は心配してないな、信用出来ない商人に先はねぇのはよく知ってる」

 

「そうだったね、君には余計なお節介だったかな?」

 

「いや、これからも言ってくれると助かる」

 

お節介でも、何かを言ってくれるのは有難いことだ。

鉄華団でそれを行っていたのはただ一人、二年前に死んだビスケット・グリフォンだけであった。

 

「ふふ、わかったよ。それじゃこれからも色々お節介するね」

 

「ああ、頼んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~…変じゃねぇか?」

 

「大丈夫、似合ってるよオルガ君!」

 

胸当、篭手、脛当て、鉢金を装備したオルガは少々気まずそうにしている。

だがそんな事はそんな様子のオルガに気づかずに似合っていると嬉しそうに言っている。

 

それがまた妙にこそばゆくてどうにも落ち着かない。

鉄華団はアトラとメリビット以外は男性しかおらず、他の女性関係と言えば名瀬の奥さんかクーデリア達位であり身近でこういった風に素直に褒める女性と言うのは居なかったのが一因だろう。

 

「似合わねぇモンを売りつけるわけねぇだろ?それより緩かったりキツ過ぎるなら今の内に言ってくれ」

 

逆だった金髪につり上がった三白眼のどう見ても不良とかチンピラという印象を受ける青年。

彼の名はボルス・シェリフスター、ヘファイトス・ファミリアの若手の職人である。彼はヘスティアがヘファイトス・ファミリアで居候をしていた時の知り合いだった事もありヘスティア達への助言と自分の商品のアピールも兼ねて二人を接客していた。

 

「あ、あぁ…よっと」

 

その言葉を受けて色々と体を動かして確認していくオルガ。

軽くその場で跳んでみたり、屈伸や体を伸ばしたりとしていくが特に問題は感じられない。

 

「背中…つか首のソレも問題ねぇか?」

 

背中のとは言わずと知れた阿頼耶識のプラグ部分の事である

気を利かせた男により剥き出しとなっていた阿頼耶識のプラグ部分もしっかりとカバーが被さっており、動きに干渉はされていない。

 

「あぁ、大丈夫みてぇだ…それとコレのカバーまで付けて貰っちまっていいのか?」

 

「何言ってんだ、客のニーズに合わせるのが職人の腕の見せどころってもんだろ」

 

ニヤリと犬歯を覗かせて笑う顔は悪童という感じだが、同時に自分の腕に対しての自信を宿していた。

 

「ボルス君って顔が恐い割には親切で気が利くよね」

 

「うるせぇ!この顔は生まれつきだ!!それに商人なんだから気を利かせるのは当たり前だろ」

 

後半につれて顔が赤くなり声も小さくなっていく

 

「まぁ…アレだ、恩に思ってんならまた俺の作品買ってくれれば問題ねぇよ」

 

「そうか、なら次の商品も期待していいんだな?」

 

ボルスの言葉にオルガが片目を閉じてニヤリと笑いながら問いかけた。

その言葉と表情にボルスもオルガの言葉を挑戦と受け取り、犬歯をむき出しにして笑いながら答える。

 

「ハッ!お前が是非買わせてくれと頼む様なモンを用意しといてやるよ」

 

そんな二人のやりとりにヘスティアはどうにも吹き出してしまいそうになる。

似た者同士だな、仲が良いなと言葉が出そうになるが言葉には出さない、出すのはちょっと野暮だと思った。

 

 

 

兎も角、準備は整った。

ギルドに手続きを行い、装備も揃えた。

 

これからが、ヘスティア・ファミリアの本当の始まりとなる。

ヘスティアはただ一人の眷属を見ながらこれからの日々に思いを馳せていた。

 

 

 


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