ダンジョンに鉄の華を咲かせるのは間違っているだろうか 作:軍勢
書いていて、いやこんなダラダラと話してたらいつまで経っても冒険者にならんわ!と書いてた内容を破棄して大幅に短縮する事にしたら無理やりっぽい描写に…(涙
あとホント更新遅くてごめんなさい。
日中の労働が終わり、夜になると今度はヘスティアによる勉強会が始まる。
オルガにとって救いだったのは文字が読めない、書けないだけで言葉は問題なく通じる事だろう…それに、全く学のなかった状態から始めた前回と比べれば大分マシとオルガは考えるようにした。
ちなみに最初に行った書取りでヘスティアに読めない発言をされていたりする。
文字の造形が違うとはいえまさか読めないとまで言われるとは思わなかった文字の酷さはそこから何度も何度も繰り返し書き取りを行うことで解読不能から少し読みづらい程度までには成長していた。
また、勉強は文字だけではなくダンジョンの学習も手を着けている。
やり過ぎじゃないのかとヘスティアも苦言を漏らしたものの、オルガの熱意に負けてヘスティアが折れる形となった…まぁ、ここで下手に意地を張った場合72時間労働の様な無茶な行動に移る事をヘスティアが予想した事が理由として割と大きな割合で存在していたが。
教本は『ダンジョンのすすめ』と書かれた一冊の本であり、中身はダンジョンに関する注意事項やアドバイス、上層から中層での発生する魔物等のデータが記載されている。
制作元はギルドであり、一時期は冒険者の生存率を高めるために無料配布をしていたのだが…大多数の冒険者は無鉄砲というか自意識過剰と言うべきか、所謂『そんなものがなくても俺は死なねぇ!』という根拠のない自信と分厚過ぎて読むのが面倒という理由でおざなりな利用をされていた。
酷い時は火の薪代わりやティッシュ代わりに使用する者までいる始末。
そんな事があり、今ギルドで配布されているのはダンジョンに潜るならコレだけは読んどけと言わんばかりに簡略化された冊子の様な薄いものとなっている。
ヘスティアの持つ本は改訂される前の初期のもので、神友であるヘファイストスから貰ってきた代物だ。
最初は借りる気だったのだが…複数所持している事と、神友が遂にファミリアを得た事に対する祝いとして気前よく渡された。
辞典程の分厚さを持つソレは縦に振り下ろせば立派な凶器になりそうな代物だが、その内包された情報量が製作者達の熱意を表している。
ちなみに絶版への経緯を知ったオルガは心底呆れた様子で一言「馬鹿だろ」
百歩譲って読まないのは理解できるが、ソレを馬鹿にしたりぞんざいに扱うのは理解できなかった。
色々な鉄火場を経験してきたオルガからすれば情報の大切さは身に染みていたからだ。また、読まないという選択については学の無かった自身と仲間達に大分思い当たる節があったからである。
…とそんなこんなもあり、日々オルガへの教育は行われていた。
ちなみに、全くの初心者であるオルガに教えるべく奮起したヘスティアがそこらの冒険者よりも余程ダンジョンに対する知識を得ていたりする。
ぐーたらなニート時代のヘスティアを知る某神友に聞けば「別神だって言われたら信じるかもね」というお言葉が聞けるかも知れない。
そんな日中はバイト、夜は勉強というオルガの生活サイクルが変化する事になったのは期限としていた一月を五日残した日の事だった。
「ふぁ…っと、いけねぇ」
「どうしたオルガ、また徹夜か?」
思わず出てしまった欠伸に周りの労働者達は仕方ねぇなぁとばかりに苦笑する。
オルガのワーカーホリック振りは既に周知の事実と化していたのでたるんでるとは思っていない。
「まぁ…でも寝落ちとかはしないんで大丈夫ですよ」
「お前の場合その大丈夫ってのがあんま信用出来ねぇからな、三日三晩寝ずに働き通しとかやるから」
「そん時の言い訳が動いてないと鈍るってんだから呆れを通り越して笑ったなあの時は」
だっはっは!とその時の事を思い出して笑う労働者達。
オルガもオルガで労働者達の言っている事が何も間違っていないのでグゥの音も出ない。
「テメェ等……くっちゃべってねぇで仕事しろ!!」
「「「「はい!スンマセン親方ッ!!」」」」
そして親方にどやされて全員で謝るのも既に日常の光景と化していた。
「あとオルガァ!仕事が終わったら話があるから来い」
「…?わかりました!」
「なんだ、なんかヘマしたのか?」
「親方の饅頭でもくすねたのがバレたか?」
「そりゃ前にお前がやらかした事だろ…まぁ何にせよ心当たりがねぇなら堂々としとけ」
「ウス」
親方は怒ると手が出るが、無意味に暴力を振るうような人じゃないだろと意味を含ませる先輩。
CGS時代は無意味に殴ってくる大人達に溢れていたなと思い返すが、親方はそんな人ではないので直ぐに頭の中から削除した。
「じゃあ仕事だ、ボヤいてると親方の雷が拳骨と一緒に落ちる」
「そりゃ勘弁だ」
「仕事仕事っと」
仲間の一言で今度こそ、それぞれの仕事に戻っていく。
話はそれまでとばかりにそれからこの話題を口に出すことはなく労働の時間は過ぎていった。
「おう、来たか」
「なんの用で……」
理由を聞くオルガの声を遮り、布に覆われたモノを目の前に差し出された。
疑問に思うオルガだったが、早く持てと目が訴えていた為受け取るとソレは意外な重量を持っていた。
「なんすかコレ、結構重いんですけど」
「お前にやるよ」
「は?」
「倉庫の整理をしてたら見つけてな、売ったところで二束三文にしかならねぇからオメェにやるよ」
「……?」
言っている意味がよく分からないので正体を確かめるべく巻かれた布を解く。
「こいつは…!」
「ロクに切れもしねぇ剣だが、駆け出し冒険者にゃ似合いの代物だろ」
巻かれた布から現れたのは一本の剣。
剣の長さから片手剣の部類に入るだろうが、柄の部分は詰めれば両手で持てる程広い。
ただ、普通の片手剣を数本重ねた様に剣身は分厚い。大きさに比べて重いのはその所為だろう。
どちらかというとミカの駆るバルバトス・ルプスの主装備だったソードメイスに近い。
「やたら頑丈な代わりにさっき言ったように切れ味なんざ鈍以下、それと鞘は使いもんにならねぇから捨てちまった」
流石にそこまでは面倒見れんとばかりに親方は言う。
言葉通り見つけたからやると言う事なのだろうが……
「親っさん、いいんですか?」
「あ?不用品を見つけたからお前にやるってだけだ。必要ねぇってんなら二束三文でも売るが?」
「い、いや!…ありがたく頂戴します」
「なら話はそれだけだ、約束の期日まであと4日だが気ぃ抜いてっと張っ倒すからしっかり仕事しろよ」
それだけ言うと親方は荷物をまとめて歩き出す。
用は済んだのだからあとはいう事もないらしい。
「親っさん、この恩は忘れません」
去っていく親方に向けて両膝に手を乗せ頭を下げるオルガ。
「バカ野郎、んな事で恩に着てんじゃねぇ!
まぁ、どうしてもってんならオメェが冒険者になって稼いだら【豊饒の女主人】で一杯奢ってくれや」
それでお釣りが来ると言って親方は帰っていった。
この日からオルガの一日のスケジュールに剣を振る時間が新たに入ることとなった。
一応補足しておきますが
オルガの貰った剣は頑丈で重いただの剣で、曰くも謂れもありません。
親方も有名な元冒険者という訳ではありません。