誰かが何かをするだけの話   作:なぁのいも

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 渋の方のリクエストです。さーて、書きたい事が無くなったぞぅ☆


古鷹がほんのり酔って甘えるだけの話

 

 提督は珍しく古鷹に一緒に飲みませんか?とのお誘いを受けた。

 

 別に提督はお酒を飲むことを禁止していないし、翌日の業務に支障が出ない限りで飲むことは別に悪い事とは思っていないし、その自分もそうやって偶に飲んでいる。

 

 となれば、珍しいという事の理由は自ずと見えてくる。古鷹に飲みに行こうと誘われたのが珍しいのだ。

 

 妹である加古の方は度々軽空母や飲兵衛たちの集いに参加し、面倒くさそうに後始末をしているのは知っている。

 

 だけど、その姉である古鷹の方は飲酒するイメージは余り持ち合わせていない。と言うか、下手にへんなイメージを着けると他所の鎮守府の提督達が『マイエンゼルフルタカエルにそんなイメージを付けるんじゃない!!』と怒られたりもする位、の古鷹だ。

 

 古鷹は心優しい優等生タイプの女性で、自分の仕事が無くなり暇を持て余していると、何かしなければ!!と慌ててしまう位素直な人だ。

 

 彼女の瞳に最初は違和感を覚えるかも知れないが、それを打ち消すくらいに誠実な女性で――と彼女の良い所をあげようとすればキリがない。

 

 兎に角、彼女がこうやって誘ってくるのは珍しい事だあり、提督にとって初めてのケースである。

 

 提督は珍しいと思いながらも古鷹の誘いに乗る事にし、夜に古鷹と飲むことになったのだ。

 

 

 

 

 そんなこんなで仕事を終えて夜になり、提督は動き易い服装にに着替えて、間宮の所で適当に酒を見繕って袋にさげて待ち合わせ場所に向かう。

 

 その待ち合わせ場所とは、敷地内に咲く一本の桜の木の下である。満開の時期は去り、風で花も散りつつあるが、夜桜として楽しむには十分だと思う。

 

 一番の見せ処である満開は過ぎたので、最近は花見に来る艦娘も殆どおらず、本日は古鷹と提督の貸し切りの状態である。

 

 待ち合わせの時刻よりはやや早い時刻につきそうな状況なのだが、もう古鷹はビニールシートを敷いて、提督がいつ来るのかと傍目から見てもそわそわとしていた。

 

 女性が待ち合わせ場所についているのがわかっているのに悠長に待たせるわけにも行かないだろう。提督は袋を肩に担いで、小走りで古鷹の元に駆けつける。

 

 提督の足音に気付いた様で古鷹が軽く手を振って、ここに居るとアピールしている。

 

「すまない。待たせたか?」

 

「待ってませんよ。寧ろ、古鷹が遅く来るべきでしたか?」

 

 提督のが小走りでやって来たことを気にしたのか、笑顔を浮かべながらも少しだけ影がある。

 

「そんな事は無い。早く集まる事が出来ればその分少しだけ長く楽しめると言うものだろ?それに、男にとって待ち合わせに早く来てくれるのは嬉しい事さ。何せ、俺の知り合いの殆どは遅刻するからな」

 

「ふふっ。そうですか。でしたらご期待に添えれて嬉しいです」

 

 提督は古鷹の不安を打ち消す為に即座にフォローを入れると、古鷹ははにかむ。彼女の可愛らしい表情を拝むことが出来ると、他の提督が古鷹は天使だと語る理由もわかる気がする。

 

「あっ、ごめんなさい。立たせたままでしたね。提督こちらへどうぞ」

 

 今の提督の状態を改めて意識した古鷹はその隣に提督が座れるスペースを作り、座るように促す。

 

 ビニールシートは余り大きくなく、料理を置くことも考えると、隣同士で座るのが丁度良いだろう。

 

 特に疑問を持つことなく、古鷹の隣に座り、持っていた袋を優しく着地させる。

 

 提督が座った事を確認すると、古鷹は手を打つと、注目を集めるように大きな物が入った風呂敷を掲げる。

 

「これが古鷹の作って来たお弁当です!」

 

 風呂敷を解いて、中身が露わになると現れたのは三段の漆塗りの重箱。

 

 その一つ一つを、ビニールシートの上に置いていく。一段目は肉を使った料理、唐揚げや揚げ物などの定番物が中心。二段目は野菜を使った料理や卵を使った料理、簡易的なサラダに煮物が中心。最後の三段目は稲荷寿司と炊き込みご飯。全ての段にぎっしりと料理が詰まっているが彩り豊かで見栄えが良く、どれもすきっ腹には堪らない。重箱は中々の大きさなので、提督と古鷹でも食べきれずに少し余る知れない量かもしれない。

 

「凄いな。これ、全部作ったのか?」

 

「はい。提督の為に真心こめて作らせて頂きました」

 

 どれもこれも全部は自分の為に作ってくれたと言う。その言葉が嬉しくないと言う男は居る筈がない。

 

「ありがとう古鷹」

 

 提督は古鷹に感謝の気持ちを込めて、笑顔で礼を述べる。

 

「喜んで頂けて嬉しいです」

 

 提督の感謝の言葉に、同じように感謝の言葉を笑顔に乗せて古鷹は伝える。

 

 提督が陶器のカップを古鷹に渡してに日本酒を注ぎ、古鷹もそれに倣うように提督のカップに日本酒を注ぐ。

 

 どちらともなくカップを掲げ、少しだけ勢いを付けてカップ同士をぶつける。

 

「一日お疲れさま、乾杯」

 

「本日もご苦労様です、乾杯!!」

 

 チンっと、子気味良い音が今宵の細やかな宴の始まりを告げた。

 

 

 互いに思い思いに料理に舌鼓を打ち、会話に花を咲かし、酒を注ぎあう。

 

 そんな穏やかで心温まる時間を過ごしていたのだが、二人が飲んでいるのはアルコール。提督は上官との付き合いがあるのである程度のアルコールの強さの自負ある。

 

 だが、今宵の付き人である古鷹もアルコールに強いのかと言うと決してそうでは無かったらしく、顔は朱に染まり、少しばかり言動も覚束ない。

 

 それになにより、先ほどからいつもの古鷹より、甘えたな雰囲気となっている。

 

「提督…、古鷹の頭を撫でてくれません…か…?」

 

 蚊の泣くような声で、提督の肩に頭を預けながらねだる。

 

「その位お安い御用だ」

 

 古鷹の望む通り、彼女の短い髪を優しく撫でる。古鷹はその感触を味わうように目を瞑って堪能する。

 

 一通り撫で終わった後、古鷹は続けて提督にお願いする。

 

「ごめんなさい。その…古鷹の手を握ってくれませんか?」

 

「ああ、望む通りに」

 

 古鷹の膝の上に置いてあった手にそっと手を重ね、古鷹の手を包むように握り。

 

「あっ…」

 

 自分でお願いしておきながら驚いた様で、提督は吹き出す様に笑ってしまう。

 

 古鷹は提督の反応を気にせず、重なった手を見つめている。

 

「提督の手って大きいんですね」

 

「まぁ、男の手だしな」

 

「ちょっと憧れてたんです…。駆逐艦の子達が提督に頭を撫でて貰うのがちょっと羨ましかったので…」

 

「言ってくれれば、いつでもやるぞ?」

 

「無理ですよ…。こんな時でも無ければ素直には言い辛いです…」

 

 古鷹は提督が包んだ手に空いていた手を重ねると、より提督の肩に体重を預ける。まるで、何かを行動で伝えるように。

 

 だが、その意図がわからない提督には古鷹を待つことしか出来ない。

 

 だから、古鷹は言葉にして伝える。視線だけを体重を預けた提督に向けて。

 

「提督…」

 

――月が綺麗ですね

 

「っ!?」

 

 この何処か甘い雰囲気と、古鷹の言葉の真意がわからないほど提督は鈍い人間じゃない。確かに月が出ている。今宵は雲一つなく、星々と三日月が古鷹と提督のいる桜を照らしている。

 

 だが、古鷹の言った言葉の真意はこの状況、シチュエーションの事を言っているわけでは無い。 

 

 月が綺麗ですねと言う言葉は、遠回しな告白の意味もある。

 

 突然の告白に提督の身体が僅かに跳ねる。

 

 その身体の反応は寄り添う古鷹にばれてしまったらしく、古鷹は何処かおかしそうに笑う。

 

「びっくりしました?その…意味をわかってくれたのですよね」

 

「…ああ」

 

「ごめんなさい突然こんな事言われて迷惑ですよね?」

 

「それは…困惑するが…」

 

「ごめんなさい。私には勇気が無かったんです。だから、お酒の力を借りて勇気を振り絞ろうと思ったんです」

 

「古鷹…」

 

「ですが、私なんかに言われて迷惑ですよね?突然ごめんな――」

 

「古鷹っ!!!」

 

 提督が何も返事もリアクションも返せない状況を全てマイナスに捕えようとする古鷹を止める為に、古鷹の肩を掴んで向き合う形になる。

 

 突然提督と向き合う事になり、先ほどまでの暗い表情が一気に吹き飛び、羞恥が籠った赤い色へと顔が一気に染まり始める。

 

「迷惑だなんて思ってないし、謝る必要は無い!!それに俺としては凄く嬉しかったさ」

 

「あっ…」

 

「でもな、俺は今は返事を返せない。何でかと言うとな、俺は古鷹の本心からの言葉を聞きたい。お酒に頼らない、君の心からの言葉を俺は聞きたい」 

 

「提督…」

 

「だから、そんなに泣きそうになるな。その…酒から始まる関係は、何と言うか…嫌だろ。だから、また、改めて俺に言ってくれないか?今度は酒に頼らないで古鷹の心からの言葉で。俺はその…今の言葉嬉しかったから…さ」

 

「提督…よかった…よかったです。古鷹の事嫌いになってないんですよね…?」

 

「人を嫌いになるわけないだろう、こんな程度の事で」

 

「よかった。良かったです…」

 

 落ち着きを取り戻した古鷹は再び提督の肩に頭を預け、提督と共に月と散りゆく桜の景色を何も語ることなく眺めた。

 

 今は、提督に寄り添う事がとても幸福な時間だから。後の勇気はもう十分得ることが出来たから。

 

 眺め続けているいるうちにアルコールに負けたのか、提督に寄り添う古鷹から小さく呼吸音が聞こえる。

 

「古鷹?」

 

 彼女の名前を呼んでみるが返事は無い。どうやら、眠ってしまったらしい。

 

――今日はお開きか…

 

 眠る古鷹の邪魔をしないように片づけをある程度済まし、一先ず古鷹を彼女の部屋に送り届けるようにする。

 

 彼女の眠りを遮らないように、彼女を横抱きで抱える。古鷹には内緒だが、運動不足もたたって少しばかり腕が辛い。

 

 でも、そんな辛さも忘れる事が出来る光景が提督の傍に広がっている。

 

 だって、頭の上に桜が乗った古鷹の寝顔は、桜に負けないくらい可憐な物だったから。

 

 古鷹の寝顔を糧に提督は寮に向かって歩みだす。

 

 桜の花を攫って行く風の音が今宵の宴の終わりを告げた。

 

 

 後日、昨晩の記憶がばっちり残っていたらしく、布団の中で丸まって悶々としている姿を加古が目撃したらしい。

 




 次、誰を書きましょうかね?
 
 アンドロイドと機械生命体がドッジボールするだけの話でも書きましょうかね?

 どっちらのほうでもリクエストが無ければそれで行かせて貰いますね。

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