月月火水木金金と言う言葉がある。今では土日を返上して働く事の意味合いであるが、元々は海軍で使われた勤勉に働くための標語である。
現代の海軍の所属である提督もこの標語に当てはまる無茶な働きをしているのかと言えばそうでは無く、きちんと休日をとっている。と言うのも、働きすぎて体を壊されたら溜まったものではないし、上が不意に倒れて指揮系統が一時的に混乱する事を避けるための理由と、単純にそこまで人材を使い潰すのは効率が悪いからである。
本日が休日で自室でゆっくりと過ごして疲れを癒そうとしていたのだが、客人が来てしまった。
その客人とは、
「ふわぁ~寝っむ…」
万年眠気と共にある艦娘事、加古である。
加古はもう数年前に改二の改装を終え、幼さの残る少女の姿から、ボーイッシュなスタイルの良い女性的の容姿となった。
外見こそ見違える程に変わった加古ではあるが、中身は全くと言っていいほど変わらない。寧ろ、改二になり資材の消費が増えた由縁か余計に怠そうにしている面が目立つようになったような。
そんな眠り姫事加古は、朝早くに欠伸をしながら提督の私室を合鍵で開けると、寝ている提督のいる寝室に侵入。眠りこけている提督の布団に侵略し寝たのだ。
提督が目が覚めると、目の前に昨日の夜に一緒に布団に入った覚えのない人物が居たものだから、朝起きて驚嘆するのも無理が無いだろう。提督と加古の関係は健全なお付き合いをしているケッコン相手ではあるが、こんな事をされたら驚くのも無理はない。
だから、二度寝してた加古は提督に起こされ、来てくれるのはありがたいが、それなら俺を起こしてくれと注意される羽目になった。
加古は内心、提督が寝てるなら問題ないと思ったけどやっぱ提督より早く起きないと駄目かーと思っていて、余り反省して無いのは内緒である。
提督を抱き枕にして寝るのは寝心地が良いから仕方ない。本人にお願いしても絶対に全力で断られるのもわかっているから仕方ない。悪いのは変に羞恥心を持っている提督の方である。
「いつも隙あらば寝てるのにまだ寝るか…」
現在の時刻は昼前。昼寝をするのにもまだ早い。提督が起きた時間は早くは無く、朝ご飯もかなり軽く済ませた為、満腹感による眠気も提督には来ていない。加古も同じ朝食を食べたから満腹では無いのに。
因みに、加古に疲れが溜まっているのかと言うと、最近は午前の演習しか出番がない上に、午後は殆ど寝てたり軽く体を動かすくらいで夜の睡眠もたっぷりとっている。寝不足と言う単語は加古の辞書には存在しない位には満足に寝ている筈なのだ。
「んー、ある種のアタシの才能かもしれないねぇ」
自分で言っておきながら、何処かおかしそうに加古はからからと笑う。
戦闘中にはその才能が発揮しないからまだいいが、書類仕事にはその才能が発揮してしまうから困りものである。
そんな眠気を堪えている加古の現在の状態は、居間にあるテレビを提督の枕に頭を預けながら見ている状態だ。
提督の使用している枕は、知り合いに勧められて作ったオーダーメイドの物でふかふかで低反発。眠気を誘われるのもわからなくはない。
「はぁ…、寝るのは構わんが、その枕を使うのは止めてくれ」
「えー何でさ?」
「洗濯も日干しも暫くしてないんだ。臭うと思うから余り使われたくない」
「んー、別に臭わないけどなぁ。アタシ、提督の枕の匂い好きだし」
「だーもー!!恥ずかしいからそういう事言うなって」
「えー、良いと思うけどなぁ…」
加古は顔を枕に埋める様にして匂いをスンスンと鼻を鳴らして嗅いでみる。
提督の使っているであろう安物のシャンプーの匂いに混じって、僅かにツンとくる臭いもある。恐らく提督の汗の臭い。最近は夜中も暑かったりするので、やはり汗を掻いてしまうのだろう。その汗の臭いは別に強く無いので、加古にとっては今の枕は良い頃合いの匂いの枕だった。
その匂いをずっと嗅いでいると、提督に寄り添われているようで、安心感と心地よさを得てしまい途端に強い眠気が―――
眠気が瞼を降ろさせようとしたところで枕は提督に募集されてしまう。
「全く、恥ずかしいから止めロッテ」
「…ちぇー」
割と本気で悔しがってる過去を尻目に、提督は枕を持って寝室に向かう。クローゼットを漁っている様子から顧みるに、消臭剤でも探しているのだろう。
「あー…消臭剤かけるなら殺菌効果があるだけの奴にして欲しい」
「それは消臭剤じゃないだろ」
加古の懇願も無意味に終わり、消臭と殺菌効果のある消臭剤を見つけた提督は、枕にシュッと適当に振りかけて匂いを確認する。一回振りかけるごとに加古が恨めしそうにうーうー言って威嚇するが勿論無視だ。先ほどまでの自分の臭いがしない位には抑えられて満足したらしく、居間にいる加古に投げ渡す。
加古は提督に恨めしそうな視線を送りつつ、枕に顔を埋めて臭いを確認する。枕にあった提督の残り香は完全に消え失せ、残ったのは消臭剤の甘い香りのみ。
「うへぇ…完全に消えてるよ…」
残念さを隠そうとせず、目に見えて加古は落ち込む。
「全く…俺の臭いのどこがいいんだか」
「んー、凄く安心する臭いというのかねぇ」
「…そうか」
悪くは無い返答に提督はどう反応したらいいかわからなかったが、自然と小さく口許には笑みが浮かんでいた。
でもやっぱり恥ずかしいから、加古には悪いが臭いは消そうと決心した提督なのであった。
対する加古は、提督にばれないように枕カバーを新品と入れ変えてみようかと考えたが、今は眠いので考えてたことを八光年ほど彼方に放り投げて、枕を再び後頭部に置いて眠りにつくことにする。
「はぁ…お休み加古。昼飯は適当に用意して置くから、それまで寝ててくれ」
「はぁい…。じゃあ、お願いするよ提督…」
提督は余りにもマイペースな加古に呆れながらも、自由人な恋人が喜んでくれるように、昼食作りに取り掛かった。
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二人で昼食を食べ終え、昼食後の一時をゆっくりと過ごしていた二人。
加古は相変わらず提督の枕でテレビ番組を、提督は加古のみていたテレビ番組に偶に目を向けながらも小説を読んでいた。
が、二人は朝食が少なめだったのに対して、昼食はがっつりと食べた。ならばこの後に来る物はわかっている。眠気だ。
提督としては加古が来ているのだし、無暗に寝るてしまうのもと思っている節がある。が、今までの仕事の疲れを癒す為の休日、体中で疲れを癒せと叫びたてている。
その証拠に、口からは欠伸がつい漏れてしまった。
気の抜けた声を聞いた加古は、そっと起き上がると、提督の背後で身を屈めて、提督に体重を預ける様に後ろから抱きしめる。
一度気を抜くように息を吐くと、提督の耳元で一言囁く。
「一緒に昼寝しよっか」
「……ああ。良いかもな」
提督は加古に身を任せる様に瞳を閉じて同意した。
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提督は一人で休息をとっても上手く疲れを癒せない。
それは、彼がこの鎮守府を任された責任者であると言う理由の他ならない。
彼が一日休んでも、他の者がかわりに運営する。その間に想定外の出来事が起きてしまったらどうしようか?皆が対応しきれるだろうか?
皆の事は信頼しているが、それでも責任者としてその不安は拭えない。この思いがあるせいで、提督は休日が与えられたときは自分の思いで自室でゆっくりしているのではなく、自室から出られないのだ。いざと言う時の対応がすぐに出来るように。
それゆえ、休日でもあまり疲れが取れているとは言いずらい。休日でも緊張状態にあるから。
だから、加古は提督の休日に自分の休日を合わせて、彼の私室に出向いている。
力の抜き方なら、人一倍わかっているし、最高位の練度の艦娘として教導にもついている為、人の上に立つ大変さもわかっている。
それに、提督のパートナーとして、提督の傍に居たいのは確かだし、何よりも日頃の疲れはちゃんと癒して貰いたい。
提督が倒れるような事態になったら、絶対に泣いてしまう自負があるから。
だから、加古は提督の身体の限界には敏感だ。無理を押し通してしまわないように。彼の身体が限界を超えないように。普段から彼の身体の事に関しては彼以上に敏感かもしれない。
それは、提督と彼と過ごす静穏な一時が好きだからに他ならない。
二人は寝室で一つの布団の中に身を寄せ合うようにして入っている。
「加古」
「ん?どうしたのさ?」
「いつも、俺の身体を気遣ってくれてありがとう」
「別にいいって。提督は力抜くの下手なんだし」
加古はカラカラと軽く笑う。提督は加古の軽く笑う顔が好きである。その笑みは自然と体に入っている緊張をほぐしてくれる。生真面目すぎる自分には程よく力を抜くきっかけが必要だから。
加古は提督を抱き枕にするように腕を回す。加古の柔らかい腕と、間近に感じる彼女の匂いで満たされ提督に重たい眠気がやってくる。
いつも、この感覚をもっと味わいたいと思うのだが、雪崩の様にやってくる眠気に耐え切れずすぐに寝てしまうから。
加古が自分の臭いが好きだと言うのもわかる気がする。やっぱり、匂いを消臭剤で消すのはようそうか。せめて、洗濯して日干しして抑える事にしよう。
その考えも、頭の片隅に殆ど追いやられてしまっている。眠気が瞼を重くさせるまで、もう時間が無い。だから、
「おやすみ」
「おやすみ提督。夕食は加古スペシャルの予定だから、楽しみにしてくれよな」
なんだ、加古スペシャルって。そう突っ込む間もなく提督は眠気にその身を完全に委ねる。
提督が寝息を立てて寝始めた事を確認した加古は、提督の額に唇を落としてから、提督に習うように瞼を閉じる。
「いつもお疲れさま提督」
力を抜く達人は、一番力を抜ける状況で眠りに落ちて行った。
取りあえず、リクエストを募集してます。艦娘とシチュエーションを書いてメッセージまで。細かくシチュエーションを書いてくれると採用率が上がります。