『IS』二人目の未来   作:echo21

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今回から『独自設定』が……。

シャルるんは何も悪くないんだ。
一夏のえっち……ないとダメですか?




『IS』二人目の未来 09 シャルロット・デュノア

 シャルロット・ブルザは妾の娘だ。二年前に亡くなった母の『イヴォンヌ・ブルザ』が愛人だと知ったのは質素な葬式をあげた翌日になる。イヴォンヌの死を知って訪れた二人の男女に知らされたのだ。

 

『──すまないが、話があるんだ』

 

 男は『ミシェル・デュノア』であり、女は『ヴィヴィアーヌ・デュノア』だといった。フランス産の第二世代型の量産機である、『ラファール・リヴァイヴ』で世界的なシェアを獲得しているデュノア社の社長夫妻の登場に、シャルロットは戸惑うばかりで、イヴォンヌの墓に花をそえる二人は似合いの夫妻にしかみえなかった。その日に知る母の真実。父の名さえ知らずに育ったシャルロットに現実感はなかった。

 

『その日の私はどうかしていた。ヴィヴィの話を鵜呑みにしてしまった。いや、最初から話そう──』

 

 ひとりきりになったシャルロットの家で語られ始める口調は重い。かつてのイヴォンヌは政府機関で『IS』関連の開発に携わる、若く優秀な開発者として有名だった。世界に『IS』が登場する前からの軍需企業であるデュノア社は、これからくる『IS』市場の参戦のためにイヴォンヌへ接触した。

 

『──いわゆるヘッドハンティングだ。頷いてはくれなかったがね。君の母は我が社以外にも注目されていたから、値段をつり上げる悪女、なんて声もあったよ』

 

『あなた?』

 

『すまない。話を戻そう──』

 

 そんなおりに政府からデュノア社へ打診があった。『イグニッション・プラン』への協力の依頼だ。欧州連合による統合防衛計画『イグニッション・プラン』における第三次主力期の選定という、時代を先取りした計画はここから関係してくる。名乗りをあげたのはイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、そしてイタリアのテンペスト型だ。各国それぞれ、いわゆるペーパープランであり、試作機ですら開発の目処がたたない状況で計画は進んでいった。

 

『我が国はよりにもよって……。フランスは開発する機体が白紙のまま名乗りをあげてしまった。その外圧と責任感が君の母を病気にした。そして引退したわけだ』

 

『だから話し合ったの。わたし達でね』

 

 業界から引退したイヴォンヌは妊娠していた。当時いた、イヴォンヌの恋人は事故死している。イヴォンヌの恋人は事件の調査どころか、雑な対応のまま事故扱いされて終わった。政府と企業の暗闘があったともいわれたが、イヴォンヌは亡くした恋人の子を産み育てたいと思っていた。だがそれは、女ひとりでは難しいことである。

 

『君には悪いと思うが、そこをついた。ヴィヴィの誘導があったとはいえ、最終決定は私だ。恨み言があれば聞こう』

 

『イヴォンヌは身体に不安があったから、わたしから提案したのよ。デュノア社と契約すること、あなた達の事故や病気の保険として妾の立場になることをね。あなた達は安全な田舎町で過ごして仕事は在宅でもできるよう、開発関連のデータを貰ってたわ。自分だけじゃなく、あなたのためにもイヴォンヌは承諾したの。デュノア社が得たものはわかる?』

 

『……もしかして、ですけど』

 

 それが『ラファール・リヴァイブ』になる。デュノア夫妻はイヴォンヌの死後、シャルロットの後見人になる契約を交わしていた。イヴォンヌの才能と人柄に惚れていたヴィヴィアーヌは後見人ではなく、養子に来ないかと訊いた。あまりにもいろんな出来事があったシャルロットは考えさせて欲しいと口にするのが精一杯だった。

 

「────いろんなことがあったんだぁ。それでね、お母さん。シャルロットは今、頑張っています。前は悲しかったけど、今はもう、普通に楽しんで笑って。ちょっと怖いぐらいに幸せ。新しいお義父さんはしかめっ面で優しくて。お義母さんはいつも笑顔だけど、デュノアにふさわしいお嬢様の仕草とか品とかで大変なことがあるんだ。……でもね、幸せだから。幸せだから心配しないでね。──また来るからね。お母さん」

 

 イヴォンヌの墓石をあとにするシャルロットの足取りは軽く、大きく背伸びをしたあとに頬をかいた。

 

「明日から『IS』学園かぁ。怖いひとじゃないといいけど、ルームメイトが軍人さんって話だし。やっぱり不安だなぁ。……軍人さんと仲良くする秘訣なんてしらないよ、ボク」

 

 シャルロットはこの二年間でフランスの代表候補生にまで登り詰めた。実子のいないデュノア夫妻はシャルロットをただの令嬢として育てかったが、シャルロットが反発した。いや、我が儘をいったのである。実母であるイヴォンヌがみていた世界。今の両親であるデュノア夫妻がみている世界に関わりたかったシャルロットが頼み込んだのは『IS』の操縦者だ。亡き母のイヴォンヌがかつて『なにがあるかわからないから』といって受けさせた適性検査は『A』判定だった。イヴォンヌは自分の死後、シャルロットが生きられるよう最善を尽くしていた。それを思い出していう、シャルロットの我が儘に応えた形になる。

 

『──話はわかった。……だがな、シャル。せめて我が社にいてくれ。テストパイロットなら認めよう』

 

『そうです。そうですよ。見知らぬ誰かになんて預けられないわ』

 

『うん。うん。……ありがとう。本当にありがとう。──お義父さんとお義母さんに少しでもね、恩を返せたら嬉しいんだ』

 

 バカだなといって抱き締められたシャルロットは泣いた。現実は非情であっても情のあるひとはいる。デュノア社には第三世代型の『IS』はない。『イグニッション・プラン』に焦る政府からの催促がある現状は、どこかで社運をかけて勝負しなければならなかった。だからこそ、シャルロットは恩を返したかった。

 

 テストパイロットとしての猛勉強と訓練にくわえ、ご令嬢としての教育を乗り切ったシャルロットは耳を疑った。まことしやかに囁かれる噂──『IS』委員会には危惧と計画があった。シャルロットが信じたくなかったのは学園にいる一夏への『ハニートラップ』を仕掛ける計画の実行者に選ばれたところである。実行者であるシャルロット・デュノアが男装し、『シャルル・デュノア』となって一夏を誘惑する、甘く杜撰な計画だ。これが世界的な暗躍や政府の闇ならばシャルロットは飲み込めた。予想できるわけがない。計画の提案者に『織斑千冬』の名前がある事実にシャルロットは絶望した。まるで意味がわからない。

 

「実の姉が公認するハニトラってなにさ。男性を誘惑する秘訣なんてしらないよ、ボクは。……まあね。委員会から援助金が出るから社として助かるのはわかるけどさ。不安だなぁ。事情を知ってるルームメイトは女性でも軍人さん。男装とか仕草とかは練習したけど本当に大丈夫なのかなぁ。この計画ってさぁ」

 

 

   ◇

 

 

 シャルロットの男装は女性がみた男性としては完璧だった。二人目の男性操縦者である楓が『違和感があって完璧だ。男の娘にしかみえない』といってくれたので、シャルロットは安堵している。実の弟を疑う姉の『すまんな。どこで育て間違えたかわからんが、普通の性癖だと自信をもっていえん。きちんと異性に反応するか確認してくれ』と頼まれたシャルロットは、まだ見ぬ一夏を想い、泣きたくなった。

 

「できる限り、頑張ってみます」

 

「頼む。一夏が男性に反応するのか、女性に反応するのか……。貴重な男性操縦者の姉ではなく、ただの弟を想う、ただの姉として頼むぞ」

 

 迫る千冬に怯えるシャルロットは、ただの姉だとしてもやり過ぎだと思っていたりする。最強の姉だしとはいえないが……。残念ながら、委員会とデュノア社で契約書は交わしているのだ。シャルロットは逃げられない。

 

「わっ、わかってますから。……ただ、その。襲われたりしないですよね? それはさすがに心配というか、不安というか」

 

「ふむ? ……君としてはアリか?」

 

「なしで。なしでお願いします。わりと本気でお願いします」

 

 頭を下げたシャルロットに千冬がタメ息を吐く。さすがに肉体関係ありきで契約をするわけがない。そこは自己責任だ。この計画、契約は、あくまでも一夏がどんな性癖を持っているのかという確認、同性愛者ではないという確信が欲しいのだ。出来るだけ自然な形での情報が欲しいわけで……。委員会としては男尊女卑や女尊男卑などの主義主張どころではない、同性愛だけは勘弁してくれという想いが多数あった。

 

「まあまあ、千冬さん。残念がらないで、シャルとしても不安なんだからね?」

 

「そうだったな。すまんな。そのときは全力で助けるから頼ってくれ。……しかしな。弟をホモ呼ばわりするヤツはゆるせんが、致し方ない部分もあるんだ。恋愛どころではない、気になる異性の素振りすらないのだから。しかもだぞ。下品な本の一冊どころか画像すらないときた。束に確認させたから間違いはない。なぁ、楓。一夏はどこに向かっているんだ?」

 

「知りませんよ。シスコンだから千冬さんじゃないですか? そんな感じだからシャル。肩肘をはらずにいこう。彼の性癖は親しくなってから猥談でもすればいい。……千冬さんには悪いけど、そっちはついでだ、ついで。シャルには学園生活を楽しんで欲しい。シャルの両親、デュノア夫妻から話は聞いてるよ?」

 

「それは、うん。そういってたから、なるべく楽しむつもり。楓くん。ありがとう」

 

「楓でいい。一応、男同士だからな」

 

「そうだったね、うん。ありがとう、楓」

 

「いやな、楓。一夏がホモなどと──」

 

 なにやら、やり合っている千冬と楓が退室してくれたので、シャルロットは身体の力を抜いて振り返る。汚い。シャルロットは同室になる軍人には悪いけどと掃除を始めた。

 

「たった一日で、よくここまで……」

 

 整理整頓するだけでもマシにはなるんだよ。シャルロットは額の汗を拭った。時刻は昼前。買っておいたパンを食べて職員室へ向かった。秘密裏に来たシャルロットと千冬は先ほど会っている。千冬から紹介された副担任である真耶と挨拶を交わすシャルロットは、飛行機の都合という言い訳で午後からの出席になっていた。穏和な真耶に慰められたシャルロットは疑問に思う。先生達が知ってるのはいいけど、どこまで広がってるのさ。やっぱり、ダメじゃないかな? この計画ってさぁ。

 

「──初めまして。ボクはシャルル・デュノアです。産まれ育ちはフランスで、ここ日本では不慣れなことも多いかと思いますので仲良くしてくれると嬉しいです。みなさん、よろしくお願いします。あ、そうです。ここにはボクと同じ境遇、立場の方がいると聞いてきまっ」

 

「男だっ!」

 

「きたっ、貴公子きたっ!」

 

「地球に産まれてよかったぁぁぁ」

 

「おおっ。一夏でいいぞっ! 男同士だからな。仲良くやろうぜっ。あと、敵は八嶋なっ!」

 

「オリムーはさすがぁ。ぶれないなぁ」

 

「ママよ。あれがルームメイトか?」

 

「いやしかし、一夏のためにも寛容さをみせるべきであり、小姓などではないから」

 

「フランス……。はっ。わたくしを意識し」

 

「そうだぞ、ラウラ。質問はあとだ」

 

「黙れお前ら。返事っ」

 

『はいっ!』

 

 笑顔を張り付けたシャルロットは、騒がしすぎるクラスに不安が消し飛んだ。とりあえず、バレてはいないらしい。男だ男だという一夏の反応に安堵した。その瞬間である。

 

「しかし、ママよ。ルームメイトは同性、女だと聞いている。あれは制服が違う。……もっ、もしや、変態というヤツなのか? なるほど。初めてみたが、わかりにくいな」

 

「うん。ラウラ。ちょっと黙ろうか。あとで説教してあげるから正座して」

 

「なっ、何故だっ」

 

「ボーデヴィッヒは来い。話がある。山田君は授業を頼む。……ああ。デュノアは席につけ。騒がしくした者は私と一日訓練だ。わかったな? わかったら返事をしろ」

 

『あっはい』

 

「では、頼んだ」

 

 こうして、時間とお金をかけた計画は破綻した。シャルロットが学んだのは根回しの大切さと情報共有である。なんもかんも中途半端が悪い。事前準備を疎かにした関係者に悪態をついたシャルロットは犠牲者でしかなかった。なお、一夏の過敏な反応は問題視され、千冬に束という逃げられない状況で詰問と実験が行われた。同性愛者ではないと報告された委員会は満足気に頷いたという。

 

 





捏造ないと書けない
いい加減にしろ(自爆)


次回『嘘』予告。

あなたは何番目?
失敗作は廃棄処分なの
成れなかった完成形があなた

次回『瞬間、心、重ねて』

み~んなで見てねっ!


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