『IS』二人目の未来   作:echo21

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今回は短い……。

シスコンイッピーでもいい。
そんなモッピーはお嫌いですか?



『IS』二人目の未来 03 篠ノ之箒

 放課後の話し合いを横目に、篠ノ之箒は深いタメ息を吐いていた。箒は一夏が好きだ。幼少時に揶揄された『おとこおんな』を庇った一夏と仲良くなり、次第に惹かれていった。今もなお、一夏への想いを大切にしている。淡い初恋から燃え上がる恋愛へ。そう期待していたのだ。

 

 箒は過去を思うと気分が沈む。『IS』を発明して行方不明になった姉、束の妹である箒に重要人物の保護プログラムが適用されていた。箒の家族は離散している。一夏へ告白が出来ないまま、小学四年生の頃から各地を転々とする生活を強いられ、家族との思い出である『篠ノ之流』の古武術、剣術を忘れずに鍛える暮らしを続けた。そんな生活で鬱になりかけた箒は気晴らしに出た剣道の全国大会で優勝してしまい、真摯に打ち込む周囲との差に愕然とした苦い想いがある。

 

「……私は何をしているんだろうなぁ」

 

 何度目かのタメ息をした箒は『IS』学園への強制入学で沈んだ気持ちを粉砕した一夏の報道、『世界初の男性操縦者』に浮かれ、束のテレビジャックで盛大に喜んでいたのだ。一夏の家族は千冬だけである。姉の千冬が結婚すれば、自然と一夏はひとりになる。そこをどうにかこうにか、チャンスをものに! そんな朝の意気込みは恐るべきシスコン魂に挫け、ろくに会話も出来ないままであった。

 

「えっと……篠ノ之さん?」

 

「ん? ああ、八嶋か。名字は好きでなくてな。箒と呼んでくれ」

 

「それなら箒さんで。こちらはお好きにどうぞ。それとこれ。束さん直筆の手紙。中は知らないし、詳しいことはわからないけど、謝りたかったみたいよ?」

 

「姉さんが……そうか。手間をかけたな」

 

「俺のように手遅れじゃないからさ。気持ちをぶつけ合ったら? 千冬さんでさえ、ストレスを貯めてたからね。吐き出せる相手には文句をいったほうがいいよ」

 

 楓の言葉に瞬きを返す。

 

「……千冬さんが? 正直、信じられん」

 

「かなり貯まってたよ? まあ、そのお陰様で千冬さんと仲良くなったけどね。箒さんもいったら? 『クソうさ耳死ね』って」

 

 楓がウインクをする。箒を気遣うような態度から一転するセリフを吐き出した楓に箒は呆れた。

 

「あんなんでも姉だ。そこまではいわんさ」

 

「そう? いい年齢でソレ? とか思ってない? ほんとに?」

 

「それは八嶋。……まあ、あれだ。うん」

 

「思ってたでしょー。まあね。姉妹ケンカも楽しめるよ。相手は生きてるし会おうと思えば来てくれるからさ」

 

「そうか。そうかもなぁ。……なら、八嶋は? すまない。姉さんがいっていたな」

 

「そういうこと。『一家離散』に『情報封鎖』だからね。俺の過去は『二人目』から再スタートだよ。はい、手紙」

 

 強いな。箒は素直にそう思いながら手紙を受け取った。

 

「八嶋っ! 話があっ……箒も一緒か。なに話してたんだ? ハッ。浮気か八嶋っ! 千冬姉ぇも箒も渡さんぞ!」

 

 ちょっと嬉しくなった箒は黙る。

 

「うん、わかった。それじゃまた明日」

 

「あっ。八嶋っ! おいっ!」

 

 楓に悪態をつく一夏に心配された箒は思う。私は安い女かもしれんな──。

 

 

   ◇

 

 

 箒の心臓が破裂する。『IS』学園は全寮制である。二人で一室を使う規則になっていたが、今年は例外が二人いるのだ。女子寮に男子二名。割り振りとして、男同士が相部屋になるはず。それがどうしてか。箒のルームメイトが一夏なのであった。

 

「姉さん。事件です。幸福すぎて死にそうなんです。私はいったいどうしたら」

 

「──ふう。……おっ、箒。風呂あがったぞ」

 

「うん、うむ。良いな。うむ」

 

 風呂あがりの一夏をみて何度も頷く箒が気持ち悪かったのか、どもりながら夕食を誘う一夏に箒は快諾した。

 

 学園の食堂は豪華だ。世界から集まる生徒達のためか、国際色豊かなメニューが並んでいる。そうはいっても、どこかジジ臭い一夏は和食を頼み、自他共に認める大和撫子の箒も和食だ。

 

「きたきた、刺身定食。箒もか?」

 

「うむ。夜だしな」

 

 空いた時間を埋めたい箒は一夏と話したいのに、食事中のお喋りは下品だと育った。なるべく汚くならないように素早く食べて話そう。そんな箒を察してくれない一夏は流石である。

 

(変わらんなぁ。この無自覚のタラシに鈍感。そここそ変わって欲しかったなぁ)

 

 一夏の隣に座る女子からの質問攻めに爽やかに答えている。やや遠巻きに見ているのは一組が多いような……。

 

「──だから谷本さん。箒は幼馴染みなんだよ」

 

 うむ。黙々と食べる箒は目を細める。実の姉である束より、千冬に似た雰囲気を出すのは憧れがあったからだ。いつか私も姉さんをしばくと。

 

「あ。噂の織斑君よね? イギリスの代表候補生とバトルするって聞いたけど本当? 素人じゃ辛いわよ。……よ、良かったら私が教えましょうか? ほら? 私? 歳上だし?」

 

「あ。なら教えてもら」

 

 一夏は箒の視線で固まった。

 

「先輩。織斑先生がメニューを組んでますので、一緒にやりたいならどうぞそちらへ。私は幼馴染みですし、織斑先生と同門なので平気ですが……。先輩には辛いかと思われます」

 

「うぐっ。また来るわ」

 

「お、おい。箒」

 

「いいか、一夏。千冬さんが笑ってたんだ。あれは笑顔じゃない。ニタリと笑ってたんだぞ? 『頭と心に叩き込んでやろう』といってたではないか」

 

「そうだった、そうだったなぁ」

 

 そう。千冬は隠れブラコンである。一夏と束以外には暴力をふるわないが、それは親友と弟という愛情の裏返しだと箒は聞いた。ソースは束。箒は宝くじ一等ぐらいの確率で信じている。

 

「それにしても一夏。八嶋は」

 

「知らん! 義兄だなんて認めないからなっ」

 

「あ、うん。すまん。あれだ! 一夏は剣道を続けているのか? 手合わせはどうだ?」

 

「ああ、悪い。やめたんだよ。千冬姉を支えたくて家事とかバイトとか……八嶋ぁ」

 

 やぶ蛇か。ここ最近の一夏を知らないとはいえ、ここまでシスコンだったか疑問に思う箒はチャンスであることも自覚している。

 

「それにしても三年後だ。今すぐ結婚するわけではない。女心は秋の空というではないか。心変わりがあるかもしれんぞ」

 

 嘘である。逆に応援しているし、なるべく早くゴールインして欲しいと思っている。

 

「まあな。『生徒と教師で結婚はせん』っていってたから、心変わりに期待か」

 

(織斑先生? 予約? 予約なのっ?)

 

「そうだな。一夏と同じように八嶋の訓練も千冬さんが計画しているのだ。それなりに期待してもいいと思うぞ」

 

(え? それって、逆光源氏?)

 

「そっか、そうだな。箒。ありがとな!」

 

(織斑君……残念!)

 

「気にするな。私とお前の仲ではないか」

 

「だなっ。いやあ。女子ばっかりでどうなるかと不安だったけどさ。幼馴染みには感謝だわ」

 

 少しでも一夏から目を逸らすための作戦を成功させた箒は楓に感謝のメールを送る。実は箒。一夏に隠れ、束の手紙を経由して楓のアドレスを入手しているのだ。

 

『──だからね。私とちーちゃんのお陰でかっくんに注目が集まってるし、箒ちゃんの好きないっくんは手薄だよっ。ちーちゃんの防波堤が下がってるからね。しかもしかも、鈍感ないっくんはちーちゃんの結婚で異性を知るんじゃないかなあ。そんな感じの話をかっくんがいってたし、ちーちゃんも頷いてたからねぇ。あるんじゃない? チャンス──』

 

 手紙を読んですぐに隠し、楓にメールした箒は悪くない。乙女にとって恋は闘いである。

 

『──そんな話はしたよ。無自覚にモテて、鈍感に玉砕した人が多数? だったかな。近場の異性が結婚したら色々考えるんじゃないかなあ。少なくても、結婚と妊娠、出産に赤ちゃんはそうだよ。ご近所の奥さん達をみた俺も考えたし──』

 

 しきりに頷いた箒の中で楓はいい兄貴分である。千冬でも束でもいい。どちらでもいいから結婚してくれ。箒が楓に送ったメールは『お義兄さんと呼ばせてください』であり、『はい、フライングかな? 箒も俺もね。肩肘はらず楽しむこと! いい笑顔でね?』と返ってきた。ほんとに、本当に。どちらでもいいから、モノにしてくれ。未来を夢見る箒は力強い味方を得たのである。

 

「忙しくなるな、一夏。私もいる。共に楽しもうではないか」

 

 なあ、義兄さん。

 

「おう! 一緒に頑張ろうぜ!」

 

 食事を終えて戻った部屋でする思い出話、なくした時間を埋めるように笑う箒は輝いていた。振り回された学園の初日。箒は気持ち良く眠りにつく。寝坊した翌朝の一夏と一緒に慌てる時間すら楽しむ余裕が出来たのであった。

 

 




次回『嘘』予告。

死なないでイッピー。
シスコンは二人いるから。
レベルが上がれば、ストーカーになれるからっ!

次回『更識楯無はシスコンじゃない?!』

サービス、サービスっ!


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