『IS』二人目の未来   作:echo21

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大人の……女性……?

合法ロリにはみえない女
今もこれからも童顔なあなたへ
当小説、No.1ホスト『楓』はいかが?




『IS』二人目の未来 17 山田真耶

 山田真耶は教師である。生徒達から山ぴー、やまやま、まあやんなどと呼ばれても教師なのだ。寝ぼけ眼を擦りながら欠伸を噛み殺そうとして躓いた。朝から左足の小指に食らった痛みで声をあげる。消えない痛みを我慢しながら、朝食の支度を急ぎ始めた。

 

「……痛かったぁ。それにしても、臨海学校はどうなるんだろぉ。いただきます」

 

 普段であれば、この時期にある行事に職員から疑問符があがっている。例年にないことは間違いなく『S.R.F.』だろう。団体の発足から学園の職員は総出で動いても回らない状況が続いたし、そもそも海に試験で行くより、団体のおこぼれを待ったほうが建設的だと声を張り上げるひとがいる。これは早くから関係がある簪とセシリアの成長を見越したものだ。彼女らの立場に嫉妬したといってもいい。それほど『S.R.F.』は魅力的だった。

 

「頑張ってるんですけどね。彼女達も」

 

 一年生のクラス代表の対抗戦が盛り上がらなかったのは『六合弐式』の出場がなかったことだといわれている。楓と同様に簪の機体も未完成だ。一部の不満の声はあるが、概ね理解と納得はされている。この件は解決。真耶は朝食を終えて片付けるとクローゼットを開けた。

 

「スーツ、スーツ。……うん。シャツ、アイロンしてない? あれ? まずいっ」

 

 それから、学年別の対抗戦はトーナメント形式で行われるが中止となった。これは委員会の圧力というより、世界で活躍する現役の国家代表が学園に集うための危機管理である。時期が重なるため、全職員は諸手をあげて喝采した。それらが『臨海学校』の中止の噂に拍車をかけているのだろう。良くも悪くも『S.R.F.』に振り回されているのだ。

 

「……ふふっ。仕方ありません。仕方ないのですよ。下ろし立て、出しちゃいますっ」

 

 デート用……。大分前から出番はない。購入したのはいつだろうか。普段ならば服装に気を使う真耶だが、ここ最近は忙しいために千冬の言葉を──スーツは制服だ。あとはわかるな?──参考にしていた。真耶は手に持つ可愛らしいシャツを暗い目でみている。

 

「うふっ──。まずいっ、あ痛ッ」

 

 悲哀と闘っていれば時間が迫っていた。慌てた真耶は弁慶の泣き所に鳴かされてしまう。駆け足で着替えて部屋を出たが、色々な意味で涙が出そうだった。

 

「あ、山田先生。おはようございます」

 

「はい。おはようございます」

 

 まだ早朝でありながらも、訓練に励む生徒達に癒される真耶は思い出した。グラウンドに屹立しているであろう千冬、汗まみれになる予定の一夏と箒に合掌する。

 

「くわばら、くわばら」

 

 真耶が職員室に辿り着く頃には空が白み始めていた。あそこは徹夜組。近づかないようにしよう。そんなことを思いながら自分のデスクに向かい、今日の準備を始めていく。朝の挨拶というよりも、何時であっても『おはようございます』と『お疲れさまです』が飛び交っている職員室の空気が止まった。千冬の登場である。今日も無言の千冬に群がる人々が──。

 

「織斑先生……」

 

「千冬さん……」

 

『──どっちでもいいから貸してよっ』

 

「ええいっ、毎朝うるさいぞっ。女日照りはわかったが、毎日盛りおってからに! いわれる私の身にもなってみろっ。一夏にはまだ早いっ! 楓はやらん! ……だいたいだな。楓は合意があればシてくれる男だといっているだろうが。本人にいえっ、本人にっ!」

 

『それは……。恥ずかしいし──』

 

「死ね」

 

「乙女心ですよ、織斑先生。おはようございます。準備はあらかた終わってますので、チェックをお願いします」

 

「山田君か。ありがとう。それと、おはよう。しかしな。私より歳上もいるんだが、どうにかならんのか」

 

「いくつになっても、女の子は乙女でありたいんですよ? みなさん、お綺麗ですからね。あ、ほらっ、女子会って何歳でもいけますし、そういう意味でもアリかと」

 

「あれはあれで問題だとは思うがな……。そろそろ散れっ。私にも仕事をさせろ。だから散れっ!」

 

「そういえば山田先生のシャツ、いつもと違いますよね。可愛くないですか? どこで買ったんだろ」

 

「あっ、それ! わたしも思いましたよ。いいですよね。薄いピンクに胸元の花柄が可愛らし、くっ……、て。胸元の花柄がぁ。胸元のぉ──」

 

「それじゃあ、織斑先生。ダブルチェックをお願いしまっ……。なっ、なんですか? みなさん揃って? あ、これ、可愛くないですか? ちょっとサイズがあれですけど、前に買ったシャツで」

 

 真耶の胸に視線が向けられ、羨望と呪詛が入り交じる中で聞こえた言葉が──どうせ使わないのに。あの巨乳──真耶の笑顔を固まらせた。

 

『うんうん。使わないと意味ないし』

 

「私だって、私だって──。やりますっ、やってやりますともっ。八嶋君にお願いしてきますからねッ。……使ってやるぅぅぅ。使ってやるんだぁぁぁ」

 

「落ち着け山田君。……頼むから聞け。お前らは散れ。真耶? 聞こえてるか、真耶」

 

 ────真耶は荒れた。

 

 その日の授業は開始からおかしかった。妙に明るい真耶がギラついた目をしている。授業中の真耶が終始みていたのは楓であり、楓自身は気づかないフリを懸命にしていた。時おり唇を舐める真耶に生徒達は沈黙する。それでも授業は何事もなく終わり、放課後を向かえた。その時である。

 

「やっ。八嶋君っ!」

 

「えあはい。山田先生?」

 

「いただいて、いいですか?」

 

「山田君は引き取る。楓はすぐに去れ」

 

 ────アアアアアアアア。

 

「千冬先輩の鬼ぃぃぃ。いけずぅぅぅ。勇気出したのにぃぃぃ」

 

「あのな真耶。お前な。まだ、他の生徒も残っているんたが、気づいてるか?」

 

「はっはっは。バカですねっ。もうっ、先輩ったら。冗談がうまいんだからぁ」

 

「バカはお前だ。周りをみろ」

 

 ────い、た、ね。

 

『山田先生って、痴女?』

 

「うわぁぁぁ。疲れてたのぉぉぉ」

 

 真耶は荒れた。女子校のノリ、女性の職場らしさを出してしまった真耶が悪い。しょんぼりと肩を落とす真耶に生徒達が優しく接してきた。荷物を運んでくれたり、肩こりに効果のある体操をいってみたり、冷たすぎず熱すぎない飲み物を持ってきたりする。なぜか、一夏が胃に優しい料理を作ってくれた。真耶は泣いた。食堂の一角を占領する一年一組に周囲は不思議そうな顔をしていたのだが、千冬はそっと端末を手にした。

 

 

   ◇

 

 

 真耶は元々、日本の代表候補生だった。真耶自身は胸にコンプレックスがあり、モデルなどの公な仕事に出ていなかった。そのために、一般的には名前を知られていない。それでも千冬と同期の操縦者や現役時代の千冬を調べれば真耶の名前が出てくる。代表候補生であった真耶は千冬の一年後輩であり、近接を重視する千冬の練習相手がもっぱら真耶だった。真耶は徹底的に遠距離で闘い、千冬相手に数十分もたせた記録をもち──千冬の公式バトルの全てが数分で決着している──その射撃は緻密であり、誘導させる思考や作戦を参考にする操縦者は多い。今もなお、『銃央矛塵(キリング・シールド)』と呼ばれ、真耶あってのブリュンヒルデとまでいわれている。

 

「……もっと、異性になれておけばっ」

 

 その操縦者としての技量の代償なのか、異性との付き合いはない。清らかな乙女を夢見ていた真耶は──ちょっとだけエロいのが好み──えらく具体的な特徴や数字をあげていき、終いには王子様のような男性がいいと語った。

 

「おいこらっ、駄眼鏡。なんでココでグチる? 書類を届けたら帰れよ」

 

「ううう、礼子さあん。男のひとの引っ掛け方を教えてくださいよぅ。使えない巨乳なんてぇ」

 

「そっちは外向きだかんな。今はオータムだっていったよな? おいこらっ、駄眼鏡っ、聞いてんのか? ……だいたい、あたしはレズだぞ? なあ、駄眼鏡。あたしを誘ってんのか? 男の話なんて知らないぞ。喰っていいか?」

 

「またまたぁ。私、知ってますからねぇ。酔って一発やって、二発でしたっけ? あれ? 何回したんですか? ねぇねぇ、礼子さあん。八嶋君に何発も出してもらったんですかぁ? 何回したんですかぁ? ケチケチしないで教えてくださいよぅ」

 

 真耶に腕を抱かれたオータムは弾力に唾を飲んだ。ちょっとだけ、ちょっとだけと真耶に近づくオータムは気恥ずかしい顔を作っていった。

 

「あ、あれは酔ってたし、接待の延長でだな。お前で試してやるよ。ちょっと回数は覚えてないがっ。……こいつ、酔ってやがる。誰が飲ませやがった。──喰っていいよな? 誰もいないよな?」

 

「私が飲ませたわ」

 

「スコールぅぅぅ。居たのかよぉぉぉ」

 

 真耶から距離をとったオータムはスコールに抱きつこうとして投げ飛ばされた。転げ回るオータムをみて上機嫌に笑う真耶の頬をそっと撫でたスコールは囁く。

 

「したい? えっち」

 

「…………ぃ。……っち」

 

「ちゃんと『酒部屋』の準備はできてるわ。オータムはいいのよ。そのまま働いてなさい。さあ、真耶。おいで。彼もいるかもよ?」

 

「…………ぃ」

 

 オータムが起き上がれば真耶とスコールがいない。ここ最近、相手をしてもらえないオータムは荒れ、スコールの名を叫んだ──。

 

「──そろそろいいわよ。真耶」

 

「あ。はい。やっぱりバレてました? 私、お酒が大好きで、千冬先輩を潰したことが自慢なんです。オータムさんって、意外と可愛らしいですね」

 

 くつくつと笑う真耶にスコールは呆れた。それなりに酒が入っているからだろう。頬は赤いままだが、真耶の目は笑っていない。

 

「あまり、からかわないであげて。慰めるのも大変なのよ? 日本のエージェントさんにはわかるかしら?」

 

「そりゃあ、バレてますよね。なら、わかりますか。亡国の土砂降りさん?」

 

 立ち止まり睨み合う。数秒はそうしていたが、どちらともなく笑い出した。

 

「ご活躍は知ってるわ。キリング・シールドは健在なのね」

 

「こちらもです。アンクル・サムのダブルスパイでしたっけ?」

 

「捨てた場所よ。今はこっちね。わかるでしょ? あなたと私はお友達」

 

 軽く握手を交わす。

 

「そうなりたいものです。ご用件は?」

 

「預けたい機体があるの。詳細は楓から聞いてちょうだい」

 

「えっ、え~と。八嶋君じゃなきゃダメですか? 今ですね、顔をみたら……。会ったら襲う自信がありましてぇ、ですねぇ」

 

 スコールがついたタメ息に愛想笑いを返す真耶は頬をかいて誤魔化そうとしている。

 

「呆れたわ。女性しか経験ないのは本当だったのね。男も食べたらいいじゃないの。……まあね。今はいいわ。いい、真耶? あなたの実力を評価して『六合参式』を預けたいの。遠距離射撃型ね。似合いの機体よ? なんなら、男もセットにする?」

 

「結構ですっ。男は断りますからねっ! いい男ぐらい自分で選びますからっ! ……いい男はあれです。なぜか見向きをしてくれないだけです」

 

「真耶にみつかるぅ? 女性経験と男性経験は違うわ。それに男をみる目あるの? 捕まえられるのかしらねぇ。男は乙女よりも淫らが好きだったりするけど、知ってた? 昼は清楚で夜は娼婦とか、できるのかしら? ……あらあら、話がずれてたわね。ごめんなさい。機体は受け取るでいいのね?」

 

「機体はわかりました。……確かに、女性を鳴かせるのは得意ですけど男性は未体験です。でも、いいじゃないですかっ。夢をみたい乙女なんですっ! ……男をみる目はそのぅ、鍛えてる最中なんですよっ」

 

「はいはい、こっちよ。着いてきなさい」

 

 スコールの案内で『酒部屋』に辿り着き、白けた目でスコールをみる真耶は微笑ましい顔をされた。夜になれば『S.R.F.』メンバーでさえ近づかないからとスコールにいわれ、納得をしてみせる真耶は部屋に入り目を疑う。

 

「八嶋楓しゃん!」

 

 真耶は直立不動になる。

 

「うん? 山田先生? ……スコール?」

 

「ちょっとね。連れが増えるといったでしょ? ちなみにオータムじゃないわ。あの子はお仕事。さあ、真耶。さっきの話の続きを、ね?」

 

「うぐっ。……かっ、楓しゃん!」

 

 少しぐらついたままの真耶は敬礼した。

 

「真耶さんもお酒を? そちらへ」

 

「しゃいっ!」

 

 スコールの隣を見向きもしない真耶は、楓の隣に座ってそわそわしている。

 

「形なしだわね。キリング・シールドも」

 

「千冬さんからの連絡だったんだかな。スコールと揃って嵌めたのか。悪い女達に乾杯だな?」

 

「あら? 女性のストレス発散にご協力を。疲れた女性に癒しを、ね? だからこそ、悪い男に乾杯ね」

 

「はいはい。注ぐからグラスを」

 

「あ。明日は遅刻か、休めたかな? そうだ。先輩に伝えておかないと──」

 

 真耶はカパカパとグラスを空けていく。スコールはにやける口を隠さずに真耶をみていた。次第に楓に寄りかかる真耶に呆れた楓はベッドで休むことをすすめたのであった。

 

 




ご満足で? 延長?
オプションは別料金です。


次回『嘘』予告

目指すべき道はある
いわゆるジャーナリズム
私がしているのは捏造なんて!?

次回『クレーム対応』

この次も、サービスサービスぅ!


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