『IS』二人目の未来   作:echo21

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アクセス……バグ?

あ、ありのまま今起こったこと話すよぅ。かんちゃんに合掌してたら暗躍に参加させられてた……頭が(以下略)




『IS』二人目の未来 16 布仏本音

 布仏本音の手は隠れている。学園の制服は個人の裁量で改造が許可されており、その長すぎる袖は暗器を隠すなどの物騒な意味はない。お菓子が──主に飴──出てくる。一組のクラスメイトなら知っているが、ラウラがよく飴を貰っていた。そんな本音が腕捲りするのは朝だ。

 

「ぐちゃちゃ~。ぐちゃぐちゃ~」

 

 本音の朝食だけはヒドイ。昼や夜は違うのだが、今日の朝は焼き魚定食の全てをみそ汁に入れてかき混ぜている。本音の両隣が空いているのは食欲が失せるからだ。それがわかっているためか、食堂の隅に座る本音は遠慮せずにかき混ぜていた。

 

「お、今日もやってるな。おはよう、のほほんさん。隣、座るぜ」

 

「おはよう、布仏。相変わらず、だな」

 

「お~? オリムー、しののん、おはようだよぅ。ぐちゃぐちゃ~。ぐちゃちゃ~」

 

 本音の近くなら確実に空いてるため、最近では一夏と箒が相席してくることが多い。二人は千冬が監督する早朝トレーニングをこなしてから食堂に来るので、早起きできない本音と時間が重なるのだ。

 

「簪はまた先に食べたのか? 付き合い悪いよなあ。いただきます」

 

「布仏と一緒の朝食だけは遠慮する気持ちはわかるがな。いただきます」

 

「う~ん。朝はねぇ、眠たいからねぇ、ぐちゃぐちゃなのだぁ。いただきま~す」

 

「よかった空いてた……。おはよう、みんな。座ってもいい?」

 

「お~、デュッチーだぁ。いいよぅ。珍しいねぇ、デュッチー。おはようだよぅ。ねぇ~、ラウラウはぁ?」

 

「ラウラはいつも通り。『ママッ』て突撃してるよ。でも、いつもより早く起きてね。ボクもラウラの騒ぎで目が覚めて二度寝しちゃって……。いただきます!」

 

 本音の朝食に慣れていないシャルロットだけは微妙に気落ちしていたが、本音から貰った飴で多少は持ち直していた。

 

「みなさん。おはようございます!」

 

「おはよう。お前ら」

 

『おはようございますっ!』

 

 本音は一組が好きだ。妙に明るいクラスメイトは今日も元気に挨拶をしている。そこでふと気づいた。千冬の肩が少し下がっているのに表情はいい。本音は首を少しだけ傾けた。昨日は確か、アリーシャと非公開バトルのはずだ。発散したんだねぇ。かんちゃんのいう通りなのかもしれない。

 

「布仏。私の顔になにかついてるか?」

 

 ずいっと顔を近づけそうな千冬の迫力にくわえ、右手がデコピンの準備をしている。あの力加減は絶妙であり、仄かに痕が残る程度なのに痛みだけはちゃんとあるのだ。本音は食らいたくないので、両手と首を振った。

 

「先生ぇ、違うよぉ。かんちゃんが『織斑先生の女子力は『25%』の初期値。ダイスロールに失敗すると反転して野武士ロールの『85%』になる』っていってたの、思い出したのぅ」

 

「売ったっ、躊躇いなく売りやがったぞ。やっぱり、のほほんさんは怖いなぁ」

 

「そうか……。よくわからんがわかった。あいつはヤろう。布仏は更識に伝えろ、『お前を殺す』とな。あいつなら喜ぶ」

 

「わっ、わかりましたぁ」

 

 簪の布教で『S.R.F.』ではアニメが流行っている。千冬がみたものを理解した本音は頷いた。

 

「簪は勇者だったなあ。千冬姉ぇに正直にいうなんて俺でもしないぞ。惜しい友をなくしたよ」

 

「オリムー? 前だよぅ、前ぇ。出席簿」

 

 ────バァァン!

 

「織斑先生と呼べ。さもなくば死ぬ」

 

「首がっ、首がなくなるっ」

 

『ついてる、ついてるからっ!』

 

 授業は滞りなく進んでいく。初日の一夏は酷い有り様だったが、勉学に励む楓に負けるかと奮起している。密かに本音は『シスコン力『85%』だなぁ』などと思っていたりするが、一組の一夏への評価は高い。その負けがわかりきっている勝負に──千冬は嫁にいく──挑むド根性を尊敬しているのだ。未だに『義兄だなんて認めないからなっ』とはいうものの、ラウラには注意しないのだから、内心では理解しているのだろう。一夏が諦めるのはいつか。一組ではトトカルチョが流行っている。鉄板は卒業後であり、二番人気は横並びの在学中の二年か、三年生となる。大穴は今年だが、賭けたのはひとりのギャンブラー谷ちゃんであった。

 

「おっ昼ぅ、おっ昼ぅ」

 

 マスコット的な意味で本音は人気がある。本音に癒されないのは姉の虚だけで、先生方からも癒し効果があると囁かれていたりする。今日も行われる、昼食の本音争奪戦を制したのは鈴音だった。

 

「ちょっと本音。話があるのよ」

 

「ふぇ、りんりんだぁ」

 

「それはやめなさいよっ。……食堂でいいから話があるの。付き合ってもらうわよ? いい?」

 

「いいよぅ、行こうよぅ」

 

 鈴音の訊きたいことは『臨海学校』の中止の噂だった。一夏の水着姿に興奮する機会、楓のエロい身体を視姦する機会を失う噂だ。一年一組以外は授業中でも生理用品の貸し借りが行われるような女だらけの学園生活で、餌となる貴重な時間がなくなるのだ。鈴音以外は中止の中止を求めている。

 

「──よかった。中止の可能性が高いのね。ティナの買い物に付き合わなくて助かるわ。水着なんて滅べばいいのよ。ありがとう、本音。助かったわ」

 

「別にいいよぅ、りんりん」

 

「それはやめなさいよっ。まったく……」

 

「ならぁ、りりん?」

 

「それもダメッ」

 

「じゃあ、ふぉふぉりん?」

 

 首を傾げながら両手をあげた本音に鈴音は思いきりタメ息を吐いた。

 

「もういいわよ。好きにして」

 

「はあい。りんり~ん」

 

 やめなさいよっ。本音と何度か同じやり取りをした鈴音は昼食を掻き込んで走り去った。それをみていたシャルロットが本音の隣に座る。クラスメイトに囲まれた本音は先ほどの話を説明するのだった。

 

 

   ◇

 

 

 放課後の本音は簪の近くにいることが多いが、今日は訓練をするからといわれているし、アリーナに向かった千冬が怖いので近寄らないことにした。

 

「うん? 本音か。なにを?」

 

「かんちゃんに合掌だよぅ。やっしーはなにをしてるのぉ。訓練はぁ?」

 

「今日は変更があって『対話』だよ。……それより、本音。またなにかやらかしたのか。あんまり簪で遊ぶなよ?」

 

「はあい。ごめんなさ~い」

 

「わかってないだろ? ……まったく」

 

 立ち去ろうとする楓の背中を追う。本音は隠し持つ端末で今日の予定の確認を始めた。『S.R.F.』の所属メンバーは各自の端末からアクセスできるサイトに『計画表』と『勤務表』があり、予定や所在を明らかにしている。『計画表』は明後日以降の出来事であり、『勤務表』は今日明日の事柄になる。今日の楓の欄には『委員会の対話』とあった。『の』だ? 本音は不思議に思いつつも楓の背中を叩いた。

 

「やっしー。一応、護衛するねぇ」

 

「うん? わかった。更新しといてくれ。あと、簪には謝れよ。合流する予定だったろ?」

 

「はあい。わかったぁ」

 

 苦笑する楓を無視して『待合室』のドアを開けた本音の前には二人の人物がいた。ひとりは『轡木十蔵(くつわぎじゅうぞう)』だ。十蔵は表向きには学園の用務員の顔を被る男で、実際には学園の為政者になる。外向きとしては学園長の妻がいるが、裏向きの事柄に関しては妻を関わらせない愛妻家の一面もあり、彼に妻の話題をふると軽く三時間は喋るといわれている。用務員の好好爺はここにいない。初老の政治家、いや、フィクサーがいた。

 

「楓君。老人は労ってくれるとな」

 

「まだまだ現役ですよ。ご老体」

 

「私に労いはいらないよ?」

 

「わかりましたよ。総理」

 

 日本初の女性総理、内閣総理大臣である『金田一双葉(きんだいちふたば)』までいた。初の女性であり、初の三十代での総理だ。今もなお、新たな史上初を量産する、歴代のどの総理よりも注目され、誰よりも忙しい総理が目の前にいたわけで。

 

 これには本音ですら驚き、固まってしまう。日本一多忙な女性が来るからこその予定変更だと、軽く笑う楓の背中を唸りながら叩いた本音に生暖かい視線が向けられる。すぐさま、本音は楓の背に隠れた。わざわざ立っていた総理に着席を促した楓の心臓には極太の毛どころか、ダイヤモンドが混入しているに違いない。これでも初対面だとか。本音は楓を訝しげにみたが、今できることは置物になることだと自覚する。

 

「楓君。今日は総理がいらっしゃった。おさらいからいこうじゃないか」

 

「その前にひと言。謝罪をしたい。君の過去に関しての処置だ」

 

「わかってますよ、総理。あの時点で俺には誰かを守る力も立場もなかった。犠牲を最小限にし、なおかつ穏便な手段はあれ以外にありません。今ではもう、理解しています」

 

「……そうか。すまなかった」

 

「頭をあげてください。謝罪は受け入れます。……それにしても、あの隠蔽処理で俺に頭を下げたのは総理が三人目ですよ」

 

「それはまた、少ないな」

 

「いえいえ。笑えますよ? 私が聞いたのは一人目が織斑千冬。二人目が篠ノ之束。三人目があなたですよ、総理。楓君はやりますな」

 

 高笑いする十蔵に楓は苦笑している。双葉は双葉でくつくつと笑っていた。本音には笑えない。

 

「いやな。私も偉くなったものだ。世界に名を残す最強と天災に並ぶとはな」

 

「またまた、総理。日本初で残してますからな。お戯れですぞ?」

 

「おおっ。私も女性として名を売ったな」

 

 再び笑いあう十蔵と双葉を前にして、楓の後ろに立つ本音は楓の背中を小突いた。

 

「これはこれは。お偉い方々の、お立場ある方々のお戯れは心臓に悪い。若輩には堪えるので話を進めても?」

 

 少しの間をあけて双葉が笑う。

 

「すまんが、十蔵。彼を政治家にしたい。私を支えてほしくなった。どうにかならんか?」

 

「なりませんなあ。政治家は荷が軽いようでしてな。かといって日本で縛ると暴発する輩がおります。素直に諦めて世界に押しつけましょう」

 

「ううむ。勿体ないがな。止むを得ないか。……わかった、諦める。それでは日本の話、世界の話をしよう」

 

 ここから語られるのは完全に隠蔽しなければならない。まずは前提となる『S.R.F.』だろう。どれぐらい本気で宇宙を目指しているのか。双葉の質問に楓が答え、理解を得た。次の議題は宇宙関連の企業、株価が軒並み成長していることだ。所属メンバーに日本人が多いことから、日本優遇の見方があるため、日本政府としては回避したい。そこはデュノア社を参戦させて逸らす用意があることを十蔵が補足し、双葉は頷いた。それから『IS』コアに関してだが、どうにかできるかという双葉の要望に楓が頷く。委員会向けだが、コアひとつ、二兆円で借用できる手配を整えており、委員会の会議待ちであることを話した。

 

「ここまでが、おさらいか」

 

「はい。総理、これからを話しても?」

 

「頼む」

 

 宇宙に向けての問題は多い。電力などのエネルギー源の確保。食糧の保存や生産方法。それになにより、移動手段と居住空間の確保だ。『S.R.F.』としてはいくつかの試験案があるものの、実験する手間を惜しみ、日本に渡すつもりだ。そのさいに取れるデータを共有して貰うことが条件にはなるが、双葉が本題として来たのはこの案件である。もちろん、顔見せの意味合いもあったが。

 

「持ち帰っても?」

 

「当然です。即答されても困ります」

 

 データを受け取った双葉に楓が頷いてみせ、双葉は軽く頷いてから眉を寄せた。

 

「有り難い。それとコアの借用だが、譲渡にはならんのか? 後の問題になるのは明白だ」

 

「数年間の借用後に譲渡する案です。借用期間中に問題が発覚すれば権利失効となります。問題としては、その期間をどの程度にするのかで紛糾してまして……」

 

「それは、まあ。……揉めるな」

 

 楓と双葉が揃って苦笑すれば、十蔵は楽し気に膝を叩いた。

 

「そうはいいましても、前進は前進ですからな。委員会の責務は果たしてもらわなければ、更迭も致し方ないかと。学園としては『宇宙科』を作るかどうか。それになにより、誰が指導や教育ができるのか。……山積みでしてな」

 

「それも、まあ。……揉めるな」

 

「揉めております。総理には女性上意の宗教家どもの牽制策をお聞かせ願いたい」

 

「それならあれだ。テロ対策の新法案が審議中なのは知っているな? その中に宗教家どもを含む文言がある。解釈次第で排除できるぞ」

 

「助かります。楓君からは?」

 

「俺からは発言を願いたい。世界に向けて『女性上意はテロ行動に誤解されないよう、注意されたし』とか、どうです?」

 

「……ふむ。あくまでも自粛と牽制か。悪くはない。時期は?」

 

「デュノア社の参戦後」

 

「理解した。──いやはや、楽しくなってきた。日本は楽しくなってきたぞっ」

 

 高笑いする双葉は本当に愉快だといわんばかりに楓と握手を交わしている。『IS』の発明から、日本の立場を重苦しくなった。軽い発言でもしようものなら、戦争の匂いを嗅がせる国々があったのである。委員会の設立に苦い想いで尽力した成果が、今こうして報われようとしていた。

 

「遅くなりましたが、彼女は」

 

「理解しているさ。私も総理だ。彼女ら更識家には世話になっているのだ。当主のロシア代表は約定通りにと。卒業後は破棄してくれて構わない。よくやってくれている。伝えてくれるか?」

 

「はっ」

 

 敬礼した本音に微笑み、双葉は顔を戻してひとつ頷く。

 

「他にはあるか? 私としては来て良かったと思っている。……あらかた話した気がするがな。十蔵?」

 

「細かいことはありますが、私に任せていただけますと嬉しいですな。報告は妻のに紛れ込ませますわ」

 

「苦労をかけるが、日本のためにも頼む」

 

「ええ。承りますとも。愉快な仕事ですから譲りませぬよ? まだまだ若い総理には負けませぬ。とは申しても、楓君の荷は重い。首輪に鈴と。これほどの大役に褒美がない。総理?」

 

「十蔵。そうなのだ、そうなのだよ。だがな。日本としては負い目しかない。ここはひとつ。ご本人に伺おうじゃないか」

 

「おおっ。ですなあ」

 

 にやける双葉と十蔵に楓が苦笑する。本音からみても嫌がらせである。お手並み拝見といわんばかりの二人を前にして楓は手をあげた。

 

「褒美をいただけるとなれば……。戸籍を。『S.R.F.』のメンバーにない者がいます。彼ら、彼女らの綺麗な戸籍をいただけますと嬉しい。そうなれば、みな奮起し、新たな仕事に励むでしょう。総理?」

 

「すまなかった。八嶋楓。本気で政治家になって私を支えてほしい。頼めないか?」

 

「申し訳ないです、総理。団体の荷で十二分に楽しんでますよ。いい女ばかりで、男冥利に尽きますので」

 

「うまい逃げ口上だ。フラれてしまったよ、十蔵。聞いたか? 彼はやるぞ」

 

「やりますとも。この若さで組織を知っている。だから申したのですよ、総理。楓君には政治家の荷が軽い」

 

「本当に欲しくなったぞ。いやあ、君はいい男だな。浮気したくなる。旦那は政略結婚でな。どうだ今晩、種付けでも?」

 

「総理の妊娠は困りますね。今から日本は楽しくなる予定ですから」

 

「うまいこと逃げるな。すまないが、今晩なら大丈夫なのだ。こちらにも都合があってだな」

 

 本音は表情を固めるので忙しい。黒い対話は続いていくのだが、退席したい本音としては、どのタイミングで『お飲み物を』と口を挟めるか考えていた。こんなことなら、かんちゃんと一緒に叱られてればよかったよぅ。後悔は先に立たず。うまいことをいった偉人を殴り飛ばしたい本音であった。

 

 




次回『嘘』予告

誰かが訊いた
それは合法ロリッ
残念ながら違います

次回『妻幼女です』

み~んなで見てねっ!


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