風よりも速く駆ける。
兼善に見せた雪山での走り、あれもまた銑鉄の全開ではあるが全力ではない。
ただ速さだけを追い求め、時折カレアは邪魔な枝や茂みをグレートソードで薙ぎ払いながら突き進む。
銑鉄の走りは凄まじいの一言、地面を蹴り砕きながら進む彼の馬は森の中を突き進む一本の矢と化した。
水源を見つければ近くに焚火を設置し、素早く次の地点へと向かう。水源の近くに設置するのは、単に火を直ぐに消せるように。森へと火が移るのはカレアの本意ではない、発見した人物は自分達が誘き出された事に直ぐ気付くだろう。
しかし、仮に自分達の存在が露呈したとしても構わなかった。
十、二十、三十と焚火を行うごとに、空へと立ち上る煙が増える。
設置しているカレアですら火事を疑う煙の数、遠くからでも見えるこれは絶対に誰かを誘き寄せるだろう。
そして周囲を駆け回り焚火を撒く事半刻。
カレアは遂に網に掛かった獲物を見つけた。
カレアの設置した焚火の近くで水を汲み焚火の火を消す女。設置した焚火の間を駆け回っていたカレアは、焚火付近の人影に気付き銑鉄の手綱を引く。
その姿は遠目でも分かる、女だ、肌色以外は大して人間と変わらない。カレアはローブのフードを深く被り、そのまま銑鉄の腹を蹴った。
「
その声に応え、銑鉄の速度がグンッと上がる。限界以上の加速、最早神域の速度。
「ッ!?」
女が気付くよりも速く、カレアは風の如く肉薄し、漸く顔を此方に向けたと同時、その胴体にグレートソードを叩き込んだ。
無論斬らないように腹で、斬撃と言うよりも殴打だろうか。片腕で振ったグレートソードは凄まじい音と共に直撃する。
銑鉄の速度と、川を叩き割るカレアの怪力が合わさった結果、女はそのまま吹き飛び後方の樹へと減り込んだ。破砕音が鳴り響き、女の体が腰から樹に刺さる。
「か――はッ」
女の口から血が吐き出され、そのままビクビクと痙攣する。腹を打ち据えられて内臓が逝ったか、或は骨が折れたか。女の苦痛に歪んだ顔を見て、カレアの胸が少しばかり痛んだ。
女はゴブリンの戦士だったのか、中に鎧を着込んでいる様だった。しかし兼善やカレアの鎧、甲冑と比較すれば随分お粗末なものだ。現にカレアの一撃によって腹部の部分は無残に砕け、そのままボロボロと崩れている。
カレアは馬上よりグレートソードを振るい、女に切っ先を向けた。
「質問がある、抵抗せず、思考せず、ただ問われた事だけを話せ、それ以外は許さない、回答を拒否した場合は殺す、黙っていても殺す――お前は輝く蝶を知っているか?」
「っ、うぅ……輝く、蝶――」
「そうだ、アレには毒がある筈だ、解毒する方法を教えろ」
剣を突き付けたまま、一方的に言葉を投げ掛けるカレア。
女は木に突き刺さったまま焦点の合わない視線を彷徨わせ、何度か喀血する。その額には脂汗が滲んでおり、体は痛みに震えていた。
「――十秒だ、それ以上は沈黙と見做す」
カレアがそう告げ、グレートソードを更に突き付けると、女は緩慢な動作でカレアを見上げた。そしてぐっと唇を噛むと、腰に装着していたポーチに震える手を入れ、罅割れた小瓶を取り出す。
罅こそ入っているが、中に入っている青い液体は漏れていない。
「光蝶の、毒、中和、っ……ぅ、この、薬」
「……感謝する」
カレアは女から薬を受け取り――そしてグレートソードを突き出した。
切っ先が女の首を捉え、そのまま僅かな衝撃と共に樹ごと女を貫く。首を突き刺された女はグレートソードの切っ先に穿たれ、そのまま驚愕の表情を浮かべ、首が落ちた。
剣の幅が広いグレートソードは女の首を十全に絶ち、そのまま胴体から血が吹き出る。
「――ごめんなさい、けれど、こればかりは譲れないから」
カレアはそう呟き、グレートソードにこびり付いた血を払う。そして銑鉄から下馬すると首の無くなった女の体に近付き、その腰のポーチを取り外した。中には幾つかの小瓶と飲み水が入っており、どうやら各種薬だという事が分かる。
この森に入る者の常備薬と言ったところか。
カレアは先程受け取った小瓶の蓋を開け、中の液体を一滴、近くの葉に垂らす。するとジュッ、という音と共に葉の表面が溶け始めた。
それを見てカレアは小瓶を女の方へと投げる。
やっぱり偽物だった。
「……欲しいモノは手に入った、銑鉄、兼善様の所へ」
銑鉄に飛び乗ったカレアはそう言って腹を蹴る、銑鉄は一つ嘶きを残すと、そのまま風の様に走り出した。
銑鉄の上でカレアはポーチの中身を選別する、見れば瓶の蓋には何かを意味するであろう絵とも文字とも見れる様なモノが描かれていた。その中の一つ、透明な液体が入った小瓶。
その蓋に蝶と思わしき絵、カレアはこれだと思った。
あの女の口ぶりから光蝶の解毒薬――もとい中和薬なるものがある事は分かっている。
「あとは兼善様に飲ませるだけ」
カレアは銑鉄の腹を何度か蹴り飛ばし、加速に加速を重ねる。
そうして五分程銑鉄を走らせると、兼善と釣りをした川が見えて来た。あとはコレの上流に向かって進むだけ、逸る気持ちを抑え駆けるカレアは、しかし不意にピリッとした悪寒を覚えた。
嫌な予感という奴だろうか、カレアの第六感が何かを叫ぶ。銑鉄にもそれが伝わったのか、僅かに速度を上げ空気を裂いた。
凄まじい速度で突き進むカレアと銑鉄は、テントを視界に捉える距離まで一気に近付き、カレアは数十メートル先の光景に思わず目を見開いた。
ゴブリンの群れだ。
五人程のゴブリンが集団で、兼善の眠るテントを包囲している。緑の肌に手には粗悪な寂れた直剣、けれど人間一人屠るなら容易。
テントを囲んでいるゴブリンは五人だか、既に中に侵入しているかもしれない――
ブチッ、と。
カレアの中で何かがキレた。
「貴様等っ―――!」
腰からグレートソードを抜き放ち、両手で構える。
バリアントの構え、剣を目と水平に構える万能の型。尤も手に馴染む型を維持し、銑鉄の腹を両足で思い切り蹴った。
「銑鉄ッ、蹴散らせぇぇええええッ!」
獣の咆哮とも取れる声量、ビリビリと周囲の大気を震わせゴブリンが絶叫に戦く。慌てて振り向けば、其処には鬼の形相で迫る一人の騎士。
銑鉄が歯を剝き出しにして嘶き、その瞳が残光を帯びながら駆ける。風をも置き去りにして、空気の壁をぶち破り、カレアと銑鉄は一体となる。兼善は知らぬ事であったが、本来カレアは地上で剣を奮う者に非ず。
馬上で全てを蹴散らす
カレアは瞬く間にゴブリンへと肉薄し、その剣が振りかぶられる前に突撃。
銑鉄の脚力と勢い、怪力を活かした突き一閃。
グレートソードが凄まじい勢いでゴブリンの胸を貫き、そのまま体を持ち上げて反対側に投げ捨てた。八十を超える重量を誇るゴブリンを易々と持ち上げ、そのまま投げ捨てる怪力。
ゴブリンは川の中へと水柱を立てながら落下し、そのまま水が赤黒く濁る。
銑鉄は勢いそのままに進路上で呆然と突っ立っていたゴブリンに蹴りをお見舞いする、まるで交通事故、凄まじい勢いで突撃されたゴブリンは圧倒的な脚力に弾き飛ばされ、そのまま地面を転がった。
「!? お、オマェ」
「兼善様を害する者は死ねッ!」
砂煙を上げながら停止、旋回、再度突撃。
未だに現状を理解出来ず浮足立ったゴブリンの集団に再び突っ込む、バリアントの構えからホライゾンの型へ。
横に薙ぐ事を想定した横向きの構え、そのままゴブリンと擦れ違いざまに剣を腹部へとぶち込み、上半身と下半身を叩き割る。上半身が宙を舞い、驚愕の顔を張り付けたままゴブリンは絶命した。
上空にかち上げられた上半身が血を撒き散らし回転しながら落下する、その様子を見ていた他のゴブリンは戦き、顔を蒼褪めさせた。
「こいつ――ガルガ、ヴェント!」
残ったゴブリンの一人が叫ぶ、そして声に応える形でテントの中から二人のゴブリンが飛び出して来た。その光景を見たカレアはカッと視界が真っ赤に染まる。
テントから出て来たという事はつまり――
触れたのか? 兼善様に。
害したのか、あの人を?
「―――汚い手で、兼善様にッ……!」
ぶわっ、と。
カレアの体から闘志が溢れ出した。
それは純粋な闘志と言うには余りにも黒く、濁っている。しかしカレアにとってはどんなモノでも構わない、ただ本能の赴くままにグレートソードを構え今しがたテントから出て来た二人のゴブリンに突っ込んだ。
「触れるなァあッ!」
バリアントの型から突き一閃、未だに状況の把握出来ていないゴブリンを貫き、そのまま隣のゴブリンへと薙ぐ。肋骨を粉砕しながら貫通したグレートソードはゴブリン一人を突き刺したまま鈍器として振るわれ、隣のゴブリンは凄まじい重量のゴブリン付きグレートソードに殴打された。
全力で振り抜かれたグレートソードから抜けたゴブリンはそのまま奥の森まで吹き飛び、転がり、もう一人は殴打の衝撃で首の骨が折れ曲がり、そのまま川辺の方に落ちる。筋肉質なゴブリンが軽々と宙を舞う様は魔法か何かに見えた。
「――嘘だろ」
生き残ったゴブリン二人、その一人が呆然と呟く。
呟いて、その頭部に凄まじい勢いで飛来したグレートソードが突き刺さった。
カレアの怪力で投擲された巨大な剣はゴブリンの頭部を砕き、割れた頭部から噴水の様に血が噴き出す。直撃だ、恐らく痛みを感じる間もなく死んだだろう。
「ダルヴァ……っ!」
最後の一人は突然剣に射抜かれた仲間の名を叫び、そして気付いた時には馬の蹄が目前に迫り――咄嗟に突き出した剣ごとグシャリ、銑鉄の脚力で顔面を粉砕、無残に踏み潰された。
折れ曲がった剣に穿たれた顔面、地面に半ば埋まる形で最後の一人が絶命した。
「ふぅッ、ふぅぅっ、はぁ、はッ」
肩で息を繰り返し、突き刺さったグレートソードを回収したカレアはこびり付いた血を払う。周囲を注意深く観察し、これ以上の敵が潜んでいない事を確認。
それから銑鉄から飛び降り、焦燥し切った顔を隠さぬままテントの中へと突っ込んだ。
「兼善様ッ!」
「――」
突っ込んだ瞬間、カレアの目に飛び込んで来たのは鋭い刀の切っ先。
慌てて停止したカレアは、その刀を持つ人物を見て涙声を上げた。
「っ、ぅ、ぐ、か、カレアか……っ」
兼善だ、兼善が打刀を手に膝を着き、刀身を手で支える様な構えを取っていた。額は脂汗に塗れ、その体は小刻みに震えているが意識がある。打刀の鞘は付近に放られ、その眼には確かな理性が灯っていた。
兼善は入って来たのがカレアと見るや否や、刀を降ろして脱力する。
カレアは思わず兼善に抱き着き、その首筋に何度も唇を押し当てた。
「兼善様! 兼善様ッ! あぁ、良かった、無事だったのですねッ……!」
「あぁ、何とか――襲撃に気付き、飛び起きた、が、くそ、体が上手く動かん……外の連中はどうなった……?」
「すみません、私が此処を離れたばっかりに……ッ! 外のゴブリンは全て仕留めました!それよりも兼善様、これをっ、あの毒蝶の解毒薬です!」
カレアは兼善を支えながら腰に下げたポーチから一つの小瓶を慌てて取り出し、それを兼善に差し出した。
兼善は差し出されたソレを驚いた様な表情で見つめ、「一体、どうやって」と呟く。
「少々手荒な真似をする事になりましたが、森の民を誘き寄せて奪いました、一応これだけの薬を手に入れたのですが、恐らく蝶の毒を中和する薬はそれです!」
ポーチの中身をぶちまけたカレアは、一つ一つの小瓶を兼善に見せる。それらの蓋には何らかの意図があるのだろう、絵の様なものが描かれている。
恐らく瓶の中身を示しているのだと思った。
そして兼善が持っている小瓶の絵は蝶、その上にバツ印が付けられている。
「――見る限り、これが正解、だろうか」
元より症状は悪化するばかり、肉体が敵意を感じて飛び起きたが、戦闘が終わった今、また安堵した肉体が何時眠りに入るかも分からない。兼善は蓋を開けると、中の液体の匂いを嗅ぐ。
しかし何も匂いがしない、薬か毒か、二つに一つ。
それに折角愛しのカレアが都合してくれたのだ。
厚意と愛を無駄には出来まい。
「南無三」
兼善は震える手で小瓶を確りと握ると、そのまま一息に薬を飲み干した。
それをカレアは緊張した面持ちで見つめ、兼善は小瓶を放って口元を拭う。味は多少の苦味のみ、言うなればただの不味い水だ。
「……少し、ドロッとしているが、水みたいなものだな」
「兼善様、お体の方は……?」
「ん、特に、何も変化はない、な」
元よりそんな急激に回復するものでもないだろう。兼善は袖で額を拭いながら打刀を納刀し、震える足を叩いて何とかテントの外へと出た。
その背にカレアが続き、「兼善様、急に動かれては……!」と心配そうな表情で兼善の腕を掴む。
「大丈夫だ……それに、此処は連中に見つかった、急いで離れなければ――」
「ならば撤収準備は私がやります、兼善様は休んでいて下さいッ」
「――すまない、頼む」
やはり体調は最悪も最悪。
手足は震えるし碌に力も入らない、精々刀を握って構えるのが限界。それでも常人なら這い蹲って身動きが取れなくなる程の脱力感、それを脱している兼善の精神力と肉体が異常であった。
兼善は泣く泣くカレアを頼る。
「――ッ、はい! カレアにお任せ下さい、兼善様!」
カレアは自分自身でも現状に相応しくない感情だと思ったが、歓喜の念を抱くのを止められなかった。兼善に頼られているという事実が、どうしようもなく甘美な感情として降り掛かっているのだ。
溌剌とした返事をして、駆け出すカレア。
手際よくテントを解体し、周囲の荷を纏めるカレアを眺めながら兼善は近くの石に座り込む。まさか自分がこの様な醜態を晒すとは思っていなかった、危険予知が出来ていなかったのだろう、或はリスク管理か。
一応敵の襲撃があっても対応できるよう、腰の打刀には常時手を掛けておく。飛び込んで一閃放つ事は無理でも刀を投擲する事位は出来る。
敵さんが何処から襲い掛かって来ても必ず仕留める、例え体調が優れなくともカレア一人守れなくては剣聖の名が泣こう。
「ったく……蝶の毒如きで、情けない」
兼善は唇を噛みながらそんな事を呟く。
試しに剣を正眼に構えてみれば、右に左に揺れるわ腰の粘りは無いわ、散々たる結果であった。力任せに振るう事は出来ても、空気を裂く透明な一閃は叶わない。
しかし視界に靄は掛かっているものの、徐々に、本当に少しずつではあるが肉体が力を取り戻すのが分かった。
一応薬は効いているらしい、剣聖ともなれば肉体把握はお手の物。一ミリの剣筋のズレ、刀身の震えから自身の体調を測る事が出来る。
問題は時間だ、カレアがどの様な手段で薬を手に入れたのかは分からないが、ゴブリンがテントを発見する位だ、凡そ大規模な事をしでかしたのだろう。
「兼善様、荷物を纏め終わりました! 銑鉄に全て積んであります!」
「良し――なら」
息を荒げて報告するカレアに、兼善は重い腰を上げる。
かなり長距離を走った後の様な疲労感、足がカクカクと揺れるが先程よりはマシだ。銑鉄がカレアの隣へと足を進め、兼善は予め樹に刻んでいた方位を確認する。
「あっちだ、このまま真っ直ぐ進んで夕暮れに身を隠そう、夜になる前にテントを設置して焚火は無しだ、何とか凌ぐぞ」
「はい!」
カレアに方針を伝えながら一歩目を踏み出す、しかし想像以上の疲労感に顔を顰めてしまった。そんな兼善の背に暖かい何かが触れ、それから体が不意に軽くなる。何だと兼善が隣を見れば、カレアが隣で兼善の体を支えていた。
「カレア……」
「頼って下さい兼善様、私は兼善様の力になりたいのです、嫌だと言っても離れません――私、そう言いましたよね?」
いつかの言い合いで口にした言葉、それをカレアは笑顔で繰り返す。その表情は太陽の様に明るくて、同時に慈愛と優しさに満ちていた。
兼善は少しだけ面食らい、苦笑いを零し、それから「そうだったな」と言葉を飲み込んだ。隣で笑うカレアが、今だけは誰よりも頼もしい騎士に見えた。
「すまないな、迷惑を掛けて」
「何を言っているんですか兼善様、私の方が兼善様に迷惑を掛けっぱなしで、申し訳なく思っていたのですよ?」
「俺はお前の全てを迷惑だと思った事はない、そう何度も――」
「知っています、だからコレも私にとっては迷惑でも何でも無いのです、寧ろ兼善様と密着出来てラッキーって思っています」
「……俺も同じ気持ちだ」
「……えへへ」
臆面なくこんな事を言い合える相手がいる事は幸せだ、頬を赤く染めて緩く笑うカレアを見てそう思った。感覚が鈍くて、正直カレアの柔らかさが全然分からない状態なのだが、それでも精神的に幾分か楽になる。
自分でも知らず知らずの内に精神が参っていたのかもしれない、恐らく一人だったらここまで前向きに進む事は出来なかっただろう。
「ありがとう――カレアが居てくれて助かった」
自分を支えるカレアを見て、兼善はそう口にする。それから直ぐ顔を背けてしまったのは恥ずかしかったからだ、あの言い合いに似た素の感情を見せるのは兼善にとって慣れない事だった。カレアはそんな兼善を見て、へらっと表情を崩す。
「私はもう、兼善様が居なくちゃ生きていけません、だからずっと傍に置いて下さい」
「それは俺から頼む事だろう」
「なら安心ですね、私が自分から兼善様の傍を離れるなんてあり得ませんから」
自信満々にそんな事を言うカレアに、思わず兼善は表情を崩す。
何とまぁ自信に満ちた答えか、これでは疑うという行為そのものが馬鹿らしくなってしまう。無論、カレアを疑う様な真似はしないつもりだが、そんな考えが浮かばなくなってしまう程に輝く笑みであった。
「――なら、生き延びないとな、何が何でも」
「はい、兼善様は私が命に代えて守りますから、安心して下さい」
「馬鹿者、俺は剣聖だぞ? こんな毒程度さっさと治して道塞ぐ者全て斬り捨ててやる」
カレアの発言に兼善は鼻を鳴らして答える。
体は未だ万全ではないが、
戦士に必要なのは決して折れぬ不屈の闘志と鋼の精神。これが有る限り兼善は負けない、剣を大して扱えず、有象無象の一人であった時から持ち合わせていた鋼鉄の心。これが兼善を剣聖へと押し上げたのだ。
心の強さこそ兼善の強さの根源であり、それがあれば十分で、十全であった。
「行こう、こんな所で倒れる訳にはいかん」
「はい、兼善様」
兼善とカレアは歩調を合わせ、森の向こう側へと消えていく。
その瞳に迷いは無く、カレアは兼善の為に、兼善はカレアの為に、ただ突き進むのであった。
連続投稿三日目です。
一応完結まで書き切りました、後は微修正と肉付けでしょうか、ともあれ何とか形にできてホッとしています。
微修正と肉付けが上手くいけば、近い内にボンボン連続投稿する気がします。(するとは言っていない)
ゆるりとお待ち下さい。