バディファイトLoveLive!サンシャイン!!   作:ヤギリ

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迷い

 新日本バディチャンピオン、綺羅ツバサの衝撃の会見から2日が経った………。

 

 高坂穂乃果は、西木野病院のとある病室に来ていた。

 

 

穂乃果「お母さん、お見舞いに来たよ。」

 

穂乃果の母「あら穂乃果、ありがとう。」

 

 

 高坂穂乃果の母親は今、西木野病院に入院していた。

 

 穂乃果の家は「穂むら」という名の老舗の和菓子屋。 いつも家族4人でお店を営業していたが、今から4日前に、穂乃果の母は突然倒れた。

 

 穂乃果の母を担当する医師の話しによれば、原因は過度な働きすぎによるものだという。つまりは過労で倒れたのだ。 ただの過労なら入院せずとも帰れるが、他の詳しい検査によって、大腸癌の兆候が見られた事で入院生活を送っている。

 

 

穂乃果は花瓶の水を変えたり、他の人がお見舞いに持って来た花を花瓶に刺していた。

 

 

穂乃果の母「そういえば、聞いたわよ穂乃果。 新しい日本チャンピオンに挑戦を申しつけられたんだって?」

 

 

母の言葉に穂乃果の手が一瞬だけ止まる。 けどすぐに母に向き直って困り顔で笑った。

 

 

穂乃果「うん。まあ、一応ね………。」

 

穂乃果の母「凄いじゃない。 チャンピオンの挑戦、受けるんでしょ?」

 

穂乃果「え?う〜〜ん、どうかなぁ………」

 

 

穂乃果のなんだか煮え切らないような返答に、穂乃果の母は少し心配そうな顔になる。 普段の穂乃果なら、即答で首を縦に振るはずなのだが、今は何か迷っているように感じる。

 

 

穂乃果「そういえばその話し、雪穂から聞いたの?」

 

穂乃果の母「ええ。雪穂と、あと西木野先生からも聞いたわよ。」

 

穂乃果「真姫ちゃんから?」

 

穂乃果の母「ええ。 "穂乃果ならきっと挑戦を受けるだろう。"って言ってたわ。」

 

穂乃果「………そっか。 それより聞いてよ、昨日雪穂がね〜〜〜………」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、約2時間くらい母と話しをして、穂乃果は実家の「穂むら」へと帰宅した。

 

 

穂乃果「ただいま〜〜」

 

海未「おかえりなさい、穂乃果。」

 

ことり「穂乃果ちゃんおかえり〜〜」

 

穂乃果「ごめんね2人とも、お店番任せちゃって。」

 

ことり「ううん、大丈夫だよ。 お客さんも5人くらいしか来てなかったし。」

 

海未「お母様はどうでしたか?」

 

穂乃果「うん。元気だったよ。」

 

 

穂乃果の幼なじみである海未とことりは、「穂むら」でバイトをしている。 と言ってももう2年くらいバイトしてるから準従業員と言ってもいいくらいだ。

 

 

穂乃果「よし、じゃあ明日の仕込みしなきゃね!」

 

 

穂乃果はすぐに割烹着を着て、和菓子の仕込みを始めようとする。 するとカランカランとお店の引き戸に取り付けてあるドアベルの音が鳴る。 お客さんが来た合図だ。

 

 

穂乃果「いらっしゃいませーー!」

 

 

お客さんにお辞儀をして顔を上げる。 目の前にいた人物に穂乃果や、海未、ことりは驚く。 お店に入って来たお客さんは、新日本バディチャンピオンの綺羅ツバサだった。

 

 

ツバサ「こんにちは、穂乃果さん。」

 

穂乃果「ツバサさん!」

 

ツバサ「お久しぶりね。 一昨日の放送見てもらえたかしら?」

 

穂乃果「はい。 チャンピオンの事、おめでとうございます。」

 

ツバサ「ありがとう。 今日はあなたにコレを渡しに来たの。」

 

 

ツバサは(ふところ)から1枚の西洋風の封筒を取り出して、穂乃果に渡した。

 

 

穂乃果「これは?」

 

ツバサ「来月の12月20日、この私が主催する『ツバサ(カップ)』の招待状よ。」

 

穂乃果「ツバサ(カップ)?」

 

ツバサ「ええ。 私とあなたのチャンピオンの座をかけて戦う、決戦の舞台よ。 当然、出場してくれるわよね?」

 

穂乃果「えーーっと………、か、考えておきます。」

 

ツバサ「………………」

 

 

ツバサは、あからさまに穂乃果の様子がおかしい事に気づく。 明らかにツバサ杯への出場を躊躇っている感じがうかがえる。 ツバサは少し穂乃果に顔を近づける。

 

 

穂乃果「わわっ⁉︎」

 

 

ツバサの聡明でいて、どこか優しさを帯びている翡翠の瞳がまっすぐに、心配そうに穂乃果を見つめる。 突然のツバサの急接近に穂乃果は心なしかドキッとする。

 

 

ツバサ「もしかして、その日に予定とかあるの?」

 

穂乃果「いや、予定とかは特に無いですけど………。あ、でもクリスマスシーズンも近いから多少は忙しくなるかもしれません。」

 

ツバサ「そう。 分かったわ。」

 

 

ツバサは顔を離して、さっきと同じ距離感に戻る。

 

 

ツバサ「あ、そうだ。ほむまんを6個買って行こうかしら。」

 

穂乃果「え?あ、はい。ほむまん6個ですね。900円になります。」

 

 

注文を受けて、ショーウィンドウに飾られているほむまん6個を、穂むら専用の紙袋に入れてツバサに渡し、1000円札を1枚貰う。

 

 

穂乃果「100円のお返しです。」

 

 

そしてお釣りの100円と領収書を渡す。

 

ツバサはお店の引き戸に手をかけてからもう一度穂乃果に向き直る。

 

 

ツバサ「ツバサ杯の件だけど………、参加するかしないかは穂乃果さんの自由よ。もし私の挑戦を受ける気になったら、その招待状を持って会場に来てね。 待ってるから。」

 

 

そう言ってツバサは店を出て行った。

 

穂むらの前には黒塗りのリムジンが停められていた。そしてツバサはそのリムジンに乗り込む。 リムジンの中には専属の運転手と、ツバサのチームメイトでバディチーム「A-RISE」の、統堂 英玲奈と優木 あんじゅが乗っていた。ツバサは2人と対面の席に座る。 そしてリムジンはゆっくりと動き出した。

 

 

あんじゅ「おかえりなさいツバサ。」

 

ツバサ「ほむまん買って来たわ。」

 

英玲奈「高坂穂乃果はどうだった?」

 

ツバサ「ん?変わらず可愛かったわよ。」

 

英玲奈「そういう事じゃない。 戸越に見ていたが、あの様子では参加しない可能性が高いと思うが?」

 

ツバサ「いいえ、穂乃果さんは必ず参加してくれるわ。 私はそう信じてるもの。」

 

 

 

 

 

 

ツバサが店を出て行った後、穂乃果はツバサ杯の招待状をジッと見つめていた。

 

 

ことり「穂乃果ちゃん………?」

 

海未「穂乃果、良かったではないですか。かなりの飛び級ですが、あなたの昔からの夢を叶えるチャンスではないですか。」

 

ことり「そうだよ! 絶対参加した方がいいよ!」

 

 

穂乃果が何かを躊躇っている事は、ツバサだけではなく、ほぼ毎日一緒にいることりと海未にも分かっていた。 だからこそ、穂乃果を元気付ける意味でも2人は穂乃果を励ます。

 

 

穂乃果「私は、参加しないかな………。」

 

ことり「え⁉︎」

 

海未「な、何故です⁉︎」

 

 

穂乃果のまさかの返答に2人は驚く。 いつもの穂乃果なら、こんなチャンスを見逃すはずがない。それどころか積極的にツバサの挑戦を受けるはずなのだが………

 

 

海未「やはり、何かを迷っているのですか?」

 

穂乃果「………お母さんが倒れた日の事、覚えてる?」

 

 

穂乃果の母が倒れたその日、穂乃果はあるバディファイトの大会に出場していた。 その大会は小さくも大きくもないが、名の知られていない強豪ファイターが何人も参加する大会だった。 そして穂乃果はその大会で優勝したのだ。

 

大会で優勝した穂乃果は急いで家に帰ろうとしたのだが、穂乃果のファンに道を塞がれ、何人ものファンにファイトを挑まれて、断り切れずに何人かのファンとファイトしていた。 その時だ。雪穂から「お母さんが倒れた」と連絡が来たのは。

 

雪穂によると、穂乃果の母は、穂乃果が大会で疲れて帰って来ると思い、穂乃果の手間を少しでも省く為に穂乃果が担当する作業も全部、母が代わりにやっておいてくれたのだと言う。 その無理が祟ってか、穂乃果の母は過労で倒れたのだ。

 

そして穂乃果が家に帰った時にはもう、母は病院に搬送された後だった。

 

 

穂乃果「もし私が………ファンのみんなとのファイトを断る事ができてたら………お母さんが倒れる前に帰って来れた。手伝いが出来てたのに、お母さんが倒れたのは私のせいなんだよ………!」

 

ことり「そ、そんな事ないよ………!」

 

海未「そうです!穂乃果が悪いわけでは………」

 

穂乃果「私が悪いんだよ!!!!」

 

 

穂乃果の怒声に2人は黙り込んでしまう。ファンからのファイトを断る勇気、それが無かったばかりに母親に無理をさせてしまった。母が倒れてしまった。穂乃果は自分をずっと責めていた。自分への悔しさが涙となって頬を伝う。

 

穂乃果は、自分への戒めとしてバディファイトを辞めようと思っている。

 

そんな穂乃果に、海未とことりは掛ける言葉もなく、嗚咽する穂乃果を見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。 穂乃果はいつも通り自分の仕事をしていた。 海未やことりとの間には少しだけ気まずい雰囲気が流れている。

 

 

海未「ほ、穂乃果………」

 

ことり「穂乃果ちゃん………」

 

 

海未とことりは意を決して話しかける。

 

 

穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん………。昨日はごめんね、少し取り乱しちゃった。」

 

ことり「ううん、いいの。 私達こそごめんね。」

 

海未「穂乃果、バディファイトを辞めてしまうんですか?」

 

 

海未の質問に、穂乃果は少し黙り込む。

 

 

穂乃果「うん。少しだけ距離をおきたいかな。」

 

海未「そう、ですか………」

 

 

そしてまた沈黙。

 

 

雪穂「………………」

 

 

そんな穂乃果達の様子を、雪穂はただ見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

さらに翌日。

 

この日も穂乃果は母親の病室へ来ていた。

 

 

穂乃果の母「穂乃果、少しやつれたんじゃない?」

 

穂乃果「え、そうかな?」

 

 

今の穂乃果は2日前に会った時より、目の下に薄いクマがあり、どこか疲れているような感じがしていた。 何より今日の穂乃果はあまり笑っていない。

 

 

穂乃果の母「ちゃんと休んでるの?」

 

穂乃果「や、休んでるよ〜〜」

 

穂乃果の母「嘘。 昨日、雪穂から聞いたわよ。 あなた、私の分の作業まで1人で全部やってるみたいじゃない。 私みたいに無理をして、穂乃果まで倒れたら、それこそ穂むらを畳まなくちゃいけなくなるわ。」

 

穂乃果「大丈夫だよ。穂乃果はまだ若いし、バリバリ動けるよ。」

 

 

気丈に振る舞ってはいるが、やはり穂乃果の声には張りなどが無い。

 

穂乃果の母は雪穂からバディチャンピオンのツバサからの挑戦を受けないかもしれないと言う事も聞いていた。

 

 

穂乃果の母「ねえ穂乃果。」

 

穂乃果「ん?」

 

穂乃果の母「あなたがチャンピオンからの挑戦を受けないのは、お母さんが倒れたせい?」

 

穂乃果「え………?」

 

 

穂乃果の母が発した言葉に穂乃果は言葉を失う。 「違うよ!」その言葉を発する前に、穂乃果の母は次に言葉を続ける。

 

 

穂乃果の母「私はあなたに、チャンピオンからの挑戦を受けてほしい。そう思ってるの。」

 

穂乃果「お母さん、何言ってるの………?」

 

穂乃果の母「最近、よく夢を見るのよ。」

 

穂乃果「夢?」

 

穂乃果の母「ええ。 あなたがおっきなトロフィーを家に持ってきて「バディファイトのチャンピオンになったよーーー!!」って夢を。」

 

穂乃果「………………」

 

穂乃果の母「その夢を見た時、私は凄く嬉しくて、そして確信したの。 この夢は必ず実現するかもしれない。って………。正夢なんだ。ってね。」

 

穂乃果「………………」

 

穂乃果の母「私、見てみたいわ。夢じゃなくて現実で、チャンピオンになった穂乃果を………!」

 

穂乃果「お母さん………」

 

 

穂乃果の母はベッドから身を乗り出して穂乃果の両手を握る。 その手から伝わる温度は確かに母のもの。優しく全てを包み込むような優しい温かさ。 そして握る手の力はいつもの母とは違い力があまり入っておらず、少し弱く感じる。

 

その頃、雪穂、海未、ことりは病室の前まで来ていた。 そして偶然にも穂乃果と穂乃果の母の会話が聞こえた。

 

 

穂乃果の母「穂乃果の夢はもうあなた1人のものじゃない。お母さんの夢でもあるの。 お母さんだけじゃない、お父さんや雪穂、海未ちゃん、ことりちゃん、あなたを応援するファンのみんなの願いでもあるのよ。」

 

穂乃果「皆んなの夢………願い………?」

 

雪穂「お姉ちゃん!」

 

穂乃果「雪穂………⁉︎」

 

雪穂「私も、お姉ちゃんにはチャンピオンになって欲しい! バディファイトが強い自慢のお姉ちゃんになって欲しい!」

 

ことり「私達もだよ。 "私達の友達は凄い子なんだよっ!"て………」

 

海未「"私達の幼なじみはバディファイトの日本チャンピオンなんです!"と、私達に、あなたを自慢させてください。」

 

穂乃果の母「あなたがラブライブ!の大会で優勝した時、お母さんは凄く嬉しかった。あの時から、あなたは私の誇りになったのよ。 だからお願い穂乃果、チャンピオンになってあなたの夢を、お母さんの夢を叶えてちょうだい。」

 

 

皆んなの言葉に穂乃果の目に涙が浮かぶ。

 

穂乃果「雪穂、海未ちゃん、ことりちゃん、お母さん、ありがとう。 でもまだ少し、考える時間をくれないかな?」

 

海未「穂乃果………」

 

ことり「穂乃果ちゃん………」

 

 

母や雪穂、海未、ことりの励ましを聞いても穂乃果はまだ決断できずにいた。 それでも穂乃果の母は優しく穂乃果を抱き寄せる。

 

 

穂乃果の母「良いわ。好きなだけ考えなさい。 私は穂乃果を信じてるから。」

 

穂乃果「ありがとう。お母さん。」

 

 

 

 

 

 

穂乃果は家に帰ってから穂むらの仕事をしていた。 そして1日の営業時間が終わった後、自分の部屋に戻る。

 

 

穂乃果「チャンピオンか〜………」

 

 

穂乃果はベッドに寝転がり、枕に顔を埋めてふと過去を思い出す。

 

 

穂乃果がバディファイトを始めたのは小学4年生くらいからだった。 きっかけはプロファイターのファイトをテレビで見た事だった。

 

激しいモンスター同士のぶつかり合い、身体の芯まで震える咆哮、二転三転で繰り広げられる逆転に次ぐ逆転と、裏の裏を読み合うファイター達の駆け引き。 その全てが穂乃果にとてつもない衝撃を与えた。いつしか穂乃果は、バディファイトの魅力に惹かれていったのだ。

 

その時一緒に見ていた海未とことりも、共にバディファイトを始め、そして色々なカードショップを回ってカードをかき集めた。

 

最初は穂乃果、海未、ことりの3人でファイトを繰り返し、そしていろんなショップ大会にも参加した。 最初は何度も負けて、負けて、負けて、それでも諦めずにバディファイトを続け、何度もバディファイトの大会に参加した。 そしてバディファイトを始めて2年が経った中学1年の時、穂乃果はついにバディファイトのショップ大会で優勝した。 その時の喜びや感動は今でも忘れられない。

 

その時からだ。穂乃果に夢ができた。 その夢をいつも海未とことりに語っていた。 『いつかテレビで見たプロファイター達のように、大きな舞台で戦いたい。そして、バディファイトのチャンピオンになりたい!』と………。

 

 

穂乃果「この時は、海未ちゃんとことりちゃんと、μ'sのみんなと出会って、スクールバディチームを組むなんて思ってもいなかったなぁ〜……。」

 

 

穂乃果はベッドから立ち上がり、机に置きっぱなしにしていたデッキケースを手に取って眺めていた。

 

 

穂乃果「デッキケースに触れるのも6日ぶりだなぁ………。」

 

 

穂乃果は母が倒れた日からデッキには触れていなかった。 少しばかりバディファイトから距離を置こうと考えていたのだ。

 

穂乃果はデッキケースを眺めながら母の言葉を思い出していた。

 

 

『穂乃果の夢はもうあなた1人のものじゃない。お母さんの夢でもあるの。 お母さんだけじゃない、お父さんや雪穂、海未ちゃん、ことりちゃん、あなたを応援するファンのみんなの願いでもあるのよ。』

 

『お願い穂乃果、チャンピオンになってあなたの夢を、お母さんの夢を叶えてちょうだい。』

 

 

母のこの言葉が、穂乃果の頭の中をぐるぐる回っている。

 

 

穂乃果「お母さんは、私に期待してくれてる。 お母さんだけじゃない、雪穂、海未ちゃん、ことりちゃんも………。自分の気持ちだって分かってるはずなのに、何を迷ってるんだろう、私………。」

 

 

その時、ふと穂乃果の目に1枚の写真が映る。

 

その写真は、美しい海辺をバックに、穂乃果とオレンジ色の髪でちょっと幼顔の女子高生とのツーショット写真だった。

 

 

穂乃果「久しぶりに会いに行ってみようかな。」

 

 

穂乃果はカレンダーを確認して呟いた。

 

 

 

 

 

 

その翌日、「穂むら」は定休日と祝日で2日間の休店になっていた。

雪穂と父親は2人で母のお見舞いに来ていた。

 

 

穂乃果の母「あら?今日は穂乃果は来ないの?」

 

雪穂「あーー、お姉ちゃんなら朝早く起きてどっか行ったよ。」

 

穂乃果の母「そう………。」

 

 

すると、雪穂のスマホにLINEが届く。

 

 

雪穂「あ、お姉ちゃんからだ。」

 

 

LINEの送り主は穂乃果だった。

 

 

『朝早く居なくなってごめんね。 私はこれから沼津に行って来るよ。明日か明後日には帰るから心配しないでね。』

 

 

雪穂「へ〜〜沼津かぁ………って沼津⁉︎ お姉ちゃん静岡に行ったの⁉︎」

 

穂乃果の母「ふふふ………、もしかしたら、答えを探しに行ったのかもね。」

 

雪穂「………よく分かんない。」

 

 

 

 

 

 

穂乃果は今、静岡県の沼津駅から内浦に移動し、「十千万」と言う旅館の前に来ていた。

 

 

穂乃果「内浦に来たのも2〜3ヶ月ぶりだなぁ〜〜、千歌ちゃんは元気にしてるかな?」

 

 

穂乃果が旅館のノレンを潜り中に入ると、お客番をしていた1人の少女が正座とお辞儀をして穂乃果を出迎える。

 

 

「いらっしゃいませ。 お宿泊ですか?」

 

穂乃果「はい。」

 

「承知しました。 では、お部屋に案内いたします。」

 

 

そう言って少女は顔を上げる。 オレンジ色の髪で少し幼顔の少女は、入館して来た穂乃果を見て、驚いた表情になる。

 

 

「ほ、ほ………穂乃果さん⁉︎」

 

穂乃果「うん。久しぶりだね、千歌ちゃん。」

 

千歌「はい、お久しぶりです! わ〜〜穂乃果さんが来てくれたぁ〜〜、すっごく嬉しいです!」

 

穂乃果「そ、そうかな〜〜?」

 

千歌「はい!」

 

 

穂乃果の入館に興奮した千歌の声が入り口のロビーに響く。 そして旅館の奥から黒髪で長髪の女性が笑顔で現れる。 高海家の長女で千歌の姉である高海志満だ。

 

 

志満「千歌ちゃん、失礼ですよ。早くお客様をお部屋に案内しなさい。」

 

千歌「はーーい! じゃあ穂乃果さん、お部屋に案内しますね。」

 

 

千歌は穂乃果を部屋に案内しながら色々話しを振る。

 

 

千歌「今日は穂乃果さん1人だけで来たんですか?」

 

穂乃果「うん。海未ちゃんとことりちゃんも誘ったんだけど、大学の用事があってね。」

 

千歌「そうなんですね。 お店の方は良いんですか?」

 

穂乃果「うん。今日と明日はお休みだから。」

 

千歌「そうなんですね。」

 

 

会話をしながら移動していると、いつの間にか穂乃果が宿泊する部屋に到着した。

 

その部屋は2階にある畳敷きの和室で、中央にテーブルがあり、窓際にも椅子とテーブルが置かれている。窓の外にはベランダがあり、内浦の海を一望できる絶景を拝むことができる。 穂乃果1人だけではあまりにも広い部屋だ。

 

 

穂乃果「うわぁ〜〜、いつ見ても凄いな〜〜、本当に海未ちゃんもことりちゃんも来れたら良かったのに。」

 

千歌「お食事は夜6時から、一階のお食事処をご利用いただけます。 ご要望があれば………」

 

 

穂乃果は千歌から館内の施設や食事、外出や入浴などの時間など色々な説明を受ける。

 

 

千歌「………以上になります。」

 

穂乃果「ありがとう、千歌ちゃん。」

 

千歌「では、ごゆっくり。」

 

 

そう言って、千歌は礼儀正しい作法で穂乃果が泊まる部屋を出て行った。

 

千歌が部屋を出たのを確認して、穂乃果は窓際の椅子に座る。 窓からは美しい海と青い空が一望できる。 秋じゃなかったら窓を開けて風を浴びたいくらいだ。

 

 

穂乃果「ふわ〜〜あぁ………、う、朝早く起きたし、少し寝てからお風呂入ろうかな。」

 

 

穂乃果は大きなあくびをして、目を瞑る。 秋の寒さと太陽の暖かさが相まって、早起きの反動の眠気と普段の疲れも手伝い穂乃果はすぐに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

穂乃果が目を覚ますと外には夕明りがさしていた。 時刻は午後3時、秋と言うだけあって、日が落ちるのは結構早い。 まだ3時でも夕方のような茜空だった。

 

 

穂乃果「いったいどれくらい寝てたんだろ………。ふわぁ〜〜あぁ………」

 

 

穂乃果はまた大きくあくびをする。 まだ少し眠気が残っているようだ。

 

 

穂乃果「お風呂に入ろう………」

 

 

それから穂乃果は風呂に入り、夕食を食べ、適当にお土産などを買い、テレビを見たりと満足に寛いで、そして就寝した。

 

 

 

 

 

 

朝7時………

 

穂乃果は食堂で朝食を済ませてから外出していた。「十千万」では、荷物を旅館の部屋に預けて外出する事ができる。 その場合、氏名と外出する時間と戻ってくる予定の時間を「外出届け」に書く事で自由に外出できる。

 

 

穂乃果は「十千万」のすぐ前にある浜辺に立って海を眺めていた。 その時、後ろから穂乃果を呼ぶ声がする。

 

 

千歌「穂乃果さ〜〜ん!」

 

穂乃果「千歌ちゃん。」

 

千歌「おはようございます。穂乃果さん!」

 

穂乃果「おはよう。」

 

 

穂乃果は千歌に朝の挨拶をして、すぐに海の方を見る。

そんな穂乃果の様子に千歌は思わず質問する。

 

 

千歌「穂乃果さん、どうかしたんですか?」

 

穂乃果「え?」

 

千歌「穂乃果さん、なんか昨日から元気が無い感じがして………何か悩んでるんですか?」

 

穂乃果「………………分かってたんだね。」

 

 

千歌は、昨日穂乃果を見た瞬間から穂乃果の様子が少し違う事に気づいていた。 だが仕事中である為や、不躾な質問をいきなりするのも失礼だと思って昨日は何も聞かなかった。 千歌はこう見えてよく人の事を見ている。

 

 

穂乃果「ねえ千歌ちゃん。 千歌ちゃんはツバサさんとチャンピオンのファイト、見てた?」

 

千歌「はい。見てましたよ! 凄いファイトでしたよね〜〜! Aqoursの皆んなで見たんですけど、凄く衝撃を受けたファイトでした!」

 

穂乃果「うん。そうだね………」

 

千歌「あ、それとツバサさんの会見も見ました。 穂乃果さんはチャンピオンの挑戦を受けるんですよね!」

 

 

千歌は期待を込めた眼差しを穂乃果に送る。 だが穂乃果はその視線に気づかないふりをして海を眺める。

 

 

穂乃果「千歌ちゃんは、私にツバサさんの挑戦を受けてほしい?」

 

千歌「それは、もちろんです。」

 

穂乃果「どうして?」

 

 

千歌は穂乃果と同様に海を見て、穂乃果に答える。

 

 

千歌「穂乃果さんは、私の憧れだから。」

 

穂乃果「憧れ? 穂乃果が?」

 

千歌「はい。 私がバディファイトを始めたのも、Aqoursを作ったのも全部、穂乃果さんやμ'sへの憧れからなんです。 "いつかあの大舞台で、思いっきりバディファイトをしたい! 輝きたい!"って、そう思ったんです。」

 

穂乃果「………………」

 

千歌「押し付けがましいかもしれないけど、私の憧れの穂乃果さんには、チャンピオンになってもらいたいんです。 穂乃果さんのファンとしての、私の願いだから。」

 

 

千歌の言葉に穂乃果は目を大きく見開く。気がつくと穂乃果の目には涙が溜まっていた。 穂乃果はすぐに目を拭い、横にいる千歌に顔を向ける。 すると千歌も笑顔で穂乃果を見ていた。その目は聡明でいて太陽のような温かさを感じる。太陽竜に選ばれただけはある。

 

 

千歌「穂乃果さん。私とバディファイトしませんか?」

 

穂乃果「え?」

 

千歌「穂乃果さんが何に悩んで、迷っているかは私には分からないですけど、バディファイトをすれば、頭がスッキリすると思うんです。」

 

 

千歌の提案に穂乃果は少し驚く。 確かに、穂乃果が今感じてるモヤモヤを消す方法は思いつかない。千歌の言う通りファイトすればモヤモヤが何かに変わるかもしれない。 それと穂乃果は今、無性にバディファイトをしたい気分だった。

 

 

穂乃果「良いよ、バディファイトしよっか。」

 

千歌「やった! じゃあやりましょう!」

 

 

穂乃果の返答に千歌は目を輝かせて喜ぶ。

 

穂乃果と千歌は一定の距離を開けて向かい合い、お互いにデッキケースを自分の左手首に押しつける。するとデッキケースに収納されているベルトが手首に巻きつく。 そしてバディファイトシステムが起動する。

 

 

 

穂乃果「希望を紡げ五角の絆、そして繋げよ皆んなの夢! ルミナイズ!〈五角武竜伝"絆"〉」

 

千歌「全てを照らす煌めき、世界に降り注ぐ無限の極光! ルミナイズ!〈極光の超太陽〉」

 

 

オープンTHEフラッグ

 

 

穂乃果「ドラゴンワールド」

◼️手札6/ゲージ2/LP10

 

千歌「ドラゴンワールド」

◼️手札6/ゲージ2/LP10

 

 




今回も感想を是非‼︎
これからのモチベーションの向上に繋がります。


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