SAO〜赤目の罪人〜   作:鎌鼬

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思い付いたので。週一で、土曜か日曜のどちらかに投稿します。




罪と傷

 

 

『ーーーHey■■、暗いじゃねぇか』

 

『ーーーボス』

 

 

ーーーあぁ、これは夢だ。これは過去の出来事だ。3年前の、俺たちが閉じ込められた世界での出来事。この光景はその時の出来事の再現に過ぎず、同時に俺の罪を知らしめる物でもある。

 

 

『もうすぐ攻略組が此処に来る。さっさと待ち構えたらどうだ?』

 

『その、前に、聞かせて、くれ。ボス、アンタ、逃げる、だろ?』

 

 

俺がボスと呼んだフードを被った男が、それを聞いて驚いたような反応をする。だが、俺は彼が逃げると確信していた。攻略組が此処に来る。逃げ道は無く、迎え撃つしかない。だが、この男はきっとこの場から逃げ出して、俺たちと攻略組との殺し合いを安全なところから観戦すると分かっていた。

 

 

『へぇ……どうしてそう思った?』

 

『アンタは、用心深い。攻略組が、来ると、考えて、逃げ道を、用意しても、おかしく無い。それに、アンタは、俺たちを、見下している。殺し合いを、笑って見ても、おかしく無い』

 

『……That's right 正解だよ。俺は逃げる。ほとぼりが冷めた頃にまた色々とやらせてもらうさ。で、それを知ったお前はどうする?』

 

 

心臓の鼓動が速くなる。手足が冷えて感覚が無くなる。視界が遠くなり、自分の視点なのに別の誰かの視点の様に錯覚してしまう。

 

 

目を逸らしたい、瞼を閉じたい。

 

 

だが、それは出来ない。これは()()()()()()()()()

 

 

『ーーー殺す』

 

『ガァッ!?』

 

 

〝クイックチェンジ〟で出した大剣を今日まで育ててきた筋力(STR)に任せて全力で投擲する。突然の奇襲に彼は反応が出来ず、大剣が身体に突き刺さって吹き飛ばされ、洞窟の壁に磔にされる。大剣の中程まで壁に突き刺さっていて、彼1人の力では脱出することが出来ない。

 

 

『チィッーーー』

 

『ーーー遅い』

 

 

磔にされた彼が取り出したのは1つの結晶体。〝転移結晶〟と呼ばれるアイテムで、使う事で転移することが出来る。それを読んでいたので、同じく〝クイックチェンジ〟で取り出した刺突剣(エストック)を手首に突き刺して行動を阻害する。

 

 

『ここで、裏切るのかよ■■ぁ!!』

 

『裏切る?それは、違う。元から、俺は、アンタの、仲間じゃない』

 

 

俺は彼に誘われる形で彼が作ったギルドに、〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟に入った。〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟に目的なんてものは無い。ただ面白半分でこの世界に生きている者たちを搔き乱し、面白半分で人を殺している殺人ギルドだ。俺はそれを知っていた。だからこそ、〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟に入って少しでも犠牲を減らそうと動いていた。

 

 

プレイヤーを傷付けて、カーソルが犯罪者の証明であるオレンジになったが、PKの証明であるレッドにはなったことは無い。だって、この世界で人を殺せば現実でも人が死ぬのだから。

 

 

人殺しなんてしたくなかった。でも、こいつはダメだ。生かしておけばこの先で取り返しのつかない事をしでかす。だから、殺す。

 

 

『さよならだ、ボス……いや、P()o()H()。誰にも、知られずに、死ね』

 

『■■ぁッ!!()()ァァァァァァッ!!』

 

 

刺突剣(エストック)を彼……PoHの心臓、喉元、眼窪に突き刺し、HPゲージを削り切る。それだけで、PoHの身体は砕けてポリゴンとなって消滅した。カーソルを見ればオレンジからレッドに……人殺しの色になっていた。

 

 

『……これで、俺も、人殺しか』

 

 

手を見ても身体を見ても返り血一つない。それはそうだ。ここはゲームの中だから。だけど手にはPoHを殺した時の感触が残っている。PoHの身体を貫いた時の感触が、残っている。

 

 

PoHを殺したことには後悔は無い。だが、PoHの最後の憤怒に塗れた形相と手に残る感触は、このゲームが終わった今でも残っている。

 

 

『……行く、か』

 

 

壁に突き刺さった大剣をそのままに、刺突剣(エストック)を握り締めて俺はフラフラと歩き出した。与えられた情報が確かならば、いつ攻略組がやって来てもおかしく無い。

 

 

『……願わくば、俺を、裁いてくれ』

 

 

人殺しの俺を、どうか殺して欲しい。この手に残る感触を、PoHのあの死に顔を忘れさせて欲しい。そう願いながら俺は迎え撃つ準備をしている〝笑う棺桶(ラフィン・コフィン)〟の元に向かった。

 

 

そして、その願いは果たされることは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーウグッ!?」

 

 

意識が覚醒するのと同時に吐き気が込み上げてくる。転がる様にベットから降りて洗面台に向かい、嘔吐した。消化された夕食が胃液と混じって吐き出される。胃が空っぽになり、出てくるのは胃液だけになってもまだ吐き足りないと吐き出し続ける。そうして五分は吐き出し続け、漸く吐き気は治まった。

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

 

飛び散った吐瀉物が服に掛かったがそんな事を気にしていられる余裕は無い。油断をすればまた吐き気に襲われそうなので、壁に縋っている事しかできない。

 

 

「また、あの夢か……」

 

 

それは今から3年前の出来事。世界初のVRMMOであるソードアート・オンラインが開発者の茅場晶彦の手によりゲーム内での死亡イコール現実での死亡というデスゲームになった。ソードアート・オンラインは今から一年前にクリアされ、その時点で生き残っていたプレイヤーたちは全員ゲームから解放された。

 

 

だが、俺は今でもソードアート・オンラインに囚われている。あの時のPoHを殺した時の感触が、PoHの死に顔が、今もこびり付いていて離れない。ソードアート・オンラインで多大なストレスを感じた為かリアルの俺の髪は白髪になり、ナイフどころか包丁やカッターなどの刃物を……剣を連想させる物を見たり触れるだけであの時の事が呼び起こされて拒絶反応を起こして嘔吐する……端的に言えばトラウマになっていた。

 

 

最近は落ち着いていたがさっきの夢で……ソードアート・オンラインでPoHを殺した時の夢でぶり返してしまった。折角見ても気分が悪くなる程度で済んでいたというのにだ。

 

 

身体の震えが治まったところで吐瀉物を処理し、換気のために窓を開けて使えなくなった寝間着をゴミ袋に放り込んでシャワーを浴びる。浴室から出た時に時計を確認すれば時刻は午前1時、夜中だが眠気はかけらも無く、そもそも眠る気にはなれない。

 

 

「……あれを、やるか」

 

 

ベットの枕元に置いてあったバイザーの様なものーーーフルダイブマシン〝アミュスフィア〟を手に取る。ソードアート・オンラインの時に使われた〝ナーヴギア〟の後続機であるそれは、〝ナーヴギア〟の様なアバターのHPと連動して人間の脳を焼く機能は備わっていない。

 

 

「……リンク・スタート」

 

 

〝アミュスフィア〟を被って横になり、起動文句を口にすれば意識が現実から仮想現実の世界に送り込まれる。

 

 

辿り着いた先は近未来的な風景の街の中。誰もが防弾、防刃のある服を着ていて、店で買ったのか銃を見せて楽しげに話し合っている。

 

 

この世界はガンゲイル・オンラインというゲームの世界で、ソードアート・オンラインが剣をモチーフにした世界観ならば、ガンゲイル・オンラインは銃をモチーフにした世界観となっている。トラウマの克服の為に弟に誘われてやってみたのだが俺に合っていたらしく、弟よりも強くなってしまった。

 

 

そして何より銃は良い。剣の様に手に感触が残らないし、顔を撃てば死に顔を見ることは無い。

 

 

「行く、か……」

 

 

リアルと同じ様に、どもった様な口調で独り言をボヤきながらプレイヤーネーム〝Sterben(ステルベン)〟の身体を動かしてフィールドへと向かう。

 

 

 






刃物に対してトラウマ持ちの主人公。てかSAO生還者なら刃物恐怖症くらい持っててもおかしく無いと思うの。


そして主人公、まさかのPoHニキ撃破というMVP。


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