一将功成りて万骨枯る   作:キューブケーキ

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5.劉琦様なぜなぜ戦争

5-1

「姫、今回の見合いの相手、何処が気に入ら無かったんですか。家柄だって悪くなかったと思いますけど」

猪々子(いいしぇ)さん、それは相性ですわ」

 丞相として漢帝国で絶大な権勢を誇る袁紹(えんしょう)ではあったが、全てが上手く行っていた訳では無い。

 鏡を見て袁紹は儚げに溜め息を吐いた。

「面倒ですわ……」

 袁紹は結婚適齢期の(とう)が立ってきている。それ故に家を継ぐ者を残す事は切迫した問題であった。

 一方で、家柄、容姿、財力の揃った彼女目当ての者も少なくは無かった。望めば相手には不十しない。

 しかし、これだと言う相手が居なかった。

「見合いなんて堅苦しいし疲れますよね」

「ええ。それに、(わたくし)に釣り合わない方達ばかりで嫌になりますわ」

 そうぼやく袁紹の元に顔良がやって来た。

「あら、斗詩(とし)さん。どうかして」

 益州の劉焉(りゅうえん)から面談の申し入れがあった。

「私に何の用かしら」

 顔良は袁紹を心配した。

麗羽(れいは)様、気を付けて下さいね。相手は皇族なのですから」

「分かってますわ」

 劉焉は益州に合わせて交州の西半分を支配しており、現在、宗主の長老と言える存在だった。

 いかに官位は袁紹の方が上でも血筋には敵わない。劉焉が呼ぶ以上、応じるしか無かった。

 会談の場所は洛陽(らくよう)に代わって暫定的な都とされた長安(ちょうあん)。袁紹一行が到着した時は日が暮れており、深い闇に瘴気が漂っていた。

 劉焉は権力者である事を自覚していた。そして自らの望みは我慢せずに全てを叶える。他者を利用してでも。

 そして求めたのは妻としての袁紹である。

 劉焉は正室の(ふぇい)氏を亡くしており、袁紹との縁組は自勢力を拡大し漢を安定させる事だった。

 しかし袁紹は劉焉の求婚を受け入れなかった。

「御断りします。私は貴方の(きさき)には成りません」

 劉焉は動じず、これまで胸に秘めていた大望を打ち明けた。

「余は何れ皇帝となる男だ。全ての敵を打ち払い漢を統一する」

 劉焉は皇帝の権威が低下した事で世は乱れたと認識している。強い皇帝による統治は理想だが、現状では諸侯の力が強い。乱に乗じて諸侯の力を削ぐ事を実行していた。

「喜びも苦しみも共に分かち合うのが君臣と言う物で、漢をより良くする事が宗家の務めだ。そちも余に身も心も捧げられるは栄誉ぞ」

 皇帝に成ると言う意味を袁紹は考えた。敵を打ち払うとは武を用いると言う意味だ。

 そこまで考えて袁紹は問う。

「まさか貴方は、再び漢を乱そうと言うのですか」

 曹操討伐後、曲なりにも漢は平穏と安寧を迎えつつある。しかし劉焉の言葉は皇帝の権威を否定する物だった。

「余は次の皇帝、海も山も人も漢の物は全ての皇帝の所有物。お前も余の物に成れ」

 袁紹は突然、胸がざわめき自分の気持ちに気付いた。

 そして胸が高鳴り、これまでに無かった熱い炎が心に沸き立った。

「切なく、苦しい気持ちに気付きました。富や名声、財も家柄も何も無くても私は愛する人と共に生きたいと思っています。ありのままの私自身を愛して下さる方です。だから私はあの方に振り向いて頂けるなら何でもしますわ」

 ここが劉焉と会談の場である事を忘れ、愛する者を思い浮かべて袁紹は穏やかな笑みを浮かべていた。劉焉の好む淫猥とは程遠い、清らかなら表情だ。

 袁紹の豹変に劉焉は訝しげな表情を浮かべた。相手は誰か問い質すよりも、宗主である自分が相手にされないと言う事に理解も出来なかった。

「劉焉様、御断りする理由が他にもありました。大切な事に気付かせてくれてありがとうございます。此度はこれで失礼致します」

 生きる目標を見付けて喜びを全身から表す袁紹は優雅に一礼をした。

「う、うむ」

 確か自分は王朝の衰退による消滅を阻止する話をしていたはずだと劉焉は自問自答した。

 会話が噛み合わない気持ち悪さを抱えたまま劉焉は袁紹を見送ってしまった。

 

 

 

 俺は思慮が浅く迂闊な所が多い。運良く綱渡りが成功していただけだ。

 その事に気付かされた。

「袁紹から宣戦布告? 誕生日の贈り物の返礼にしては、面白くない冗談だな」

 周瑜(しゅうゆ)が珍しく声を荒げた。

「それが問題なのです!」

 呂蒙(りょもう)陸遜(りくそん)に揚州の事後を託して荊州に戻った俺は、おっぱい達と戯れて骨休みを取るかなんて気楽に考えていた。しかし俺が帰る半日前に、袁紹から使者が訪れていた。

「最初は使者を歓待し劉琦様の帰りを待って頂こうと考えておりました。ですが、使者の態度は高圧的でした」

 使者の言葉によると、俺が送った贈り物に毒物が混ぜられていた。それで二枚看板の文醜(ぶんしゅう)が重体の危篤状態に成ったそうだ。

「俺は知らん。必要なら暗殺だって躊躇しないが、まだ袁紹を潰す理由が無い」

「はい、承知しております。ですが交渉の余地は無く、向こうは聞く耳を持っておりませんでした」

 しかし最悪だ。なんか訳の分からん濡れ衣で、漢の丞相を暗殺しようとした謀叛人と判断されてしまった。

 他人の思惑で踊らされるのは、気持ちが悪かった。吐き気を催す程にむかつく。

 自業自得は俺がやった事に対して起きる事柄だから、俺は悪くねえ。

 袁紹に言いたいのは、俺のこれまでを見ずに送り主と言うだけで犯人と決めつけるのか。国の政を司る立場なら罪状を明らかにすべきだ。俺を呼び出して問い質す事も出来ただろう。

 あいつは何の為に生きて、何処に家臣や民を導きたいのだろうと思う。

「使者を出す前に中央軍事委員会が動いたのでしょう。組合からの報告も届いております。諸侯に討伐の触れが出され、益州の劉焉殿も呼応して動いており、連合軍が荊州の国境に集結しつつあります」

 漢帝国の軍事を統括する中央軍事委員会主席は袁紹が務めている。袁紹の決断は漢が動くと言う事に直結している。

「おいおい」

 何処の誰だか分からん奴の思惑に乗って踊らされるのは気にくわない。だけど覚悟を決める。攻めて来るなら戦ってやる。

 降りかかる火の粉は打ち払うが、袁紹は面倒な相手だ。漢を相手にする事に成る。

 全ての軍事行動には政治的な理由が存在する。

「総政治部主任の顔良殿は文醜殿の友人。友の復讐に燃えており、積極的な督戦を行っており敵の士気は高いと思われます」

 政治工作と政戦工作を行う政治委員が諸侯の軍に派遣され、指導を行っているらしい。

 俺は最終的に生き残る事が目的だ。いざとなれば荊州を棄てれば良い。過去の栄光すがり付いて逃げるタイミングを逃すのはただの馬鹿だ。損切りを行えば新しいチャンスはやって来る。

「連合軍は荊州と揚州から根こそぎ財を奪い尽くすでしょう。今度は我々が食われる番です!」

 袁紹と劉焉の中間位置するうちは、至高存在に成りたがりな劉焉にとって邪魔な存在だ。うちを攻め滅ぼせる機会があるなら絶対に諦めないだろう。

 降伏は無意味だ。抵抗するか逃げるか。

 この時代は対話より、戦う事でしか相互理解は得られない。弱いのが悪い。

「ふーん、まぁ、青くなるのは分かるが落ち着けよ。敵の侵攻はまだ始まっては居ないし、世の中には実現出来る事と出来ない事がある。先ずは出来る事から処理して行こう」

 凶報ではあるが震撼する程でも無かった。

「別に連合軍相手に勝たなくても良い。負けないだけで十分だ。敵に厭戦気分を与えて撤退させれば、それだけで荊州を守る目的が達成出来る。やる事はいつもと変わらない。目の前の敵が何であれ撃退するぞ。俺は荊州と共にある!」

 全員の目の色が変わった。既に賽子(さい)投げられた事を認識して、意識が切り替わったのだ。

 俺は全般の指導方針を明示した。それに従って家臣達は活発な議論を始めた。

 

 

 

「劉琦様は袁紹殿の真名を預かっておられます。ここはその信頼を利用してはどうでしょうか」

 周瑜は俺に提案する。

「俺の手紙を読まない程に怒っているか、謝罪して来るのを待ってるか。袁紹の考えは読めんが、やるだけの事はやっておくか」

「お願いします」

 俺は筆まめな方では無いが、迎撃の時間稼ぎとして袁紹に文を送った。今回の件は誤解です。俺は貴女に害意はありませんよ、と言う内容だ。

 総大将である袁紹の号令無くして諸侯が独断で動く事は無いだろう。独力でうちに喧嘩売って勝てる勢力は袁紹か劉焉しか居ない。後の有象無象では逆に潰されるだけだ。だから敵は連合を組んでいる。

 うちはその間に、軍師達の立案した計画に従って諸将は兵を率いて散って行った。そうなると後は結果が出るまで俺は暇だ。閨で熱い行為を楽しんだ。

真桜(まおう)、火薬の製作はどれだけ進んでるんだ?」

 真名を呼ばれた女、李典(りてん)は快感の余韻で微かに身動(みじろ)ぎする。

 寝所で荒い息を吐く俺達はハッスルした後だ。賢者タイムで頭も冴えている。

「まだあかん。書かれてる様に仕込みに時間がかかるわ。だから天然素材を探させて作ってるけど、量は足りへんで」

 李典には鹵獲した天の知識が書かれた書簡を調べさせていた。

 天の御遣いは火薬や肥料等の知識を有して普及させようとしていた。ただのガキなのにWikipediaなみの知識を持ってたらしい。俺も学生の頃は肥料爆弾を作ろうとした事があったけど、北郷の知識には負ける。

 正々堂々と戦っていたら俺らは引き立て役だった。さくっとぶっ殺して良かった。

「仕方無いな。ある分だけで使える物を作ってくれ」

 そう言うと俺は軽くくちづけをした。

「うん、分かった」

 仕事の無茶振りだが、李典はくすりと笑って了承した。

 硝石と硫黄と木炭による黒色火薬は、HNIWと比べて訳の分からん()(がく)な工程は不要だからお手軽と言えた。要人暗殺の爆弾テロが出来る量を準備できれば、奥の手に使えるだろう。

 天の御遣い様に感謝だな。

 熱を帯び汗ばんだ李典の肌は(なまめ)かしい。彼女の瞳に視線を合わせた。

「あ、もう一回するん?」

 唇を薄く開いて舌を見せ、欲情を感じさせる目で李典は俺を見返す。(はら)めば俺の子だ。責任を持って面倒は見る。

「お前さえ良ければな」

 弛んだ精神には贅肉が付く。李典のおっぱいに顔を埋めながら、今回の戦を機会に慎重に生きていこうと考えた。

 とりあえずは李典を(よろこ)ばせるとしよう。これも忠勤する家臣への褒美だ。

 

 

 

 うちは東西を敵に挟まれている。連合軍は同じ様に見えてもそれぞれ戦う理由は違う。そこが付け目だろう。

 七年戦争のフレデリック大王は四面楚歌に近い状況だった。俺は当時のプロシアと比べればまだ楽な方で、敵との兵力差も少ない。敵を捕捉し壊滅的打撃を与えるチャンスもある。

「連合軍は兵力こそ多いですが長期戦は無理でしょう。飢饉や蝗害の後で、荊州からの食料輸入に頼っていた位です。兵站見積の結論では、長期戦になれば消費量から考えて敵の兵糧が持たないはずです」

 鳳統は現状をそのように分析していた。

「だったら短期決戦を狙って来るな。此方としても兵力分散の愚を侵すよりは短期決戦で敵を撃破したい。やってやろうぜ」

 多分、かなりの数を敵も味方も死なせる事に成るが、と付け加えた。鳳統は死傷者の数も想定に入れた上で頷く。

「平和の為の礎ですね」

 俺は鳳統の頭を撫でながら答える。

「そんな大した心構えじゃない。俺の生きてる内は戦や他者の意思によって死にたくはない。俺は望むままに生きたい。死ぬなら老齢で人生を楽しんでからだ。そう言う事さ」

「劉琦様はそのままで良いと思います。そんな劉琦様が好きで私達は頑張りますから」

 貴方の御側でずっと仕えさせて下さい、と言ってぎゅっと抱きついて来た鳳統にとりあえず、ありがとうと言っておいた。

 現状、問題として二つの戦線を抱える形ではあるが、彼我の望ましい戦場でタンネンベルクの様に速やかに敵を撃破して西へ転戦させれば何とか成るだろうと俺は楽観視していた。

 長江北岸に沿って白帝より前進して来た劉焉の益州兵は、俺の弟、劉琮(りゅうそう)の守る巫に向かってる。

 今までやって来た賊討伐で、うちは劉焉と連携した軍事作戦を実施した経験が無い。だから向こうがどんな手で攻めて来るか分からない。

 益州では俺らが曹操と戦ってる間に南蛮を平定して、南蛮人を家畜として食肉加工してると言う報告が入っていた。食料自給率の思い切った改善を劉焉はやった訳だ。同じ二足歩行生物なのに感心する。

 その他にも色々と聞いている。劉焉は益州に赴任した時に地元の豪族、名士を呼び寄せた宴を開いたそうだ。でもそれは不穏分子を一掃する為の罠で、酒が入り良い感じで微酔いした所で途中で劉焉が離席し、屋敷を燃やし全員を殺したそうだ。

 既存の常識に囚われない奴だから手の内が読めない。

 とりあえずは関羽と張飛を付けてるから負ける事は無いと思う。糜竺(びじく)糜芳(びほう)が脇を固めており、巫の防衛は十分だろう。

 此方で袁紹の軍勢をある程度潰したら救援に向かう余裕が出来る。それまでは時間稼ぎをしてくれたら十分だ。

 荊州北東でも動きがあった。劉焉よりも早く、袁紹軍は南陽郡、江夏郡に怒濤の如く侵攻を開始した。

 鳥獣が一斉に逃げ出して来る。

「晩飯のおかずに良いな」

 そう言う俺の目の前では、地平の彼方に居ても敵軍の戟が陽光を浴びて煌めいていた。

 数の少ない国境守備兵は退かせ合流させていた。無駄に消耗させるのが阿呆らしいからだ。斥候には敵と接触を保持する様に命じている。

 俺は呂布や関羽の武だけで勝てると思ってはいない。今回は正攻法の戦いだ。

 砂塵を巻き上げて敵が前進して来る。敵は北方で育てられた騎兵を積極的に運用していた。

「やああああああ」

 喚声をあげながら騎兵が威風堂々と突っ込んで来る。「あれは逢紀(ほうき)さんですね」と鳳統は解説をしてくれた。例え女でも将は将だ。

 突進を図る敵に対して味方は錯雑地形を利用して展開している。盾を構えた味方歩兵は方陣を組んで騎兵の衝撃を吸収する。

 俺の家臣には、俺の為に命を捨てられる者しかいらん。荊州以外の者が傷付く事に心を痛めるような考えも邪魔なだけだ。だから敵には遠慮をしない。

「袁家の弱兵に血の雨を降らせてやれ」

 歩兵が戦列を組んで第一線の敵を食い止めている間に、後方の弓兵が援護射撃を開始した。弓兵にとってはルーチンワークだ。空中戦力が運用されない時代だから、空の脅威も無く楽な戦いだ。

 騎兵が全力を引き出せるのは平地の戦いであり、我に有利な地形で第一波は阻止された。

 だが袁紹には有能な側近が居る。戦闘状況を見て、迅速に第二波、第三波と到着する部隊を戦闘加入させ圧迫をして来る。

 ぷんぷんと血の臭いが俺の場所まで漂って来る。これが真夏だと腐敗の進みも早いから不快指数も上がる所だが、まだ耐えられた。

 荊州の民が怖れるのは袁紹か、劉焉か。そうでは無い。今の生活を失う事だ。

 漢への忠誠心、愛国心があろうと、負ければ奪われ殺される。

 それが分かっているからこそ郷土愛で荊州の民は戦う。

 第一梯団は壊乱させて難無く撃退した。しかし袁紹軍の逢紀は「損害に構わず進め!」と檄を飛ばしていた。捕虜からの証言によると、本来、士気を鼓舞して督戦すべき政治将校が「士卒を消耗させるだけで危険だ」と闇雲な攻撃に反対意見を述べていたらしい。

 袁紹軍は健闘したが、うちの兵は敵が再度の攻撃準備をしてる間に側翼を迂回して退路遮断を行うべく反攻を開始した。()州侵攻だ。

 戦争は決闘の儀式とは違う。勝ち負けが全てであり、手段は問わない。核兵器の発射ボタンがその場にあれば遠慮なく押しただろう。最後に此方が一人でも多く残れば良い。越境作戦もその一環だ。

 攻撃を先導したのは甘寧の率いる尖兵で、抵抗らしい抵抗を受けずに汝南郡深くに進出した。俺は本陣で伝令から報告を受けながら黄忠の尻を撫でては叱られていた。

「包囲が形成されれば敵野戦軍主力に甚大な損害を与え、覆滅出来るでしょうね。あっ……ん……」

 懲りずに尻を撫でると身をよじらせ、黄忠の青みを帯びた瞳が潤んで来ていた。その様子に俺は内心でニヤニヤしながら真面目な表情を作った。

「地形に頼って障害、隠掩蔽施設、偽陣地等の準備も忘れるなよ」

「あぁ……や、ん、はい……」

 びくんと震える黄忠の息を吹きかけながら耳元に囁いた。噛みつきたく成る耳だが、そこは自重した。

「どうした、返事ははっきりしろ?」

「あ、劉琦……様……」

 我ながらいけない癖だと思う。ついからかってしまう。すがる様な目が嗜虐心を擽るが、先ずは目の前の戦を片付ける事が最優先だ。俺が手を離すと黄忠は首をかしげた。

「続きは後でな」

 抱き寄せて軽くくちづけをした。

「は……ぅ……」

 息を乱し切なげな表情で黄忠は瞳を揺らせていた。

 人身掌握術で、攻めた後は優しく接する。焦らしもその一つだ。

(出来れば国境付近で片をつけたいな)

 殺される前に殺す。戦いの主導権を握ったら、決戦の意思を敵に強いる事が出来る。その為に敵の予期しない時期・場所に戦闘力を集中する。基礎中の基礎だ。

「劉琦様、予定通り予備陣地に戦線を縮小し引き続き防御を実施致します」

 前に出ていた鳳統が戻って来て報告する。

「良いぞ。友軍相撃には注意しろ」

「はい」

 鳳統から陣地転換の指示を将に伝えるべく伝令が出された。 

 

 

 

5-2

 その日、荊州に攻め込んだ袁紹軍先鋒は後手からの一撃と言う反攻を受けた。

 袁紹の支配地域で、俺のシンパが民を煽動して蜂起させた。それと要人の襲撃、誘拐、脅迫も行った。袁紹は後方警備や治安維持に兵を割く事を強いられており、戦場で首級で戦功をあげなくても十分に役立ってくれている。

「家族や関係者を狙った方が、本人を狙うより効果が大きい様です」

 陳珪(ちんけい)が報告して来た。

「ふーん。バラバラにして家に贈り付けるとかも試してみろよ」

 陳珪は大人しい物で、最初の頃の余裕は消えており俺の前では借りて来た猫の様だ。

「承知しました」

 越境した甘寧や徐晃達の支隊による遮断の効果も現れている。70余りの街や村を落とし、包囲が完成した。援軍の無いまま袁紹軍先鋒は孤立したのだ。

 殲滅に移行した戦場で、俺は本陣を前進させた。

 タフで頑丈な男を気取る積もりは無い。危険に身を曝す以前に、平和過ぎて飽きて来た。これも家臣が頑張ってくれているからだ。

 もう後は任せて大丈夫だ。俺は鳳統とまったりと戦場での催し物を見ていた。

 今回、うちの兵に略奪、凌辱、殺戮を許している。やられたら倍返しだからな。でもある程度、高位の者は捕らえるか、無理なら殺せと命じていた。人の価値は貴賤で決まる。これは戦場でも変わらない。

「袁紹の姿は無かったんだよな」

 袁紹の性格に難はあるが、顔立ちは整っており肉付きの良い体もしている。周囲の注目を集めるには十分な容姿だ。しかし見当たらなかった。

「はい。漢の丞相とも成れば、戦は配下の将軍に任せ、片付いた後に後続を率いてゆっくりと来る予定だったのでは無いでしょうか」

 鳳統のどこかおどおどとした態度も戦場では治っている。

 ま、良いか。

 どうやらここには居ないらしい。袁紹を捕らえてすっぽんぽんの裸に剥くのはお預けだ。

「成る程な」

 老若男女を問わず武器を持ち向かって来るのは敵だ。投降して来る者も後で始末してやる。

「うちに喧嘩売って勝てる訳ねえだろう。身の程を弁えろ。ヴぁーか」

 爆笑する俺の前で敵は殺されて行く。弱ければ死ぬのは当然だ。

 地面は血で濡れていた。こう言う時こそ注意して歩くべきだ。

「ふぅ」

 死臭が漂う。うわ、肉を踏んだ。ぷるぷるして人の脂が足下を滑らせる。

 戦争の勝利は最高の宣伝材料と成る。だから死体の数は多い程、効果が高い。

「この死体、劉焉の所に送ってやったら感謝するかな」

 食人を推奨する益州を考えたら効果はありそうだと思ったので、そのまま口にした。

「ええと……どうなんでしょう?」

 俺の言葉に鳳統は目を泳がせる。

 受けは良くなかったので、埋める方向で行く事にした。穴は生き残った敵に掘らせて、その後に掘った奴等を纏めて殺して一緒に埋める。地球に優しく生ゴミは処分だ。

「劉琦様、敵将馬休(ばきゅう)馬鉄(ばてつ)が投降しました」

 そこに周泰が報告する。

「あ、そう。そいつらは別枠だ。手荒に扱うなよ」

 連合軍に参加した諸侯は漢の忠臣として丞相である袁紹に従っている。馬騰は病を煩っているらしく、一族の者を代わりに送り出していた。

 二人は華奢な体の割には武の腕っぷしも悪く無かった。

(だけど勝ったの俺さ)

 馬一族の姉妹を一組、馬騰と交渉する切り札として手に入れた訳だ。

 何か気を効かせた女官に湯浴みさせられた二人が俺の天幕に連れて来られた。

「馬休と馬鉄だな。俺の事は気軽に劉琦様と呼んでくれて良いぞ」

 馬休は(いさぎよ)く膝を屈した。

「荊州兵の錬度、将の指揮、軍師の策、凄すぎです! 今回は負けましたから大人しくしますよ」

 一方、馬鉄は面倒臭かった。

(そう)に無理やりあんな事やそんな事をしちゃうんでしょ! この鬼畜!」

 投降して来た割に態度がでかい。馬休がその隣でおろおろしていた。

「馬休」

 俺に声をかけられてビクッと反応した馬休に告げる。

「妹の面倒は見てやれ。それとお前らは美しいが、馬騰との交渉材料だから殺したり体を(けが)す予定は無い。安心しろ」

 女は心が清らかなら体が穢れていても受け入れられると言うが、やっぱり他人に穢された物は受け入れ難い。それを考えると綺麗なまま返してやる意味は大きい。

 美しいと言われたのが嬉しいのか一瞬、笑顔を浮かべたが、真面目な顔を作り頷いた。

 

 

 

 此度の戦で戦功をあげた将士に白金50両を与えた。有功不賞は不満が溜まるからな。すぐに褒めないと意味が無い。

「漢升、行こうか」

 やる事はやったので、黄忠を天幕に連れ込んでハッスルしようとした。急用以外で取り次ぐなと告げて人払いをした。

 黄忠を抱き寄せて手を握った。黄忠の手は弓を扱う事で硬くなっているが嫌いでは無い。これは俺の為に敵を倒す手だからな。

「ん……」

 先ずは軽くくちづけを交わす。雰囲気は大切だからな。

 唇が離れると黄忠の熱い吐息を感じた。そのまま内腿に手を伸ばし撫であげる。

「あ……んん……っ!」

 敏感な部分は焦らすように避けて刺激を与えると反応が面白い。

 内心、ニヤニヤしながら俺は酒と食い物で鋭気を養い、さあ、これからだと言う時に邪魔が入った。

 揚州を任せていた呂蒙からの伝令で、荊州の応援に向かおうとしたら、交州から流民が流れて来たそうだ。

「さくっと殺せば良いじゃないか?」

 豊かな生活を求めて来るのは良いが、流民と言う禿鷹は社会の膿だ。いつも殺して追い返している。

 規則通りに対処すれば良いし、そんな事で俺を煩わすなと思った。

「流民は劉焉軍に追い立てられているとの事です」

「ふーん」

 劉焉は無駄な事をしない。揚州の友軍を拘束する積もりか。

 黄忠に視線を向けると困った様に微笑む。

(またお預けだな)

 無知こそ最強の選択肢だ。無知であれば責任も負わず悩む事も無かった。俺ってそれなりに学と才能があるから頼られるし、呂蒙への指示を考える事にした。

 この戦に勝ったら益州は誰かまともそうな奴を傀儡にして統治させよう。俺は領土はこれ以上、いらないから。劉焉に愚民は開発事業で使い潰してやる。

(揚州に応援は要らないだろう。必要だとしたら、対劉焉の主戦線である巫の方だな。でも使える兵を巫に投入したら、向こうで拘束されてしまう)

 劉焉への対策を考えていて、相手に主導権を取られるのは癪にさわった。ムカつくからぶっ飛ばしてやる事にした。その瞬間、荊州の防衛で越境作戦と言う枷が外れた。

 俺は漢を敵に回した。俺の家臣は、土匪集団として見られるにはそこらの賊と錬度も違う。

 運命とは皮肉な物だ。興味と関心が均衡を崩す。今を生きる事に貪欲だからこそ、無関心、他人事の意識が荊州と言う箱庭の世界を守る事に繋がる。

 まぁ荊州は地政学上で言うハートランドだし、仕方無いな。

「待たせたな。出番だ」

 俺は陳宮を呼び寄せた。こいつは呂布に心酔し呂布に忠を尽くす軍師だ。

「呂布を使え。成都を落として来い」

 俺の言葉に陳宮は目を見開いた。呂布の武を天下に知らしめる事は陳宮の望む所だ。

 呂布は稼働性の高い将で八面六臂の活躍を期待出来る。軍師としては腕のふるい所だろう。

 陳宮は頬が紅潮していた。

 幼い容姿に似つかわしくない好戦的で獰猛な笑みを浮かべた。

 呂布をアサインした後は適当に配分しても、陳宮はやり遂げるだろう。知識は人を豊かにする。軍師の本質は戦いが好きで、気分が良くても悪くても知識を活かせる。その頭脳(サポート)は俺にとって必要不可欠だ。

「北ですか、それとも南ですか」

 ゴールは成都だが、漢水より漢中に進むルートと、長江から牂牁(そうか)に進むルートのどちらを選ぶかと言う事だ。

「漢中には馬騰の兵が出て来ている。南鄭(なんてい)に詰めているが、馬休と馬鉄を使えば降せるだろう」

 うんうんと陳宮は頷いた。

 呂布の慣用戦法は、友軍の援護下にまず呂布が切っ先と成って打撃を加える。どの戦場でも、この一撃を食い止められないから敵対した者は崩れて行く。

「御意。天蕩山(てんとうざん)から米倉山(べいそうざん)の線を抜けば、前衛は戦果を拡充し要点である陽平関(ようへいかん)と開城を確保して後は南に下るだけ。劉焉の息の根を止め益州を平らげれますな」

「その辺りは上手くやれ」

 さして興味は無いが、家臣や民が夢を見るのは許している。

 陳宮は頬を染めて呂布の下へ駆け出した。やる気十分だな。

 

 

 

 この時代に生きる者は、奉仕する事が名誉と言う奴隷根性が染み付いていた。それは俺としても利用出来るから良しとしよう。

 しかし政権交代の時期はやって来る。漢帝国と言う古い秩序によって作られた世界は自壊しつつあった。だが、この戦況は好転するだろう。何故なら荊州は不滅であるからだ。たとえ劉焉や袁紹が勝つように見えても、最後に生き残る勝者は荊州(うち)だ。

 揚州は呂蒙が守り、巫は関羽が守っている。漢中から成都を打通する仕事は呂布に任せた。俺は袁紹に専念出来る。荊州にとって真に必要なのは安寧であり、無能な皇帝や才能しか愛さない君主では無い。荊州の民を脅かす豚共はこの機会に屠殺するしかない。

 千年帝国は無理でも、全てを淘汰した先に百年の平和を約束出来る。

 袁紹の地盤である冀州で民を煽動して暴れさせながら、渤海までの長距離機動作戦を計画した。家臣連中は俺が天下を取る気に成ったのかと色めき立ったが勘違いも甚だしい。

 家の境界に雑草が生えすぎてるので引っこ抜くだけだ。掃除が終われば荊州に引っ込む。

「錯雑した丘陵、屹立した山では地形の特性から小規模な部隊しか配置されていないでしょう。問題は開闊した平地です」

 警戒部隊は当然、存在するだろうが簡単に排除出来る。

「大規模な敵と遭遇する可能性が高まるな」

 鳳統は頷き答える。

「はい。擾乱状態で敵を拘束したとは言え、まだかなりの兵が残っている物と考えられます。我の攻撃、前進を偽装、欺瞞致しますがどこまで欺けるかは難しいと思います」

 荊州以外で沢山死ぬが、得れる物の方が大きい。成功すれば袁紹の息の根を完全に止める事に成るだろう。

「魏郡までは遠いな。だが必ず(ぎょう)を落とし、袁紹を捕らえろ」

 鳳統は恭しく礼をすると、俺の指示を実現べく動き出した。

 うちの対外防諜機関である安全部第四局を任せている程普(ていふ)から報告が入って来た。安全部は荊州の治安維持を司る部署で治安部隊も統括していたが、職務の性質上、敵対勢力に密偵(スパイ)を送り込んだりしてる内に、情報の収集・分析能力が向上していた。

 呂布は五万の兵を率いて進軍したが、進む先の定軍山に、連合軍の馬超が五千の兵を率いて伏せていたのだ。

 組合とシンパの情報は頼りになるが密偵も良い仕事をしている。

「馬超は面白いですよ。馬には虎の皮で覆い偽装すると言う念の入れ様ですね。敵の策は、成都から厳顔(げんがん)の率いる援軍が迂回して呂布軍の左側面を突き、馬超の伏兵が退路を遮断する物で、策を立てたのは元曹操の軍師の一人でした程昱(ていいく)と言う者ですわ」

 曹操の軍師だとすると、奴のお眼鏡にかなった者だ。相当に頭が切れるはずだ。

「陳宮には伝えたか」

 おっぱいは何物にも勝る宝だが、程普の胸では無く顔に視線を固定して確認を取る。

 陳宮を甘やかしてる訳ではない。前線の部隊と情報の共有化は、荊州防衛の目的達成に不可欠だからだ。

「勿論です。可愛いねねちゃんは頼りになりますし、後は任せて大丈夫ですよ」

 そして陳宮は期待に応えてくれた。凡人ではなく天下無双の呂布が居るのだ。一人の武は練られた策を容易に噛み千切ってしまう。いつの時代も情報を制する事は大切だな。

 定軍山を急襲した呂布は馬超を天蕩山に追い払った。策を見破られ、再攻勢を企図する馬超の下へ陳宮からの使者が訪れた。捕虜の解放と停戦の打診であった。

 同じ馬一族の馬休と馬鉄を捕らえても辱しめを与えず、交渉の材料とした事は正解だった。この恩情を受けて馬超は兵を引いた。

 俺は敵対する者にも機会と慈悲を与えている。これも相手次第だ。誇るが良い。俺から慈悲を勝ち得たのだから。

 

 

 

 孫権が黄蓋、周瑜、陸遜らと兵を率いて此方に合流した。袁紹も劉焉も潰すと決めた以上は遠慮をしない。

「孫仲謀、俺は此度の戦で袁家は滅ぼす。お前には期待している。お前達の暮らしを奪った袁家に借りを返してやれ」

 天幕の中には俺と孫権の二人しか居ない。到着の報告に来た孫権の服をゆっくり脱がしながら、俺は柔らかなおっぱいを楽しむ。

「戦の前に楽しい事しようぜ。良いよな?」

 唇を重ねると孫権は顔を赤らめ潤んだ瞳で俺を見返し誘惑するので行為を続ける。

「ん……、あ……!」

 孫権の太腿を撫でていると、鳳統が報告に入って来た。

「劉琦様、予定されていた全ての準備が完了致しました」

「おうよ」

 孫権はパッと俺の背中に隠れて、たくしあげた服を直していた。

(早いな)

 家臣には話しても意味が通じないだろう。俺にとってこの世はゲームと同じだ。

 統治者の責任さえなければ、支配地域が広がるシミュレーションゲームと同じで面白い。

 こんなに戦争が楽しいとはな。憎悪は無いが、奪い、殺し合う理由には十分だ。

 俺は鳳統、孫権を伴って天幕を出た。配下の主だった諸将、軍師が集まっている。

「戦国の時代、趙の将軍、廉頗(れんぱ)楽乗(がくじょう)を撃破して己こそ将軍に相応しいと証明したが、趙を捨て魏に亡命した。孝成(こうせい)王に忠を尽くした廉頗にとって、悼襄(とうじょう)王は忠に値しなかったと言う事だろう。お前らはどうだ。荊州の者であると、証明出来るか? 他所に負けない活気で、自分の夢が実現出来るのは荊州だけだ。気を抜くな。余所者の侵略を決して許すな! 我らが荊州を守るのだ! 荊州の安全・安心を脅かした袁紹を討て。漢帝国万歳、荊州に栄光あれ!」

 俺に鼓舞された荊州の兵は司隷を経由して()州に向かう。全ての道がローマに続く様に、漢では洛陽に向けて道が整備されていた。街道を通り、冀州に向かう。

「袁紹軍は黄河を渡り白馬(はくば)に集結、烏巣(うそう)を指向して前進中です」

「あ、そう」

 偵察に出した斥候班から随時、報告が入る。袁紹の動きは筒抜けだった。

 情報は扱う側次第と言うが俺の家臣は役立てている。豊かなおっぱいが盛り上がり自己主張する周瑜が進言して来た。

「敵が向こうから来てくれると言うなら、それも良いでしょう。官渡で袁紹軍を迎え撃ちましょう」

 大人の魅力か。ナイスおっぱい。周瑜は周瑜で、孫権とは違った魅力だ。

 んな事を考えているからか、孫権から冷たい視線を感じた。あ、周瑜のおっぱいを見すぎたか。

「あー。うん、良きに計らえ」

 俺は名将では無い。アイデアも浮かばないし、餅は餅屋と言うから、官渡会戦を構想した更改作戦計画第一案の作成をこいつらに任せた。

「私は孫家の軍師で、荊州では新参者に部類される。だが荊州での暮らしを守りたいと言う気持ちは皆と同じだ」

 周瑜は俺に一礼すると、自らの思いや構想を口にした。いつもの素っ気無さとは違う熱の入れようだ。

「袁紹軍は、劉焉軍による西部方面の攻勢のいかんにかかわらず、反攻を予定している。官渡会戦の正否は、我が荊州防衛に大きな影響を与える。聖戦完遂の為に、敵の反攻に対して敵戦力を極力撃破し以てその企図を破摧(はさい)衰亡(すいぼう)を期す物であると心して欲しい」

 俺を周瑜が信じているのかは知らないが、荊州を守りたいと言うのは本当だった。ああ、人の思いと言うのは口にしないと、やっぱり分からないな。

 周瑜は意気軒昂な他の軍師等を巻き込んで、遭遇的会戦生起をも予想した万全の作戦計画として更改し始めた。

 俺の背中に孫権が胸を押しつけて来た。性的な意味ではない。

 彼女の鼓動と体温が俺に安心感を与える。彼女から愛されている事は分かっていた。

(家族を奪ったのに、ここまで懐かれるとは意外だ)

 このひたむきな愛情は救いだった。

(そうだな。孫権の信じる周瑜を、俺は能力的に信じている)

 人生は短い。武名や智謀に拘るのも些細な事だ。まあ、頭の賢い連中は俺の分も頑張ってくれ。

 

 

 

5-3

 やっぱり戦は有能な将と軍師で行う物で、兵は駒に徹しないと出来ない。

 対袁紹の作戦計画として、我が軍は速やかに官渡での作戦準備を整えて、来攻する敵野戦軍主力を撃破し、荊州以北の要域を確保する方針である。

「敵前衛は主力の為に、要点である原武(げんぶ)陽武(ようぶ)を占領すると考えられます。これを阻止するよりは、敵に確保させて官渡まで来て貰おうと思います」

 指導要領として敵の輸送、移動を妨害し、敵の企図に備えつつ、会戦準備を促進した。

 その第一段階として、橋梁を破壊し敵の移動経路を限定する為に、黄蓋と周瑜が支隊を指揮して出発して行った。

「流動的に防御し、機を見て打撃するのはいつも通りだな」

 戦闘の原則なんて大して変わり無い。軍隊の展開及び軍需の集積を迅速的に、あとは確りとやって貰う事だ。

 それよりも、大きな戦を前に気が昂る。

 やっぱり種としての生存本能が子孫を残せと言ってるのだろうか?

 官渡に布陣した俺は、鳳統を後ろから抱き締めて小振りなおっぱいを揉んでいた。小さなおっぱいは心の余裕すら無くしてしまう。だから俺は戦を前に緊張から解そうと揉んでやっていたのだ。

「んっ!」

 ビクッと震え小さく声を洩らす鳳統の太股の内側に手を伸ばしてみた。

「ほほう」

 柔らかな布地は下着だ。指先に湿り気を感じた俺はニヤリと笑う。おっぱいは小さくても色々と楽しめそうだ。

「ん───っ」

 鳳統の声に孫権が振り返った。

「どうかしたの?」

 赤らんだ顔を大きな帽子で隠した鳳統を訝しげに見て孫権が訊いて来た。

「軍師は頭を使う。戦を前に考え過ぎで疲れたみたいだな」

「無理をさせたら駄目よ」

 そう言うと孫権は前を向く前に、形の良い眉を歪めて、本当は全部お見通しだ! と言いたげに睨んで俺にプレッシャーをかけて来た。

「ああ、そうだな」と言い訳せずに肯定だけしておいた。

 鳳統が俺に顔を近付けて囁く。

「り、劉琦様は、私を御所望でしょうか?」

 恥ずかしそうだが、どこか期待した表情を見せる鳳統。

 しかし荀彧に比べても幼い体では気持ちいい遊びが出来るとは思えなかった。

 鳳統の瞳を見ると、ごめん、やっぱり無しでとは言えなかった。

「邪魔が入ると嫌だろ? 先に戦を終わらせよう」

 鳳統はこくんと頷いて笑うが、孫権を気にして真面目な顔に戻った。純粋な好意を向けられて居たたまれなく成る。内心で悪戯も時と場所を考えらるべきだと反省した。

 俺が駄弁っていた翌日、袁紹軍は原武、陽武を確保すると共に、船を調達して官渡に一挙に突進し得る布石を得た。此方のやる事は変わっていない。官渡を絶対国防圏みたいな感じで極力確保して反撃する構想だ。味方の士気は旺盛であった。

 死ぬ時は道連れが多い程良い。仲間が居れば寂しくは無いだろう。

 

 

 

「敵の斥候が警戒線に接触しました。魏延隊が応戦中です」

「深追いはしないように伝えて下さい」

 ここで芋を引くぐらいなら初めから戦争をしていない。敵を地獄に叩き込むべく、鳳統の指示を受けて伝令が走る。

 勝つまで、殺人や陰謀と無縁の平穏な生活は遠い。命を狙われる以上、今は後戻りも出来ない。

 袁紹と劉焉どちらも倒さねば幸せな生活を奪われる。始末しない限り荊州に平穏は来ない。面倒くせえ。

 しばらくすると斥候を撃破したと報告が入った。小さな勝利だが、味方の士気を上げるには効果的だ。

 暇潰しで、前線に出て視察をしてみると、随分と元気が良い声が聴こえてきた。

「くひ……ひひひひっ。お前の仲間も惨めったらしく死んだぞ。散々、暴れた罰が下ったんだ」

 視線を向けると兵卒が輪になっており、中心で汚いケツを振ってる姿が見えた。

 子作りは家だけでやるもんじゃないらしく、兵が捕虜の女で遊んでいる。

「ぎゃぁぁぁぁっ! んひーっ!」

 押さえ付けられて、叫んでいる。

(あれって違う穴か? 俺の趣味とは違うけど、ま……まぁ、痛みこそ生きてる証だ)

 戦で仲間を失ったらどんな方法で復讐するか。女なら自尊心を砕く。男はその為の道具を持っている。野獣の様な原始的本能と狂暴性だ。

 好みの女の子だったら助けたが、そこらの醜女や愚民を助けはしない。関わり合いになるのは御免だ。

「やめて、痛い痛い痛い!」

「クソッ! クソオオオオッ! ミンナミンナシネ!」

 仲間も取り押さえられており絶叫していた。

「喚くな。楽しませてくれよ」

 そう言いながら男は女の顔を舌で舐めていた。うーわ、汚ねえな。

 命を燃やして戦った結果、敗者を生殺与奪する権利は勝者にある。戦場のルールだ。

「お前ら、ほどほどにしておけよ」

 俺に気づいた兵は慌てて礼をする。下半身で考えながらも、仕える主君への対応は弁えている。

 勝利の宴は派手にやった様だ。四肢の欠損した死体に混ざって、虫の息な負傷者が周囲に取り残されていた。

 一人に近寄ってみた。

「殺して……殺して……」

 皮を剥がれ内臓をえぐり取られている。情報を引き出す為の尋問か憂さ晴らしかは知らん。

 人の生命力の凄さと、そいつへの憐れみを感じた。

「劉琦様?」

 剣を抜いた俺に護衛の者が声をかけてくる。俺は負傷兵に止めを刺してやった。

 人は何れ死ぬ。

 始皇帝は不老不死の妙薬を求めたらしいが、俺に言わせれば阿呆じゃないかと思う。

 今を生きて楽しんで死ぬのが人だ。若返りなら良いが、末期癌とか難病の延命も苦痛を引き延ばすだけだ。死ぬ事で楽になれる事もある。『今この時』を先延ばししようと思うから、無駄に苦しむんだよ。

 だから俺の時には楽に死にたい。他者に対しても同様の対応だ。

 必要な時は目をえぐり取ったり鼻や耳を削いだり、ありとあらゆる責め苦を与えて、幾らでも残虐な行いもするが、基本的には敵も同じで殺してやる。それが為政者としての配慮だ。


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