フェアリーテイル 月の歌姫   作:thikuru

57 / 75
はい! 今回から数話、オリジナルのお話が始まります!


オリジナルなんていいよ……と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが……最後までお付き合い、お願いします!


53話 懐かしい再会

 

ウェンディとシャルルの歓迎の宴を開催してから2日後……

 

ギルドでは、ウェンディとシャルルの住む場所を探している時、シクルはとある人を訪ねに、暗い森の奥深くを歩いていた。

 

 

「んー……久しぶりだなぁ……元気かな、ジル婆……」

 

そう呟き、シクルの脳裏に浮かぶは少し腰の曲がった白髪の女性……

 

「前回は……あの仕事の前だから……半年以上は会ってないんだなぁ……怒られちゃうかな?」

 

苦笑を浮かべ、怒られたくないなぁ……と呟きながら足を進めると……開けた場所に出た。そして……

 

小さな川と泉のあるところに建つ一件の大きく少し古びた建物が目に入る……。

 

「ついた……」

 

ふぅと深呼吸をすると、コンコンッと扉をノックする。

そして中からは間を空けず、声がする。

 

「空いてるよ……」

 

「失礼します」

 

シクルが扉の中へ入ると……腰掛け椅子に腰掛け、何かの本を読んでいる白髪の左眼を包帯で覆った老婆がいた。

彼女の名は “ジルリエ・ルメドゥサン” 。

 

親しいものからは “ジル” の愛称で呼ばれる。

 

ジルはシクルが入ってきたことに気がつくと本から目を離し、シクルをじっと見つめる……。

 

「……シクルか」

 

「うん……久しぶりだね、ジル婆」

元気だった? と首を傾げ、声をかけるシクル。だが、ジルははぁとため息を一つつく。

 

「シクル……お主、また無理をしたな?」

 

「え……」

 

ジルは腰を上げ、シクルの横に椅子を持ってくると座るように首で指示する。

 

シクルはほんの少し、怖がりながら椅子に腰掛ける。

すると……

 

「……んの、バカ娘がぁあああっ!!!」

 

スパーン!!!

 

「いったぁああああいっ!!!」

 

突然シクルの頭にジルが持っていた分厚い本が振り落とされる。

 

シクルは叩かれたところを涙目で抑え、ジルを恨めしそうに睨む。

 

「な、何すんのさぁ……! ジル婆!! 暴力反対だよ!?」

 

「ふんっ……約束も守らん娘が何言っとるか……ほれ、診てやるから服脱ぎな」

 

ジルにそう告げられ、シクルは痛む頭を抑えながら服を脱ぎ、ジルに背を向け座った。

 

そして、シクルの背中にジルは右手を添えると淡い光を手から放つ。

 

「あーぁ……ほれみろ……身体中ボロボロじゃないかぃ……」

 

しかめっ面でシクルを叱るジル。

 

「うぅー……」

シクルは顔が上げられない様子でしょんぼりとしている。

 

「全く……またいくつか注射するよ? いいね」

ジルの言葉にコクリとシクルが頷くとジルは数本の注射器を取り出す。

そして……

 

「じゃあ……ちと痛いぞ」

 

プスッと針をシクルの背に打つ。

その瞬間ビクッ! と肩を揺らし、表情を歪めるシクル。

「いっ……つぅ」

 

「我慢しんさい……ほれ、あと4本じゃ」

 

「4本!? 4本も打つの!?」

ジルの口から出たその言葉にばっとジルの方を振り返るシクル。だが、その頭を再び分厚い本で叩かれ……

 

「動くんじゃないよ!! 刺す場所を間違えるじゃろ!!」

 

「つぅー! ごめんなさい……」

再び涙目になりながらジルに背を向ける。

そんなシクルの背にジルは深いため息をつき

 

「全く……半年に1度は来いといつも言っとるじゃろーに……8ヶ月も来んとは……注射も増えるに決まっとろう」

 

「だってここのところ忙しくて……ここまでめんどうだし……(ボソッ)」

 

「面倒言うんじゃないバカタレ!」

シクルの小さな呟きを正確に聞き取ったジルに目を見開くシクル。

「なんで聞こえるの!?」

 

「当たり前じゃ……何年主の主治医をしていると思っとる?」

 

「うぅー……4年……くらい?」

 

「5年じゃ」

 

ジルのその指摘に、「あれ? そうだっけ?」と苦笑を浮かべ、呟き考え込むシクル。

 

その間に4本の注射も打ち込まれる。

 

「ほれ……終わったよ」

 

「ふぇ……あ、ありがとうジル婆」

シクルは脱いだ服をいそいそと着始める。

そこに……

 

「……シクル」

ジルの声が掛かる。

 

「なぁに?」

 

「あまり……無茶をするな……確かにお主は魔力も高い……一般と比べれば強いやもしれぬ……だが、お主も一人の人間じゃ……出来ることは限られ……「それでもやらなきゃ……」シクル……」

 

ジルの言葉を遮り、言葉を発したシクル……

シクルは弱く笑みを浮かべる。

 

「無茶でも……私に出来ることならやらなきゃ……それに、ジル婆……私は、普通の人間じゃないよ…………私は……」

 

 

 

“バケモノ” だよ……

 

「シクルっ!!!」

 

「っ!」

ジルの大声に肩を揺らし、驚くシクル。

 

「……お主は、ちゃんとした人間だよ……それは、この私が、保証しよう……お主は、人間じゃよ……」

 

「ジル婆……」

ジルはそっとシクルの頬に触れる……そして、ふっと優しい笑みを浮かべる。

 

「シクル……お前は優しい子だ……自信を持つんじゃよ?」

 

「……うん」

小さく笑みを浮かべ、「ありがとう……」と呟くシクルの頭を数度撫で、離れるジル。

 

「それと……ほれ、いつもの薬じゃ……今回は3ヶ月分とちと少ないがのぉ」

 

ジルの手から放り投げられた袋をパシッと受け取るシクルは首を傾げる。

 

 

「え? いつもは半年か10ヶ月分だよね? なんで今回は……」

 

「お主以外にも、いたからのぉ……」

 

 

ジルの言葉に、「私以外……?」と、シクルが首を傾げた時……

 

ジルの腰掛ける椅子の奥に位置する扉がガチャと開き……

 

「ジルお婆ちゃん……お客様です……か?」

 

そこから出てきたのは……銀色の長髪に、碧い瞳をした少女……

 

少女はシクルを見つめ、目を見開き……シクルもまた、少女に気づくと目を見開き驚きを露わにする。

 

 

「……シクルちゃん?」

 

「……え」

 

少女はシクルの返事を待つことなく、駆け寄り、シクルに抱きついた。

 

 

「本物のシクルちゃんだぁ!」

 

「え? ……エマ?……わぁ!! 久しぶり!!」

 

シクルはやっとその少女に抱きつかれ、我に返る。

 

少女の名は “エマ・ヴァレンタイン”

 

シクルが各地を放浪してた頃に出会った昔馴染みだ。

 

「元気でした? シクルちゃん」

 

「もちろん! 元気いっぱいだったよ! エマも元気そうで……良かった!」

 

にっこりと微笑み合う2人。ふと、シクルは先程のジルの言葉を思い出す……。

 

「もしかして……もう1人の子って……エマのこと?」

 

「はい。 私もお薬がなくなってしまいまして……ジルお婆ちゃんのところに貰いに来たんです」

 

そっかと頷くシクル。

 

「エマ、このあと時間ある? あったらどこかでお茶しない?」

 

首を傾げ、問いかけるシクルだが……

 

「あ、ごめんなさい……今日はちょっと……

ミラクルも置いてきちゃって……待たせてるので」

と、エマはシクルからの誘いを断った。

シクルは気にしたふうもなく、そっかと呟き……

 

「じゃあまた今度……次は会う日を決めてお茶しましょ?」

と言った。

 

「はい!」

 

にっこりと微笑み、頷くとエマはジルを振り返り……

 

「それでは、ジルお婆ちゃん……私はそろそろ行きます……ありがとうございました」

 

「気にせんでええ……また顔を出しんさい……待っとるからのぉ」

 

ジルの言葉に頷くエマ。

「じゃあ……また会いましょう? シクルちゃん」

「うん、またね」

 

最後に、シクルと二言三言会話をするとエマは去っていった。

 

「ふぅ……じゃあ、ジル婆……私もそろそろ」

 

「待つのじゃ」

荷物をまとめ、出ていこうとしたシクルを止めるジル。

 

「んえ? 何……?」

 

「……お告げじゃ、どんな時も……自分を見失うでないぞ? 先も言ったじゃろう……自信を持てと……忘れるでない」

 

ジルの真っ直ぐとした真剣な眼差しに……シクルは数秒、瞬きもせずじっとジルを見つめ返し……不意に、ふっと笑みを浮かべた。

 

「分かった……ありがとう、ジル婆……」

 

じゃあ、また来ますと言い、シクルは扉を開け、出て行った……。

 

「……はぁ……まったく、本当に……困った娘じゃの……」

 

 

 

ジルの家を出て、妖精の尻尾へと歩き帰る途中……

 

「……ふぅ(自信……ねぇ)」

 

ふと、少し暗くなってきた空を見上げるシクル……

 

 

「……自信なんて、持てないよ……ジル婆」

 

 

私がバケモノなのには……変わりないんだ……

 

 

シクルは夜空から自身の両手へも目を落とした。そして……ギュッと手を握り締め、表情を歪める。

 

「……運命……か」

 

そっと呟き、深く長いため息をつく……そして

 

パンッ! とシクルは自身の両頬を叩くと……

 

「……大丈夫……大丈夫、私はまだ……」

と自分に言い聞かせ、笑みを浮かべた。

 

それを何度か繰り返し……歪んでいたシクルの表情はのほほんとした表情に戻った。

 

 

 

「はぁ……それにしても、酔い止め……3ヶ月分しかくれなかったなぁ……」

 

エマの分と半々だってのも分かるけど……

 

ジルに渡された薬の袋を見つめ……再び小さくため息をつくシクル。

「多分……3ヶ月以内に来いって事なんだろうなぁ」

 

行くのはいいけど……

 

 

「ジル婆の家まで遠いんだもんなぁ……めんどくさくなっても仕方ないじゃん……」

 

そう呟き、私は悪くない! と勝手に自己完結すると薬の袋を懐にしまった。

 

 

カサッ

 

「ん?」

 

袋をしまった手が何かに触れる。

それを取り出すと……

 

「あ、アトスからの手紙……(忘れてた……)」

苦笑を浮かべ、危ない危ないと呟きながら腰掛けられそうな切り株を見つけ、そこへ腰掛けると手紙の封を開けた。

 

「えっと……」

 

アトスからの手紙にはこう記してあった。

 

 

“ シクル・セレーネ様へ

 

 

お久しぶりです、突然の手紙ですいません

 

一つご報告です……あぁ、貴女はもうご存知かとは思いますが、私はあの楽園の塔の事件以降、評議会を辞めました。

 

 

今は知り合いの魔導士学校で子供たちに魔法を教えています。

……まぁ、このことは隅に置きまして……

 

 

実は、近々私と会って頂きたいのです……

 

シクルさんのご都合が良い日を、教え頂けませんか?

 

手紙に同封した緑の紙に日付を書き込んでいただければその情報は直接私に届くようになっていますので……お願いします。

 

 

ではまた……お会いする日を楽しみにしております。

 

アトス・リヴァイアスより ”

 

 

「……そっか、やっぱり……辞めたんだ(辞めたというより……辞めさせられた……の方が強い気がするけど)というか……緑の紙って……」

 

手紙の入っていた封の中を探ると、確かに手のひらサイズの小さな紙が入っていた。

 

「これに書けばいいのかな? 日付ねー……」

 

シクルは今後の予定を考え……

 

 

「暫くは評議会からも依頼は来ないだろうし……うん、3日後でいいかな」

 

 

そう呟き、緑の紙へ “3日後の午後で” と記した。すると……

 

ボッ! と紙が翠の炎を灯した。

 

「わっ! これ書いたら燃える仕様なの? (手紙で記してくれてもいいじゃないのよ! もぅ……時折抜けてるんだから……)」

 

はぁと、ため息をつくと手紙をポケットへしまい、立ち上がる。

「さて……ルージュも待たせてるし……帰ろ」

 

思ったよりも時間がかかったと思い、ギルドまで光を纏い光速で帰ることにしたシクル。

 

 

そして、ギルドに戻ると……

 

「……何やってるの?」

 

ギルドのプールがあった場所が爆発したかのように粉々になっており……ナツやグレイ……ほぼ、ギルドの男達がその体に傷を作り、渋い顔をしていた。

 

「あ、おかえりーシクル!」

シクルの帰還に気づいたルージュがその頭に飛び乗る。

 

「わっ、ただいまルージュ。どうしたのこれ?」

 

「うん、実はねぇ……」

と、ルージュはシクルに昼間、起きたことを話した。

 

話を聞いたシクルは……

 

 

「あっははははははっ!!! プールの底に覗き部屋があって? マスターが作ったもので、そこで丁度泳いでたマスターの……ぶふぅ!! あははははっ!!!」

 

大笑いしていた。

 

「ぬぬぬぬっ!! 笑ってんじゃねーよ!!」

がぁー!!とナツが怒鳴るも……

 

「ぷははははっ!!」

シクルの笑いは止まらない……。

 

「んなに笑わなくてもいーだろうが……」

むすっとしたグレイの言葉。

 

そして、数分後、やっと落ち着いたシクル……

「はぁー……笑った笑った。で? それで皆ふくれっ面してたの?」

 

「ふくれっ面なんかしてねぇっ!」

シクルの言葉に吠えるナツ。だが……

 

ピンッ! と、ナツの額にシクルからのデコピンが落ちる。

「って!! 何すんだ!」

 

「その顔のどこがふくれっ面じゃないって? 全く……プールはまたみんなで作り直せばいいでしょ?

マスターだって……ほんとは忙しい人だもん。たまにはお茶目っ気だって出るよ……

 

みんなの傷は私が治してあげるから……みんなはふくれっ面を治しなさい」

 

シクルはにっこりとナツに微笑み、他のメンバーにも顔を向け、そう告げた。

 

そのシクルの言葉におぅ……と、頷き、一応ふくれっ面は消えた面々。

 

「よし! オッケーオッケー! さてと……

 

【我、月の加護の名の下に

 

愛する者の身を包み その身、回復させん】

 

歌魔法《ソングマジック》治癒 (ヒール) 」

 

シクルの両手から放たれた光は、その場の面々を包み込み……あっという間にその傷を治した。

 

「じゃあ……あとはここの片付け、ちゃんとやるのよー」

シクルはそう言うとルージュを連れ、ギルドを出て行く。

 

「てぇ……おい!? 手伝ってくれんじゃねーのかよぉ!? おいシクルー!!!」

 

「傷は治したんだからあとは頑張りなさーい」

 

「またねぇ!」

シクルは呼び止めるナツにそう言い放しながら、片手を上げ手を振り、ルージュもまた、ナツたちにバイバイと言った。

 

その後もナツは呼び止めるがシクルの足が止まることはなく……

 

「シクルの……薄情者ぉおおおおおおお!!!!」

 

 

その夜……ナツの絶叫がマグノリア全体に響いた。

 

 




はい! 如何だったでしょうか。ちなみに、エマ・ヴァレンタインはある方からどうぞ!と言って頂けたので登場させちゃいました!


魔法は今回出ていませんがまたどこかで、登場して頂くのでその際に!

それでは……次は本日の夜かまた明日になるかと思います。
最後までお付き合い、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。