はい!! やっとニルヴァーナ篇これにて完結致します……
長かったっ!! 宣言通り前回で終われず申し訳ない……
とにかく、51話! ニルヴァーナ篇ラストです!
最後までお付き合い、お願いします!
ニルヴァーナの阻止が成功し、リチャードとジェラールが評議院へと連行されてから数時間後……シクルたちはウェンディたちのギルド、化猫の宿で祝の宴を開催しながら、傷ついた体を癒していた。
集落の中心に位置する広場でナツやグレイを始めに、皆でわいわいと盛り上がっている中……1人、その席から外れているシクル……
彼女は今、化猫の宿のマスター、ローバウルと話をしていた。
「シクル殿……ギルドを守ってくれて本当にありがとう……」
「いえ、このギルドを守れたのは皆で力を合わせたからですよ……ウェンディも、頑張っていました」
クスリと微笑み言うシクルの言葉に、頷きながら「そうか……」と呟くローバウル。
「なぶら……皆さんに感謝せんとな」
ローバウルはそう言うとふっと悲しそうな表情を浮かべ……
「もう、気づいておるやもしれぬが……シクル殿、我々は……」
そう言ったローバウルに、シクルは真剣な眼差しで見つめ、ゆっくりと頷いた。
「はい……六魔将軍の奴から、化猫の宿の人たちはニルビット族の末裔であることを聞きました……ですが、そうではないんですよね?」
シクルの言葉にコクリと頷くローバウル。
「そうじゃ……我ら……否、わしは……」
「今じゃなくていいですよ……」
ローバウルの言葉をやんわりと遮るシクル。
「私は分かってますから……2度もそのことを語るのは、あなたも辛いでしょう? ……7年とはいえ、成長を見守ってきたウェンディやシャルルと別れるのは……」
愛したものとの別れは……本当に……
そう呟き、目を伏せたシクルを見つめ、ローバウルはふぅとため息をつき……
「なぶら、その言葉に甘えるとしよう……」
「では、私はみんなの所に戻りますね」
ニコリと微笑み、そう告げ、ローバウルに背を向けたシクル。
そこに……
「待たれよ……」
「……はい?」
ローバウルがシクルを呼び止めた。シクルは振り返り、ローバウルを見つめる。
ローバウルの瞳は何かを訴えかけている様子があった。
「……何ですか?」
「シクル殿……お主は、思い出せぬ記憶などはありますかな?」
ローバウルのその問いかけにシクルは首を傾げる。
「……いえ……特には」
考えるも思い当たることはなく……首を振り、否定する。
「そうか……シクル殿……主には、何やら……記憶の一部に封印がされているようじゃ」
ローバウルのその言葉に、シクルは目を見開き驚く。
「……封印、です……か?」
「なぶら……それがなんの記憶かはわしにも分からぬ……だが、その記憶は恐らく主にとってとても重要なものと感じる……いつか、思い出せると良いですな」
「はぁ……」
最後に、一礼をし、部屋を出ていくシクル。
そして、みんなの元に戻る途中……シクルはふと、ローバウルの言った言葉を思い返す。
「……封印された……きお、く……」
何……何を封印されているっていうの……
分からない……思い出せない記憶? そんなの……
「……そういえば……」
ふと、シクルの脳裏に浮かぶ光景……
それは、育ての親、セレーネと暮らしていた頃の記憶……
それはとても大事な記憶で、再会のできない今忘れられない記憶だが……所々、曖昧な部分があった。
「……まぁいいか」
封印された記憶が何なのか分からない……けど、今考えても検討もつかない……きっと、その時が来たら思い出すだろう……
そう考え、記憶についてのことは一度忘れることにしたシクル。
「おーい! シクルー!! 早く来いよ!」
はっと、目の前を見上げるとナツが手を大きく振り、シクルを呼んでいた。
「今行くっ!!」
「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗……そして、ウェンディにシャルル……
よくぞ六魔将軍を倒しニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表して、このローバウルが礼を言う……」
そう言い、一礼するローバウルは
「ありがとう……なぶら、ありがとう」
と、感謝の言葉を呟き続けるローバウル。
「どういたしましてマスター・ローバウル! 六魔将軍との激闘に次ぐ激闘! 楽な戦いではありませんでしたが、仲間との絆が我々を勝利に導いたのです!!」
「「「さすが先生っ!!」」」
「てかあなた何もしてないでしょうが」
1人決める一夜にピシャリ!と冷たく言い放つシクル。
そんな彼女は今甘いケーキを頬張りながら、疲れた身体を癒していた。
「この流れは宴だろー!」
「「あいさぁー!」」
ナツの叫びにハッピーとルージュが大声を上げ、飛び跳ね賛同する。
「一夜が!」
「「「一夜が!!」」」
「活躍!」
「「「活躍!!」」」
「それ「「「ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!!」」」」
一夜とトライメンズのメンツが飛び跳ねながら奇妙な踊りを披露する……その時、一夜の足がもつれ、転ぶ。
その瞬間……
「お、おい一夜! そっちは……!」
エルザの慌てる声が響くが……その声も虚しく……
グシャッーーー!
「っーー!!」
シクルの持っていたチョコレートケーキは……一夜の下敷きとなり、とても食べられないものに変わってしまった……。
「「あ」」
「げ……」
「え? 何?」
「……見てれば分かるよぉ」
「はぁ……」
潰れたチョコケーキを見つめ、俯くシクル……。
「す、すまない! マイハニー……決してわざとでは……「……ねぇ」……ん?」
一夜が黙り込み俯くシクルに慌てて謝罪を告げると……シクルから小さな声が聞こえ、一夜はシクルを見つめる。
「……あたしの……あたしの……チョコケーキをっ!!」
ズォッ! と音を立て、シクルの体から疾風が巻き起こる。
「ぬぉおおおお!? こ、これは!?」
「まだ……一口も……食べてなかったのにぃいいいいい!! 返せあたしのチョコケーキぃいいいいいい!!!!」
「メェーーーーン!!」
一夜を殴り飛ばすシクル……殴り飛ばされた一夜はそのまま空彼方へと飛んでいき、見えなくなった……。
「……な、何……今の」
初めて見たそのシクルの様子に目を点にし、震えるルーシィ。
「シクルはねぇ……極度の甘党で……エルザといい勝負なくらい大好物なんだぁ」
「シクルがそーいうのを食ってたら……絶対に邪魔しちゃいけねぇルールができてんだよ……」
「そ、そう……なん、だ」
恐怖するナツたちを尻目に、シクルはしくしくと涙を流していた……。
「うぅー……私の、私のチョコケーキがぁ……」
「あ、あの……シクルさん、良かったら私の……食べますか?」
「ふぇ……」
シクルの目の前には、にっこりと微笑むウェンディと……チョコレートケーキ……
「……いいの?」
きょとりと首を傾げ、ウェンディを見つめるシクル。
ウェンディはフフッと微笑み、
「はい! いいですよ」
と、言った。
その瞬間、シクルの顔はパァッ! と輝き、頬を赤らめながらウェンディに抱きつく。
「ありがとー!! 」
シクルはウェンディからチョコケーキを受け取ると美味しそうに頬張る。
「んー! 美味しぃ……!!」
ふにゃぁんとした顔をして食べるシクルを見て、一部の男は鼻を抑え、その中でもナツは1番顔を真っ赤にし、悶えていた。
シクルの機嫌も治り、宴の音頭は再び最高潮へと上がる中……しぃんと、黙り、シクルたちを見つめる化猫の宿の者達。
その様子にシクルやナツたちでさえ、しん……と、静まり返る。
「……皆さん、ニルビット族のこと……隠していて、本当に申し訳ない」
音がなくなると、見計らったかのように話を始めたローバウルに、ナツたちは苦笑を浮かべローバウルを見つめる。
「そんなことで空気壊すの?」
「そんなん、全然気にしてねぇのになぁ?」
「「あいっ!」」
ナツの言葉に頷くハッピーとルージュ。
「マスター、私も気にしてませんよ?」
にっこりと微笑み、ウェンディもローバウルにそう告げた。
だが、ローバウルの表情は晴れず……
「皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ……まずはじめに、ワシ等はニルビット族の末裔などではない」
「……え?」
首を傾げ、ローバウルを見つめるウェンディを横目に、悲しそうな表情を浮かべるシクル。
「末裔などではない……ワシは、ニルビット族そのもの……400年前、ニルヴァーナを造ったのはこのワシじゃ」
「な!?」
「何……!?」
「嘘……」
「400年前!?」
「はぁ!?」
ローバウルの告げた事実にナツたちは目を見開き、驚く。
「400年前……世界中に広がった戦争を止めようと善悪反転の魔法、ニルヴァーナを造った……ニルヴァーナはワシ等の国となり平和の象徴として一時代を築いた。
しかし、強大な力には必ず反する力が生まれる……闇を光に変えた分だけニルヴァーナはその “闇” を纏っていった
バランスをとっていたのだ……人間の人格を無制限に光に変えることはできなかった
闇に対して光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる」
ローバウルの言葉に
「そう言われれば確かに……」
と、頷くグレイ。
「人々から失われた闇は我々ニルビット族に纒わりついた」
「そ、そんな……」
ローバウルは目を伏せ……言葉を告げていく。
「……あれは、地獄じゃ。ワシ等は共に殺し合い……そして、全滅した」
「「「っ!!」」」
殺し合い、全滅の言葉に驚愕が抑えられないナツたち。
「生き残ったのはワシ一人だけじゃ……
否、今となってはその表現も少し違うな。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在……ワシはその罪を償うため……また、力なきワシの代わりにニルヴァーナを破壊できるものが現れるまで、400年……見守ってきた。今、漸く役目が……終わった」
そう言い、顔を上げたローバウルの表情は晴れ晴れとしていた……。そして
「そ、そんな話……!」
震えるウェンディ……そんな彼女の目の前から……次第に化猫の宿の者が消えていく……。
「っ! マグナ!? ペペル!! 何、これ……」
「ちょ……アンタ達!!」
次々と化猫の宿の者が消えていく……
「ど、どうなってんだこりゃあ!?」
「何なの……これぇ」
訳が分からなくなったルージュがシクルを見上げるも……シクルは首を横に振り、何も言わなかった。
「ウェンディ……シャルル……騙していてすまなかったな……ギルドのメンバーは、皆……ワシの作りだした幻じゃ」
「な、なんだとぉ!?」
「人格を持つ幻だと!?」
「何という魔力なのだ……!」
あのジュラでら、ローバウルのその言葉に、目を向いた。
「ワシはニルヴァーナを見守るためにこの廃村に1人で住んでいた。長い長い時の中……
7年前1人の少年がワシのところに来た」
「1人の……少年」
「少年のあまりにまっすぐな眼に、ワシはつい承諾してしまった……1人でいようと決めていたのにな」
そう語ったローバウルだが、その表情には確かな愛情が現れていた……。
「……ウェンディのために作られたギルド」
「そんな話っ! 聞きたくない!! パスクもナオキも消えないでよ!!」
ローバウルの語る話に耐えきれず、耳を塞ぎ涙が溢れるウェンディ。その隣では、シャルルも拳を握り震えていた。
「ウェンディ……シャルル……もうお前達に、偽りの仲間はいらない」
そう呟くと、ローバウルはシクルやナツたちの方を見つめ指差す。
「本当の仲間がいるではないか……」
そして、ローバウルの身体も光だし……次第に、その姿が消えていく……
「マスターっ……!」
「ウェンディ……シャルル……お主らと過ごした7年間……実に、幸せな日々であった……
愛しておる……お主らの未来は、始まったばかりじゃ……」
そして……ローバウルはニッコリと微笑み……もうその姿はほとんど見えなくなっていた。
「マスター!」
消えゆくローバウルに駆け寄るウェンディ。
「皆さん、本当にありがとう……ウェンディとシャルルを……頼みます……」
そうウェンディとシャルルを託すと……ローバウルの身体は完全に消え去ってしまった。
光の粒となり、天に昇るローバウルの魂……
「マスタァアアアアッ!!!!」
ローバウルの立っていたその場所で、ウェンディは崩れ落ち、大声で泣き出す。
誰もがその姿に……悲痛な表情や、同じく悲しみの涙を流す中……
そっと、彼女に近寄る、緋色と金色……
「……愛するものとの別れは辛い……」
「でも、その辛さは……仲間が埋めてくれる」
「来い……妖精の尻尾へ」
「……おいで…………私たちのところに……」
エルザとシクルのその言葉に、ウェンディはポロリと最後の涙を流し……エルザとシクルに抱きつく。
ニルヴァーナ……それは、最後に、悲しい別れと、新たな仲間との絆の始まりを運び……
完全にこの世界から消え去った……。
残された少女達は、新たな仲間と共に……新しい道を歩むのだ……。
ニルヴァーナ篇 完結〜
next.story 日常と語られぬ過去篇 開幕
〜予告〜
今日は宴だー!!!!
楽しいところですね!
え? ……エマ?……わぁ!! 久しぶり!!
……アトス…………ごめん
修行? えー……私、氷の魔法なんて使わな……あぁ、ちょっと待って?
確か書庫にあの魔法があったと思うんだけどなぁ……
え……何でここにいるの?
またね……身体、気をつけてね?……ラクサス
虹の桜……あぁ、もうそんな時期なんだ……
これ……シクルへのプレゼントにしよーぜ!!
なぁ……まだ、話す気になれねぇか?
ナツ……いつか、いつか話すから……今は、まだ……ごめん
はい!! これにてニルヴァーナ篇完結です!
次回からはギルドでの日常やほとんどオリジナルのお話を1話か2話に纏めていくつか投稿してからエドラス篇に行きたいと思います!
正直エドラスのシクルの立ち位置がまだしっかりと決まっていないのでその尺稼ぎでも……あるかなと
では、最後までお付き合い、ありがとうございます!!