オルガ・イツカは夢を見る。
あるいは、マクギリス・ファリドと共闘してラスタル・エリオンに敗れ、道半ばにして命果てる夢を。

……あるいは、ラスタル・エリオンと手を結び、なんかラスタルが焼肉奉行を務めるバーベキューを楽しむ夢を!


オルフェンズ終盤の様相を見ると、マッキーじゃなくてラスタル様と手を組む幸せな未来も見たくなりません?

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鉄血のオルフェンズ ラスタル様ルートも見たいって思いますよね!?

「チャド、様子はどうだ」

「変わりない……と言いたいところだが、妙な気がするな。少し、人通りが少ない。急いでくれ、オルガ」

 

 ギャラルホルン動乱。

 かつて厄災戦において多くのMAを倒し、人類を救ったアグニカ・カイエル。彼の魂が宿るとされるガンダムフレーム、バエルを手にしたマクギリス・ファリド。

 それに相対するのはアリアンロッド艦隊の総司令官、ラスタル・エリオン。

 地球圏におけるギャラルホルンの主導権をめぐる決戦は、ラスタルの勝利で終わった。

 マクギリス陣営に属していた鉄華団は本拠地たる火星への撤退を強いられ、そのうえでいまや基地も全周くまなくギャラルホルンにより包囲された。

 

 マクギリス自身の事情に基づく奮闘に相乗りする形でオルガをはじめとする数人が包囲を突破し、クーデリアの助力を得て地球の薪苗に話を通し、鉄華団構成員の戸籍情報改竄の算段はつけた。

 光明が、見えたのだ。

 圧倒的な戦力に絶望的な状況まで追い込まれ、あとは擦りつぶされての死を待つだけの状況から、生還の糸口が。

 これで終わりなど、そんなことはあってはならない。何が何でも必ず生き延びる。そのための道にようやくたどり着いたのだから。

 

 あとは、このことを基地の仲間たちに伝えて脱出。基地を爆破して壊滅を偽装し、強力を申し出てくれたアジー達タービンズの生き残りに地球へ運んでもらえば、なんとかなる。なんとかなるのだ。

 オルガは、チャドは、ライドは安堵した。

 

 

 安堵して、油断した。

 

 

「……オルガ!」

「!?」

 

 チャドの叫びと聞きなれた轟音、銃声。

 撃たれて飛び出る血の鉄臭い匂い。

 

 呆然としていたライドを必死に庇ったことは覚えている。

 クーデリアがまだビルから出ていないことに安堵した。

 

 オルガ・イツカの記憶は、そこで途切れた。

 守ったはずだ。やり返したはずだ。伝えるべきことも伝えたはずだが、最期のそれは、きっと頭ではなく魂から出たものだったのだろう。

 もう、はっきりとは覚えていない。

 

 

◇◆◇

 

 

「オルガ、起きろ。もうすぐ基地だぞ」

「……んぁ?」

 

 夢を、見ていた。

 その自覚はあるが、声を駆けられて目を開けたときには内容を忘れていた。

 何か、とても辛い夢だったような気がする。

 いまだ慣れない団長仕事の疲れと不安とストレスによるものだろうか。三日月やアトラに散々言われている通り、少しは休みを取るべきかもしれない。寝起きの頭でそんなことを検討しながらあくびを一つ。「上がり」を迎えるまで、まだまだやることはたくさんあって、立ち止まっている暇などなかった。

 

「すまん、どのくらい寝てた?」

「ほんの少しだよ。基地ももう見えて……なんだ、煙?」

「!?」

 

 その一言で、眠気など消し飛んだ。

 基地に、煙。

 

 気のせいだろうか。

 この場にはありもしない、硝煙の匂いを嗅いだ気がした。

 

「急げ」

「へ? なんだ?」

「アクセル全開で行け! 今すぐ基地に行くんだ! 早く!!」

「わ、わかった!」

 

 返事と同時に弾かれるように加速する車。

 オルガの必死の叫びは団員に絶対の命令となり、シートに押し付けられながらオルガは歯を食いしばる。

 基地のあちこちから立ち上る煙に、胸騒ぎが止まらない。

 

 早く、早く。

 一秒でも早く駆けつけなければ、何かが終わってしまう気がして。

 

 

「……着いた!」

「お前ら! 何があった!!」

 

 ドリフトしながら路上に黒いタイヤの跡をつけ、止まるなり車から飛び出すオルガ。

 とにかく、何が起きているのか知らなくては。誰でもいい、返事をしてくれ。声を聞かせて、姿を見せてくれ。

 あるいは、なんの返答もないかもしれない。

 心のどこかでそんな最悪の想像さえしたオルガの叫びは。

 

 

「あ、団長おかえりー! ……あっ、てめこらその肉俺が狙ってたんだぞ!」

「知らねーな! 名前が書いてあったわけじゃないだろ最近自分の名前書けるようになったばっかだしなお前!」

「うるせえ! ……って、脇から俺の皿に野菜入れてるんじゃねえよ!?」

 

 元気な声で、迎えられた。

 ついでに、じゅうじゅうという景気のいい音と、空きっ腹を襲う良い匂いを伴って。

 

「……な、なんだ?」

 

 オルガが見たのは、想像とは全く違う光景だった。

 そのことはいい。予想したのは最悪の事態。それが外れてくれたことは素直に嬉しく思うのだが、少々理解を越えていた。

 

 鉄華団の本拠地である基地。

 その広い地上部分の野外にいくつも据え付けられたバーベキューコンロとテーブル。

 コンロの中では赤々と炭火が熾り、網の上で肉が焼け、野菜が焼け、一部の鉄板では焼きそばも作られている。

 テーブルに乗っているのは色とりどりのドリンク類。鉄華団の年少メンバーを中心に焼いたそばから肉を食う、どこからどう見てもバーベキューパーティーの様子がそこにはあった。

 つまり、オルガが見た煙はこのバーベキューの煙、ということになる。

 膝から崩れ落ちそうになったのは、呆れではなく安堵だと信じたい。

 

 だが、一体何が起きているというのか。

 健全にして優良な企業を目指す鉄華団ではあるが、いまはまだまだ発展途上。福利厚生の充実は団長たるオルガにとっても重要視するところではあるが、今日こうして団員達とバーベキューをする予定などなかったのだが。

 

 

「おお、帰って来たなオルガ団長。ちょうどいい、一番いい肉が焼けたところだ」

「……あ?」

 

 その疑問の答えは、オルガの後ろからかけられる声の主が物語る。

 

「急げよ、団員たちに食いつくされるぞ」

「うおおおおー! この肉うめえええええ!」

「しゃっきりポンと舌の上で踊るぜ!」

 

「……あ、あんたは!?」

 

 一声聞いて、予感はあった。

 だがありえるはずがないと半信半疑で振り向いた。

 そしてその顔を目にして、予感は確信に変わり、その男が鉄華団基地をバーベキュー広場にしたのだと思い知らされた。

 

「ほれ、いいから食え」

「ラ、ラスタル・エリオン!?」

 

 セブンスターズ、エリオン家当主。

 ラスタル・エリオンが、そこにいた。

 

 

 ……しかも、ギャラルホルンの軍服を脱いで。

 ワイシャツを腕まくりして、歳の割りに引き締まって鍛えられた腕をさらして。

 その手に肉の塊を掴んだトングを持って。

 

 知らない人間に見せたら、焼き肉屋のおやじと思われかねないような格好で!!!

 

 

 

 

「な、なんであんたがここに!」

「なんでもなにも、約束しただろう。我々アリアンロッド艦隊と鉄華団の軍事行動における連携。その提案に合意してくれた礼として、肉を振る舞いに来ると」

 

 そうだっただろうか。

 そうだったような気がする。

 

 マクギリス・ファリドから提案を受けた、手を組んでマクギリスがギャラルホルンを掌握し、その後一新される世界の新体制下において鉄華団は火星の支配を任される。すなわち、「火星の王」となる。

 

 その提案を、オルガは断った。

 一顧だにする余地のない戯言、ではない。

 勝算はあったように見えた。その行きつく先が、鉄華団の目指す「真っ当」な「あがり」に近いもののようにも思えた。

 

 だが、それでもオルガは首を縦に振らなかった。振れなかった。

 「そうじゃない」「方向は合っていても、道が違う」「最短の先に断崖があったら意味がない」。誰かが、何かが、そう囁いたような気がして。

 

 

 その後、いくつかの情勢変化があった。

 鉄華団とテイワズとの関係性は変わっていない。名瀬と交わした義兄弟の契りも強いつながりとしてある。それでもマクギリスの誘いを断ったことをどうやってか知ったのか、ラスタル・エリオンが接触を持ってきた。

 

 結果、なんやかんやで鉄華団はギャラルホルン、というよりアリアンロッド艦隊と協定を結び、火星圏における行動を支える案内役兼顧問としての地位を正式に与えられた。

 これはただの便宜ではなく、来るべきときに備えた布石であり、そのとき起こるだろう戦いにおいて、団員の命の保証はできない。

 ラスタルはそう言った。

 

 オルガは、それを受けた。

 その判断が正しかったかは、これから先の未来で分かること。

 だが少なくとも、後悔はしていない。

 

 

 していないのだが。

 

「はっはっはっはっは! よく食うな鉄華団の小僧共! いいぞいいぞ、もっと食え! もちろん、野菜もな!」

「任せてくれよおっちゃん! アトラの料理も美味いけどこの肉美味いし!」

「甘い……野菜が、甘い!」

 

 なんでセブンスターズの一角を占めるエリオン家の当主が、団員たちに手ずから焼いた肉やら野菜やらを振る舞っているのだろうか。

 

 

「ふふふ、場も温まって来たようだ。では……これを出そう!」

「そ、それは!?」

「知ってるの? あんた」

 

 そしてなんか壺を取り出すラスタル・エリオン。

 驚きの声を上げる女の副官と、なぜか乗った三日月。

 ちなみにあの女、オルガがさっき聞かされたことによると副官や秘書ではなく主にモビルスーツでの戦闘を主とする女傑で、今日は護衛として来ているらしい。

 さっきから三日月と昭宏のいる卓で二人に負けないくらい肉をかっくらっているが。

 

「間違いありません。あれこそ、エリオン家に代々伝わるという伝説の……焼肉のタレ!」

「焼き肉のタレ」

 

 オルガ、オウム返し。

 おそらく全人類見渡しても上から数えた方が早いこと間違いなしのエライおっさんが超ドヤ顔で取り出したのが焼肉のタレと言われた場合にするだろう表情をしてしまっている。

 

「いかにも。300年前の厄災戦で名を馳せた英雄、かのアグニカ・カイエルも愛し、度々エリオン家に焼肉をたかりに来ては時の当主に『あの野郎遠慮というものを知らない。タレを出した途端に俺の肉まで食いやがる』と日記に書かせた、エリオン家当主が家督とともにレシピを受け継ぐ門外不出、一子相伝のタレだ!!」

――おおー!

 

 鉄華団、アグニカ・カイエルとかエリオン家当主の日記の記述の意味とかさっぱりわからないながら、なんかすごそうな物言いに口をそろえて驚きを表明。

 

「しかも!」

「今度はなんだ」

「このタレは、注ぎ足し続けて300年。……つまり! かのアグニカ・カイエルを魅了したそのときより! さらに!! うま味を!!! 増している!!!!!」

――わああああああーーーーーー!!!

 

 ラスタル・エリオン、咆哮。

 多分エリオン家の誇りとか歴史とかそういうものが詰まってるんじゃないかな、とオルガは気にしないことにした。

 とりあえず、今まさに焼いている肉に塗られたタレが炭火で焦げる匂いが良すぎたので、皿を手に取って待つのがいいだろう。

 

 

◇◆◇

 

 

「あ゛ーーー、食い過ぎた。もう食えねえ」

 

 しばらくして。

 いまだ尽きない肉の貯蔵と腹の底。鉄華団のメンバーが相も変わらずバーベキューを全開で楽しんでいる喧噪から少し離れて、オルガは椅子にどかりと腰かけた。

 

 ずいぶんと、食わされた。

 ラスタル・エリオンは情け容赦なくオルガの皿に肉を盛り、いつの間にか給仕兼調理人としてくるくると働いていたアトラが肉に負けない量の野菜を盛り、アリアンロッド艦隊との提携的にも鉄華団の胃袋を握る相手的にも断ることは出来ず、半ばやけくそに腹に入れた。超美味くて泣きそうになったのは秘密だ。

 

 そして、満腹になった。

 もう歩くことすらしたくないが、不思議と不快感はない。

 噛みしめた肉の感触も、シャキシャキと歯ごたえよく、しかし香ばしく焼かれた野菜のさわやかさも口の中に余韻として残り、むしろとても気分がよくさえあった。

 

「ぁー……こういうのも、いいかもしんねえな。今度、鉄華団だけでもやるかなあ。クーデリアのお嬢さんも誘って、ミカにエスコートさせりゃ喜んでくれるだろ」

 

 そんなことを考えながら、空を見上げる。

 腹は苦しいが、心はこの青空のように晴れやかだ。

 不思議と安らかな気持ちで、目を閉じればもうそれだけでゆっくりと眠りに落ちていけそうなほどに……。

 

 

「ほれ」

「うおおおおお!? 冷てえ!?」

 

 

 しかしそんな安眠をぶち壊す無粋がいた。

 首筋に押し付けられる冷たい感触。

 一瞬で眠気が吹き飛んで、誰がやったのか文句の一つも言ってやる、と振り向いて。

 

「組織の長がそんなことではいかんぞ、オルガ団長。ほれ、もっと食え」

「またあんたか、ラスタル・エリオン!?」

 

 今日はとことん意外な登場ばかりする、ラスタル・エリオン再びの登場であった。

 

「いやあ、アトラと言ったか。あの子の料理は実にいい。相手のことを思いやって作っているのがよくわかる。……おかげで、ついつい私も本気を出してしまった。急ぎ作ったものだが、エリオン家秘伝のタレをふんだんに使ったソース仕立てのローストビーフだ」

「あんたが何者なのか、今日一日でさっぱりわからなくなったぞオイ」

 

 了承も取らずオルガの隣に腰かけ、差し出してきたのはエリオン公手ずから作ったというローストビーフ。表面の香ばしさは目で見てもわかるようで、そこからレアに火の通った内側への色のグラデーションが美しい。

 

「これはジュリエッタも大好物でな。ほれ、あのように」

 

「私がラスタル様の焼いたお肉を一番美味くいただけるんです!」

「ふーん」

「がつがつがつ」

 

「三日月……昭宏……」

 

 そのローストビーフとやらを食べているのだろう、三人組。

 三日月が黙々と口に運び続けているということは確かに美味いのだろうし、それに張り合うようにしてジュリエッタなる護衛の女ももっしゃもっしゃと肉を食っている。

 そして昭宏も黙々と食い続けているが、おそらく生まれてこの方味わったことのない良質なたんぱく質を筋肉が求めているのだろう。数日のうちに食べた分が全て筋肉に変わり、一回り大きくなるに違いない。

 

 それと同じ肉が、ラスタル直々に皿に盛られて持ってこられていた。

 さっきまでにさんざん食べたエリオン家秘伝のタレを調整しただろうソースが肉にかかると既に満腹だと思っていた腹さえ動かし、端的に言ってとても美味そうだった。

 オルガは、ラスタルがさきほど首筋に押し付けてきたキンキンに冷えた酒の缶を受けとり、プシュウと音を立ててプルを開け、ぐびりと一口。続けて肉を放り込む。

 噛みしめると肉はしっとりと歯を受け止め、肉汁があふれる。それだけでさえ美味いのに、ソースと混じり合うとまた一段うまくなる。肉にも、ソースにもまだこんな味が隠されていたとは。この世界のことを自分はまだまだ何も知らないのだと、肉の一切れに思い知らされるようだった。

 そしてまた、酒を煽る。

 

「……ふむ、酒はまだ苦手か」

「ぐふ!? ……な、なんでわかった」

「なに、酒は飲み慣れ飲ませ慣れているのでな。年の功というやつだ」

 

 そう言ったラスタルは、これが手本だとばかりに肉をほおばり、酒を煽る。

 ごっくごっくと上下する喉仏を晒し、一息に飲み干してぐはあと息を吐く。

 どこからどう見てもただのおっさんだが、同時にそうありたい、そんなに美味い酒なら飲んでみたいとも思わせる、人を惹きつける酒の飲み方だった。

 

「鉄華団のことは多少調べさせてもらった。結成の経緯、初期から今に至るまでの団員構成とその来歴。……正直に言おう。よくやっている、というのが最初に抱いた印象だ」

「……そりゃ、どうも」

 

 オルガは残った酒にもう一度口をつける。

 やけに苦い。あんなにも美味そうに飲むことなどできそうもない。

 それが自分とラスタルとの差なのかと思うと、後味はより一層苦かった。

 

「年を取ると説教臭くなる。どうにも、昔の自分を思い出すような相手にはもう少しマシな方法があったと、かつての自分に言いたいことをそのまま相手に口出ししてしまいたくなるものだ」

「らしいな、よくわかる」

 

 しかしそれも悪くないと思える程度には、オルガも大人になったのか。

 それとも曲りなりにも信じると決めた男の言葉だからだろうか。決して、不快ではなかった。

 

 ラスタルの目は遠くを見ている。

 だがその目線が未来に向いているのか過去を振り返っているのかは、わからない。

 

「……まあ、よく食べよく眠ることだ、団長。組織でのし上がった結果がよれたスーツと色濃い隈では部下の士気にかかわるからな」

「そういう、もんか」

「そうだとも」

 

 余計なお世話、とは不思議と思わなかった。

 思えばここ数日の間、何時間寝たか。食事は何度取ったか。その食事の中に、このバーベキュー以外で温かい料理はあったか。

 ……客観的に思い返すと、泣きたくなってきた。

 

 自分はいい。そうすることが団員のために、その未来のためになるなら頑張れる。

 だが、他の団員に、三日月に昭宏にユージンたちに、そんな生活をさせたいか。

 ……いやありえねえだろ、と結論が出てしまった。

 

「そう、かもなあ……」

「それが分かれば上等だ。少し眠るといい。おそらく、いま最も必要なことだ」

 

 目蓋が重い。意識がぼんやりとしてくる。

 だが突然断ち切られるような最近の眠りとは違って、ゆっくりと温かく安らかなところへ降りていくような、あるいは天へと上るような心地がする。

 

――ああ、そうだっけなあ

 

 オルガ・イツカは思い出す。

 生まれてこの方そう何度も味わった覚えはないが、これは最高に気持ちのいい眠りの落ち方だ。

 眠れないと悩むこともない。夜中に何度も起きることもない。

 一度起きたらなかなか寝付けず、基地の中を歩き回って時間をつぶすこともない。

 きっと目覚めたときは朝で、腹が減っていてアトラが作ってくれた朝食をたらふく食べて、仕事をして、三日月たちとバカ話の一つもして、今度はちゃんと温かい夕食を食べて、また眠る。

 そんな日々を繰り返して、いつかきっと、鉄華団は「上がり」に至る。

 

 オルガ・イツカはそう願う。

 オルガ・イツカは確信する。

 

 そんな未来が自分に、鉄華団のもとに、必ず訪れることを。

 

 

◇◆◇

 

 

「ん? オルガのヤツ、寝てるじゃねえか。客もいるってのに、ありゃあ失礼だろ」

 

 たらふく肉を食べまくっていたユージンがふと気づくと、周囲にオルガがいない。

 どこにいるのかと見渡せば、バーベキュー会場と化した基地の片隅で寝こけている姿が目に入って来た。

 幸い、バーベキューグッズと食料一式を持ってきてくれたエリオン公は一時姿が見えなかったが今はまた大層楽しそうに肉を焼いているからいいとして、さすがに団長をあのまま放っておくわけにはいかないだろう。本来ならば、ホストとしてエリオン公をもてなす立場だ。

 ……ちなみに、オルガが帰って来るまでは副団長たるユージンがその役目を果たすべきところだったのだが、あまりに美味い肉に夢中になってその辺全く考えていなかったのでオルガのことを笑えなかったりするが、当人は気付いていない。

 

「よっしゃ、ちょっくら起こして……」

「いいよ、ユージン」

「三日月?」

 

 ともあれひとまずたたき起こそうと、皿にのせた肉を一気に平らげたユージンを、三日月が止めた。

 片手が使えない三日月のためにアトラがちょくちょく来ては世話を焼いていたのだが、今は給仕と料理に忙しいらしくそばにいない。左手に持ったフォークで刺した肉をかじりながら、オルガを見ている。

 

 きっと、最近の三日月しか知らない新入り団員なら驚くだろう程、優しい目で。

 

 

「休ませておいてあげよう。オルガはきっと、死ぬほど疲れてる」

「……そう、だな」

 

 

 オルガ・イツカは夢を見る。

 幸せな夢を。悪夢から最も遠い夢を。

 安らかな寝顔で見る鉄華団の未来の姿は、仲間の、家族の笑顔に満ちている。



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