Fate/GrandOrder GhostFriends (beta)   作:影色の烏

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投稿無駄に遅れました。すみません。


alpha-4

取り敢えず、ロマンにお詫びとしてプリンをご馳走になる事になった。

ヤバい、カルデアのプリン滅茶苦茶美味い。

 

「ははは、凄くがっついてるけど、そのプリンは貴重だから、もっと味わいながら──」

 

「もう一つおかわり」

 

「やめて」

 

断られてしまった。流石に5個目は駄目か。

ちなみに、甘い物が特別好きではないが、甘い物でも食べたくなったので、食べている。

 

「ご馳走様。また頼むわ」

 

「もうやめてください……」

 

「もうその辺にしといてあげなよ」

 

等と橘は言っているが、彼女はプリンを10個程食べている。

俺は優しいので、口に出して文句は言わないが、その何個かを分けて欲しかった。

 

「コホン。では改めて自己紹介をしよう。僕はロマニ・アー」

 

「「知ってる」」

 

「あ、うん」

 

取り敢えず、変な空気をぶち壊したかったのか、突然自己紹介を始めようとしたので、2人がかりで阻止する。

 

「じゃあ、月宮くんから。私は一応昨日ちゃんとしたし」

 

「俺は月宮だ」

 

「……いや、それは知ってるよ」

 

ちゃんと自己紹介しているつもりなのだが、何が不服なのだろうか。

 

「ほら、下の名前とか」

 

「いや、初対面の人に下の名前名乗るの怖いし…」

 

「もう初対面じゃないよね!?何なら同僚だよ!?」

 

「あれ?どちら様ですか?」

 

「何?君そっち?それ天然?ボケだよね?ボケてるんだよね!?」

 

「…冗談だ」

 

これ程のつまらない冗談を真面目に返されるとは思わなかった。

まあ、実際下の名前は余り名乗りたくない。一般的な名前でない事は既に明確だし、もし馬鹿にされる可能性があるなら、それは避けたい。

余り揉め事を起こしたくないからだ。

 

「何だ、冗談か…なら良かった」

 

「……小詠だ」

 

「こえい、って言うんだ。どう書くの?」

 

「……小さいに、難しい方の詠む。だ」

 

「へー。…私はね、人に富むと書いて、ひとみって読むの。珍しいでしょ?」

 

突然どうしたのだろうか。……いや、これは──。

 

「一緒だねっ」

 

気を、使われているのか。

とことん良い奴だな。そう思った。

俺よりも遥かに人らしい。人として、素晴らしい。

そう、心の何処かで彼女と線を引いてしまった。

 

「お兄ちゃんと合わなさそうだね。殺す?」

 

いや待て、その理屈はおかしい。

……こいつは本当に何者なのか。頭が回れば回るほど、気になってくる。

 

「今は分からないよ。お兄ちゃんには」

 

むぅ、そういう事を言われると気になって仕方が無いような気がしてくるが、ここは深く考えすぎても無駄なのだろう。俺は考えるのを止めた。

 

「あっ、そうそう。今日の月宮くんの予定なんだけど」

 

「何をさせられるんだ?」

 

「ははは、そんな身構えなくてもいいよ。昨日延ばしてしまったシュミレーションを今日改めてするよ。それと、健康診断。ああ、魔術方面の方なんだけどね」

 

シュミレーションの序に、健康診断。それも魔術方面。確か、魔術師には色々なのがあったな。魔術回路という魔術を行使するのに最低限必要不可欠な物とか、魔術属性。起源とかいうのだったか?それもだったか。

 

「別に痛いことする訳じゃ無いし、大丈夫だよ。多分」

 

おい待て、今この男多分とか付けやがったぞ。

 

「大丈夫だよ、月宮くん」

 

「橘……」

 

橘が大丈夫だと言うのならきっと、大丈夫なのだろう。

 

「多分」

 

「橘、お前もか」

 

 

 

 

 

 

「はい、お疲れ様でした。それでは医務室の方の、Dr.ロマン……ロマニ・アーキマンという方の元へ行ってください。勿論、今日中であれば、休憩を挟んで貰って構いません」

 

サーヴァントがいかに凄いか。そしてそれを扱う術を教えて貰った。

が、何あれ。滅茶苦茶じゃん。

滅茶苦茶気分悪くなるじゃん。

滅茶苦茶酔うじゃん……。

 

「ぁぁっ……くそっ…吐き気が……」

 

「お疲れ様」

 

「お疲れー」

 

気分が悪いので、そこら辺にあったベンチに腰掛けて愚痴を零していると、目の前から声がした。

どうやらロマンと橘の様らしい。

 

「………ああ」

 

「…その様子だと、相性悪かったみたいだね」

 

「まあ大丈夫だよ。平気平気」

 

「…ここで……吐いていい?」

 

「「待って」」

 

駄目だ。もう限界かもしれない。

 

「ちょっ、ちょっと待ってて!今すぐバケツ持ってくるから!」

 

「ロマン!早めにね!」

 

「分かってるよ!」

 

「ウッ」

 

駄目だ……。

 

「す、直ぐにロマンが持って来てくれるから!」

 

「あ、先輩こんにちは」

 

「ま、マシュちゃん!?」

 

「……マシュ?」

 

「えーっと、あの……お邪魔でしょうか?」

 

「あっ、いや、うん。そのー、何ていうか」

 

マシュ…確かあの資料の中に載っていたような……。

いや、そんなことより、吐き気が凄い!吐き気が凄すぎて関係ない事が次々と出てくる。

ロマン早く来い。早く来てください。お願いします。何でもしますから。

 

「おまたせ!バケツ持って来たよ!」

 

「ホムン…クルス」

 

「えっ?ど、どうしてそれを──」

 

「うぉぉぉえ」

 

 

 

 

「今、お兄ちゃんがとんでもない事になってるから、可愛い可愛い私の姿でも妄想しててね、お兄ちゃんっ」

 

 

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「……あ、ああ…何とか、何とかな。吐いたらスッキリした……」

 

途中何か口走ったが、恐らく適当な事でも言ったのだろう。意識朦朧としてたし。

 

「あ、あの。それでですね……」

 

「……確か、マシュ・キリエライトだったか?」

 

「あ、はい。マシュ・キリエライトです。よろしくお願いします」

 

「……で?」

 

「いや、あのですね……」

 

「まあまあ、イライラしてるからって、そんな責めなくても」

 

……これもイライラに入るのか……。

イライラとか、そういうのは正直良く分からん。

 

「……そうか」

 

取り敢えず生返事をしておく。

 

「カウンセリングとか受けるかい?」

 

「宛にならないから遠慮しておく」

 

「いや、僕じゃないんだけどなぁ……」

 

「……信用にならないから、止めておく」

 

「ははは、世知辛いなぁ……」

 

そう、結局の所そこだ。どうしても、信じにくい。本当に大丈夫かと、安全かと、人に投げかけてしまう。

……この性格はそうとう損している。それは分かっている。だが、……怖い。

 

「大丈夫?」

 

「え?あ、いや。まあ、大丈夫だ。……部屋に行って落ち着かせて貰う」

 

……柄でもない。普段の自分ではない、何かが俺の口を通じて喋っている気さえしてきた。

今日の俺は本当に可笑しい。

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。貴方はそのままでいいの」

 

ああ。その甘美な言葉を俺に投げかけるな。

 

「お兄ちゃんはそのままでいいの。ずぅっと。これからも、これまでも」

 

やめてくれ。

気が狂ってしまう気さえする。

 

「お前が怒る度、我の怒りの炎に油が注がれる。お前はそのままでいいのだ」

 

 

 

 

 

 

 

「やめろッッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

…………夢、か?

……夢だ。そう、これは最近良く見させられる悪夢。

あの悪魔のような少女に見せ続けられている夢。たった二日間の記憶。だが、それを、ここ一ヶ月見せられている。

まるでこれから起こることの予言をしているかのように。

 

しかし、もう、内容は忘れた。

 

いや、悪夢を見ていたと、恐ろしい様な何かを見ていたのは分かる。それだけは憶えている。だが、それが誰で、何が起こったのか。それら事象を一切思い出す事が出来ない。

……それだけが辛い。例え、誰かに「悪夢を見てしんどい」と伝えても、すっきりとしない。

結局はどんな悪夢を見たからしんどい。と、相手にしっかりと伝えなければ心の蟠りは解決しない。

 

「小詠様失礼します」

 

「……入れ」

 

既に襖を開け、部屋へ一歩足を踏み入れている家政婦に言う事では無いが、形だけでも言う。

 

「大丈夫でしょうか?小詠様」

 

「……ああ。また、悪夢を見ていただけだ」

 

「……ドリームキャッチャーには反応がありませんね。悪戯というものでは無さそうです。心当たりは?どうでしょう?」

 

「いや、無い」

 

そして、誰かにあの悪魔の様な少女の事を告げる事ができない。

 

「…………そうですか。もしよろしければ、横に居りますが、如何でしょう?」

 

「……いや、大丈夫だ」

 

「そうですか。畏まりました。……それでは、失礼します」

 

「ああ……」

 

……人理継続保障機関カルデアがこの村に来てから、もう二週間が経った。俺は恐らく、来週にはカルデアに居ることになるだろう。

あの少女の思惑は分からない。

俺がどうすればいいのかも分からない。

ただ、分かるのは、何も考えなければいい。

 

それだけだ。


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