Fate/GrandOrder GhostFriends (beta) 作:影色の烏
次回からはきちんと真面目に書きます。
なんとか、迷わずにレフと会った場所に戻ることができた。問題はここからだ。ふらふら歩いていたから、最短ルートの事が気になるし、それに、帰り道をよく覚えていない。
覚えてないが故に、最短ルートが気になる。こちらが正当な理由だ。
さて、ここからどうしたものか。あのひみつ道具でもあれば帰れそうな気がするが、持っていないものは仕方ない。今日は、教授以外と出くわさなかったし、そこら辺に人の気配がする訳でもない。
ふらふら歩いたって、見付からないものは見付からない。本当に困った。
等と悩んでいる所に、誰かがこちら側へ歩いてくるような音がした。
この際誰でもいい。頼れるのならば頼らせて貰う。
その音のする方へ向かう。勿論、待ってても良かったのだが、眠たくなってきた事も相まってつい向かってしまった。
「すいません」
「ん?」
相手は女性で、俺と同じ位の歳だろう。そして、俺と同じような制服を着ていた。それが指すのは、この娘は職員ではなく、いや、正確には職員だが、スタッフではない、俺と同じマスター候補とか言うのだった。
「あれ?初めましてだよね?」
「はい」
「新人さん?」
「はい」
自分でも、信じられない程素直に答えるが、別に緊張している訳ではなく、ただ、早々に事を済ませる事が目的だからだ。単に眠い。
「同じマスターさんなんだよね?」
「はい」
「そうなんだー。私、
「月宮小詠だ。よろしく」
「で、何のよう?」
やっと本題に入れるか……。
「今日来たばっかりだから、部屋の場所が分からなくて……」
「ようは…迷子?」
「そうだな」
「そっかそっか。部屋番号言ってくれたら、一応案内できると思うよ?」
「部屋番号は…」
あれ、 番号あったっけ?あの部屋。
いや、無いな。隣の部屋にはあったが、俺の部屋には無かったはずだ。というか鍵の説明もされてないし、してない。
ヤバい、どうしよう。いや、貴重品は無いし、大丈夫な筈だ。
「どうしたの?」
「いや、部屋番号は無いんだ」
「……じゃあどこなの?」
なるほど、いい奴だ。本来なら、「じゃあ、ここでね」とか言って諦めるもんだが、こういう人間に手を差し伸べようとするのは、簡単に出来ることじゃない。
まあ、ベタ褒めしても、心の中だから、届く訳が無いんだかな。
「そうだね、お兄ちゃん」
また少女の声が聞こえた。
どうやら目の前の橘の後ろに居るらしい。
「そこじゃないよ」
じゃあどこなんだよ。大声を出して、文句を言ってやりたいが、眠い。取り敢えずさっさと、物置だという事を伝えて、何かしらヒントを得たい。
「どうかしたの?」
「…いや、すまん。少し眠くてな」
「あ、そうだよね。今日来たばっかりなら、もう眠いよね。私も廊下で倒れちゃってさー」
「そうか」
「うん、で、どんな部屋なの?」
「元々は物置だったらしいんだが…」
「物置?うーん……多分あそこの部屋かな…?何か、この前段ボール運び込んでたな……。うん、多分知ってるよ!」
多分かい。
「変な娘だねー。私に頼めばいっっっしゅんで着けちゃうのに」
それ絶対裏あるだろ。
「案内頼めるか?」
「うん!いいよ!」
「じゃあ、頼む」
そういえば、不思議な事だが、俺にとっては本来生者の方が不快に感じる。
これは疲労関係なくだ。
死者の方が圧倒的に心地好い。
何故だ。それが疑問で仕方ない。
だが今はそんなことより、無事部屋に戻ることだけを考えよう。考える事などいつだって出来る。暇さえあれば。
「多分こっちだったと思うんだけどな……」
つくづく不安になるな。
「ここ、だったかな?」
「…ああ、ここだな。ありがとうな」
最早限界だ。早々に感謝を告げ、ベッドへと急がなくては。
「うん!また明日起こしに来るね!」
「ああ……おやすみ……」
何かを言っていた様な気がするが、きっと、気のせいだ。
などと特に考え無しにベッドに潜り込んだが、これがちょっとした事故に繋がるとはその時俺は思いもしなかった訳だが。
「…よー…は……お………よー……おはよー!!」
突然耳元で変な声が聞こえたと思えば、突然、大声が聞こえた。耳が痛い。外からの刺激に対してまだ理解しかねる頭は取り敢えず、この障害を跳ね除けようと、手を出した。
それは、何の変哲もない。ただの払いであったが、相手がいけなかった。
相手が誰と、理解していれば、あんな事故は起きなくて済んだのに。ああ、悲しきや。
そう、事故とは。今時こんなベタな展開があってたまるか。
そう、橘の胸に手が思いっ切り刺さってしまったのだ。
お互い不意だったし、何せ俺は寝惚けていた。正直悪くないと思う。
というか何でここに橘が居るかも理解できない中で、更に理解の出来ない事が起こったのだ。当然、思考は完全にフリーズする。
「えっ?」
「……ん?」
お互い気付き始めた頃には内心「しまった」と思っただろう。というか実際思った。
どうすればいいものか、いやいや、まずは離れるべきだろう。離れて謝罪の一つ入れて、事を穏便に済まそう。うん、それがいい。そうしよう。
等と、考えている余裕があったのが俺の失態だった。
「おはよー!月宮くん!ロマンのお兄さんが朝をお知らせに来た──」
そう、まさか、ここに、ロマンが来るとは誰も思わなかった。
「………ごゆっくりー…」
「ち、違うんです!違うんですよ!ロマンさん!」
「いやー、一日でそんな仲にまで発展しちゃうとは思わなかったけど、楽しそうならそれでいいかなって、あはははは!」
「ちょっと話聞いてくださいよ!?」
「それじゃあ僕はこれで失礼するからね!他のスタッフには内緒にしててあげるから!!ちくしょう爆発してろ!」
「だーかーらー違うんですよぉぉぉ!!!!!」
そう言って、足早に部屋を出ていくロマンと、それを追いかける橘。
おのれロマン。許すまじ。
……取り敢えず、顔洗おうか。……あれ?洗面所とかないよな。今思えば、部屋には何も設備無くね?
「取り敢えず、ロマンを問いただせばいいや」
よし、そうしよう。それがいい。そうすれば多少なりともこの気は晴れるのだから。
待っていやがれこの勘違い野郎。
「うん、何か、ごめんね?そのー…僕、何だか、勘違いしてたみたいで」
「分かって頂けたらいいんですよ。分かって頂けたら。ねえ?月宮くん」
「ああ、その通りだ。分かれば良い」
「はい、すみませんでした」
取り敢えず、ロマンくんと少しお話して、誤解を解いていただいた。
「でもやっぱりそこまで言うって事は──」
「おい、ロマニ・アーキマン」
「ひゃ、ひゃいっ!な、何でしょうか!!」
「それ以上、余計な事を言うなよ?」
柄でも無く怒ってしまった。
まあ、橘と、そういう関係だと誤解されるのは不服だからだ。
橘は良い奴の部類に入るのは、恐らく当然なのだが、それでも、俺は受け入れれない。
「あ、あと月宮くん、さっきはごめんね?」
「……別に良い、あれは事故だった。違うか?」
「あっ、うん。そうだよね。……もう起こしに行かないよ」
「ああ。起床時刻は何時だ?」
「うん?ああ、特には決まってないよ。でも、今日は昼からシュミレーションがあるから、なるべく早く起こした方がいいかなって思って、九時位に起こしたんだけど……」
……九時?ああ、そうか、時差ボケか。
普段は、早起きな方だから、一瞬面食らったが、そういう事か。なら大丈夫だな。
「まあ、一応橘、こっちからも詫びをいれる。申し訳なかった」
「ううん、全然構わないよ。だって、事故だったんでしょ?」
「……ああ。そう言ってくれると助かる」
「ん?事後?」
そういう冗談もういいから。