『や、止めて!!お願い、何でも――』
「死ね、俺はそんなの必要ない。夢も絶望も見ず、静かに眠れ」
響介は任務でドイツ軍の基地に襲撃を掛けていた。防衛に当たっていたIS部隊全員を残らず殺し、ドアも右腕を使って破壊して中に侵入していた。
『テロリストだと!?クソ、ハイエナが!鼻だけは――』
「そのハイエナに狩られる動物が、何をほざいてる?」
『は、早すぎる!まだ報告があって数分しか経っていないのに!』
「ハッ、緊急脱出装置でも着けてりゃ逃げれたかもなぁ?ま、後の祭りだがな」
【贄姫】にエネルギーを充填し、焔の様な余剰エネルギーを立ち上らせる。それを真横に振るうと、決して消えない黒炎が研究者達の命が燃え尽きるまで苛み続ける。苦しみ、呻き声を上げる研究者の身体を踏み、蹴りながら更に奥へと進んだ響介は、カプセルが大量に並ぶ部屋へと辿り着いた。
「....これが
其処に並ぶのは数多のクローン。いや、正確に言えばクローンではない。この世界で最強と言える個体と特異個体の遺伝子をベースに改良を重ね、世界最強の【生きた兵器】を作り出す為の実験体だ。そしてその複製元の人間は【織斑一夏】、【織斑千冬】の姉弟だった。
だが、響介はそんな事を気にしない。何故なら覚えていないから。見覚えがある『かもしれない』、その程度の認識なのだ。
「安心しろ、俺が殺してやる。この世界の汚い部分を見なくても良いし、苦しみを味わう事もない。痛みは無く、殺してやるよ」
彼はまるで踊る様にカプセルを1つ1つ斬り捨て、まだ柔らかい身体を斬り裂いて命を奪う感触を手で感じる。そして勝手に生み出された命が自分の糧になっている事を実感する。響介にとって、生身では重いにも関わらず持っている
(こんな所か、案外呆気なかったな。クローン部隊との大規模戦闘、とか地味に楽しみにしてたのに。さっさと帰るか。任務は終わらせたしな)
響介は踵を返し、【絶月】を展開して帰還しようと贄姫を天井に向ける。明らかにぶち抜いて帰るつもりだ。だが、ISを展開した事によって強化された聴覚が極々小さな音を聞き取った。もう消えかけている、本当に小さな言葉を。
「....なんだ、死に損ないか。浅かったか?」
「そう.....ですね....だから、わたしと...おはなし、してください」
変わった後の響介なら、そんな言葉は聞き入れずに早々に殺して帰還しただろう。だが、響介は気紛れを起こしてしまった。故に響介は死に損ないの少女の話を聴く。恐らく、苦しみを味あわせてしまった罰ゲーム感覚も混ざっている。
「わたしたち、も...いきてました....いえ、いきたかった.....」
「そうか」
「でも、わたしはむりでしたね...そもそもの、はなし....からだが、けっそんして、ますから」
「......成る程」
確かに少女の右腕は無かった。ほぼ確実にクローンを生産した上で予期しなかった染色体異常だろう。確かにこのままでは人体実験に身体を使われ、マトモに生きる事は出来なかったハズだ。
「あなたは、いっぱいひと、をころした...ん、ですか?」
「あぁ、殺したよ。そしてこれからも――」
「でも...やさしくて、あったかいひと....」
「は?話聴いてたか?俺は沢山人を殺したんだぞ、優しい訳が無い」
「でも、きっとたくさんのひと、たすけたはず....です。だから、だれかが...あなた、をたすけようって...して、ませんか?」
「さぁな、人の本心なんて誰にも分かりゃしねぇ。どっちもな」
「まだ、うまれてすぐ...あぁ、うまれて、ませんでしたね...わたし...でも、わたしにも、わかりますよ....」
「なにが?」
「こわ、がらないで....あなたが、なにかをこわがって....にげて、ることは...」
「.......」
「.....わたし、いきたかったです.....でも、いたくないからこわく、ない....あなたは、いたみをあたえて、ころす...ことだってできた、のに....くるしいの、あたえま、せんでした....だから、やさしいひと...」
「そんなの、お前の思い込みだ。俺はそんなに成人君子みたいな人間じゃねぇ。痛みが無いのはただの気紛れだ。偶然だ」
「しんだ、せかいで....じまん、できます...わ、たしはたち、みんな...なまえ、ないけど...だれか、と...おはなし、できたって....」
「...赤羽響介だ。誰か、じゃない。俺はだ」
「えへへ....うれ、しいなぁ...きょうすけ、さんと....おはなし、できちゃったぁ....ちょっと、だけだったけど、わたし、うれしいなぁ。み、んなに...おしえ、なくっ、ちゃ....おは、なし...できたって、みんな、に.....」
「おい.....死んだのか。ッ............」
響介は悩んだ。今すぐ帰還するのか、それとも少し残って何かをしてから帰還するのか。そして響介は――
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「貴方にしては少しだけ遅かったわね、響介くん」
「たまにはそんな事もある。さっさと帰るぞ」
「はいはい、じゃあ帰るわよ」
スコールが先に帰途に着いた事を見届けた響介は少しだけ立ち止まって呟いた。
「...俺が優しいかどうかは知らねぇが、少なくともお前との会話は有意義だったぜ。....あばよ、名無しの眠り姫」
研究所の、剣で斬られた様な傷が目立つ部屋。其処にはある光景が広がっていた。天井に開けられた穴からは日の光が射し込み、その陽射しの中にはカプセルから出され、安らかな顔をした少年や少女達が瓦礫の山に座り、息絶えていた。
山の頂点には、鉄骨を曲げられて作られた十字架が突き刺してあり、床にはシンプルな言葉が英語で彫り込まれていた。
『