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「.....朝だな。さっさと出るか」
目を開けた所に見えたのは綺麗な朝日ではなく、どんよりと澱んだ曇り空。少し肌寒さを感じるが、それはISの機能を限定的に使って調節する。倦怠感が身体を襲い、身体が休眠を求めている。だが、休む気は響介に無かった。
--どうして全部を私に委ねないの?貴方はもうボロボロなのに
「なんでだろうな。....お前に、勝手に【祈り】を捧げていた事に対する償いなのかもな。少なくとも、戦いが終わるまで
そう、寝ていないのだ。響介はあくまで目を瞑っていただけ。意識は半分微睡みの中にあるが、何かが近寄れば直ぐに目覚める上にやっているのはただ単に視界の情報を遮断して脳が処理する情報量を減らしているだけ。確かに身体も休まりはするが、根本的な部分は変わらない。響介の身体は疲れきっているのだ。
それは薄氷が張っている湖の上で踊る様に危うい事だ。ドミナントの常人離れした耐久性と回復速度の速さだけで成り立っており、少しでもバランスが崩れれば直ぐにでも倒れてしまうだろう。
「大丈夫だ、安心しろ。俺は独りで戦える」
--もう、傷付く必要なんて無いのに....
彼女が言う言葉に笑みを漏らす。何だかんだ、自分を心配してくれている彼女に癒されるのだ。響介にとっての現実、望んだ彼女が其処に居る。
だが、実際は違う。『彼女』は他人には見えない。声すら聴こえない。俗に言うイマジナリーフレンドにも似ているが、本質は全く違う。彼女は響介の本能、即ちドミナントとしての能力が結集した
--貴方の目的を達するなら、私に委ねればきっと直ぐに達成できる。それでも委ねないの?
「目的、目的か....何だったっけな。もうそれすら灼けちまった。でも、このペンダントをくれたヤツの事だった。名前は.....確か....アイン、だったかな。名前しか覚えてないし、どんなヤツだったかも覚えてないけど、IS全部墜とせばこの世界は変わるかな?」
--知らない。私にとって世界なんてどうでも良いから。でも、貴方が世界の変革を望むならやってあげるよ?
「悪いけど、これは譲れねぇ。なんつーか...俺が、記憶が灼けても赤羽響介である事を証明したいから。それをやって貰ったら、証明できないだろ?」
--そう....でも私はいつでも待ってる。それだけは覚えておいてね。
「あぁ、覚えておくよ」
そう言うと彼女はクルクルと回り、舞を舞い始めた。ただ気ままに回り、楽しそうに笑う姿を見て笑いながら歩く。先程の戦いでバイクが鉄屑になってしまったので歩いているのだ。終わりが見えない道路に、苛立ちを覚えながら進む。
少し疲れたので木陰に座り込み、水を飲んでから何となく【贄姫】を喚び出してみる。IS殺しの両刃剣には少しの亀裂も歪みも無いが、剣自身が疲弊している事を感じた。確かに【絶月・災禍】は継戦能力はかなり高いのだが、整備を欠かせばその能力を生かす事無く終わってしまう。別に贄姫だけでなくとも【ドラグ・ファング】を始めとしたBT兵器もあるのだが、それすらも使い過ぎればガタが来てしまう。やはり完全に孤立している状態では戦うにも限りがあるのだ。
(贄姫もファング系統も整備が要るな。機体本体はまだしも、マントを使ったのは痛手だった。かなり高性能な盾代わりだったんだがな.....)
マントはその辺の布を身に付けていた訳ではない。今の響介は覚えていないが【
(何処かの組織を無理矢理バックにするか?いや、強制すれば不満が溜まってその内足元を掬われる。まぁ良いか。戦闘に介入する回数を減らせばその分戦える時間も機会も増える。そうした方が良いな、面倒も減る)
あくまでも理性は何処までも冷静に戦う為の手段を考え続けている。確かに響介は狂っている。だがそれは頭がおかしくなり、気を違えた訳ではない。頭のネジが1本どころか数本纏めて吹き飛び、冷静な思考を保ったまま本能に身を任せている。故に響介は過去に身に付けた考え方を無意識下で処理し、抑える事を止めた本能で蹂躙するのだ。
(それはそうとして、俺は何処に向かえば良いんだ?アイツらの追跡を振り切る為にシャットダウンしてるのは良いが、なにせ地図が見れないからな。....携帯も無いし、
少しして、唐突に咳が出た。口を押さえると、掌には血がこびりついていた。
(絶対防御が発動してない?.......いや、違う。
少し考えれば簡単に分かる事だった。ISのエネルギーが使われるのは殆ど機体と操縦者の身体保護であり、武装に使われるエネルギーの方が少ない程だ。だからこそ絶対防御は発動に凄まじいエネルギーを使い、それを貫通してダメージを与えられる能力は世界でも最強と言われるのだ。
確かに響介には【凶星】によるエネルギー生成があるが、絶対防御が発動すればエネルギー収支は赤字なのだ。だから、絶月は確実に攻撃に傾けた、傾けすぎた機体と言える。もう少し言えば、白式の究極系とも言えるのだ。
「そんなのは関係無い。俺は戦える.....まだ、戦えるんだ。.....独りで、まだ.....」
彼は歩く。先の見えない、鬼を喰らう羅刹の道を。