IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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自壊

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 いつも通りの日常。響介は今日、ちょっとした用事で家を出ていた。中で留守番しているのはアリシアだけで、静かな家はちょっとだけ寂しくなるが、それを上回る程に新鮮だった。

 

 (そう言えば、此処に来てからはずっと響介と一緒だったなぁ。...依存はしてると思うけど、好きなんだもん。うん、仕方無いよ)

 

 そう自己完結した所で、編み物をまた再開する。どれだけの間療養出来るかは分からないが、ハンプティ曰くこの場所は冬が早く厳しい為セーターを編んでいたのだ。響介は黒と赤の、自分の物は白と青のセーターだ。

 窓際で揺り椅子に揺られながらセーターを編んでいたが、今日は少しばかり昼寝に丁度いい気温だ。少しだけ、少しだけだから、と思いながらアリシアは眠りに就いた...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ッ!?」

 

 流石は最高戦力の1人と言った所か、異変に気付いて跳ね起きた。窓は塞がれ、扉も板を打ち付けられて閉じられていた。どんどんと上がっていく様に感じる気温は少なくとも気のせいでは無いだろう。若干の息苦しさも感じる。酸素が無くなっていっている証だろう。

 

 (どうして!?私達が【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】の一員ってバレる要素は無かった。少なくとも、バレてたとしても実行に移される事は無いと思ってたのに!)

 

 頭の中に浮かぶのは脱出の手段よりも何故自分達の家が襲われたという考察だった。喉が焼けつく様な感覚と共に、どんどん身体が暑くなってくる。流石に限界だ、そう判断した身体が防衛本能を発動させ、もう1つの人格を呼び出した。

 

 「チッ!!理由を考えるのは後かね、さっさと脱出しなきゃね!」

 

 ジェミニは切羽詰まっていたのだろう、当たり前だ。自分の存在が危ぶまれる...もっと言えば、自分が果たすべき使命を果たさなければならないのだから。

 だがジェミニは1つだけ過ちを犯した。脱出する際、響介に「襲われたが生きている」と一言通信を入れるべきだったのだ。そうでなければ彼は、響介は.....狂ってしまうのだから。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 「な.....どうして...」

 「お、アンタも参加しに来たのかい?でもちょっと遅かったなぁ~。もうちょっと早く来てれば派手に燃えてた所が見れたのに、惜しかったな」

 「参....加?」

 「おう、この辺の女は全員女尊男卑に染まっててな。だから、()()()()()()()()()()()()()()!」

 「殺したら...後継ぎとか、恋人とかはどうするんだよ」

 「こんな田舎なんざほっぽり出して、都会に行くよ。正直、なんも無くて飽き飽きしてたからな」

 

 響介は頭の何処かで、何かに皹が入る音が聴こえた。それでも、と燃え尽きた家の内部を見ると、辛うじてまだ判別できるものがあった。黒焦げの、良く見ないと判らない程に焼け焦げたセーター。少し大きめのセーターは自分の物だろう、そう認識したと同時にその身を焦がす様な怒りと哀しみに襲われた。

 自分が用事なんて無視して家に居れば、もっと車を飛ばして帰って来たなら、アリシアは死ななかった。少なくとも、苦しみを味わう事は無かったハズなのだ!灼ける、灼ける、記憶が灼ける。自分が灼き切れていく。どうにかアリシアという存在で、アリシアに勝手に託していた【祈り】でどうにか保てていた赤羽響介という存在が、稀薄になって憎悪に呑まれていく。

 

 「燃える、燃える。燃えてるのは誰だ?」

 「ん?おい兄ちゃん、何を言って--」

 「--あァ.....アレは多分.....」

 

 おかしい、の一言に尽きる。右手に召喚したのは【オルトヴルム】のハズだった。だが、今の響介が握るのは焔の様に揺らめく『闇』だった。

 恐らく気が良かったであろう青年の喉を貫いた闇は形を変えて、たった1本の長剣へと姿を変えた。【絶月】を全て展開しても、今まで装備されていた装備は無い。全ての武装が合わさってこの長剣へと変じたかの様だ。

 

 「【贄姫(にえひめ)】.....クク、ヒヒヒヒ、アハハハハハハハハ!!!自らの姫を贄に捧げる剣か!今の俺にピッタリな剣だな!.....アリシアを殺したも同然の、罪深い俺に」

 

 まるで数十年使い続けた剣の様に手に馴染む。軽く振っただけで3人の命を刈り取る程に威力が高く、また羽のように軽かった。

 

 「あ、あんた男だろ!?なんで....あ!確か2人目の--」

 「喰らってやる、殺してやる、狩り尽くしてやる。安心しろ、命に貴賤は無いんだからな」

 「ひ、ヒィッ!!」

 「痛いか?でもな、アイツの痛みと苦しみの1割もお前は味わってない。死んで償え」

 

 生身の人間がIS--しかも機動力に特化した【絶月】から逃れられる訳もなく、例外無く命を奪われた。だが、まだ終わらない。最寄りの村へと向かい、人々の命を奪っていく。老人子供関係無く、首を跳ねたり心臓を貫くなど、労力は最小限にする為に。

 1時間ほど虐殺を続けていただろうか、いきなり足元に銃弾が撃たれ、頭上から声が聞こえてきた。

 

 『其処の所属不明のIS、抵抗を止めて武器を捨てなさい!さもなくば、私達の全力を以てして罪を償って貰う!法の裁きを受けたくば、早急に投降しろ!!』

 

 何も悪に染まっていない真っ当な軍人の言葉だった。3人1組の舞台で、全員がアサルトライフルを構えて響介の動きに最大限警戒しながらジリジリと空から近付いてくる。

 少し前までの響介なら真っ当な軍人の言葉ならしっかりと聞き入れ、撤退はしただろう。だが、今の響介の状態は正常から遠くかけ離れている。ぞっとする程に美しく、陰惨な笑みを浮かべると響介は飛翔する。

 

 『止まれ!』

 「ッ.....クソ、当たらないか」

 

 いつも訓練を繰り返している軍人に、直前まで療養して訓練どころかマトモに戦闘機動すらしていない響介が彼女達の動きに着いていける訳もなく、シールドバッシュで弾き飛ばされて地面に墜落する。視界が明滅し、身体が上手く動かなくなる。

 しかし、狂った者はこの程度では止まらない。目の前で舞う想い人の虚像を見た響介は再び動き出す。彼女に手を伸ばし、近付いてきた彼女はこう囁いた。

 

 --私が響介を導いてあげる。だから、人を捨てても大丈夫だよ。私が響介を繋ぎ止めるから。

 

 そう言われたのなら後は容易かった。自分を人間たらしめる、無意識に掛けていたリミッターが外れた気がした。数ヵ月伸ばしっぱなしだった髪が、一切の黒を残さずに白くなった。まるで、響介の人間性を喰らったかの様に。

 

 「あァ.....俺を導いてくれ、アリシア!」

 『アリシア...?一体それは--』

 「オイオイ、んな事言ってる場合かぁ!?」

 『動きが...速くなった?』

 

 響介の視界には糸を紡ぐアリシアが映っている。アリシアが紡いだ糸はこの空間の至る所に張られ、アリシアと繋がる響介に全ての動きをダイレクトに伝える。不意打ちや意外な動きはアリシアが耳元で響介に知らせる為、例え後ろを取ったとしても直ぐに避けられる。

 幾らハイパーセンサーで見えていたとしても、後ろから飛来する高速の銃弾を回避する事はとても難しい。予測でもしなければ、の話だが。

 

 「先ずは1人」

 『嘘だ、ISが墜ちるなんて--』

 「次にもう1人」

 『た、隊長!助けて、助けてたいちょ--』

 

 命乞いなど響介が聞き入れるハズがなく、心臓とコアを纏めて貫かれる。それに激昂した隊長と呼ばれた女性は響介に銃を乱射する。導きに従って後退した響介は、今まで左手に持っていた【贄姫】を右手で逆手に持った。

 脚の薬莢を2発同時に激発させ、一気に距離を詰める。更に右手の薬莢を全部使いきって超速の連斬を繰り出した。通常ならもう打ち止めだ。何故なら響介の義手と義足に装填できる薬莢の限界数は20発、それ以上装填するにはIS学園かイグドラシル号で補充する必要が有るからだ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そっくりそのまま、響介と【絶月】の最適化(フィッティング)が終了した今、【ヤタノカガミ】の起動で消費されるSEは無いにも等しい。余剰分のSEは【絶月】の能力の底上げと薬莢の無限化を果たしていた。実体の薬莢ではなく、SEを利用したエネルギーの薬莢を幾らでも装填できる。止める手段は、機体各部の【凶星】を破壊する事だけだ。

 

 「最後の、1人」

 『ガァッ......この、化け物が....』

 

 攻防一体、2つの槍と1本の剣に使われていた【ヤタノカガミ】を集約した【贄姫】には咄嗟に構えた盾も無意味。防御ごと喰らい尽くし、コアを破壊する。零落白夜と同じ...いや、ほぼ完全な上位互換である贄姫が絶対防御に阻まれるなど有り得ない。心臓を貫き、操縦者は絶命した。

 

 「化け物、か。ハッ、元々ドミナントは化け物と同じ意味だ。今更人間とか言われた所でって話だな。...そうだろ?アリシア」

 

 自分だけにしか見えない彼女に話し掛け、車庫に入っていたバイクを盗んで走り出す。もう持ち主は響介が殺したのだ、このまま放置されて朽ちるよりは良いだろう。ISの展開を解除したにも関わらず白いままの襟足まである髪とルビーの様に紅い眼を輝かせて、何処かの戦いがある所へ向かう。その横顔には、もう優しかった頃の面影は何処にも見えなかった。




 はい、予想通りのルートですね。そろそろカオスさに磨きが掛かって来ますよ~

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