IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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救い

 『最近、ISの撤廃と女性権利団体への謝罪と解散を求める声が高まりつつあります。先日日本では、IS学園へデモを行うなどの活動が行われました。これに対する女性権利団体の声明は--』プツンッ

 「下らねーな、何処もかしこもISのニュースしかしないし。ったく」

 「まぁまぁ、あんな演説を受けたら燻ってた不満も爆発するよ。今までは誰かが言い出すのを待ってたんだから、口火を切れば後はトントン拍子に事が運ぶんだよ」

 「...誰の受け売りだ?それ」

 「ラビット」

 「あぁ、成る程な」

 

 最近は全世界で反ISの動きが強まってきていた。流石にISが配備される軍事基地に殴り込んだり、会社にテロを仕掛けたりする程に激化はしていないにせよ、これで粗方の目的は達せられたとも言えるだろう。

 今までですら響介はアリシアに依存しかけていたが、今では完全に依存していた。何処にでも着いていく程ではないが、既にアリシアが居なければ使い物にならなくなる程だった。定期的にアリシアと話さなければ、気がおかしくなりそうになるらしい。

 だが、その逆もそうだ。アリシアも響介に依存している。元々が優しいアリシアは、やっと見つけた響介という心の拠り所が無ければ容易く崩れてしまう。どちらかが傷付けば一方も傷付き、死亡なんてすれば後追い自殺は当然となる程、深く依存しあっていた。

 

 「ッ.....あ~。久し振りだねぇ、響介」

 「ジェミニか、かなり久し振りだな。前の戦い以来だろ?」

 「そうなるねぇ。()に出てくるの、案外体力使うんだよ。体力....じゃないか。精神力ってヤツかね?」

 「それで良いと思うぞ。で、俺に何か用でも有るのか?」

 「一応、ね。殆ど要らない心配だとは思うけどね」

 

 そう言うと、ジェミニは珍しく表情から笑みを消して話し始めた。これは真面目に聴かなければならない、そう思った響介も表情を引き締めて話を聴く。

 

 「私とアリスは2人で1人だ。それは分かってるだろ?」

 「当たり前だろ。なんでそうなったのかは知らないけど」

 「それについては私からは言えない。こればっかりはあっちの都合だからね。1つ言えるのは、私が産み出された理由の全ては主人格...アリシア・フォン・エラウィを守る為って事だよ。まぁそんな訳で、私はあんたに言わなきゃいけない事がある」

 「俺に、か?」

 「そう。あんたに、と言うよりもあんたにしか言えない事だ」

 「.....なんだ?」

 「絶対に、死なないでくれ」

 

 たった一言、簡潔に告げられた言葉がそれだった。後に続く言葉を響介は待つが、何も続かない。ならジェミニは、この一言を言う為に精神力を振り絞って表に出てきたという事なのだ。

 

 「いや、死ぬ気なんて毛頭無いが...いきなりどうした」

 「コイツはウォックが死んで、かなりの精神的なダメージを負ってしまった。今まで自分の家族の様にしてきたヤツが1人死んだんだ、当たり前だろうけどね。だからこそ響介、あんたに死なれると困るんだ」

 「俺が死ぬとお前に不利益が有るって話か?」

 「あんたが死ねば、コイツは精神崩壊した挙げ句に人格が死に至り、私が主人格になってしまう」

 「は?それ、お前にとって得しか無いだろ。いつでも表に出て、好き勝手出来るんだぞ」

 「....私は壊すしか出来ないからね。それで変に失望するなら、初めから泡沫の微睡みに居た方が良い。それに、コイツが楽しかったりすると少しだけ私にも伝わってくるんだよ。凄く心地良いからね、それが味わえなくなるのは嫌なんだよ」

 「そうか」

 

 響介だって、自分は創るよりも壊す側の人間だと自負している。その認識は改めないし、もっと言えば改める気は無い。だが、自分は壊す事しか出来ないと告げたジェミニの表情は諦めと哀しみに満ちており、響介が何を言おうとその件に関しては癒せないと悟った。そして下手に踏み込めば、更に傷付けてしまう事を。

 

 「そして、どんな事があっても憎しみに呑み込まれないで欲しい。『ヒト』を『人間』たらしめるのは本能なんかじゃなくて、感情を抑えられる理性だって事を忘れるなよ」

 「分かった、忘れないよ」

 「さて、そろそろ限界かねぇ。アリシアを宜しく頼むよ、響介....」

 

 倒れてくる身体を受け止めて、アリシアの意識が覚醒するのを少しだけ待つ。その間にアリシアの顔を響介は見つめていた。テロ組織に所属しているとは到底思えない、穏やかな顔を。

 

 「んぅ....あれ、響介?」

 「大丈夫か?多分貧血だろ。最近は慣れない環境で暮らしてたからな、かなり疲労が溜まってたのかな。ごめんな、気付けなくて」

 「いや、大丈夫だよ。...でも、ちょっと眠たいかな。少しだけ、寝てて良いかな?」

 「あぁ、勿論だ。お休み、アリシア」

 「うん.....お休み.....」

 

 次は本当に眠りに就いたアリシアを見ながら、ジェミニをの事を考えていた。

 アリシア本人は事実、ジェミニを認知していない。故にISは自分が遠隔操作していると考えているし、響介の手足を斬り落としたのも自分だと思っているのだ。それでも確かにジェミニは存在していて、響介達は認知しているが為にアリシアに嘘を吐くのだ。

 それはアリシアの為だ。ジェミニはいつも言う。「自分はアリシアを守る為に産まれた」と。そしてジェミニが精神力の消費無しに表層に出てこられるのは戦闘の時だけだ。それはつまり、アリシアにとっての『戦闘』--ひいては『殺し』は苦痛そのものであり、だからこそジェミニが担当するのだ。だからアリシアは戦わせてはならない。きっと、壊れてしまうのだから。

 

 「.....だけどジェミニ、お前を労うのは誰だ....?」


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