IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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 これから高校の色んな行事が立て込んできた事により、少しの間不定期投稿になります。御愛読して頂いてる皆様には申し訳ありませんが、気長に待って頂けると幸いです。


偵察

 「....来たわよ、雪菜。数は4機、多分あの中に響弥も...」

 「あぁ、居るぜ。あの骸骨の面の機体が響弥だ」

 「あれが...あの人の求めた強さなのですか...?」

 

 まだ名前を付けていない浮遊戦艦の中で、1年の専用機持ち(簪を除く)と生徒会と一部の教師は【ヘルメス・レター】の近辺に来ていた。目的は響弥が所属する組織の戦力を見極め、取り返す為の算段を組み立てる為だ。だが、その意志も弱くなっていた。

 骸骨の面を着けた機体は、圧倒的な速度と加速を用いて蹂躙していた。ハイパーセンサーを応用したこの艦の望遠カメラを使っても霞んで見える程の打撃で墜としたと思えば、背中に背負う槍を使って貫く。左腕の剣を振り、搭載されている荷電粒子砲を乱射するなど、通常のISでは出来ない様なエネルギーの使い方をしている。無力化など本当に出来るのか?それが雪菜を含んだ全員の思いだった。

 

 「あの動き、昔の私よりも速いかも知れんぞ....」

 「あれは.....あの剣を、私は知っている....駄目だ、止めろ響弥...!」

 「ほ、箒?どうかしたの?」

 「殺意しか込められていない剣はいずれ自分を殺す!殺すまで行かずとも、絶対に後悔する!絶対にだ!」

 

 その言葉は、かつてその殺意や他の暴力的な衝動に身を任せて剣を振った事のある箒だからこその言葉だった。剣道の日本一を獲ったその直後、凄まじい自己嫌悪に襲われてトロフィーを壊そうとした程の嫌悪に、もう2度と耐えられる保証は無いと箒は言う。

 

 「でも、幾ら響弥くんでもあんな機動をして頭が追い付くのかしら?確かに高速機動下での戦闘は得意だったけど.....」

 「普通なら振り回されるよね~。私なら海に墜ちてると思うよ~」

 「私も本音と同感ですね。そもそも、あんな無茶な機動をすれば身体がボロボロになるのは目に見えてます」

 

 彼女達は『ドミナント』の事を知らない。そもそも、真っ当に生きていればそんな言葉を知る機会など無い上に、どんな存在なのかも分からないのだ。増え過ぎた人間を『狩る』為の、ある意味での『天敵』。そんな存在を知る事など殆ど有り得ないのだ。

 

 『どうも皆さん、私達はテロ組織【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】と申します。突然ですが、全世界のチャンネルは私達が占拠させて貰いました』

 「始まったか....!」

 

 菫が言ったのはこの演説が始まったかどうかの話ではない。正確には現在のISを使える、女主体の世界な変革が始まるという事だった。少なくとも、調和よりも混迷に近寄るのは間違いが無い。

 

 『皆さん、ISが本当に理想的な力だと本当にお思いですか?女だけしか扱えず、不要な選民意識を与えるだけの欠陥兵器が。かつてヨーロッパ諸国やアメリカは奴隷制度を導入していました。それがどれだけ愚かで、自分達が信じる【神】の教えに反するか、それに気付いたのは約100年後でした』

 「歴史上の出来事を例えに上げての演説ですか...何とも、政治や会社を治めるやり方に似ていますね」

 『考えてみれば、元々篠ノ之束は宇宙に進出する気は無かったと思うのが妥当でしょう。かつて学会で発表し、批判されたとなっていますが、何の実績も後ろ楯も無い娘が言えば夢物語にしか聴こえないのも当たり前です。その後に起きた【白騎士事件】だって、目を反らさずに事実を見ればマッチポンプでしょう。隕石やデブリを破壊するだけなら、別にあんな荷電粒子砲や近接ブレードは要りません。明らかに最強の欠陥兵器を産み出す事が目的だったとしか思えません!』

 

 この時点で、この艦の乗組員全員は押し黙ってしまった。元々束のやった事について擁護する気の無い雪菜と菫は元より、他の専用機持ちや真耶、近しい友である千冬ですら何も言えなかった。

 考えれば全部破綻していた。確かに何も取り合わず、笑い物にした学会の人間が悪い。だが、束の天才的な頭脳を使えば認められないということは簡単に分かりそうなものだ。周囲の人間の頭脳が劣っていると本気で認識しているのなら、尚更だ。

 

 『そしてIS神話の切っ掛けとなった【白騎士事件】!皆さん思い出してみて下さい。ミサイル全機を撃墜した後の白騎士に対して下した国の命令は「白騎士の撃滅」でした。近接ブレードならまだしも、荷電粒子砲を使って死傷者が0名!?そんなの有り得る訳がありません!!いくら尾翼を撃ったとして、海面は戦闘機が沈む海です!そんなの、生きて帰れる訳が無いのは自明の理です!.....ですが、それを何故私達一般人が知らないのか、何故そんな事を隠すのか!その答えはただ1つです』

 「確かに....確かにそうだ。まさか、千冬姉....?

 「..........ッ!!」

 

 一夏は既に白騎士が千冬だと知っている。だが、その姉の事を想って敢えてその事に言及こそしていないが、こんな事実を突き付けられれば疑わざるを得ないだろう。真耶もまさか、と思っている。殆ど仕事を休まない千冬ではあるが、白騎士事件が起きたその日だけは仕事を休んで何処かへ行ってしまうのだ。それの理由を真耶が問い掛けても苦笑いだけを返してのらりくらりと話題を摩り替えて去る、千冬らしくないその行動に疑問を感じていたのだ。

 

 『世界が!ひいては今現在甘い汁を吸って肥え太る世界の害悪、女性権利保護団体が!最高にして最強最悪の大量破壊兵器を使う事を望んだからです!そう、即ち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです!!

 ISの操縦者は全員同じ、腐った思想を持っています。その中で、突然変異的に出現した男性操縦者の2人。1人は織斑一夏。かの最強ブリュンヒルデの弟という理由だけで専用機を受け取り、自分が望まぬ環境と言って努力をしない人間。もう1人は更識響弥。織斑一夏とそのお友達の勝手な行動で、いまでは何処に居るのかも判りません。そしてこの2人は、IS学園に入学しなければ研究施設に行って貰うと脅しを受けていました!横暴すぎる態度、更には更識響弥が行方不明になった時も世間には一切公表をせず、捜索は形だけの1日のみ。あまりにも酷くはないでしょうか!?』

 「1日しか、捜索されていない....?本当ですか、菫先生!?」

 「....あぁ。政府には何度も申請を出したが通ったのは初回だけだった」

 

 雪菜は確かに響弥が1度しか捜索されていないという事実に少なからずショックを受けた。だが、それ以上に雪菜を驚かせたのは【御伽の国の破壊者】の情報網の広さだった。

 普通のテロ組織では知り得ない情報を網羅し、一夏の事など普通では響弥からの情報でしか分からない。その響弥の記憶自体も灼けてしまい、殆ど覚えていないにも関わらず悪印象を与え、響弥の境遇を酷くしつつ同情を誘う為の武器にしている。破壊行為でしか自らの方針を指し示せない組織とは違い、正に『一流』である事が分かる。

 

 『この動画をご覧ください!軍の、国が選んだISを持つ者が、ホームレスの男の子を蹴飛ばしています。それだけでなく、なけなしのお金まで奪い取り、勝手に使う始末。こんな事の為にISは造られたのです!人を差別し、500個にも満たないコアのせいで世界が振り回される。私達は、そんな下らない事の為に生きているのではありません!!...ですから、私達はISを使ってISを破壊します。毒を以て毒を制す、その精神で行動しています。さぁ、ISに虐、苦汁を舐めてきた皆さん!立ち上がり、叫びましょう!その声が枯れても文字で、手がもがれても口や足で文字を書いて、訴えて下さい!私達【御伽の国の破壊者】は、その意志を代弁して世界に鉄槌を下しましょう』

 

 傍らに顔写真とプロフィールを載せられた女性軍人2人の映像。1度は合成を疑うが、何処を探しても不自然な所は無い。故にこの映像は非合成だと分かるが、一夏は僅かに矛盾を感じていた。

 

 (なんでこんな動画を録ってるんだ?本当に救済を言うなら、此処で助けなきゃ矛盾してるじゃないか。....まさか、皆気づいてないのか?.....いや、そんな訳が無いよな、うん。黙っておくか)

 

 此処で直ぐに意見を言わなくなった事は成長したとも言えるだろう。だが、この意見は言うべき意見だった。皆は信じ難い動画を見せられ、まんまと煽動されたショックでそんな単純な事にも気付けなかった。これがどれだけ不味い事なのかを理解しきっていない、無能な一夏だからこそ気付けた事実だ。そしてその意見さえ言えば、未来はまた違った結末へと向かっただろう。

 

 「雪菜さん!響弥さんが海中に味方を追って突入しましたわ!」

 「海中に....ん?皆さん、あの飛んでいる2機の内1機はまさか...」

 「【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】...!凍結処理をされたハズだが...」

 「雪菜!高速で塔に向かう高エネルギー反応!衝撃に備えて、海中に潜ろう!」

 「こんな時に高エネルギー反応?まさか、自爆!?....ッ、急速潜行!!」

 

 今までは海面に艦橋の一部を露出させていたが、ISの自爆の激しさを知る雪菜は珍しく叫んで指示する。その様子にただならぬ何かを感じた全員は不慣れな操作を出来るだけ早くし、雪菜の指示が出た10秒後には潜行する事が出来た。その直後、全てが閃光に呑まれた。衝撃はもちろん、音すら遅れてくる程の爆発だった。地面は抉れ、クレーターが出来た。そのクレーターの中心部に向かって水が流れ、隕石が落ちた様な錯覚すら起こす程だった。

 

 「ぜ、全員無事なの?怪我は無い?」

 「いっつつ....なんとか大丈夫ですよ、楯無先輩」

 「何が起きたの?あんな爆発、核とかそれぐらいの爆弾クラスじゃない」

 「SEを全て装甲に籠めて自爆したのでしょう。じゃないと、高速で迫ってくる訳がありません。....流石はテロ組織、死ぬ覚悟は出来ていると言うのでしょうか」

 

 また艦橋を海面から出して様子を窺おうとした瞬間に、艦のすぐ横にエネルギー弾が飛来する。どうにか機能を回復させたカメラで【ヘルメス・レター】の有った所を見ると、縦横無尽に暴れるISの姿があった。専用機持ちは見た事のある機体....それは、夏蓮の機体だった。

 

 「どうする?このまま学園に帰るか?」

 「....いえ、彼女を捕獲しましょう。精密な一撃で墜とせば問題ないハズです」

 「それならわたくしが!」

 「いえ、セシリアさんはエネルギー系統ですから、若干のブレが出てくる可能性が高いです。ですから、ラウラさんのレールカノンでやって貰います」

 「私か?だが、精密に狙いを付けられるかは分からんぞ」

 「大丈夫です、私手製のが有りますので。精密性にパラメーターを全振りしてありますので、非致死性の弾丸を使って墜とします。衝撃は全て伝わる設計ですからね」

 

 ラウラは艦橋に登り、ドッグで手渡されたレールカノンを構える。縦横無尽に暴れる夏蓮だが、小休止に入る瞬間に当てられれば任務は簡単に終わる。故にラウラは待つのだ。ひたすら、そのチャンスが来るその時を。

 そしてたったの一瞬だけ動きが止まった。ひどくゆっくりに感じられる世界で、銃身(バレル)から炎を纏って発射される非致死のゴム弾が放たれる。そのゴム弾は亜音速まで近付くと、速さにものを言わせて夏蓮の頭に直撃し、意識を失わせる。ラウラがワイヤーブレードとAICを使って夏蓮を艦へと連れた時、ラウラがどんな表情をしていたのかは誰も知る事は無かった...


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