IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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 しおりを使って読んで下さる方には少し読みにくいという意見がありましたので、章の順番を弄らせて貰いました。これからも意見、お待ちしております。少し優しく言ってくれるとダメージが緩和されます(ボソッ


稲妻を駆る者

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 『シミュレーション終了。お疲れさまでした』

 

 最近ではもう聞き慣れた、いつも同じ内容のアナウンスが響いて仮想空間が消える。やっとこの【エクレール】にも慣れてきたって言えるかな?それでも、あの子(ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ)に乗ってた時よりも遅い。いや、機体の速度って話じゃない。僕が言うのは、僕の得意技って事になってる【ラピッド・スイッチ】の事だ。まだ何処か慣れてないのか、少しだけ動きが滞ってリズムが崩れてしまう。

 

 「今日は土曜日だし、まだまだ行ける....よし、もう1回--」

 「そんなに無理をしないで下さい、シャルロットさん」

 「....雪菜」

 

 もう1回仮想訓練をしようとした所で、雪菜の声が響いて動きを止めてしまった。別に、僕に嫌味を言ってる訳じゃないし、純粋に心配してくれているのは解ってるんだ。でも、少し思ってしまう。僕なんかにこの【エクレール】は使いこなせないんじゃないかって。

 僕が前に使っていたのは、正直機動性や火力では皆に劣る第二世代。それでも燃費は抜群に良かったし、どんな戦況にでも対応できるから使いやすかったけどね。でも、今僕が貰ったのは第三世代よりも少し先に行った第三.五世代だ。燃費も良いし、最先端と言っても良い武装もある。前のカスタム機のフルカスタムっていう正直僕が合わせていた機体から、この【エクレール】は完全にオーダーメイド。要するに僕にこれ以上無い程にピッタリな機体のハズなんだ。

 だからこそ、未だに使いこなせない自分が嫌になる。

 

 「あんまり根を詰めすぎても、結局は逆効果ですよ。簡単にですが、軽いサンドイッチを作ったので食べてみて下さい」

 「ありがとう、雪菜」

 

 少しだけ気まずい静寂が訪れた。いつもなら話を切り出すけど、やっぱり考えてしまう。僕が使いこなせていない事を雪菜は知っているのか、失望させていないだろうか、僕がこの機体を振り回されている、とか。そんないつもは浮かばない思考ばかりが浮かんで、直ぐに消えていく。そんな脳内での事を何度も繰り返す内に、雪菜は多分僕に向けて話し出す。多分っていうのは、虚空を見詰めてるから。まぁほぼ確実に僕への言葉なんだけどね。

 

 「....シャルロットさんは、『使いこなす』ってどういう事だと思いますか?」

 「『使いこなす』?ISをって事だよね。そうだなぁ...搭載されてる武器を全部最高のパフォーマンスで使えて、機体に振り回されていないって事だと、僕は思ってるよ」

 「私は、もう少しでISに乗れますけど、まだ入試や授業でしか装着した事は有りません。でも、『あの人』が言っていた事を覚えています」

 

 雪菜が言う『あの人』っていうのは響弥の事だよ。響弥は文化祭の日に自分の名前を本名--赤羽響介と名乗っていたらしいから、僕達の中で少しだけ物議を醸したのは響弥の呼び方だった。今まで通り『響弥』か、それとも本名の『響介』か。結果的にはどっちでも良いっていう織斑先生の鶴の一声でお開きになったんだけど、雪菜は良く名前じゃなくて『あの人』って呼んでいる。理由は知らないけどね。

 

 「『機体を使いこなすってのは生半可な事じゃない。機体のバランス、スラスターをどの方向に噴かすのが効率が良いか。結局は自分次第だけど...俺はそれだけじゃ使いこなすってのは違うと思う』」

 「.....どういう、事?」

 「『本当の危機に機体が助けてくれる事。機体と意思を通わせて、それで最高のパフォーマンスを出すこと。大層な事なんて何も要らない。これだけで良いんだ』って」

 「機体と、意思を....」

 

 実際、僕は機体に意思が有るとは思ってない節がある。自己進化っていうのはISに少なからず意思があるからだって言われるけど、それは進化じゃなくて『適応』なんじゃないかと思ってしまう。

 

 「シャルロットさん、何を言っているのか解らないって顔をしてますよ」

 「そ、そんなこと.....ある、けど」

 「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。私も同じ考えでしたから」

 「雪菜も?」

 「お恥ずかしながら、そうです。『進化』ではなく、ただISが操縦者に『適応』するのが第二形態だと、私は思ってました。どれだけ最高の兵器、解明不可能のブラックボックスと言っても、所詮はただの機械だ。そう思ってました。....いえ、今でも少し思っています」

 

 意外だ。まぁ全部の言葉を鵜呑みにしてしまう程頭が悪くない事は知っていたけど、まさかそんな現実主義的な考え方をしているとは流石に予想していなかった。

 ....でも、雪菜の育ちを考えれば当たり前なんだよね。あんな事をされて夢をまだ見られるのは、よっぽどの楽観主義者や頭がおかしい人くらいだと思うよ。

 

 「でも、極稀に有るんですよ。どう言えば良いんでしょう......そう、自分に合った武器を教えてくれる、そんな感覚がするんです」

 「.....?」

 「この感覚は説明が難しいんです。設計している時に、勝手に腕が動くと言いますか....まるでISが、私の思い描く機体の性能に合っていて、そして操縦者の戦い方に合った武器を教えてくれる感覚なんです」

 「勝手に、ISが教えてくれる....」

 「はい。シャルロットさんが使っている【血の月曜日(ブラッディ・マンディ)】もそんな感じで設計しました」

 「そうなんだ」

 「えぇ。確かに【エクレール】を渡したのはシャルロットさんの機体が第二世代で少しだけ劣っていたのも有りますが、何より--」

 

 雪菜は僕の方を向いて、笑って言った。

 

 「シャルロットさんならその子を使いこなしてくれると、あの人が言った意味で使いこなしてくれると思ったからなんですよ?」

 

 .....あぁ、そうだったんだ。何度も思ってたよ、僕じゃなくても良かったんじゃないかって。でも、雪菜は僕を選んでくれた。信頼してくれた。それなら、【エクレール(稲妻)】を駆る者として、もう少しだけISを信じても良いのかも知れないね。

 

 「そっか。ありがと雪菜、もう大丈夫だよ!無理も良くないし、もう寝るよ」

 「そうして下さい。無理が祟って倒れる方が嫌ですからね」

 「分かってるよ、もう」

 

 待っていてよ、響弥。追い付くから、君の所に。雪菜が手掛けた、この機体で。

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 『そうして下さい。無理が祟って倒れる方が嫌ですからね』

 

 シャルロットと雪菜が話している最中、彼女は嫉妬の焔に身を焼いていた。雪菜の服に仕込んである、盗聴機からの音声で。

 

 「どうしてぽっと出のお前が雪菜の造った機体を.....その機体は私の。打鉄なんて要らない、【エクレール】が欲しい。雪菜も欲しい。欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい」

 

 嫉妬と独占欲に身を任せる彼女は、どんどんと道を外れていく.....


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