「さて、対抗策を練りましょうか」
「えぇ、そうね。でも--」
「うん、俺も賛成だけどさ、雪菜さん--」
「「もう深夜なんですが?」」
「何を言ってるんですか、オール1日目で」
雪菜と響弥専用の--今では雪菜専用だが、3人は整備室に来ていた。簡単な話、響弥の【絶月・災禍】への対抗策を見出だす為に金、土、日の3日間、要するに
しかし一夏と楯無はオール以前に徹夜すらあまりしないタイプの人間だ。楯無は更識の仕事が有る為に深夜1時や2時くらいなら徹夜するが、流石に24時間フルに活動した事は無い。と言うより、マトモな人間ならそんな事はしない。
「さて、先ずは響弥くんの武装ですね。織斑くん、響弥くんの武器は白式の絶対防御を貫いたんですよね?」
「あぁ、零落白夜を使っても競り負けたよ。零落白夜は最強の攻撃だって聴いたんだけどな....」
「う~ん、確かに単発の攻撃力は最強だけどね。言ってしまえば『当たれば』だからね、零落白夜は。...ブリュンヒルデの
「織斑くんは雪片弐型での戦闘技術と徒手空拳で多少は戦える様になった方が良いと思いますよ。そもそも白式は燃費が馬鹿みたいに悪いんですから、その燃費の悪さを加速させる零落白夜は極力使用を控えるべきです」
「確かに....でも、皆にこれ以上訓練の時間を割いて貰うのもなって感じでさ」
「なら、お姉さんに任せなさい」
「良いんですか!?」
「えぇ。響弥くんの槍も多分零落白夜に似ているから、私の鍛練にもなるしね」
「是非お願いします!」
「さて、話を戻しましょうか2人とも。響弥くんの戦い方で、何処か変わった所はありましたか?」
「そうね.....近接武装が殆どだったわね」
思い返すと、響介は射撃を殆ど使っていないのだ。速度と加速に特化した【絶月・災禍】はほぼ全ての攻撃を近接で行う。それに着いてこられる者は殆ど居ないのだから、響介を墜とせる者が居ないとすら言われる理由なのだ。
「零落白夜クラスの威力と加速性能....多分、【ヤタノカガミ】が発展した状態で搭載されてますね」
「【ヤタノカガミ】?」
「簡単に言えば織斑くん、貴方の零落白夜のシールドですよ。擬似的に再現した零落白夜でシールドを形成する、零落白夜を超える最悪の燃費の武装です」
「そんなのが搭載されてたのね....だから威力が異常に高かったの?」
「そんな所ですね。他には?」
「あ、そう言えば義手が変わってたな。貫く、みたいな感じの形になってた」
「第二次形態移行の影響でしょうね.....どうしたものか...」
それから会話は途切れ、カタカタとキーボードを雪菜の指が叩く音が響く。一夏は眠気に誘われ、頭をカクカクさせている。徹夜はそれなりに出来る楯無ですらエナジードリンクに頼っているというのに、雪菜はカフェインや炭酸の刺激に頼らずに端末に目を向けている。
「雪菜ちゃん、疲れないの?目、悪くなるわよ」
「いえ、そんなに柔な鍛え方してませんから」
「鍛え方の問題なのかしら....でも、少しは休んだ方が良いんじゃない?」
「もう少し....あと5時間くらいしたら休憩を挟みますよ」
「5時間....って、それもう朝の7時よ!?本当に寝ないつもりなの!?」
「そうですよ?まぁ【絶月】の武装を設計した時は1週間オールでしたし、3日くらいチョロいもんですよ」
「休みなさい」
「え、いやでも進捗が」
「休 み な さ い!!」
「.....2時間だけ、それで良いですか?」
「....まぁ良いわよ。はい、じゃあ来て」
「なんで膝を私に差し出すんですか?」
「膝枕よ。ずっと画面見てたし、前のめりになりがちだからね。椅子に寄り掛かって寝るのは首と肩が凝るから、ね?」
「....じゃあ、ご好意に甘えて」
雪菜は楯無の膝に頭を乗せると、直ぐに寝息を立て始めた。因みに直ぐに寝られるのはそうならざるを得なかったからである。役には立つが、実際は忌まわしい技能でもある。
楯無はちょっとした興味で雪菜の肩を少し揉んでみる。それなりに凝っている位は予想していたが、想像以上に凝っている。と言うより、指が全く筋肉に入っていかない。骨の様にも思える程だが、肩甲骨を触れば流石に直ぐ分かる。そうなれば筋肉しか無いのだが、異常に堅い。
「雪菜ちゃん....なんでこんなになっても普通で居られるのよ...?」
楯無は生徒会長だ。更に言えば更識家の当主でもあるから、デスクワークは頻繁にする方である。だから肩も凝るのだが、少し凝っただけで重い荷物を背負っている感じがするのだ。流石にこんなに凝っていたら生活もアヤブマレル程である。
(まさか....1周回って気付いてないの!?....有り得そうね、響弥くんもそうだったし)
響弥の肩を1度揉んだ事の有る更識家のメンバー(楯無、虚、本音)は知っている。余りにも凝り過ぎると、1周回って何も感じなくなる事を。マッサージは響弥が1番上手いのだが、響弥が自分のスポンジの様に柔らかい肩を揉んでみろ、と言ったのだ。ならば、と揉んでみるが、余りにも堅い。幾ら何でも堅すぎるので、電気やらマッサージ機やら菫やらを使ってどうにか解したのだ。それと似ている訳だ。
(決めたわ、今度絶対に揉む。じゃなきゃヤバイ)
楯無にそう思わせる程、深刻だったとも言える。
「う~ん.....良く寝ました!」
「それなら良かった。おねーさんの膝のお陰かしら?」
「そうですね。さて、殆どの疑問は解決しましたが、1個だけ解決してないんですよね...」
「どんな疑問?あとおはよう雪菜さん」
「はい、おはようございます織斑くん。まぁそうですね、絶月のデータですよ。それが無きゃ対抗策もクソもありませんから」
「最近雪菜ちゃんの口調が荒くなってるわ....」
そんなおふざけは程々にして、雪菜は真剣に考える。とは言っても、絶月のデータが残っているものなんて殆ど残っていない。雪菜の端末に入っているのは設計のデータだけで、起動した際のデータは量が多すぎて破棄しているのだ。まだ特化パッケージのデータはあるのだが、肝心のニュートラルのデータが無い。
「お困りの雪菜に、救いの私だ」
「先生....?」
「絶月の起動データ、無いんだろう?」
「はい、そうですね」
「なら、コレを使えば良い」
「え、コレって...」
「そう、【ファイズギア】だよ。使えずとも、データは見られるからな。持ってきてみて正解だった様だね」
「あ、ありがとうございます!!よし、これで....!」
「無理はするなよ、倒れたら全てが水の泡だ。効率を良くするには、ちょっとした休息が必要だという事を覚えておけよ」
「はい」
そう言って去っていく菫。だが、菫にも気付けない位置に彼女は居た。ボサボサに跳ねた癖っ毛に、IS用の眼鏡型ディスプレイ。その奥の瞳は、様々な感情でドス黒く塗り潰されている。今回の感情は『嫉妬』だった。
「なんでアンタが雪菜と仲良くしてるのおかしいでしょ殆ど接点なんて無いハズなのに私と雪菜の再会を邪魔するなよ雪菜だってお前に迷惑してるハズだぞ死んでしまえあぁ雪菜可愛いよ凄いよこんな直ぐに専用機を形に出来るなんて凄すぎるよ流石は私の雪菜だよあぁ雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜雪菜.....雪菜ァ」