IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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 お久し振りです!部活の合宿とお盆がカチ合って投稿が遅れてしまいました。これからも変わらずに頑張っていきますので宜しくお願いしますね!


第6章雪菜サイド 助けたい友達
懺悔とこれから


 「っつ.....頭、痛い....」

 「直ぐに頭痛は消える。さて、どうだ?記憶は全部思い出せるか?」

 「少しだけ.....臨海学校の記憶が思い出せません」

 「そうか、恐らく記憶が破損したのだろう。辛い記憶だ、無意識下にお前が記憶を破壊しても不思議じゃない」

 「へぇ~....」

 

 雪菜達IS学園組は保健室に居た。と言うより、雪菜が心配で帰れなかったのだ。怪我や死ぬ危険性が無かったなら寮監である千冬は他の全員を帰したのだが、下手をすれば死ぬ可能性がある手前クラスメートの専用機持ちを帰す訳にもいかないので飽くまで『特例』として許可しているのだ。

 そんな心配を他所に雪菜は目覚めた。若干思い出せない記憶は有るものの、ほぼ確実に廃人で最悪は死ぬという最悪のギャンブルを最高の結果で勝てたのだ、全ての記憶が満足に思い出せるのは流石に虫が良すぎるだろう。

 

 「それにしても、響弥はどうしてテロ組織に....」

 「解りませんわね....楯無さん、何か分かる事は有りますか?」

 「ゴメンね、分からないわ」

 「なんか変な所は無かったの....有りませんでしたか?」

 「敬語、抜きで良いわよ。鈴ちゃんはそういう感じの人じゃなさそうだからね。そうね....何処か、他人事だった気がしたわね」

 「他人事?どういう事だ」

 「響弥くんの言い方よ。自分の記憶を他人事の様に話すてたのよ。後は容赦が無かったわ。今までも『手加減』はしなかったけど、私と一夏くんが相手した時は『容赦』なんて一切しなかった。分かるでしょ?一夏くん」

 「あぁ....前の響弥なら、こんな胸に傷を付けてくる事も無かったと思う」

 

 雪菜が気を失っている最中、一夏は意識を取り戻していた。時折身体を硬直させて歯を食い縛っているのは胸の傷が痛むからだ。今まで最強の盾(絶対防御)に頼ってきたからこそ、本当の怪我に慣れていないのだ。

 

 「それに、僕達の呼び方も少しおかしかったよね。あの夏蓮って人はラウラしか名前が分からないのは知ってるけど、響弥は僕達を国の代表候補生って呼んでた。余りにも他人行儀過ぎるよ」

 「だが、それは敵なら普通他人行儀になるものだろう。敵に友好的に触れ合うなど、ただの異常者がやる事だ」

 「それがあの夏蓮ってヤツ、箒。私達にアドバイスをしてどっかに行ったわ」

 「確か名前は....」

 「赤羽夏蓮だ」

 「赤羽だと!?まさか、響弥の事を兄と呼んでいたと言うのか!?」

 「まぁ....呼んでたわよね?」

 「ええ。確か『お兄ちゃん』と、そう呼んでいましたわ」

 「.....事実は小説より奇なり、とは良く言ったものだ。まさか夢にも生きていると、私もアイツも思わなかっただろうな」

 

 菫は何とも言えない表情をして顔を伏せる。皆からは見えないその表情に刻まれているのはどんな感情なのだろうか。それは、菫本人にも解らないのだろう。

 

 「前、私は雪菜の過去を勝手に喋った。それはさっき教えただろう?」

 「は、はい」

 「だから響弥にも同じ思いを味わって貰うよ。私は....アイツの過去を勝手に話す。私が知る限り、恐らくこの世界で1、2を争う時代の犠牲者になりかけた話をね」

 

 誰1人返事をしなかったが、その表情を見れば退く気は無いと直ぐに判る。訥々と菫は話し始めた。自分と彼が出会った時の話を。

 

 「私が響弥と出会った時、アイツの名前は【更識響弥】ではなかったんだよ」

 「どういう事だ?森守保険医」

 「まぁそう、焦らないで。元々更識なんて名字、楯無の一族しか名乗れない名字なんだ。対暗部組織の名字がその辺に居れば、その名字の人達全員を殺す可能性が有るからね。...話を戻そうか。彼は元々フランスの大きな果樹園を持つ家族の長男だった」

 「赤羽農園、ですよね?」

 「流石はフランス代表候補生、良く知っている。そう、アイツの名前は偽名なんだよ。本当の名前は『赤羽響介』、心優しい少年だった。まぁ口調は私があの乱暴な感じに直したけどね」

 「そ、そうなんですか....菫先生の好みだったんですね、あの口調。でも、なんでフランスの農園に先生が?」

 「.....少し、昔話をしようか。響弥...いや、響介の事よりも前、ある妄執に取り憑かれた者の話だ」

 

 全員がその正体を察した。あの一夏でさえ、簡単に判ったのだ。菫の言う者が誰なのか、そして何故菫が語れるのか、その理由を。

 

 「昔々、ある『天災』は宇宙を翔る翼を夢想した。そして個人の力では厳しいと考え、そしてその翼を学会に報告した。だが、その『天災』の考えは子供の空想、机上の空論と言われて見向きもされなかった。その『翼』としての用途に目を向けなかった代償なのだろうな、直後に軍事施設がハッキングされてミサイルを発射した。そのミサイルを白き騎士が全て墜とした後、紆余曲折あって今に至る。其処に血は無かったとされている。.....表面上では、な」

 

 そう語る菫の右手は拳を作り、小刻みに震えている。怒りなのか後悔なのか、それを知る事は簡単だろう。何故なら、語る菫の声音が、その感情に染まっているのだから。

 

 「ある『神医』と呼ばれた医者が居た。どれだけ難しい執刀でも完璧にこなす、最高の医者が。だが、『天災』が造り上げた『翼』が医者を絶望の淵に叩き落とした。....その『翼』によって内臓や骨がグチャグチャになった患者が2人運ばれてきた。其処は苦渋の決断で生き残る可能性が高い方に可能性が低い者の臓器を移植する事に決まった」

 「そ、そんな!!片方のひ--」

 「一夏!!」

 「ち、千冬姉....」

 「....黙っていろ」

 「...話を続けさせて貰おうか。結論から言えば、その手術は成功したよ。完璧にね。だがその医者は、愚かな興味を抱いてしまった。犠牲になった男の子の顔を見たくなったのだよ。....好奇心は猫をも殺す、とは本当に的を射ているね。......医者の、最愛の弟だったよ。その犠牲になった子は」

 「「「「「「........ッ!!」」」」」」

 「だが医者は思った。弟の臓器を貰ったその子が、しっかりとした志を持って生きてくれれば良いと。だが、其処でも『翼』の存在が駄目だった。その子は、1人の子を自殺に追い込んだんだよ。『翼』に....『IS』に、乗れないからと罵って。そして医者は....フフ、もう分かっているだろうから隠すのは止めようか。......私は、その子を殺した。そして世界を恨み、『天災』を恨んだ。そして、ある忌まわしい発明をしたんだ」

 「忌まわしい、発明を?【眼】やその先の事ですか?」

 「そうか、君はある意味で私の被害者だったか。....そう、ラウラの【眼】は私の発明の中でも軽い方と言えるな。私は【義手】と【義足】を造ったんだ。ISを墜とせる、最低最悪極悪非道の兵器を....人間兵器への、第一歩を」

 「人間、兵器......」

 「君達は、響介のパンチとキックを見た時は有るか?」

 「ありますわよ?異様に速い時が有りましたけど...」

 「それが私の発明だよ。ISの装甲に使われる【オルニウム】、それを特殊な方法で更に堅く、軽くして作られる【硬黒翔石(ハード・オルニウム)】で造られたISの絶対防御すら貫く兵器。それを私は響介に移植した」

 

 全員が絶句した。あの理知的で優しい菫が人殺しの罪を背負っているだけでなく、響弥を戦いに巻き込んだ張本人でもあったのだから。今までの一夏なら声を荒げて胸ぐらを掴んだだろう。だが、今回はそうしなかった。いや、出来なかったのだ。

 

 「まぁ、私の過去はもう良いかな。要するに私は自分勝手な復讐を理由に響介を戦いに引き込んだんだ。何の正義も大義も有りやしない、私怨だけで、ね」

 「....だが、更識を助けたのは事実だろう」

 「まぁ、一応はね。さて、この話の続きがアイツの人生だよ。更識の家に養子に入り、ISの適性が有ったからこの学園に入り、家族と再会した。今まで死んでいたとしか思わなかった家族と会えたなら、テロ組織に入ったとしても不思議じゃないだろう」

 

 また押し黙る全員。恐らくその気持ちが辛うじて解るのは織斑姉弟の2人だろう。互いが居なくなれば天涯孤独の身、孤独になった後に別れた家族がテロ組織に入っていたなら、恐らく2人もテロ組織に入る道を選ぶだろう。『自分も堕ちる所まで堕ちる事にする』と言って。

 

 「...多分、それは違うと思います」

 「ん?どうしてそう思った?」

 「私が簪さんに気絶させられた後、夢を見たんです。私が懐かしさを感じる『誰か』が死体を抱いて泣き叫ぶ夢を。敵と戦って、戦って戦って戦って、自分の傷には目もくれずに他人の為に哭いている『誰か』の夢を。私が懐かしさを感じる人なんて1人しか居ません。....響弥くんの事だと思います」

 「夢なんて大抵メチャクチャなもんでしょ、正直ばかばかしいわ」

 「私も鈴さんの立場ならそう言います。でも、その直後に話をしたんですよ。小さい、真っ黒な着物を着た女の子と。その子は『我が主人』と呼ぶ人に命じられて、私の心を壊そうとしてたらしいんです。それでもその子はその使命を果たさず、私の記憶の扉に少しだけ間を空けて開けやすくしてくれました。多分.....あの子は【絶月】だと思います」

 

 誰も反応を返さない。当たり前だ、例え雪菜が会ったその子が本当に【絶月】だとして、何故持ち主である響弥の命に従わないのか、そして雪菜に手を貸して何の意味が有るのか。理解が及ばない以前に、ISに人格が顕れる事が信じられない。幾ら自己進化プログラムで進化するとは言え、本当に人格が目覚めるのかは分からないからだ。

 だが、この中で1人、人格と出会った事がある者が居る。その人は口を開き、雪菜の意見を肯定する。

 

 「お、俺はそれは正しいと思うぜ」

 「一夏さん...?」

 「俺は福音と戦って、白式が第二次形態移行した時にその人格みたいなのと話した。だから、雪菜さんの言ってる事は信じられないかもだけど、正しいと思う」

 「それが真実だとして、嫁は自分の意思で組織に居るのだろう?それはどうするんだ」

 「....簡単ですよ、ラウラさん」

 

 雪菜は口角を吊り上げ、野蛮な一言を口にする。いつもなら言わない、短絡的で野蛮で愚かな手段を。

 

 「ぶっ倒してから聞き出します。先ずはそれからです」


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