IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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戦禍の火種

 『さて、現存する463のコアの内、目標である10個を手中に収めた。そろそろ私達も動くべきだな』

 「ちょっと待って下さい、何故467個ではないのですか?4個のコアは何処へ?」

 「俺が破壊した。奪取する事を第一に任務を進めてたが、流石に厳しい時は破壊して良いとラビットに言われていたんでな」

 「そういう事でしたか。了解です」

 『話を続けさせて貰うよ』

 

 クイーンが戻ってきてから3日後、【御伽の国の破壊者(ワンダーランド・カード)】の幹部は集められ、会議を進めていた。

 

 『今までは名前を隠して襲撃を繰り返していたが、流石にそろそろ名前を公表して行動しようと思う』

 「なんでいきなりそうするんだい?アタシは別にこのままやってて良いと思うけどね、旦那」

 『それには先ず、()()の事を話さねばならないね』

 

 兎の縫いぐるみの目からホロウィンドウが壁に投影される。其処には3人の女とISが表示されていた。その中の1人の姿は響介に関しては見るのは2度目の人物であった。

 

 「【亡国機業(ファントム・タスク)】だよね?それがどうにかしたの?」

 『そう、正解だよ夏蓮。この女3人をトップに置くこの組織は世界の害悪、悪戯に世界を戦乱の世にしようとする連中だ。まぁこの【オータム】という女は響介が墜としたがね』

 「死んだとは限らんがな」

 『まぁそれは置いておこう。...この組織の目的は分からない。少し前にハンプティとこの組織の人間で尋問(拷問)して貰ったが、有力な情報は得られなかった』

 「それなら、この人達はどうするの?殺すの?」

 「アリス、それは少し早計ではないですか?幾ら貴方達戦闘部隊でも、どれぐらいの戦力を保有しているのかも不明な敵に挑むのは無謀です」

 『その通りだよ、ハンプティ。全員、この写真を見てくれ』

 

 画面が切り替わり、大きくアップになったのは黒髪の凛とした顔立ちの少女だった。その顔立ちは誰かに似ていると響介は思ったが、直ぐにその似ている人物が分かった。そして、あまりにも似過ぎているとも気付いた。そう、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「...えぇと、なんだったっけ?あぁ、アドなんちゃらかい?」

 「......ウォック、まさか『遺伝子強化試験体(アドバンスド)』の事を言いたいのですか?」

 「そうそう、それだよ!」

 『うん、2人の考えは当たりだよ。クイーン、皆に報告を頼むよ』

 「了解しました。この女性のコードネームは『M』、本名....と言うより個体名は『織斑マドカ』。名前で分かる通り、織斑千冬の遺伝子を用いた『アドバンスド』です。生まれた(造られた)のはほぼ確実にドイツだと思われます」

 「夏蓮、確かラウラ・ボーデヴィッヒも同じ『遺伝子強化試験体』じゃなかったか?」

 「うん、そうだよ。多分、て言うか確実にこのマドカって方が成功作だろうけどね」

 『作戦的には成功作も失敗作もどっちでも良い。肝心なのは国が命を造り、それを使っている事だ。IS学園でのVTシステム騒動はどうにか揉み消したらしいが、私達テロ組織にそんな揉み消しは通用しない。他の国の弱味も既に使い捨ての下部組織から貰ったからね、全人類が目を背けてきた真実を伝える事にした』

 「具体的には何をするんだ?」

 『この地図と画像を見てくれ』

 

 次に映し出されたのは天を衝く1本の棒だった。良く見ればその途中に大きな円形のパーツがあり、少なくともただ巨大なだけの棒ではない事が見て分かる。地図にピンで表現されている場所は日本の近くの海だが、その地図には何も島などは記入されていない。故に、人造の島である事が分かる。

 

 「うわ、凄いねぇ。物凄く大きい棒だよ」

 「....ウォック、流石にそれは駄目だと思うよ。流石に」

 「うん、それは私もそう思うかな。.....響介、さっきから無言だけど、まさか大きい棒とか言わないよね?」

 「.....アリス、流石にそれは有り得ないぞ。電波搭だろ?.....電波搭、だろ?」

 「何を不安になってるんですか、響介」

 「大丈夫ですよ、ハッター。ちゃんと当たってますから」

 『まぁウォックには分かりにくかった様だけど、これは電波搭だ。主要先進国からの電波を受け取り、それを発信する。主な目的はそれだけど、表向きはパラボラアンテナを不要にする為の取り組みとなっているんだ』

 「んで、これを使ってどうするの?私は暴れるしか出来ないよ」

 「アタシもだねぇ」

 「私もあまり.....アリスも多分無理ですし」

 「俺も無理だな。少なくとも、此処で俺が男性操縦者と言うメリットは無い」

 『いや、そうでもない。....だけど、今回はクイーンに台本を覚えてやって貰うよ。響介の存在は有る意味切り札だからね』

 

 事実、響介を捜索する部隊が出ていない事から国の圧力が掛かっているのだ。主に【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】との戦闘に参加した専用機持ちの帰属する国の圧力である。それもそうだ、自国の最新の武装を積んだISが居ながらも世界に今のところ2人しか存在しない男性操縦者が行方不明になったのだから。幾ら相手が軍用とは言っても面目が立たないだろう。

 元々世界各国からの援助で運営しているのが、IS学園であり、何処か1つの国からの援助が途切れれば運営がかなり厳しくなる都合上国からの圧力には弱いのだ。1ヶ国だけならまだしも、専用機持ちの5ヶ国に加えてアメリカを含めた6ヶ国からの圧力では抵抗出来るハズが無いのだから。

 

 『この船がISのハイパーセンサーから隠れられる距離は5㎞、IS基準で考えれば簡単に詰められる距離だ。だからこの船は海中に潜って近付き、一気に海面から浮上してジャックする。時間的には短くとも30分は防衛して貰わなければならない。そして放送が終わったら指定ポイントの海中に潜って貰い、海流に任せて撤退する。簡単な作戦の概要はこんな所だ』

 「結局、アタシ達は暴れてりゃ良いのかい?」

 『そうなるね。この作戦は自然の要素も加わるから延期も短縮も出来ない。だから作戦は3日後に行う。何か異存は?』

 「無いよ」

 「私は無い。クイーン、頑張ってね」

 「特に無いねぇ」

 「私も無いです」

 「私が台本を読むんですか.....承りました、異存は有りません」

 「俺も無いな。他にお前が言う事は無いのか?」

 『そうだね...この作戦はかなりの無理を君達に強いる事になる。度重なる僕達の襲撃で世界全体の防衛意識は上がり、多分多くのISが防衛に配備される事になるだろう。....死なないでくれ。ただこれだけだ』

 「「「「「「了解」」」」」」

 

 此処から始まる。世界を巻き込む闘争が。IS神話を潰す、最悪の崩壊の序曲が鳴り響く。


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