IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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 いやぁ、少し前にこの章の分け方では読みにくいと言われ、アドバイスを貰ったのです。ですが、私の足りない頭じゃ改善案が全くと浮かばなかったので、このまま行かせて貰います!本当にすみません。読みにくい方は我慢して頂ければ幸いです...


日常、理由

 「貴方が新しいメンバーですか?」

 「あぁ。赤羽響介、【マッドハッター】だ。宜しく頼む」

 「えぇ、此方こそ。まさかあの赤羽農園での生き残りとは思いませんでしたよ」

 「俺だって此処まで生き長らえるとは思っていなかったさ。まぁ死ぬ気は更々無いんだけどな」

 「それなら良かったです。....あ、そう言えば、あの子達のご飯、大丈夫でしたか?」

 「..........察してくれ」

 「............」

 

 クイーンとの顔合わせは、何の確執も無く上手くいっていた。と言うより、お互い同じ匂い(苦労人)の雰囲気を感じたのだろう。響介にとって大変だった事(主に食事)の風景を思い浮かべて2人で溜め息を吐いていた。

 

 「あ、お兄ちゃ~ん。....げ、クイーン!?」

 「夏蓮じゃない。さ、此方に--」

 「お兄ちゃんクイーンを抑えてて私が何処かに行くまで!!」

 「逃がさなぁい♥」

 「ぴゃああぁぁぁぁ!!」

 「.......なんだ、これ」

 「あぁ、アンタは始めてだったね」

 「ウォックか」

 

 ウォック曰く、夏蓮はクイーンの玩具らしい。と言うより、夏蓮を良く着せ替え人形やら抱き枕にしているので夏蓮は逃げるのだが、それを追い掛けるクイーンと死に物狂いで逃げる夏蓮の風景が当たり前らしい。

 

 「お、お兄ちゃん!助けて、ヘルプ、セーブミー!」

 「HAHAHA、御冗談を。長い間離れ離れだったんだ、可愛がって貰いな」

 「夏蓮~!!」

 「やめ、やめろぉ!!首筋を嗅ぐな、舐めるなぁ!」

 「あー、またやってますねぇ。ホント、良く飽きないものです」

 「ハンプ、珍しいな。珈琲は飲まないのか?」

 「うるさいです。あの時は格好着けたかっただけですなら、もう飲みません」

 「そりゃあんな物欲しそうな目でイチゴミルク見てるんだからなぁ。幾ら珈琲飲んでてもバレるわな」

 「.....取り敢えず、ボタン押して下さい」

 「...しゃーねーなぁ。で、アレはもう見慣れたもんなのか?」

 「夏蓮が入ってきた時から毎回ですよ。3日に1回は夏蓮成分を摂らないと身体中から良く分からない体液を噴き出して死ぬって本人は言ってました」

 「そんならどうやって潜入してたんだよ....」

 「夏蓮の下着を少し失敬しまして。それでもギリギリでしたけどね」

 「なんか少ないと思ったらお前かァァァァ!!」

 「...........何と言うか、妹がそんなに好かれてると兄として嬉しくなるな」

 「お兄ちゃんの目は節穴かなぁぁぁ!?」

 「さて、俺はアリスの所行ってくるよ。お前はクイーンと仲良くな」

 「ゴメンねお兄ちゃん助けて!」

 「....プライド無しかお前。ほら、クイーンもそろそろ離れろ。まだラビットに報告もしちゃいないだろ?」

 「....仕方無いですね。では、行ってきます」

 

 妙に艶々した肌のクイーンが立ち去った後には、白く燃え尽きた様な雰囲気を思わせる夏蓮が倒れていた。汗をかいて頬を紅潮させるその表情は何処か艶かしく、幾ら妹と言えど響介を少しドキッとさせるには充分だった。

 

 「.....響介?」

 「ファッ!?あ、アリスか....どうした?」

 「何でもないよ、別に。別に」

 「そ、そうか。...取り敢えず、俺の部屋にでも行くか?」

 「うん、そうしようかな」

 

 いきなり後ろから声を掛けられた響介。声ではアリス本人だと分かっていたが、底冷えするかの様な冷たい声は響介に変な声を出させるのには充分な程だった。自室に誘ったのはいやらしい目的ではなく、アリスはラウンジや甲板よりも響介の部屋に居る事を好んでいるからである。響介は確かにアリスに好意を寄せてはいるが、本質はヘタレなので肝心な所で手が出せないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「今回の任務はどうだったの?」

 「大した事は無かったよ。何も手応えなんて有りはしなかった。ただ壊して、殺すだけ。特に代わり映えはしなかったな」

 「そっかぁ....私はISに直接乗ってないから分かんないけど、人を殺す感触って手に残るものなの?」

 

 アリスはしっかりISに直接乗っている。それをアリスが認識していないのには、【ジェミニ】の存在がある。

 【ジェミニ】はアリシア・フォン・エラウィの主人格である【アリス】の事を認知している。【ジェミニ】が意識の奥底で眠っている時の【アリス】の記憶は朧気にしか残っていないが、アリス本人は【ジェミニ】の事を認知していない。多重人格者であるのは恐らくドミナントとしての『欠陥』であると思っているが、事実は誰にも分からない。故に【アリス】本人の人格の崩壊の可能性も有る為、【ジェミニ】の事は教えていない。それ以前に、響介はある望みを持っているので教える事は無いのだが。

 

 「そうだな....俺には判んないよ。この組織に入って日は浅いけど、俺はかなりの人数を殺したと思う。直接手を下した人も、間接的に殺した人も、かなりの人数だと思う」

 「後悔してる?」

 「全くしてない。俺は願いを叶える。約束を、あの時にしたから。灼けた記憶だけど、俺が(赤羽響介)として戦う理由を、約束をしたから。その為には幾らでも手を血で濡らしてやるよ。そして--」

 「--そして?」

 「.....いや、何でもないよ。アリシアはどうだったんだ?」

 「あ、そうだったね!聴いて、ハンプティがね--」

 

 組織に拐われて初めて会った時、響介はアリスに大人っぽい印象を受けた。だが今はそんな印象は払拭されてしまった。案外お茶目な一面が--言ってしまえば子供っぽい所が多いのだ。今だって、イグドラシル号でハンプティがやらかした事を響介に嬉しそうに話している。それが響介にとって、堪らなく嬉しいのだ。

 既に響介は罪人だ。人を何人も殺しているし、そもそもこの組織はテロ組織なのだ。それでも彼女(アリシア)は嬉しそうにその日あった出来事を話してくれる。自分の想い人が、自分に笑顔を見せてくれる。死と隣り合わせの世界に身を置き、他人の血に手を濡らした自分には過ぎた幸福と思いながらこの一時の平穏を噛み締めるのだ。例え自分の罪が、許されざるものと知っていながらも。

 

 「ねぇ響介、ちゃんと聴いてる?」

 「ん?あぁ、ハンプが間違えて珈琲を買って癇癪を起こしたって話か?」

 「違う!だからね--」

 「--そっかぁ....そんな楽しそうな事が有ったのか」

 「うん!」

 

 もう灼けて無くなりかけた記憶の中に残るのは、ISに乗れない子達が当たり前の幸せを享受出来る世界に創り直す事。

 

 「それなら良かった。まだ楽しい話は有るのか?」

 「う~ん、ウォックがラビットの縫いぐるみを--」

 

 --そして、アリスと....アリシアと、笑って最期を迎える事。


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