IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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襲撃、規格外のMS

 「...スマン、取り乱してしまったな」

 「別に良い。それだけラウラが大事なんだろ?でもラウラが将来恋人を連れてくるかも知れないんだから、その癖は直した方が良いと思うぞ」

 「...善処しよう」

 「それより、どうしたらルカさんは元の世界に戻れるのでしょうか?私達の時は鎧を倒しましたが...」

 「ちょ、不吉な事を言うな。そんな事言ったら――」

 

 それと同時な警報が鳴り響く。弾かれた様に全員がアリーナを見渡せる窓を見る。其処には、とにかく巨大な紫色が見えた。魔王をイメージさせる禍々しい紫に、全身にある無数の砲門。明らかに友好的ではない、鉱山などで使えそうにないその機体を見て、響弥は心から溜め息を吐いた。

 

 「またかよ....仕事が増えるのは勘弁してくれ...俺と楯無と山田先生の胃腸に穴が空く...」

 「頑張って下さい、更識くん。書類仕事は手伝いますから」

 「あーもう!行くぞルカ!」

 「分かった」

 

 響弥とルカはカタパルトへ、雪菜は管制塔へと走る。プログラムによって閉鎖された扉を響弥のファングで破壊し、アリーナに出る。其処で改めて空いての巨大さを痛感させられる。アリーナの天井に展開されているバリアに届きそうな程大きい機体、黒雷よりも太いビームの砲口。普通に無理ゲー臭が漂っていた。

 

 「何コレ無理ゲーだろ。あんな馬鹿デカイ機体、倒すの絶対無理なんだけど」

 「心配するな、私の機体ならば負ける事は無い」

 「ったく、それで済むのが一番なんだがなぁ...行くぞ、【絶月】」

 「【イフリート・ナハト】」

 

 響弥が纏ったのは皆も見慣れた、黒を基調とした機体。ルカが纏ったのは相手よりも小さいながらも、絶月よりも大きいモノアイの機体。目立った武装こそ見当たらないが、それを補って余りある威圧感を放つ。それは機体だけから放たれる訳では無い。搭乗者の、ルカ・ボーデヴィッヒ本人から放たれるのだろう。彼は敵を見詰め、突進する。

 響弥はそれに追従しようとするが、明らかに出力が掛け離れている。幾らニュートラルの状態、一夏の白式よりは遅いとは言えども第三世代のISの中では速い方なのだ。それを容易く置いていくその速さは、流石はISを出来損ないと言う程だ。

 

 「ッ、速い...」

 「あの巨大さの割に、かなり速いな。ISでは分が悪いか?」

 「ハッ、そんなの丁度良いハンデだ。お前が先に墜ちるんじゃねーぞ?」

 「フン、言ってくれる。--来るぞ!!」

 

 紫の敵機--サイコガンダムMK-2はその巨体からは想像も出来ない程の速さで響弥達を狙う。別の世界では街を1つ炎の海に沈めた程の機体だ、そもそものスペックで劣る響弥にはキツい相手だろう。

 相手には敵意がある。故に義眼の予測機能は働いているが、相手の脚や腕の太さが変わる訳ではない。どれだけ先が読めても、対応できなければ意味が無いのだ。

 【月】の武装である【アロンダイト】だけを両手で持ち、サイコガンダムに突撃する。しかし、過剰なまでに厚い装甲はISの装甲を容易く穿つハズの切っ先を通さない。一瞬の思考すら許されず、黒雷以上の出力のビームが機体の直ぐ脇を通り過ぎている。響弥は直感した。今の攻撃は外れたのではなく、わざと外した事を。相手は響弥で、遊んでいる事に。

 

 「ッツ...甘く見てやがる...」

 「私のナハトでもあの装甲を抜くのは辛いぞ。何か綻びが有れば話は別なのだが」

 「んな事言っても奴さん、此方見てほくそ笑んでる感じがするぜ。その自慢のMSでどうにか出来ねーのか?」

 「幾らMSと言っても、同じMSには負ける事もあるぞ。しかも奴は――」

 

 視界に浮かんだ予測線に従い、横に逃げる。一瞬の閃光が視界を塗り潰す。その後、響弥の居た場所には大きいクレーターが出来上がっていた。頭がおかしくなりそうな威力。魔王の様な風貌、と響弥は思っていたが、その通りだろう。アリーナの地面を吹き飛ばすなぞ、正に世界を消し飛ばす魔王の様な所業だ。

 恐れる事無く響弥は果敢に仕掛けるが、重装甲に阻まれて全く刃が通らない。ならば、と肩に黒雷を召喚して比較的装甲が薄そうな膝に直撃させるも、装甲に若干の黒ずみが出来ただけで何も変わらなかった。

 ルカは日本刀型実体剣【ナハトブレード】を右手に、左手に内蔵されている3連装ガトリング砲で着実にダメージを与えようとするが、此方も全く傷が付かない。強襲機動型のナハトはあまり一撃に賭ける武装を持っていない。手数で仕掛けるタイプであるが故に、純粋な戦車型(タンク)であるサイコガンダムMK-2には相性が悪いのだ。

 響弥はサイコガンダムが放った手刀を避け、即座に反撃に移ろうとするが--

 

 『駄目です更識くん、逃げてッ!!』

 「駄目だ響弥、避けろッ!!」

 

 同時に掛けられた言葉。相手の指を見てその言葉の意味を理解する。相手の指から、ビームの光が迸っていた。それはもうどうしようもなく、避ける程の急制動を掛けるのも間に合わない。ならばどうするか?1%程の微かな確率に、命を託すしか無いだろう。

 

 「【ヤタノカガミ】ッ!!」

 

 ビームをほぼ完全に防ぐ事が出来る兵装、【ヤタノカガミ】。この世界の武装ならその通りだが、かつて宇宙での戦いに投じられ、世界に変革をもたらした機体と激戦を繰り広げたその機体の武装を防ぐ事は--

 

 「ガァァァァァァァ!!!」

 

 出来ず、響弥の視界は自分の両手が爆炎に包まれていく所で視界がブラックアウトしてしまう。

 

 「こんな、所で....クソ...が...」


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