IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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力の代償

 「ウォック、少し良いか?」

 「ん?あぁ響介、ちょうど暇だった所だし、入りな」

 「ありがと」

 

 夕食が終わった後、響介はウォックの部屋へ来ていた。その理由はたった1つ、夕食の時の態度を聴く為だ。

 

 「なぁウォック、なんか嫌いなもんでもあったか?」

 「夕食にかい?そんなの無いよ、アタシは何でも食べるからね。それにしてもいきなりどうしたんだい?」

 「気になったからだよ。自分が作った飯をあんまり食べずに、なんで皆の食べっぷりを見てたのか気になってさ」

 「あぁ、そうかい。ったく、本当にアンタは観察眼っていうか...周りを良く見てるねぇ」

 「能力だからな、仕方無い」

 「ククッ、能力ねぇ...」

 

 ウォックは笑っている。だが、いつもの笑顔とは何かが違う。何処か悲しげで、過去に思いを寄せている様な、そんな眼差しをしている。

 

 「アタシ達ドミナントには、常人より優れた能力がある」

 「流石にそんぐらいは知ってる。てかラビットに教えられたからな」

 「旦那は勉強に関してはスパルタだからねぇ...それぐらいは当たり前か。....そしてドミナントの殆どは、何処か身体や心に欠陥を抱えているのさ」

 「俺なら....この手足と眼か?」

 

 自分の右手と左足を上げて確認する響介だが、ウォックはゆっくりと首を左右に振る。

 

 「それは後天的な欠陥だろ?違うよ、アタシ達の欠陥はもっと致命的で....先天的なものだ」

 「どういう事だ?」

 「まだ分かんないと思うけど、きっと分かる日が来るさ。...そうだね、今日のご飯のお礼に、アタシの代償くらいは教えても良いかもね」

 「代償?」

 「そ、旦那が言ってた受け売りだよ。アタシの代償は簡単で、胃袋が小さいんだよ。....そして、ストレスでもっと酷くなった」

 「ストレスで、酷くなった...?」

 「写真、其処にあるだろ?其処に写ってるの、アタシの家族だよ。血は繋がってないけどね」

 「....孤児、なのか?」

 「やっぱりその洞察力は武器だねぇ。その通りさ、アタシは孤児だった。独りが嫌だったアタシは自分と同じ孤児を集めて家族を作った。...幸せだった。泥だらけになって、生傷を作っても家族が居れば乗り越えられた。月並みな言葉だけどね」

 「そんな事ねぇよ。....本当に」

 「ありがとね、響介。....でも、ある日会えなくなったんだ。金持ちが養ってくれるって言うから、アタシは送り出した。その半年後、家に....まぁ、木の板を張り合わせたボロい箱だったけど、其処に荷物が沢山届いたんだ。あの子達が贈り物をくれた、そう思ったアタシは喜んで沢山の箱を開けたよ。....その中に入ってたのは、ガリガリに痩せ細って身体中から血を流して冷たくなってた、アタシの家族だった」

 「.........ッ!!」

 「許せなかったアタシは石を削ってお粗末なナイフを作った。思えば、あれが『醒めた』瞬間だったんだろうね。屋敷に居た全員を殺して、アタシは呆然としてた。人の命を奪った事より、あの子達が死んでしまった事を受け入れられなくて。アタシが殺したヤツを偶然殺しに来たクイーンに拾われて、この組織に居るのさ。....コラコラ、そんなに殺気を出すんじゃないよ。皆がこの部屋に雪崩れ込んで来ちゃうから」

 「......すまん」

 

 響介の怒りも当たり前だろう。響介自身もかなり酷い目に遭ったとは思うが、彼女とは比べ物にならないと思ったからだ。自分は家族の死体を見る事は無く、手足と片眼は失ったものの義手と義足と義眼を貰った上に家族と再会する事が出来た。だが、ウォックはもう2度と会うことは叶わないのだ。自分の眼で、確かめてしまったから。家族の『死』を、確認してしまったのだから。

 

 「なんか組織に入った経緯も話したけど、代償はこんなもんだね。見てたのは、ロクな夕飯にありつけなかった事を思い出してたんだよ。別に、響介の飯が不味かった訳じゃない」

 「そっか....悪いな、変に時間を使わせて」

 「ま、話し相手になってくれたからね。それに、そろそろ話そうとも思ってたから大丈夫さ。はい、さっさと部屋に戻った戻った!」

 「お、おう。じゃあ、また明日な」

 「はいよ!」

 

 響介がドアを開けて部屋から遠ざかった事を確認し、ウォックは部屋に備え付けてある便器へと走り、思いっきり嘔吐した。

 

 「げぶっ.....オエェ!!ウプッ......カハッ、ハァッ....ハァッ.....」

 

 ただでさえ胃の中に入る量が少ないのに、ウォックは胃の中の物全てを便器に吐き出したのだ。頭の中に響く様な痛みが断続的に走り、眼の奥には突き刺す様な痛みが。そして疼く腹部を見れば、奇妙に脈動していた。

 

 「....まだだよ....まだ、『抑え』は効くから....」

 

 それが何の『抑え』なのか、分かる人は何処にも居なかった....


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