IS ~義肢義眼の喪失者~   作:魔王タピオカ

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対話

 「弱いなぁ.....それで本当に代表候補生?あ、1人は死んだ扱いだったっけ。まぁ良いや、弱いのには変わりないし」

 「クッ.....」

 

 夏蓮が相手取るのは鈴、シャルロット、ラウラ、セシリアの4人だ。だが、夏蓮の装甲には傷1つ見えないのに対して4人の装甲はボロボロだ。かつてラウラは鈴とセシリアを相手してほぼ無傷で圧倒した事が有ったが、アレは2人の連携がちぐはぐだった事を利用しての事であり、今では完璧な連携とは言い難いがかなりの精度で連携を組めている。それでいて尚、4人は目立った傷を夏蓮に与える事は出来なかったのだ。

 

 「仕方無いなぁ...私がアドバイスしてあげようか?」

 「何故そんな事をする....カレン!」

 「弱すぎるからだよ、貴女達が。拍子抜けの期待外れだよ、本当にね。こんなんじゃ私達を止める事すら出来ないし、そもそも4人で組んで1人に傷も負わせられないとか終わってるよ?」

 「言わせておけば....!」

 「言わせておけばも何も、敗者の言葉なんてゴミ程の価値も持たないんだよ。だから勝者である私が、アドバイスしておこうと思ったの」

 「.....ゆ--」

 

 夏蓮の後ろに配置されていたティアーズが油断している夏蓮の頭を撃ち抜く。そうイメージしたが、それは実現するハズが無かった。夏蓮は未来を予知しているかの様に後ろを振り向くと、その拳でティアーズを殴ったのだ。

 

 「『油断大敵ですわ』って言いたかったのかな?ゴメンね。でもバレバレなんだよ、仕方無いね。さてと....じゃあ、アドバイス開始かな?」

 

 夏蓮は全員に向き直ると、警戒は続けつつも敵意を霧散させて先生の様に語り始めた。しかも、全員が気付いてない弱点や訓練の仕方も付け加えて。

 

 「先ずは其処のゴールデンドリル。貴女は近接を疎かに過ぎだよ。近付けさせないとか、他の人の援護に頼るとか、ただの甘えだからね?そうだね....天災の妹と剣で少しは戦える位になれれば良いかな。そのBT兵器も、曲線を描く事よりも直線を疎かにしない事だね」

 「ッ......」

 「次はサイドアップテールの人。剣筋が真っ直ぐ過ぎるよ。織斑一夏程じゃないけど、貴女も充分分かりやすい。後は衝撃砲は一撃に賭けても良いけど、やっぱりブラフとか掛けないと駄目だよ。その兵器の持ち味は『砲身も砲弾も見えない』って所なんだから、仕留める時と相手の動きを縛る時の動き方を練習してね。多分、ラウラと高機動をしながらの訓練が良いと思う」

 「悔しいけど、その通りね....」

 「その次は男装女子、貴女だよ。貴女は機体に振り回され過ぎてる。機体云々は乗れば乗る程動きが良くなるけど、その戦い方は駄目だよ、真似できない。その機体、一応お兄ちゃんの機体と同じリアルタイムでの換装は出来るけど、あの戦法はお兄ちゃんと舞原雪菜のペアだから出来る事であって、貴女1人じゃ到底及ばない。レベルが低いこの学園だから通用はするけど、実戦じゃ隙だらけだよ。貴女は器用なんだから、それを活かした戦い方を身に付けよう。う~ん....ゴールデンドリルと互いに撃ち合い、近接格闘の訓練かな。天災の妹でも良いけど」

 「そんなこと....分かってる....」

 「最後にラウラだね。.....ラウラ、凄く鈍ったね。昔の方がまだキレが有ったよ。レールカノンの狙いも甘くなったし、【その越界の瞳(ヴェーダン・オージェ)】をフルに使わずにどうするの?もっとAICの精度と出力も上げて、遊撃手の役割を担わなきゃ。万能手(オールラウンダー)は男装女子が出来る、攻撃手(アタッカー)はサイドアップテールが、狙撃手(スナイパー)はゴールデンドリルの仕事なんだから、ちゃんと自分に出来る役割をやらないと。こればっかりはラウラ自身の意識の問題だね」

 「カレン.....」

 

 そう言って更衣室の方向へ向かおうとする夏蓮に、ラウラが問い掛ける。今まで意識の奥底に押し殺していた、たった1つの疑問を。

 

 「お前は、私にずっと嘘を吐いていたのか....?真実は、1つとして初めから存在していなかったのか....?」

 「ラウラ....その質問、お兄ちゃんも聴いてきたよ。.....ちゃんと真実は存在してたよ。いや、殆どが真実と言っても過言じゃない」

 

 夏蓮は其処まで言うと、背中を向けていた状態からラウラに向き直り、攻撃されるかも知れないというリスクを負いながらも近くに来て応えた。

 

 「確かに軍のレベルははっきり言って低いとは思ってたけど、ラウラの事は友達だと思ってたよ。あのブリュンヒルデへの依存と盲信ぶりは流石にちょっと....って感じだったけどね。それに、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 「此方側....だと?」

 「うん。使い潰しても構わない、大勢の被検体の中の1体。だからこそラウラは自分を『ラウラ・ボーデヴィッヒ』として肯定してくれたブリュンヒルデに依存した。...壊したいとは思わない?こんな、ISに乗れないだけで卑下される世界を」

 

 夏蓮の弁は止まる事をしない。決して早口ではないが、耳に残る様な内容を喋り続けた。

 

 「ラウラ、君はそれを経験してるハズだよ。その【越界の瞳】の移植時に暴走し、少しの休養を必要とした期間の事を思い出してみてよ。ラウラを心配して、振り向いて一緒に歩いてくれる人は居た?大丈夫、とかそう言う優しい言葉を掛けてくれる人は居た?.....居なかったよね。私達はそんな世界はおかしいと思ってる。馬鹿や無能に言葉を用いても通じない。だからその馬鹿や無能達が振るってきた理不尽な暴力を越える、もっと理不尽な暴力で思い知らせるしか無いんだ。私達はそういう馬鹿や無能は殺してきたけど、他の民間人を殺してない。それどころか、逆に助けた事もある位だよ。....人を殺す覚悟が無い軍人なんて居ない、そう言ったのは昔の君だよ、ラウラ。だから此方側に来て。君が味わう事になった苦痛を他の人に味合わせないためにも」

 

 其処まで言い終えると夏蓮はラウラに手を差し伸べる。味方になるのならこの手を握れば、そう行動で言っているのだ。そしてラウラはその手を....

 

 「確かにそうだ....だが、断らせて貰う」

 

 優しく、だが強い意思を持って押し退けた。

 

 「私は自分が『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だと、まだ胸を張って言えない。だから嘗ての私は誰かに肯定して欲しいと願った。それを叶えてくれたのが教官だった。でも、今は違う。私は自分が『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だと胸を張って言える様に答えを探す。それをしようと思えたのはお前の兄....多分、響弥の事なのだろう?」

 「うん、そうだよ。今は本名に戻ったけど」

 「そうか....話を戻そう。私が私である事の答えを探そうと思えたのは、響弥のお陰だ。響弥が私に頼って良いと言ってくれたからこそ、私はそう思えた。....確かに、嫁と同じ場所へ行くのも魅力的だが、私はIS学園(この場所)を存外気に入っている様でな、嫁がテロ組織に入ったとしても、この場所に戻ってきて欲しいと願っているのだ。だから....カレン、お前とは共に行けない」

 「へぇ....説得は無理そうだね。なら諦めるよ、残念だけど。...私の本当の名前は赤羽夏蓮だよ。次からは日本の発音で呼んでね」

 「あぁ」

 「....次、会う時はきっと戦場だね。敵同士、ちゃんと殺し合おうね。....じゃあ、おやすみ」

 

 次の瞬間、4人の意識は瞬く間に刈り取られた。でも、夏蓮は自分達をもう攻撃しないだろう、その思いは一緒の4人は各各の思いを胸に意識を闇に沈めていった.....


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