「はい、出来ましたよ。これでどうにか問題の2つは解決出来ましたね。じゃあこれからは--」
(雪菜、やっぱり綺麗だな....髪も綺麗だし、指先も開発とかしてるとは思えない....あぁ、私だけの雪菜にしたいよ)
「簪さん?」
「あ、ごめん。もう一度最初からお願い」
「ですから、これからは起動コードの模索に入ります。多分1週間は掛かりますから、簪さんは来なくても大丈夫ですよ」
「な、なんで!?」
「起動コードの模索というのは、簡単に言えば違和感を探す作業なんですよ。注意しないと分からないくらい小さな違和感を
「で、でも、私に手伝える事だって--「有りません」...そんな」
「こればっかりは才能の問題です。片手間でもカウントして、簪さんはどれだけ起動コードに時間を費やしましたか?」
「......1ヶ月」
「其処までやって見付からないのは、もうどうしようもないです。ですから、私に任せて下さい」
「分かった.....もう整備室の使用時間も終わっちゃう。おやすみ、無理しちゃ駄目だよ」
「はい、おやすみなさい」
そう言って2人は整備室から出ていく。その間にも簪はずっと考えていた。雪菜が言った「才能の問題」という言葉の事を。
今まで簪が四苦八苦しながら作ろうとしてきたプログラムを雪菜は1時間足らずで仕上げてしまった。幾らサンプルにするデータが有るとは言え、余りにも早すぎる。更に言えば雪菜がプログラムを組むのに掛けた時間はそれぞれ10分程度で、残りの時間はデバッグに時間を使っていた。しかもレールガンとマルチロックオンシステムだけのデバッグではなく、それを搭載した事による本体のバグも潰していたのだ。
正に才能の差、なのだろう。これを成したのが響弥や楯無だったのなら簪は嫉妬と劣等感を歪ませて打鉄弐式の製作に没頭するのだが、今は違った。雪菜だからこそ、もっとのめり込んでいく。
(流石だなぁ雪菜....私とは違って、あんな直ぐに組み終わるなんて。でも....お兄ちゃんならきっと来なくても良い、なんて言われずに....いやいや!雪菜は私だけの専属。そんな過去の人を考えなくて良いの!)
もう認識すら歪んでいた。先程までは『雪菜を専属にしたい』という願望だったのに関わらず、今では『雪菜は自分の専属』という事実が簪の中ではもう半ば決定していた。頼めばきっと雪菜なら受け入れて、自分の専属になってくれる。そんな歪んだ願いに、心を蝕まれていた。
そして翌日の放課後、いつもなら誰も居ない整備室にキーボードを叩く音が響く。雪菜だという確信を持って簪は其処に近付いていく。短い黒髪の少女、雪菜だ。
「雪菜」
「....簪さん、どうして此処に?」
「その...雪菜に相談したくて」
「相談、ですか...微力ながら、聴かせて貰っても?」
雪菜は一旦画面から目を離し、簪の目を見て簪が話し出すのを待つ。その目に見詰められただけで下腹部が疼き、意識が別の世界にトリップしそうになるが、気力を振り絞って耐えて一気に言う。
「わ、私は雪菜が好き!」
「勿論、私も簪さんは好きですよ。会って2日ですが、良い友達ですから」
「そうじゃなくて、私は恋愛的に好きなの!付き合って欲しい、そして私の専属になって!」
「え.....」
「へ、返事は文化祭の時で良いから!じゃあね!」
一気に照れ臭くなった簪は全力で逃げる。もうこれで雪菜は自分の専属になってくれると、根拠の無い確信を抱きながら....
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
簪さんから告白された。別に嫌悪感は沸きませんでした。私は別に友達がLGBTでも構いません。偏見なんて持ちませんし、もっと言えばそれは本人に由来するものであって、私が馬鹿にしても治る訳ではありません。ですが、まさか私が告白されるとは...
でも、受けたいとは何故か思えないのです。誰かが頭の中で叫んでいる感じが治まらない。誰なんでしょうか?頭の中に浮かぶ、この人は。頼もしくて、何処か危なっかしい。そして私の.....思い出せない。でも、簪さんの申し出を受けたいとは思えないし、思えません。簪さんには悪いですが、断らせて貰いましょう。
やっぱり劣等感に心を支配されてしまったのか、簪....あ、駄目みたいですね(諦め)