雪菜は学校を休む事無く、普通に出席していた。しかし昨日から何故か違和感が拭えない。何かが足りない様にも思えるが、それが自然と言う様に他の皆は過ごしている。だから自分がおかしいのだ、と無理矢理雪菜は違和感を圧し殺して過ごしていた。
雪菜は部活に入っていない。生徒会の仕事は文化祭の仕事が有るのだが、全て楯無が終わらせていた。何処か危なげな雰囲気なのだが、楯無自身が大丈夫と言うので雪菜は整備室に来ていた。特に理由がある訳ではない、ただ何と無くだ。
「この機体、初めて見ますね....」
銀色の何処か打鉄に似ている機体。今まで見た事の無い機体に雪菜はフラフラと手を伸ばす。それを中断させたのは、鋭い言葉だった。
「さ、触らないで!」
「ッ!!」
サッと手を引っ込める雪菜は周りを見回す。整備室の入り口の前にその少女は居た。水色の髪に内側に跳ねている癖っ毛。眼鏡を掛けてはいるが、何処か雰囲気は楯無に似ていた。雪菜を威嚇する様な雰囲気こそ出してはいるが。
「ご、ごめんね、大きい声だして」
「いえ、元はと言えば勝手に触れようとした私が悪いのですから。その...差し支え無ければですが、この機体は何なのか教えて貰っても良いですか?」
「良いよ。この子は【打鉄弐式】、元々は倉持技研で開発してたけど、色々事情があって私が自分で造ってる」
「へぇ、専用機を自分で.....あ、遅れましたね、私は舞原雪菜です。宜しくお願いしますね」
「舞原雪菜.....確かお兄ちゃんの専属開発者だったハズ.....なのにどうして?」
「....あの、どうかしましたか?」
「あ、ごめん。何でもない....私は更識簪、宜しく」
「...簪さん。邪魔で無ければ、僭越ながら私がお手伝いしましょうか?」
「良いの?」
「はい。操縦こそイマイチですけど、整備と開発には自信があります。任せて下さい!」
「そう.....なら、お願いしようかな」
1年生の間だけでなく、全学年と教師に渡るまで雪菜の才能は誰もが知っている。響弥と出会う前の雪菜は自分の才能を活かして設計した武器をリアルマネーで売るという阿漕な商売をしていたが、少し前までは響弥だけが雪菜の武器を使っていた。
今は響弥が行方不明という事で、女尊男卑が骨の髄まで染み込んでいる女子は雪菜の装備を狙っていたりする。それを護っているのは楯無であり、その楯無でも実の妹である簪には強く言いにくい。そもそも引け目もあるのだから。ある意味では自分の人脈をフルに使った結果と言えるだろう。結果論ではあるが。
「何が完成していないんですか?」
「マルチロックオンシステムとレールガンのプログラム、後はこの子の起動コード....かな」
「マルチロックオンとレールガンについては【エクレール】のデータを使えば大丈夫ですが....起動コードはかなりの長丁場になりますよ」
「え.....どうして?」
「無数に組まれたプログラムのコード。それを1発で走らせる起動コードは1番厳重に守られていて、更に何処に隠してあるのか分かりにくいんです。ですからこれは簪さんの願いの強さですね」
「凄いね、雪菜...1発で其処まで分かるなんて」
「いえ、そんな事は....」
その言葉で簪の胸には幾つもの劣等感と嫉妬が広がった。何故自分は自分の力で専用機を完成させられないのだろうか。何故自分の姉と兄は自分に無い物全てを持っているのだろうか。何故自分の事を認めてくれないのか。何故雪菜を今まで独占していたのか。そんな嫉妬だった。
(今は....今なら雪菜は私だけの専属開発者....お兄ちゃんと同じ。いや、お兄ちゃん以上に仲良くなって、雪菜を私の専属にしてやる!)
そんな歪んだ嫉妬と劣等感、そして雪菜への独占欲だけが簪の胸に募っていく.....
簪ちゃん、まさかのヤンデレ化。そして地味にIS学園に入った簪は本編初描写だったり....